歯学教育における情報技術の活用

大阪歯科大学における歯学情報化教育


神原 正樹(大阪歯科大学口腔衛生学講座教授・教育情報センター所長)



1.はじめに

 大阪歯科大学では、新学舎(楠葉学舎、天満橋付属病院)建設に伴い、全学(付属病院を含む)レベルの学内LAN(ODUネット)を導入し、歯科大学付属病院情報システムおよび教育・研究系、事務系システムを構築した。すなわち、大阪歯科大学の基本的構成要素である教育、研究、臨床の場を設定し、それぞれの情報化と、大学外の関連機関との連携における情報化との両面に配慮したシステムである。
 特に教育系システムについては、歯科医学教育の大きな柱である三つの教育について情報化を考えた。


2.知識教育

(1)口腔学術マルチメディア教育支援システム(図1)
 口腔の基本構造、歯科疾患(齲蝕・歯周疾患)および治療法の3次元表現を試みたシステムである。これには、3次元画像、動画、X線フィルム像、VIDEO、文字情報など、多様な表現で、知識の理解および学習意欲や興味を持たせることを目的にしている。


図1 口腔学術マルチメディア教育支援システム

(2)インタラクティブ学習支援システム
 教師との対話によって学生の自己学習を支援するシステムである。教師が学生のパソコンにイントラネットを通じて課題と提出期限を書き込み、それを見て学生は解答を書き込む。さらに、教師はその内容を見てコメントや参考資料を提示し、新たな課題を提示する手順で運用される。講義・実習の補完として対話形式で学生個々によりきめ細かな学習指導を実施する目的で開発した。

(3)試験問題作成支援システム
 多肢選択方式や記述方式等の試験問題やその解答をデータベース化し、さらによい試験問題作成を目的として、問題傾向や学生解答の分析を行う。また、試験問題をイントラネットで大学事務(教務課)に送ることによって事務効率化も合わせて実現する目的で開発した。

(4)講義・実習試作作成支援システム
 マルチメディアを活用した講義・実習資料を効率的に作成し、整理された状態で個々の教師が容易に検索し、リアルタイムに利用できるシステムである。対象は文字や図表などの静止情報のみならず、動画や音声などで、イントラネットを通じて液晶プロジェクタへ出力する他、スライド、OHPシートにも対応する。

(5)論文目録データベースシステム
 印刷公表論文や学会発表を統一した書式で効率よく記録し、保管・検索できるシステムとして、データベースを構築した。


3.技術教育

 歯科医療の特徴である歯科医療技術、すなわち歯の切削、抜髄、抜歯などは、必須の技術であるにもかかわらず、これまで経験と勘による繰り返し訓練に伴う技術習得に終始してきた。最近では、歯の切削に使用する抜去した歯が手に入りにくくなり、人工歯による訓練が行われている。また、口という非常に狭い視野でのデモは、指導者の手暗がりのために、動作時の細かい器具の動きが可視できないという欠点を有している。そのため、技術評価の点においても、でき上がった作品の外形の主観評価に止まっている。そこでシミュレーションシステムが必要とされ、これに対応したDENT-SIMシステム(図2)を導入した。
 これは、切削過程が画面上でシミュレートされ、切削を多様に評価できる特徴がある。バーチャル・切削システムとしての完成度も高いが、高価であることと、切削以外の歯科医療技術のシミュレーションシステムの導入が必要である。


4.態度教育

 近年の医療教育の方向性は、従来の技術偏重教育への反省や、インフォームドコンセントなどにみられる患者とのコミュニケーションをどうとるのかの教育の導入が急務とされている。そのため、早期体験実習(保健所や特別擁護老人ホームの見学実習)や臨床実習の体験学習が試みられているが、これに入る前に、患者や高齢者の擬似患者によるシミュレーションを体験させることを情報化することも必要と考えている。この目的は、歯科学生としての自覚を持たせること、勉学意欲の向上、医療の対象が人であることの重要性、問題発見解決学習法の気づき、さらに個を対象にした教育にある。患者学や医療人間学に見られるように、この分野の学問体系や教育方法論が確立されていない現状で、これをシステム化することは困難を伴うと考えられるが、その重要性から必要不可欠であり、かつ早急に構築すべきであるといえる。


5.おわりに

 歯科医学教育は、21世紀を間近に控え、カリキュラムの変更が、講座再編の中に繰り込まれるように各大学で模索されている。歯科医学教育は、6年間という長期間が必要であり、6年後の歯科医療をにらんだ目標設定が必要であり、そのための教育方法も、従来の座学を中心としたone wayの押し付け教育ではなく、インタラクティブに、より効率的にかつわかりやすく教育しようとすると情報化の波に逆らうことはできない。さらに、このような情報化を考えることは、20世紀の歯科医学を反省し、再構築できるメリットがあることを認識しておくことも肝要である。しかし、教育の情報化は、人、物、金がこれまでの教育投資に比較して数倍必要であることから、単一大学だけで構築できるものではなく、大学間の協調が必要である。その意味で、私立大学情報教育協会の歯学情報教育委員会を中心とした歯科医学教育の情報化に向けた各関連諸団体の協力をお願いする次第である。


図2 DENT−SIMシステム


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