論文誌「情報教育方法研究」 第2巻 第1号 

 − 概 要 −

 

研究論文


「文科系短期大学における総合的な情報活用能力の育成」

拓殖短期大学 森 園子

 本稿は、文科系短期大学を対象とした総合的な情報教育の方法について述べたものである。ここで実践した総合化には、二つの側面がある。一つは、取り扱う内容の総合化であり、もう一つは、研究の方法や表現における総合化である。具体的には学生に自由課題研究をPowerPointを用いてまとめ、表現し、メールソフトを用いて意見交換を行うものである。この方法は学生の主体性を育て、リテラシーのみならずコンテンツの重要性を気付かせるために、非常に有効であることが検証された。
 さらに、本稿では拓殖短期大学において1996年から実施している、入学時の学生のリテラシーに関する調査結果を基に、中等教育で受けたリテラシーの習熟度、および格差の現状を把握し報告するとともに、本稿における教育方法に及ぼす影響を併せて考えるものである。

 

「図学およびコンピュータグラフィックス教育のための3次元立体生成ソフトウェアの開発」

東京電機大学 新津 靖

 3次元立体の認識能力を養うには、実際に立体を作るのがもっともよい方法である。本研究では、図学教育を支援することを目的とした3次元立体生成ソフトウェアを開発した。教育効果を上げるため、透視図法、軸側図法、3面図表示などの表示効果に加えて、陰線の点線表示や座標軸表示など豊富な表示機能を備えさせた。断面図や相貫図なども立体の集合演算により見ることができる。開発したソフトウェアを使用して、大学1年生を対象にコンピュータ図学の実験授業を行った結果、十分な教育効果を得ることができた。

 

「マルチメディアによる音響工学教育」

千葉工業大学 三井田 惇郎、浮貝 雅裕、須田 宇宙

 数式等の取り扱いが多い音響工学の教育においては、媒質中の波動現象等をいかにモデル化し、可視化して、学習者の概念的な理解を深めさせるかが重要な課題の一つとなっている。また、この分野で取り扱う多くの具体的事例は、我々の日常生活と密接な関係にあることから、それらの音像や関連画像を効果的に収録し、必要な信号処理を動的に加えたりして学習者に提示することは、教育効果を向上させるための重要な一手法になるものと考えられる。しかし、このようなアプローチによる教育研究の体系は未だ確立されておらず、音響系の学会でもその必要性の認識を新たにするとともに、音響工学教育への適用に対する機運が高まりつつあるというのが現状である。
 本研究では、プレゼンテーション用ソフトウェアやイベント駆動型言語等を駆使して自作した対話型マルチメディア教材を用い、講義室で小型化、高速化、大容量化の著しいサブノート型コンピュータと安価な高輝度液晶プロジェクターを活用して実践した、新たな教育方法の提案、ならびにその教育効果について述べている。この教育研究では、大学課程第3学年に開講されている科目「音響工学」(半期15週)を対象とし、板書をまったく用いずに、マルチメディア教材のみを利用した講義が実践されている。併せて、このような教材活用を支援する次世代型教育環境のあり方についての知見も述べている。



「インターネット上に分散型データベースを配置した教育システム
      
 〜広範な電子教材と利用者を想定する汎用性のあるサービス〜

帝塚山大学 古藤 保次、向井 篤弘、中嶋 航一、堀 真寿美

 教育手段としてインターネットを利用するとき、たとえば、学生が自宅などで教材の予習・復習をすることが考えられる。このとき、性能の低いPCやインターネット回線が不十分な環境では、通信速度を十分に確保できない場合がある。それゆえ、インターネット上に配置する電子教材は、できるだけファイルサイズを小さくすることが望まれるが、電子教材の表現力を高めるには、ファイルのサイズが大きくなる。一方、広範な教材を確保するためには、市販の表計算ソフト等で作成した電子教材や講義資料も再利用する必要がある。帝塚山大学が開発している分散型データベースを採用したシステム(TIES)は、教員・学生が幅広く参加できる教育システムを目指している。TIESオーサリングツールを利用すれば、蓄積されてきたこれらの電子教材を分割して再利用することができる。

 

「情報処理入門教育におけるハイパーリンクを用いたドキュメントの制作」

兵庫大学 森下 博

 本研究の目的は、学生がハイパーリンクの概念を段階的に習得していくことができる方法の提案である。具体的には、ドキュメントの制作を通じて、個人(二文書、三文書、複数シート)から学内(受講クラス)、そして学外(世界)へのリンク、さらに異なるアプリケーション間でのリンクを行う。自らネットワークを発展させていく過程において、その手段と位置付けを体験することになる。また、学生によって制作された作品をネットワーク上で公開し、電子メールを用いた意見交換を行う。学生の作品には工夫を凝らしたリンクとさまざまな情報処理手段が活用されており、その構成力と表現力の高さを示してくれた。学生が意欲的に取り組み、作品を完成させた自信こそがこの実践授業の成果であり、学生の今後の取り組みに期待したい。

 

