特集

情報化時代の教育(2)

 本特集では、前号と今号の2回にわたり、専門科目の教育においてインターネットやマルチメディアなどの情報技術を実際に活用されている方々から、その活用方法やメリット、現在抱えている問題点について紹介いただいた。新しい教育方法の試みを通して、大学教育が情報化とこれからどのようにかかわっていくべきかを考えたい。今号では、法律、経営、物理、薬学、栄養、被服学を取り上げた。



法情報学とインターネット

笠原 毅彦(桐蔭横浜大学法学部法律学科助教授)




1.はじめに

 「百聞は一見に如かず」。法情報学を講義として立ち上げるとき、説明するよりは見せる方が早いと考え、様々な方法を検討した。講義の目的は、法に関する書誌・デジタル情報の収集ができるようにすること(法情報学)、情報化社会が法制度に与える影響を考えること(情報法学)の2点にある。
 学生全員が実際に操作しながら講義を進めていければそれが一番だが、予算と著作権の関係でこれは実現できなかった。特にデータベースの交渉は厳しく、アカウントを講義用、学生用に流用することを認めてくれたのは海外のデータベースのみであった。結局、大講義室でコンピュータと接続したプロジェクタで学生に利用方法を見せて説明し、レポートを課して各自が実際に操作して情報を取得するという形に落ち着いている。


2.「情報機器」と「ネットワーク」の利用

 当初は、詳しいシラバス、配付資料等をプレゼンテーションソフトを使い、スライド表示することで進めていたが、二度手間なので、すぐに、ゼミのWebサイトをそのまま使い、ハイパーテキストを見せる形に変えた。講義用のメモ・ノート、配付資料をデジタル化し、そのまま見せるという形である。教員にとっての利点としては、配付資料がいらなくなること。学生にとっては、ダウンロードすれば済むため、ノートを取る必要がなくなることがあげられる。代わりに、講義中に考え、理解することを求めている。ノートを取る労力を考えることにまわすことができるという意味では、肯定的に評価できる方法ではあるが、ノートを取る緊張感がなくなり、プロジェクタの利用のために部屋を暗くするため、学生の安眠を誘ってしまう。緊張感を維持し、興味がとぎれないようにするためには、従来型の講義以上の工夫が必要となっている。また、実験的に、講義のビデオのオンライン放映も試してみたが、次世代インターネットが実現するまでは、実用的でないように思われる。
 法情報学という科目の性質上、インターネット上のサイト自体が最大の百科事典としての教材であり、講義中に、オンラインで資料の収集方法・サイトを実際に見せることができることが利点となっている。ただし、インターネット上の情報の変化が早く、新しいサイトも次々と生まれている。充実したサイトもあり、サーチエンジン等で検索できるようにはなっているが、その変化を個人で追うことは、時間を取られる作業である。たとえばリンク先情報の持ち寄りの場といった形で共同作業がなされれば、教育・研究両面に有益なデータベースができるように思われる。


3.コミュニケーション手段としてのメーリングリスト

 レポートの提出・講義外の質問はメールのみで受け付けている。さらにゼミに関しては、メーリングリストを置き、OB・外部者にも参加してもらい、ゼミの進行、疑問点の解消、集まりの連絡等に利用している。学生とのコミュニケーションという意味では、メーリングリスト等で、従来では考えられないきめ細かい対応ができるようになっている。他方、主としてコンピュータリテラシーの差から、コミュニケーションが一部の学生に偏りがちという問題が出ている。


4.おわりに

 マルチメディアの時代の中で、マルチメディアがデジタル化による複数メディアの統合であるとするならば、そして、デジタル化されることによりインターネットに馴染んでしまった現在、教育・研究は、インターネットの特性から空間と所属を超えてしまう可能性がある。現に通信教育、仮想大学でなされているようなオンライン教育が主流になる時代がくるのかもしれない。


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