論文誌「IT活用教育方法研究」
 第9巻 第1号

− 概 要 −
 

研究論文

「事例問題に基づく法律知識ベースおよび論争システムを活用した 法創造教育」

 明治学院大学 吉野  一 、加賀山 茂、櫻井成一朗
 東京工業大学 新田 克己
 青山学院大学 鈴木 宏昭
 東京大学     太田 勝造

 学生の創造的法的思考能力を育成する教育の研究開発を行い、その成果を実践した。開発した方法は、学生に事実性の高い事例問題の法的解決を考えさせ、問題解決の過程で、知識を獲得する創造的思考能力を育成する方法である。その上で、学生の創造的法的思考能力を一層増進するために、二つの教育方法を組み合わせている。一つは、法律知識ベースシステムを使用し、学生に、法的知識を理解し体系化する創造的法的思考能力を獲得させる方法である。もう一つは、論争システムを利用し、サイバー模擬裁判を通じて、学生に、原告、被告の代理人として実現すべき目標文や適用する法ルール文などを構築する機会を与え、創造的法的思考能力を養う方法である。上記教育方法の結果として、学生の創造的法的思考能力を育成する効果があることが確認された。


「初学者が自学自習しやすい生理学教材」

 女子栄養大学短期大学部 渋谷まさと
 
 生理学の基礎知識と知識確認問題とを、オリジナルの説明モデルとイラストとでステップ・バイ・ステップに提示した。そのうちの一部を医学部1年生に自学自習を課した。アナウンスの通り、プール問題の中から出題した評価テストを、109名の受験者中の96名(88%)は平均90。2点で合格した。匿名アンケートで、自学自習しにくかったと回答した学生は93名中1名であった。また、co-medical学生の授業で一部を使用し、期末試験よりも前に「全範囲試験」で単位取得の機会を提供し、結果をすぐに知らせた。期末試験直後の匿名アンケートで154名中119名(77。3%)が試験合格と回答した。その内訳は、高校生物の理解・知識が「低い」と回答した98名中の74名(75。5%)と、「高い」56名中の45名(80。4%)とであった。初学者が生理学の基礎知識を学習しやすい教材が開発されたことが示唆される。


「経済学基礎知識1000題」による学部教育の標準化と質保証」

 名古屋学院大学 児島 完二、荻原 隆、木船 久雄

 大学生の基礎学力の多様化に対応するには、ITを活用した組織的な取組が効果的である。簡単な自学自習システムでも、全教員・全学生の活用と運用の工夫によって、大きな成果が得られることが明らかとなった。実際のカリキュラムに連動した多くの科目によるブレンデッドラーニングで、厖大な学習データがDBに蓄積され、多面的な教育効果の検証が可能となる。全教員が作問した「経済学基礎知識1000題」の利活用は、学生の理解度の把握、教員の教育レベル設定、科目間の内容連携や各設問の質の改善などFD活動の貴重な基礎資料となる。実際のデータに基づくPDCAサイクルの実践により、学部としての「教育の質保証」を試論できる。また、Web上で教育内容や目標を公開・共有できることからコア・カリキュラムなど標準化への途も模索できよう。


「BBSを使った海外の大学生との異文化交流による協調学習」

 桜美林大学 笠見 直子

 従来の「インターネット英語」の授業で、英語でホームページを作成し、日本文化を海外に紹介するというプロジェクトを行った。しかし、双方向コミュニケーションでないので、学習効果やモチベーション維持に問題があった。そこで、BBSを使った国内外の学生との異文化交流プロジェクトに参加し、協調学習による学生の主体的な学びを実現した。アンケート、テスト、英文投稿データを分析し、BBSプロジェクトの効果として次のことがわかった。1)相手の文化に配慮したコミュニケーションができるようになった。2)実践的に英語を使うことで、英作文の力が向上し、自信がついた。3)プロジェクトの満足度が高まった。教員サポートとセットになったBBSによる協調学習を大学授業に導入することで、教室、大学、国境といった枠を越えた学びを可能にする。


「自律的英語学習を支援する添削指導Webシステム」

 中部大学 小栗 成子、加藤 鉄生

 英語ライティングの添削指導において教授者が注意しなければならないのは、どれだけ手際よく正しい英語に修正させるかではなく、添削指導を通して学習者が果たして英語運用能力を向上・定着させているかである。本研究では、教授者のフィードバックに学習者が依存しない添削方法を検討した。英語の弱点を学習者が自覚し、弱点の克服に至るまで自律的な学習を展開できるよう開発されたのが、ERRMarkerを用いた添削指導Webシステムである。ERRMarkerとは教授者が文字にハイライトを施す添削システムで、添削の表示方法に加え、誤りのランキング・分類・傾向をリアルタイムで表示する機能を備えており、これは英語教育に限らず修正指導を必要とするいずれの分野においても有効な方法だと考えられる。