「『マルチメディア韓国語』学習システムの開発と実践」

東海大学福岡短期大学 李 奉賢、神山 高行

 韓国語は文法上日本語に最も近い言語であり、日本人の学習者にとって最も学習し易い外国語であると言える。しかしながら、初めて韓国語を学習する人にとって大きな壁となるのが複雑なハングル文字とその音声を覚えることである。
 筆者は東海大学福岡短期大学において、学習者がハングル文字の難しさを克服して、効率よく、興味深く、そして楽しく韓国語を学習できるCAIアプリケーション「マルチメディア韓国語」学習システムを開発し、1998年度及び99年度の韓国語の授業に導入し実践した。
 本稿では「マルチメディア韓国語」の諸機能とその特色を紹介し、本アプリケーションソフトによる短大の授業での実践結果および学習者の韓国語に対する学習効果・学習意欲に著しい向上がみられたこともあわせて報告した。

 

「統計・計量経済学のためのインタラクティブなインターネット教材の共同開発」

東洋大学 渡辺美智子、門間 麻紀、早稲田大学 櫻井 尚子、関西大学 橋本 紀子
大東文化大学 浅野美代子、日本経済新聞社 祷道 守、立教大学 井上達紀、山口 和範

 私立文科系大学におけるネットワークシステムの整備が急速に進み、在校学生全員を対象にしたインターネット環境が整えられている現状において、Webを利用した教育技術と教材開発の必要性が注目されている。この視点から、複数の私立大学に所属する統計・計量経済科目担当の著者らのグループは、インターネット上のインタラクティブな教材の共同開発と広く一般への共同利用を目的とした教育プロジェクトを発足させた。
 本論文では、プロジェクトによって開発された教材の概要と機能、および専門的評価のための学会活動や国際共同研究への展開を紹介している。文系学生の情報処理・計量分析能力を高めることは、金融グローバル化が急速に展開する現代社会に対して大学教育が果たすべき責務であるが、インターネット教材を利用することで、文系学生が敬遠しがちなこの分野の学生参加型・実践型教育が可能となる。

 

「多人数対象の動機付けに工夫を加えた情報工学実験」

日本工業大学 片山 滋友、樺澤 康夫、石川真佐男、松田 洋、高瀬 浩史、青木 収

 学力・能力・取組み姿勢に多様性のある多人数の学生をやる気にさせて、情報工学エンジニアとして必要な情報技術の実践的体験による修得と創造的工学センスを持った人材を育成する方法を提案した。特徴は、カリキュラム、教室の設計、実験授業支援システム、実験内容および指導方法など、多面的な視点から工夫を加えたこと。次に、教材としてインテリジェント型ライントレースロボットの製作を取り上げ、課題に段階的な難易度やゲーム性を盛り込むとともにその標準化を図った。また、評価がクリアレベル、アイディア、デザインなど、創造性に関係する内容に重点を置ていることである。これらの工夫により学生に強い動機付けを与え、各自の能力に合わせた達成感を感じさせることができた。学習者にとって様々な工夫が可能となっており、多様な創意工夫が見られた。

 

「インターネットを用いた日本語の学習支援システムの構築」

東京国際大学 川村よし子、金庭久美子

 本システムは、インターネット上で提供されている日本語で書かれた情報を、そのまま日本語学習者のための教材として活用するCALLシステムである。このシステムでは、これまで個別に開発してきた情報検索ツール・レベル判定ツール・辞書引きツール・読解クイズ等を、学習者が必要に応じて選択できる一連の学習支援ツールとして統合し、インターネットを用いた学習のための支援環境を提供している。学習者はインターネット上の情報を自由に選んで、日本語教材として用いることができる。しかも学習支援ツールを選択することで学習方法自体も選択可能である。さらに、辞書引きツールには学習履歴管理機能をもたせ、語彙学習の効果を高める仕組みをとりいれた。

 

「WWW環境を活用した「社会調査分析法」の授業」

龍谷大学 加藤 文俊

 本論文では、1998度秋に開講した「社会調査分析法」を事例に、WWW環境を活用した授業のデザイン・運営について紹介する。本授業では、経験学習のモデル(Kolb1984)にもとづき、調査の立案から実施、報告に至るまでの一連のプロセスを明示するためにWWW環境の活用を試みた。授業では、HTMLの基礎について実習を行うとともに、調査のプロセスを学生個人のホームページとして閲覧できるようにした。また、「オーサリング(書くこと)」と「ブラウジング(読むこと)」を逐次切り替えることを通じて、経験学習のプロセスを意識できるようにした。学生どうしが、各自の調査プロセスを相互に参照することによって、〈学生=教員〉という関係性が変容し、研究成果を「世に問う」という「社会調査」の本質がより明確になった。

 

研究ノート

「シラバスインターネット公開のためのデータベースシステムの開発」

帝塚山大学 日置 慎治

 情報公開、特にシラバス公開の要請を受け、シラバスをインターネットで公開する統合システムsyllabus.sysを作成し、フリーソフトウェアとして無料で利用できるようにした。
 同システムの特徴は、特別なハードウェアやOS環境に依存することなく、WWWブラウザーのソフトがあれば、手持ちのパソコンに簡単にインストールして実行でき、カスタマイズは公開されたソースにより可能であること、また、画像、音声、動画などマルチメディア対応となっており、入力、修正、印刷やインターネット公開・検索の機能があり、セキュリティも配慮されて実用に耐えるシステムであり、学内限定などのアクセス制限の設定もできることである。