論文誌「情報教育方法研究」 第1巻 第1号 

 − 概 要 −


研究論文



「イントラネットを利用した経営システム工学の導入実験
  
〜早稲田大学経営システム工学科『経営システム工学入門実験』〜

早稲田大学 森戸 晋、高田祥三、大成 尚、東 基衞

 早稲田大学理工学部経営システム工学科では、将来のイメージを明確に抱けない学生の増加に対して、自分の将来のために大学でなにを、どのように学ぶかを理解させ、やってみると結構面白いと感じさせる体験型教育を、学生全員のノートパソコン持参を前提としたイントラネット環境下の入門実験として実現した。実験は、情報リテラシー教育に始まり、学部課程で学ぶ基本項目を体験的に学び、その後の勉学との関係を体系的に把握できるようにしている。


「サイエンス・ボランティアによる情報技術教育の実践」

日本工業大学 片山滋友、青木 収、松田郁夫、樺澤康夫
 
  サイエンス・ボランティアを情報技術教育の一環として情報工学科のカリキュラムの中に取り入れた。情報技術の専門知識を生かした活動であるので、「情報活用ボランティア」と称しているが、情報活用で困っている主に公的な組織や個人を対象に支援するものである。活動先は、学外では主に小・中学校や福祉施設であり、学内では各研究室や付属施設である。活動内容は、教員に対するコンピュータの操作指導や授業の支援、ホームページの作成などである。実施した結果、活動した学生、受け入れ側ともに好評で、情報技術教育や人間教育などの面で大きな効果が認められた。また、実施も比較的容易であり、このような活動に対するニーズが非常に多いことも明らかとなった。


「CAIによる英語教育方法の開発と実践」

東海大学短期大学部 志村義樹、井崎泰子、横井仁三、東海大学 峯崎俊哉
広島大学 水町伊佐男、大東文化大学 馬場 勇、東海大学付属相模高校 田口潤二

 東海大学短期大学部では英語教育の新しい視点に立った教授法としてCAIの研究開発を1997年に着手した。
 TELP-CAIは、教育開発プロジェクトの呼称で、開発の思想は1)コースウェアの確立、2)音声装置の連動、3)オーサリング(教材作成支援)システムの構築、4)CMI(成績集計処理)システムの開発であった。
 そのシステムおよび教材ソフトの開発の経緯は6期に区分される。特に音声装置の連動は開発の当初からの思想で、第一次から第四次学習期までは音声提示装置は、カセットテープで、次にCDによる音声装置に切り替え、1997年には新たにWindows95対応のソフトの開発を完了して現在に至っている。
 20年に及ぶ授業での実践を通して得た成果と学習効果を検証し、CAIが新しい学習環境を生み出すことを確信している。


「製図板のない建築設計教育とイントラネット」

芝浦工業大学 衣袋洋一

 近年のパソコンやワークステーションおよびCAD・CGアプリケーションやデジタル・ツールの急速な発展は、UNIXなどの専門的知識を要せずとも、ブラウザの利用によりネットワーク上でデータ提供者側とユーザー側との間にインタラクティブな関係を作りあげられ、文字・静止/動画像・音などを組み合わせた情報処理を可能とし、スタンドアローン型からネットワークを中心とした新たな展開が可能となった。WWW(World Wide Web)はその典型であり、WWWの技術にデータベース、コミュニケーションツールを導入することにより、任意のグループ内で情報共有システム=「イントラネット」の構築をうながし、ネットワークの新たな利用形態を生み出した。
 本論は、システム思考を基本的概念とするCAAD設計方法論およびその具現化としてのCAAD設計システムの構築をはかり、CAAD設計教育の現場に供することを目的とする。さらに、新しい概念であるDAD(Digital Architectural Design)、VDS(Virtual Design Studio)の新たな「教育法の開発」に対する研究である。


「インターネット技術を利用した自己学習支援システムの開発と運用
   
〜一般情報教育のユニット化による個別教育システムの開発(2)〜

園田学園女子大学 植野雅之、山本 恒、原 克彦、伊藤剛和、堀田博史、高橋 純

 園田学園女子大学では、自己学習のための環境を整備するとともに、3年間にわたり、各学習者自身による学習状況の把握、教材へのアクセス、課題や小テスト等の実施、教員による学習者の学習状況の把握、教育による提出された課題の評価などを行うための情報システムを開発しながら、延べ4,000名程度の学生に対して運用してきた。これまで、これらの情報システムは異なるシステムとして開発され利用されてきたが、今回、インターネット技術によって、一つのシステムとして統合化することができた。さらに半年間の運用の実績を含めて、このシステムをネットワーク大学等の沿革教育に応用する基盤が整備されつつあるので報告する。


