特集

情報化時代の教育



建築構造とデジタル教育

真下和彦(東海大学工学部建築学科教授)




1.経 緯

 建築構造学は、建築学を志した学生にとって、難解な学問分野であると思われがちで、多くの建築設計志向の学生に、建築設計と構造学が無縁に近い存在であるかのような錯覚を起こす誤解を招きやすい。本来、建築構造の力学的現象を把握するためには、建築物の変形や力の流れを直感的に理解する能力を養うことが重要な課題である。このためには、机上の計算のみでなく、各種構造実験の体験、実際の破壊現象の観察等が重要であるが、近年、パソコンの急速な普及に伴い、デジタル教材が手軽に利用できる時代になりつつあり、各自の計算結果のチェック、建築構造の変形や応力の視覚化による構造挙動の把握等が可能となりつつある。建築構造の力学的特性は、多くの境界条件や荷重条件により千変万化する。これらの現象は、デジタル教材を使用することにより、比較的容易に視覚的に再現することが可能となる。


2.利用内容

 現在、筆者は構造力学の教育の中で、変形と応力の確認にデジタルのツールを使用しており、構造解析において、汎用構造解析コードを用いている。
 構造力学においては、簡単な平面トラスや平面ラーメン構造を対象として、支持点の変化や荷重載荷点の変化に対応した建築構造の応答特性を、数値および図形で確認し理解していくための補助ツールとして使用している。構造解析の授業では、汎用構造解析コードを使用して、線材と板材から構成される建築構造の力学的挙動を解析し、その応答特性を確認し理解を深める。解析内容としては、平面モデルから立体モデルの力学的応答特性を視覚的に再現し、建築構造特性を理解するための素養を身に付けることを目的としている。


3.デジタルツールによる利点と課題

 建築構造の専門に進む学生ばかりでなく、建築設計を志す学生に対しても、広く建築構造に興味を持たせることが可能となる。授業で実際に、各自で多少異なる構造解析課題を課すことにより、学生間のデータコピーが不可能となり、正確な操作が要求され、学生数分のパソコン台数が確保できていれば、個々の学生が緊張感をもって、授業に向かう効果がある。また、今まで紙の上でだけで力学の問題を解いていた学生においては、視覚的に構造の変形状態を確認することにより、実際の構造物を頭に描きながら構造力学の問題と取り組む能力を高めることができる。
 今後の課題としては、受講学生数に応じて、教育補助要員の確保や、授講学生一人一人に1台のパソコンが望ましい。また、構造解析ソフトに関して、ハード・ソフト面の予算確保に加えて、保守・維持管理に専用職員の配置が望ましい。今後、個々の有償無償教材ソフト紹介、解析例題の蓄積等の情報活用に対応した環境整備が望まれる。



【目次へ戻る】 【バックナンバー 一覧へ戻る】