情報教育と環境

情報環境の充実をめざして
−甲南女子大学のとりくみ−



1. はじめに

 甲南女子大学は、1964年に英文学科と国文学科からなる文学部単科大学として発足した。その後、1975年に人間関係学科(心理学、社会学、教育学専攻)、1978年にフランス文学科を増設し、各学科・専攻とも大学院博士課程後期まで設けられている。
 本年は甲南女子学園の80周年にあたり、かつ、2001年には同じキャンパスにある短期大学部の廃止、大学においては文学部に多文化共生学科、人間科学部に人間環境学科を増設して2学部制への移行が計画されている。これに伴い、新たな建物の建設が着工されカリキュラムの見直しも始まり、学内の情報教育システムおよび環境も変わりつつある。そこで、ここでは本学の情報処理教育の現状だけでなく、現在煮詰まりつつある計画中のプランも紹介しておきたい。


2. 情報教育ネットワーク

 KOALA - NETWORK(KOnan Academic LAn system の略)と名づけられた現在運用中の情報教育システムは阪神大震災の翌年に計画され、1997年から 1998年にかけて2年がかりで完成したネットワークである(図1)。
 初年度には情報処理センターにサーバを置き、学術情報センターとは1.5Mbpsの直通回線で結び、8号館メディアセンター内にあった情報処理教室(Windowsマシン41台)とは100Mbpsで繋いだ小規模なFDDIを利用したネットワークの運用を始めた。当時、本学の情報処理教室はメディアセンター内の3室であったが、25台のMacintosh教室とWindowsとMacあわせて24台の自習室はインターネット接続を見送った。なお、この年に増設された情報処理教室についても同様である。
 このシステムの運用状況を検討しながら立てられた2年目の計画では、1)大量のマルチメディア・データ転送が可能なLANを構築し、学内のすべての建物とネットワークを結ぶこと、2)授業時間以外の利用も考慮に入れて、学生のために必要かつ充分な情報処理教室とパソコン台数を確保することを最優先と考えた。そこで、まず既存のFDDIを非常時用のバックアップに待避させ、当時比較的新しい技術であったファイバーチャネル方式を採用した。本学のネットワークの基幹となる情報処理センターと8号館を結ぶ回線の転送速度は1Gbpsとし、充分余裕を持って画像データ転送ができるようにした。当時ATMの能力はそこまで達しておらず、さらに、本学のように閉じられたキャンパス内のネットワークでは、この方式の方が高いパーフォーマンスを得られると考えたからである。そのほかの主要な建物とは266 Mbpsあるいは100 Mbpsで繋いで、充分なスピードを確保した。また、各建物内のVTRやプロジェクターが備えられているすべての部屋に情報コンセントを設置したことで、情報処理教室以外の教室においても、インターネットを利用したマルチメディア教材による授業を展開することが可能になった。なお、学外からの利用を希望する学生のための便宜もはかることにし、公衆網との接続も行った。さらに、快適な情報トラフィックを確保するために、学術情報センターのSINETとの接続はメールとニュースのみとし、HPの閲覧には OCNとの直通回線を通すように変更した。
 情報処理教室の増設は、ワープロ室と英文タイプ室を情報処理教室に改装することで対応した。また、前年度積み残したメディアセンター内の2部屋もネットワークに組み入れ、インターネット接続をした授業用パソコンの総台数は166台になった。さらに、各情報処理教室にはプロキシー・サーバを置き、多くの学生が同一のホームページにアクセスした場合に備えることにした。
 懸案であったネットワークを利用した本学図書館の書誌検索システムの運用も、近々開始される予定である。さらに、現在建築中の新9号館にもマルチメディア教室と情報処理教室の設置が予定されており、大学全体としては研究・教育のためのよりよい情報環境づくりへの取り組みが続けられている。
図1 甲南女子大学教育学術情報ネットワークシステム構成図


3.情報処理教育

 本学は語学教育や視聴覚教育に重点を置いていたこともあり、全学的な情報処理教育への取り組みは遅く、メディアセンターの情報処理教室で「コンピュータ実務」という授業が1995年に開講されるまでは、汎用統計パッケージSPSSを用いた心理学専攻の「データ処理実習」などの授業が個別に行われていただけであった。
 学生の要望を考慮して本格的な情報処理教育科目の見直しが行われたのは、学内LANが完成してからである。新入生向けにコンピュータの仕組みや社会とのかかわりを理解させる「情報処理入門」の講義を開き、実習科目である「コンピュータ実務」については段階的に学べるように改めた。これらは、実際に役に立つ情報処理能力を学生に身につけさせるために置かれた科目である。具体的には、1年生向けの文書作成の技術を習得させる従来の「実務」にあたる「実務I」、2年生以上の学生を対象としたWWWの利用とホームページの作成を学ぶ「実務II」と、プレゼンテーションの技法を学ぶ「実務III」である。さらに、より創造的なコンピュータ利用を希望する学生のためには、Hyper TalkやVisual Basicプログラミングを学ぶ「情報処理実習I」、マルチメディア教材を作成する「情報処理実習II」を開講することにした。
 これらが現在行われている本学の全学生向け情報処理関連授業であるが、学生がコンピュータを学ぶ理由の一つに、就職活動を有利に進めたいという動機がある。そこで、このような要望に対応するため、来年度から「コンピュータ実務III」の中に資格取得のためのコースを新たに設けることになった。なお2001年からは、現在選択科目である「実務I」と「実務II・III」の名称を変更した上で、全学生の必修科目とすることが決まっており、その他のいくつかの新設科目についてもその内容については鋭意検討中である。


4.メディアセンターの役割

 それまで学内のいくつかの建物に分散していた視聴覚施設を集約し、1992年に設立されたのが8号館メディアセンターである。この館内の主要な施設には、AV制作スタジオ、LL教室、ビデオ・ライブラリー、教員用のコンピュータが置かれた教材開発コーナー、180人収容のマルチメディア教室などがあるが、そこに作られた3室のコンピュータ・ルームが、本学初めての情報処理教育施設であった。  設立当時は、ビデオ教材製作の支援やビデオライブラリー管理などの視聴覚関連の業務が主であった。しかしその比重は情報処理教育施設の拡充にともなって変わりつつある。このメディアセンターが情報処理教育に果たす役割は大きく、現在では、教材制作、コンピュータの利用などに関する教員への手助けから情報処理教室の管理、カリキュラムの作成に至るまでのさまざまな活動が行われており、本学の情報教育の実質的な担い手となっている。学生のためのサービスとしては、利用者用IDを発行し、インターネット講習会を年間通じて行うことで、学生全員の電子メールとWWW利用の支援を行っている。また、ここで採用した大学院生が情報処理教育のTAとしてだけでなく、コンピュータ初心者のための相談員としても働き、学生たちの技能向上をはかっている。


5.おわりに

 これまで、本学の情報システム、情報処理教育、その担い手としてのメディアセンターについて紹介してきた。われわれは、物理的な情報環境についてはほぼ満足できる状態にまで達していると考えている。しかし、大学内のネットワークを流れる情報については質、量ともにいまだ不十分であることを痛感している。バランスのとれた情報環境を構築するためには、本学にどれだけの情報が蓄積されており、かつ発信しているのかについて、常に見守り続ける必要があると思われる。

文責: 甲南女子大学
  情報ネットワークシステム委員会

【目次へ戻る】 【バックナンバー 一覧へ戻る】