特集

情報化時代の教育(2)



法学教材のデジタル化

栗田 隆(関西大学法学部法律学科教授)




1.はじめに

 インターネットが安価で多機能のコミュニケーション手段として普及し、ビジネスの世界では、多くの市場が世界的規模となり、劇的なコスト削減が可能となった。こうした状況の中で、大学教育は依然として、キャンパス中心で行われている。キャンパス型の教育の対立モデルとして、ネットワーク型の教育も考えられる。しかし、キャンパス型の教育の優位は、当分続くであろう。キャンパスに人が集まり、そこで対面的コミュニケーションが行われること自体が有意義だからである。20人のゼミを考えた場合に、ネットワークにつながれたコンピュータのディスプレイで20人の顔を見ながら会話ができるようになれば状況はかなり変わるが、そのような環境はまだ整っていない。
 以上の状況を前提にした上で教材のデジタル化を考えると、ネットワークを通じて配布する点に主要な意味がある。配布の中心的方法は、Webと電子メールである。


2.電子メールの利用

 電子メールは、主としてゼミのコミュニケーション手段として利用している。私が勤務する関西大学法学部の場合には、2回生の秋にゼミ募集が行われる。ゼミが実際に始まるのは、3回生の春からであるが、その前の段階で、電子メールで自己紹介をさせ、また、目的意識を持たせるために進路を報告させ、その結果をゼミニュースの形で流している。まだ全員が自宅で電子メールを利用できる状況ではなく、大学の設備を利用する学生も多い。メールチェックの回数はそれほど多くはないので、コミュニケーション密度を高くすることができないのは、残念である。ゼミが始まると、ゼミの課題等を電子メールで課すことも多い。研究室で課題を考えて、その場で配布することができるのが何と言っても便利である。


3.Webの利用

 Webには、判例や講義ノートを掲載している。私のゼミでは、多数の判例について事案と結論を比較検討しながら勉強することに主眼を置くようにした。判例収集の負担を軽減するために、「ゼミ研究テーマ」の候補として法定地上権などを選定し、それに関する主要判例を集めたページを作成し、学生は最低限それらの判例を基に報告すれば、まとまりのある報告ができるようにしている。講義ノートは、通常の概説書と同じである。授業をしながら作業を進めるので問題も多く、時に自責の念に駆られる。講義ノートは最新の判例を取り入れて常にアップデートするわけであるから、授業期間中、常に内容が更新される。学生が、4月の時点でプリントアウトしても、12月の時点では書き換えられているので、試験勉強のために再度プリントアウトしなければならないのではないかという不安にかられる(もちろん、そうしなくても合格できる問題を出しているつもりである)。
 ゼミ研究テーマも、判例を集める作業に手間取る。1999年度は、掲載済みのテーマの勉強を終えた後、新しいテーマのページの作成が間に合わなくて、授業が頓挫するという事態になった。1年分の教材を予め用意せずに、授業期間中に追加していっても間に合うであろうという姿勢が誤りであり、自己批判している。コンピュータ上で使用することを前提とした教材として、Q&A形式の練習問題も用意している。「破産法学習ノート」と題した解説書に埋め込んで、教材を読みながら、知識の確認に役立つようにしたものである。


4.その他

 準備中の教材となるが、一定のシナリオを基にして、内容証明郵便による督促、裁判所の支払督促手続と競売申立を通して債権回収を図るシミュレーション型のゲームも作成している。書類作成の自動化は社会の求めるところであるので、これに応じた教材として、内容証明郵便で送付する文書の作成のためのソフトをJavaScriptを用いて作成して掲載している。また、最高裁のWebサイトに掲載された判例を中心にして、小さな判例集を作成している。(実際の状況につき、http://civilpro.law.kansai-u.ac.jp/kurita/ を参照いただきたい。)


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