論文誌「情報教育方法研究」 第4巻 第1号 

 − 概 要 −

 

研究論文


「Webを活用したプログラミング授業支援の試み」

日本工業大学 青木 収、大木 幹雄、片山 滋友

 Webを活用した動的な情報発信の仕組みを教育する必要性から、実践的なサーバサイド・プログラム開発教育の実施方法について検討を行った。その結果、多人数クラスにおいて、従来のUNIXシステムを利用した方法で教育を行うことは、教員の授業に掛かる負担に対して、教育効果があまり期待できないことが懸念された。そこで、サーバにアカウントを持たない不特定多数の学生が、自由にWebサーバ上で動作するプログラムの開発・実行が可能で、しかも常にサーバが安定に稼動できるメンテナンスフリーのシステム「WebASES」を開発した。このシステムを実際の授業科目で活用し、システムの安定性、機能の有効性、教員の負担軽減の効果を確認するとともに、授業支援機能が一斉授業のプログラミング教育に有用であることを確認した。


「心理学実験CAI教材の開発」

関西学院大学 中澤 清

 これまで5年間、心理学CAI教材として「HyperPsychology」(第5回情報教育方法研究発表会、1996年)を使用して1年生の授業を行ってきた。しかし、コンピュータのリプレースに伴い使用できなくなったので、新たに「e-Psychology」をMacromedia Director によって開発し、2000年度秋学期よりそれを使用した授業を行った。「e-Psychology」は基礎心理学に特化して構成され、観察学習教材13、実験教材7の教材からなる。「e-Psychology」はこれまでの授業の経験を生かした操作性に加え、実験条件が詳細に設定でき、実験データの保存も可能になった。心理学CAI教材による学習の有効性や受講生の興味の高さは、前回の発表で確認されており、それらに加えて今回強化された観察学習教材は、理解しにくい感覚や知覚の心理学的現象が体験できるため、受講生の能動的、主体的な学習への動機付けを可能にした。このように体験することによる学習効果は学生にとって大きいことがわかった。

「Webを利用した薬剤師国家試験学習システム」

近畿大学薬学部 村上 悦子、鈴木 茂生、伊藤 栄次、西田 升三、岩城 正宏

 薬剤師国家試験問題を薬学部学生が効率よく自由な時間に学習できることを目指して、自学自習できる薬剤師国家試験学習システムを開発した。本システムは、Web based Training (WBT)システム「Xcalata」を基に独自にカスタマイズしたものであり、本学教員作成によるマルチメディア教材からなる「学習モード」ならびに薬剤師国家試験過去問題による「演習&試験モード」の2モードを備え、学生の学習ニーズに対応している。また、教員は「学習管理機能」を適宜活用することにより、学生の学習結果をリアルタイムに把握することができ、学生個々に対してきめ細やかなチュートリアルが実施可能である。本システムは、学生に学習の理解度を認識させ、自己の能力に見合った学習メニューを自ら組み立てさせ、自学自習の支援を可能とする。


「インターネットを利用した経営シミュレーションの相互活用 −北海道工業大学と武蔵工業大学の7年間の成果−

武蔵工業大学 村原 貞夫、北海道工業大学 藤田 勝康

 情報技術の進歩は教育にも大きな影響を及ぼしており、従来の「集合・対面教育」に加えて「分散・遠隔教育」もその位置を占めつつある。本稿は、異なる大学が保有し、実施している「教育資産」をネットワークを介して行った共同実施について述べている。  北海道工業大学が開発したMG(Management Game)と武蔵工業大学が開発したDG(Decision Game)は、いずれも経営工学科の学生に「企業経営」を擬似体験させることにより、経営の理解を深めてもらうための教育システムである。いずれのシステムもインターネットを利用しており、単独の大学では得られなかった効果をあげるようになり、情報技術が教育に及ぼす影響の大きさを確信した。

「協調型プレゼンテーション学習システム by "SMILE for ME"」

大谷女子大学 大倉 孝昭

 PowerPointを用いてプレゼンテーションを行い、これをリアルタイムキャプチャする。直後にサーバ上でスライドファイルと動画を同期させ、発表者と参加者がPCのブラウザでこれを閲覧しながら、相互評価を行う学習システムを開発し運用を開始した。スライドと発表の2項目に分け、教師側から指定した評価観点に基づき5段階で評価を行う。このとき、評価者の送信したデータは他の参加者の評価平均点と比較され、乖離幅が3段階で本人にフィードバックされる。また、動画の時間軸上でコメントをつけることで、発表者は聴衆がどこに着目したかがわかる。参加者が緊張感を持ってプレゼンに臨むことにより発表者にもそれが反映され、相互に影響しあうことをねらった。本論文は、前期末での本システムに対する評価の報告である。


