論文誌「情報教育方法研究」 第6巻 第1号 

 − 概 要 −

研究論文

「英語学習用チャットにおける学習者コーパスとコンピュータ・ティーチング・アシスタント」

関東学院大学 原田 祐貨、安田 智宏

 このチャットはWeb上に無料で公開しており、参加者が入力した文をデータ・ベースに保存し、チャット終了直後に使われた単語を頻度順に表示したり、各語の前後五つの単語の並びを表示して学習者がどのように用いたかを一目で確認できる。このデータ・ベースは第二言語習得研究者がこれ以外の方法では収集できない多彩な学習者英語の用例を含んだ学習者コーパスとしてWeb上で公開している。データから見つけた学習者に共通の誤りや疑問文と応答文に対して、教師が応答文を予め登録すると、チャットの最中に教師に代わってコンピュータが学習者の誤りを指摘したり話題を提供することもできる。これらの機能に加えてコンピュータの専門知識がなくても簡単に使える仕様であることから、これまでに国内外を問わず幅広い学習者と研究者に利用されている。

「3次元画像記述言語(3DML)を用いた幼児教育分野における情報リテラシ−教育」
甲南大学      井上 明
常磐会短期大学  新谷 公朗、平野 真紀
同志社大学     金田 重郎

 本研究では、幼児教育を専門とする学生に対する情報リテラシー教育の一つとして、情報技術を活用した保育教材の制作を行い、その活動を通じて情報技術の習得と保育活動の可能性を広げる試みを、情報技術、保育、美術造形の3分野が共同で進めている。
 情報技術を利用した教材・遊具には、1)動画・音声・文字といった様々な表現ができる、2)保育者自身が容易に多様なコンテンツを作成できる、3)子どもの反応によって使い方を変えられる、4)既製品では表現できない保育者の個性を発揮したコンテンツ作成ができる、等のメリットがあり、保育者の教材制作の幅と保育への可能性を広げるとともに、教材に対する幼児の興味や関心をより促すと考えられる。また、学生は、マルチメディア教材の作成過程から、保育分野で必要とされる適切な情報機器の使い方や情報の活用方法を学び、実践する能力を習得する。
 具体的な活動として、3次元画像を用いて、日常では体験できない大自然や風景を幼児が疑似体験できる教材の作成を試みた。実験では、動物園と水族館を制作し、実際に幼稚園において、幼児教育系学生の保育者と幼児との保育実践を行った。本論文では、制作した保育教材「バーチャル動物園」「バーチャル水族館」の概要と幼稚園での実践について報告し、情報技術の持つ可能性とその学習方法、そして保育への効果について検証する。

「セルフラーニング型授業の試み −LMS・ビデオ教材・評価支援システムによるプログラミング教育−」
帝京大学 渡辺 博芳、高井久美子、佐々木 茂、荒井 正之、武井 惠雄

 自己学習力が不足する学生を対象とした演習授業では、学生が自ら問題解決を行うように導く必要がある。そこで、我々は、従来から演習授業でありながら、講義、例題演習、課題演習、修了試験をセットにした形態での授業実践を行い、成果をあげてきた。一方で、「講義を含むため自分のペースで学べない」、「自己学習力を持たない学生は受身の姿勢から抜け出せない」といった限界も見えてきた。従来の環境では、「自己学習力の不足する学生へのサポート」と「本当に自分のペースで学べる授業形態」を両立することは困難であったが、LMSやビデオ教材の活用によってそれらの両立が可能となる。このようなアイディアに基づき、初等アセンブラプログラミング演習を対象として、学生が自分のペースで学び、かつ自己学習力を涵養できるようなセフルラーニング型授業を実践した。また、従来型の授業とセルフラーニング型授業の比較によって有効性を示した。


「WBTシステム開発によるプログラミング教育の実践」
沖縄国際大学 安里 肇、平良 直之、大井 肇

 近年、WBTシステムはWeb上での双方向的な教育支援システムを構築する目的で発展してきた。現在、Webコンピューティング技術を中心にした情報教育は、教育機関において必要不可欠なものになりつつある。しかしながら、小中高校の教員において、情報の専門家は少なく、システム管理・運営や独自コンテンツを制作するのは困難な状況である。他方、大学の社会科学系学部においても、ソフトコンピューティングを中心にした情報教育を取り入れ、学生のニーズに答えてきた。しかしながら、その根幹に関わるプログラミング教育では、論理的な思考能力の欠如やモチベーション不足のために、必ずしも効果的な教育が行われているとはいえない。そこで、実際の教育機関で使用するシステムやマルチメディアコンテンツをグループ作業により構築し、学生のモチベーションを高め、フラッシュ等を用いたコンテンツ制作を通して、プログラミング作成能力を養う試みを行い、その有効性を検証する。