「3次元CADによる立体形状作成の教育手法改善の試み」

 中京大学 棚橋 純一

 3次元CADによる立体形状作成の教育手法に関し、従来手法の問題点を分析し改善策を検討した。従来手法はコマンドベースの教育であり、作成題材もコマンド毎で異なり一貫性がないことが問題点と考えた。改善策として、作成題材を統一的なものとし、それをもとにタスクベースで段階的な教育を行う手法を提案した。さらに具体的題材として車を提案し、単純な車から複雑な車まで段階的に立体形状作成を学ぶ授業を企画実施した。
改善効果を調べるため、2回にわたる理解度確認テスト(筆記)と、自由課題による作成能力評価実験を行った。確認テストの段階では、初級レベルの技法理解は良好であったが、中級レベルの理解に若干不安が残った。しかし自由課題実験の段階では、中級レベルの技法を活用したユニークな作品も多く登場し、改善効果を確認できた。


「可視化教材を活用した看護技術教育」

 大阪府立大学 真嶋由貴恵、細田 泰子

 看護職者が対象者の生活や個性に配慮して個別の看護を提供することは重要である。そこで、音声による自己紹介や看護技術映像を利用し、対象のイメージ化、視覚化を支援するeラーニング形式の模擬事例教材を開発している。本教材は、模擬事例を、1)対象者を「把握」し、2)看護問題を「分析」、3)分析した「結果の確認」という3段階で学習を進めることができる。今回、看護技術を教授する一斉授業で、この教材の一部(胃切除術後の患者事例)を活用した。授業終了後、「対象者のイメージ化」および「対象者に合わせた看護技術の習得」の点から、看護学生による評価を実施した。その結果、これらの教材が対象者のイメージ化を促進すること、イメージ化の得点が高いほど学習目標に対する自己評価得点が高いことが明らかになった。

研究ノート

「プログラミングレポート採点支援ツールと課題設計による評価方法の改善 」

 芝浦工業大学 松浦佐江子

 プログラミングレポート採点ではプログラムをコンパイル・テスト実行し、アルゴリズムやモデルを評価するといった多様な観点からの評価が必要である。評価の手間や評価のための操作の煩雑さにより、電子的なレポート提出のみでは採点作業の負荷を軽減することは難しい。また、評価基準が明確でない場合には評価が人に依存し、複数人で作業分担すると公平な評価が困難になる。そこで、コンパイル・テスト実行・ソースコードの閲覧・評価の記録・評価の分析を一つの画面で学生毎の整合性を保証しながら実施できる採点支援ツールを開発した。本稿では評価項目および評価方法を予め決定するための課題設計の実施と本ツールの利用により、評価における均一性の確保・付け間違いの防止・効率化等、成績評価のためのレポート採点作業の改善について報告する。


「用語に基づく知識の獲得効率の計測と改善」

 青山学院大学 佐久田博司、矢吹 太朗

 「プログラム学習」の基本原理のもとに、専門用語を記憶することによって、主に工学系の知識の基礎を構築するためのアプリケーションを開発運用し、その効果を統計的に確認した。本システムは、Servletアプリケーションサーバとデータベースにより構成され受講者に無制限に利用できることが特徴で、受講者の知識の獲得状態を測定し、本人の知識獲得の推移や、教師側からの各受講者の理解度把握を可能にするために、理解度のマップを表示することができる。具体的な内容は、機械設計情報関連の知識全般に関するもので、用語、公式、人名などを穴埋めまたは多肢選択式で解答する。その結果、本システムの利用度と期末試験結果との相関があることや、出題の方法を工夫することによって知識獲得の効率が上がることなどがわかった。


「映像教材の開発を通した教員養成プログラム 」

 常葉学園大学 小田切 真

 ITを活用した教育法は、すべての校種すべての科目等において、視覚的な理解を伴う知識技法の教授に有効性が認められている。しかし、各学校においては物理的・時間的側面等から通常授業に活用している例は数少ない。コンピュータ等を活用した授業を行う技能を持った教員も、様々な制約により実際には実現することが困難なのである。積極的なIT活用授業の実現には、科目特性別情報活用能力を身につけた教員養成が不可欠だが、これを講義形式で育成するカリキュラムは存在しなかった。そこで、「映像教材を作成する」ことを目的としたプログラムを複数の科目に導入することで、実践的理解を伴ったIT活用知識および技法の教授を可能とした。作成対象の科目や単元は自由選択とし、機材やソフトウェアにも特別なものを使用しないため、各学生の得意分野に即した学習が可能になり、学習意欲や自習時間、参加態度および発展的活用実績を大幅に向上させることができた。