「文系短大生のための処理原則解説型コンピュータリテラシー教育」

帝京大学 宮地 利彦

 大学のコンピュータリテラシー教育においては、標準的なWindowsのソフトウェアを採り上げて、主にそのメニュー操作を使い方として教えることがなされている。しかし、メニューは種類が多く、かつソフトウェア間、同一ソフトのバージョン間で異なるため、学生は教えられたソフトウェアは使用可能となっても、他の様々なソフトウェアを自由に使いこなす普遍性のあるリテラシーの獲得は困難である。本研究は、この問題を解決するために、ソフトウェアのメニュー操作の下位にある三つの処理原則に着目し、その解説を教育に導入する手法と教材を開発し、授業の実践を通してその有効性を確認したものである。


研究ノート

「創造性を引き出すインタラクティブ教材の提案 −様々な表現形態を探るマルチメディア教育の実践−

早稲田大学 安岡 広志

 マルチメディアの授業において、ツールとしてのコンピュータを介して、表現したいことや伝達・発信したいことを具象化し、「かたち」にするところまでを習得させることが大切である。しかも、その「かたち」が独創的で、オリジナルなプログラムや表現物であることが問われている。そこで、学生個人個人が感情移入しやすい教材を与えることでモチベーションが高められると考え、身近なテーマを軸に、イメージしやすい、興味をそそる教材を制作し、また、個々人の能力と表現の幅を広げるために段階的に教材を提示することによって、知識習得と実践演習にスキルアップを図った。相乗的な学習効果の向上を目的とした研究の結果、本教材はこれからのマルチメディア教育において有用であることを確認した。


「文系研究科におけるXMLを用いた実プロジェクト参画によるIT教育」

聖泉短期大学 井上 明、毎日新聞社 猪狩 淳一、同志社大学 金田 重郎

 文系大学院における情報処理教育については、いわゆる「ワープロ&表計算」では不十分となった。むしろ、「現実社会の問題点を見つけ出し」「それをITの力を用いて解決する」能力の醸成が要求される。しかし、このような能力は、机上検討では身につかない。そこで、現実社会に文系院生が出て、自ら実用システムを開発するカリキュラムを提案する。ただし、文系院生のITスキルは十分ではない。しかし、eXtensible Markup Language(XML), eXtensible Stylesheet Language(XSLT)等の急速な普及は、スキル不十分な文系院生でも、システム構築を可能とした。2000年度に取り組んだ、毎日新聞社の実用システム開発プロジェクトを紹介するとともに、この種のアプローチには、実用システムを開発した経験を持つ「トッププログラマ」と当該業務におけるITインパクトを確信する「プロデューサ」の存在が必須であることを明らかにする。


「ネットワークを利用した美術教育支援ソフトの開発」

女子美術大学 羽太 謙一、女子美術大学短期大学部 佐藤 善一

 小学校の図画工作、中学校・高校の美術科教育を支援するソフトウェアを開発した。本ソフトウェアは、機能やメニュー構成を単純にして操作を習得する煩わしさを避けるとともに、コンピュータによる造形や色彩構成の美しさを短時間で体験させることを狙いとしている。また、本ソフトウェアはネットワークで提供するため、パソコンへのインストールやバージョンアップの手間を減らすことができ、なおかつ低価格でシステムを構築することができる。教員養成での学生作品もサーバで一括管理することが可能である。本ソフトウェアは機能ごとにモジュール分割して開発しているが、パステル画、粘土ペイント、万華鏡、フラクタル造形の4本を実際に大学の授業に使用してみたところ、学生からは高い評価を得た。今後、実際に小・中・高の学校の教育現場で使用してみたい。


「学内LAN環境を活用したプレゼンテーション評価のフィードバック」

玉川大学 安間 一雄

 学習者の動機付けと自律を促す授業活動であるプレゼンテーションにおいては、仲間の学習者による評価が間をおかずに本人に返されることが望ましい。本研究では、学内LAN環境でパソコンを使用する授業において迅速な評価フィードバックを可能にする、筆者が開発したソフトウェアを紹介する。まず聴衆が使用する HyperCard スタックがデータを整形してサーバー内の所定位置に送信し、次に教員あるいはTAにより AppleScript スクリプトが起動してデータの集計がなされる。その後 AppleWorks テンプレートに評価データが送られ、自動的に集計結果のグラフが描画されてサーバー内の配布用フォルダーに保存される。これら一連の過程はほとんど自動化されているので、発表者はプレゼンテーション終了後即刻評価を受け取ることができる。