「臨床医学自己学習のためのマルチメディアシミュレーションシステムの開発」
埼玉医科大学 椎橋実智男、鈴木 美穂、森田 孝夫、大野 良三

 これまでに試作を行った教材を改良し、臨床実習前および臨床実習中の医学生を対象とした、心音聴診の自己学習用シミュレーションシステム(以下、心音シミュレータ)および問題指向型システムによる診断手順のシミュレーションシステム(以下、診断シミュレータ)を開発した。心音シミュレータでは、基本的な心音の聴診、心音図やアニメーションによる心音や心雑音の発生メカニズムの学習ができる。診断シミュレータでは、代表的な疾患について問題指向型医療記録の手順にしたがって、自らの目や耳で異常所見の有無を探求するような学習ができる。これらのシミュレータは、音や画像などマルチメディアの臨床医学教材を使用しており、実際の患者から学べる機会が必ずしも多くない典型的な臨床症例の自己学習に有用であると考えられる。

研究ノート

「コンピュータの活用による日本語表現力の育成を目指した授業実践」
筑紫女学園大学 橋本 恵子
山口大学     林 コ治

 本稿は、コンピュータを利用した学生の日本語表現力の育成を目指した授業実践について考察したものである。日本語表現の知識や技術を教えるだけでは、学生の日本語表現力を向上させることはできない。
 そこで、4年前から「日本語表現コンテスト」(音声表現部門・文字表現部門・デジタル表現部門)を実施し、学生に表現活動の場を与えた。これによって、学生は、主体的・意欲的に自己表現を実践できるようになった。さらに、コンピュータによるデジタルな日本語表現活動を取り入れることによって、学生の日本語表現力(ストーリー性、独創性など)を向上させることができた。

「学内ネット利用ライセンス制による情報倫理教育の展開」
産能大学 福森 幸久

 IT技術の加速度的普及に併せ、ITを利用するときのマナーやリスクの理解に対する教育が必要となっている。しかし、これらについての教育は、単発的に実施されている場合が多いのが現状である。産能大学では、常識としての情報倫理知識の修得を目的として、「学内ネットワーク(SIGN)を利用するためのルールの理解や携帯パソコンのセキュリティ対策の実施を条件として、SIGNへの接続許可をライセンスの形式で認定する制度」を2002年度より全学生を対象に発足させた。そして、全学的な取組みを実施した結果、「学校に来ている学生のほぼ全員がライセンスを保持する」状況を達成し、学生からも高い支持を得ることに成功している。本論では、「躾」としての情報倫理教育を「制度」を基盤として実施する試みについてのアプローチと学生の反応、今後の課題について報告する。

「学内LANを活用した統合型学習システムの構築」
昭和大学 副島 和彦、近藤 雅人、阪本 泰光、城丸 瑞恵、中谷千鶴子、本江 朝美
       佐藤 満、鈴木 久義、鳥原真紀子、山田 秀樹、中山 貞男

 学生用イントラネットを無線LANで構築し、教員個々のホームディレクトリーの設定、グループウェアの導入、電子化シラバスの科目・項目とのリンク、ファイル共有を行った。授業や演習等の講義内容、参考資料、記録用紙テンプレートの開示やグループワーク発表原稿の提示、グループウェアの電子掲示板や電子会議室機能を利用した実習体験症例の提示・討論、e-Learningによる模擬試験や動画を組み合せた実技・演習用のマニュアルの作成などを可能とし、これらにより、自主学習や疑似体験、カリキュラム上履修できなかった科目の学習を可能にする統合型学習システムを構築した。現在13科目で導入され、サーバー内には約1,000のファイルが存在している。学生による本システムの利用率は高く、学習意欲の向上と教育方法の改善として有用であった。

「リアルタイム遠隔講義におけるデジタルコンテンツ自動生成システムの開発と実践」
法政大学 岩月 正見、竹内 則雄、小林 尚登、八名 和夫、武田 洋、柳沼 寿、清原 孟

 法政大学では、米国に設立したアメリカ研究所からの遠隔講義として、MBA認定科目の一部をあらかじめ国内で受講できるプレMBA講座や学部横断的な科目である「福祉工学」に関する講義を開講している。これらの講義は英語主体で行われるため、語学力が十分でない日本人学生にとっては、講義映像・音声や資料等を即時にコンテンツ化して復習教材として提供することが強く望まれている。リアルタイムで遠隔講義を行うだけであれば、市販システムを組み合わせることにより、映像・音声や資料に加え、手書きデータも同時に配信可能であるが、これらの講義の収録情報すべてを、同期をとりながら自動的にWebコンテンツ化する簡易なシステムはこれまでなかった。そこで本論文では、我々のこれまでの遠隔講義の実践的経験に基づいて、開発・改良を行ってきた講義のデジタルコンテンツ自動生成システムについて報告する。本システムにより、講義終了後まったく編集作業を行うことなく、講義で提示されるすべての情報をデジタル的に再現して即座に配信できるので、学生は、よく理解できなかった箇所を繰り返し再生して徹底した事後学習を行うことができる。さらに、音声データをキーワードとして該当箇所を検索できる機能を付加することで、長時間の講義の中から、瞬時に復習したい箇所を頭出しして再生できるというまったく新しい機能も有している。