「プログラミング演習教材ソフトウェアWinTK」

日本工業大学 松田 洋、新藤義昭、椋田 實

 筆者らが所属する情報工学科では、プログラミング教育は必修科目として開講する。このため、多数の脱落者を出さずにプログラミングという知的作業の神髄を理解してもらう方法を模索した。従来のプログラミング言語の命令と文法を教え例題を解いていく講座スタイルに変わる、新たな講座スタイルである。
 筆者らはプログラミング講読演習法という教授法と、WinTKというプログラミング演習教材を開発した。プログラミング講読演習法は、ある程度の規模の有為な目的を持った優れた構造の講読用プログラム集のソースコードを学生に講読させ、様々な改造演習を行う新しい講座スタイルである。また、WinTKは、入門者用のフレームワークによって構成された演習教材なので、学生はGUI環境で簡単にプログラミングすることができる。学生はこれらのソースコードを講読し、構造演習を行うことにより状況に応じたプログラム構成法を修得する。
  WinTKを用いたプログラム講読演習法講座を3年間行った。その結果予想以上の成果が出たので、WinTKを用いた演習の試みとWinTKについて詳しく報告する。


「ホームページと電子メールを活用した大学間・大学外とのコラボレーション
         〜Webによる『学習環境の拡充』と『学習支援者ネットワーク形成』の事例〜

産能大学 妹尾堅一郎

 慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)の「社会調査法(妹尾担当)」では、社会的意味探索法をグループによる研究プロジェクトを通じて修得させようと試みている。特に、プロジェクトの進行をホームページ(HP)にアップし常に更新することにより、複数の研究班同士が相互にベンチマークしながら研究を高めていくようにしている。そこで、本授業を「デジタルメディアを活用した学習者志向の学習環境の構築と運用、ならびにプロジェクト型授業運営の開発」と位置づけ、大学の新しい授業形態の試みとしてバージョンアップを図っている。
 97年度のバージョンアップでは、大学間・大学外とのコラボレーションの試みを行った。
 第一に、大学間のコラボレーション。慶應義塾大学と筆者の本務校である産能大学との間で「母の日」研究を設定した。両大学の学生たちはお互いのHPを活用しあうとともに、電子メールを通じて協力関係を築き、現実に対面の合同研究会を開催するなど、研究のコラボレーションを行うにいたった。
 第二に、大学外とのコラボレーションの試み。外部の社会人に「サポータ」をお願いし、プロジェクト進行の支援と内容指導をしてもらった。学生は社会人からの支援や指導によって、さらに活性化された。
 これらは「授業に関与する者」の拡大を意味し、「学習支援者」を他大学の学生や社会人にまで広げる試みである。さらにいえば、これらは「学習環境の拡充」とメディア環境における「学習者を中心とした支援ネットワーク形成」でもあると言えよう。
 本論文では、この実践的試みの概要と成果を報告するとともに、本授業が教育上どのように位置づけられるかを検討する。


「表計算ソフトをもちいた簿記システムの作成と教育」

九州産業大学
 金川一夫 本研究の目的は表計算ソフトの計算式だけで作成できる教育のための簿記システムを開発することである。このシステムにはブラックボックスの部分がないので、システムにおけるデータ処理の過程を容易に理解できる。
 このことから、大学だけでなく、Windowsパソコンが普及し始めている商業高校でも、パソコンと表計算ソフトの基礎を教育すればこのシステムを授業などで利用することができると思われる。



研究ノート



「アメリカ地域研究科目におけるコンピュータの活用」

玉川学園女子短期大学 菊池重雄

 学生の主体的な学習を理想とする場合、教員にとって"not teaching but helping students to learn"の姿勢を保持し続けることは重要である。同様に、授業で学生相互および学生と教員のアカデミック・コミュニケーションを確立することも学生の主体的な学習には有益である。本研究では、アメリカ合衆国に関する地域研究科目における、教育ツール、コミュニケーション・ツールとしてのコンピュータ活用の意義をディスタンス・ラーニングの側面から検証している。


「化学教育におけるCAIを用いた補習授業」

城西大学 堀合公威、石井 宏

 中・高等学校の教育が受験目的に傾いたため、理系への進学者でも実験による学習の未習得生が多く、本格的な授業や実験を始める前に予備的補習が不可欠となっている。従来の補習授業では、多くの人件費と時間が必要であり、それに替わる手段として高性能化したコンピュータと進歩したネットワーク技術を利用し、画像を多く取り入れて最新の情報環境に対する興味を喚起するとともに、仮想体験(補習)授業の具体化をはかる。


「教育学科でJAVAプログラミングを教える」

玉川大学 山口栄一、 織田真生

 Java10レッスンプログラムは、教育学科の学生たちにJavaアプレットプログラミングを教えるためのものである。学生たちは、インターネットやコンピュータの利用には高い関心を持っているが、プログラミングそのものには、それほど積極的ではない。このレッスンの考え方は、筆者が開発したハイパーカード20レッスンからきており、そこでは、自分なりの教材を作成するという状況の中で、HyperTalkプログラミングを学習するものである。Javaレッスンのはじめには、学生たちに、コースの終わりにはどのようなものが作れるかを示している。それは、アニメと音声とテキストとユーザーとのインタラクションを可能にする仕組みを持っている簡単なCAIである。また、各レッスンでは、学生たちが何を作れるかが明らかになっており、それぞれが最終的な目標の一部となっている。
  学生たちが字義的に理解できるとは考えられないため、オブジェクト指向、継承、スレッドなどの重要な概念を意識的に教えようとはせず、かわりに、自分の作品を作るために、DIYショップから部品を持ってくるというアナロジーで説明した。それにより、学生たちは自分が開発者であるように振る舞い、最終的には彼ら自身の作品を作り、自分たちが思っている以上に理解することができるようになっている。