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マルチメディアを活用した薬学教育に関するアンケート調査



1.はじめに

 近年、コンピュータ及びインターネット等の情報技術のめざましい進歩に伴い、日本の薬学教育においてもマルチメディア技術の活用なしには教育の進展が困難な時代を迎えている。そこで、薬学情報教育研究委員会ではマルチメディア情報教育の推進と支援をめざし、まずは現状を把握するため、薬学関連授業におけるコンピュータ活用の実態についてアンケート調査を実施した。その結果、薬学教育におけるマルチメディア教材開発の必要性及び教材活用例などに関する情報交換の重要性が認識された。今回は、そのアンケート結果の内容について報告する。


2.調査時期及び対象

 平成11年6月に全国の私立薬科大学 22 校を対象とし、教員に対するアンケート調査を依頼した(調査票送付数 941)。そのうち、アンケートの回答があった大学は20校(回収率 90.9% )であり、アンケートに対する回答者数は357名(回収率 37.9%)、延べ科目(学部及び大学院)における回答数は395であった。また、回答した教員の役職別分布は、教授 38.7%、助教授 24.4%、講師 24.9%、助手 2.0%、その他(記載なしを含む)が10.1% であった。


3.結果

 アンケート調査の回答のうち、「コンピュータを活用した授業を実施している」と回答した科目数は、395 例中134(コンピュータ活用率33.9%) であった。そこで、今回はこの134 例 の内訳について、次の通りにまとめた。

(1)授業の対象学年および学生数

 コンピュータを活用した授業を実施している対象学年について、表1に示す。学部においては3年次における授業での活用が最も多く28.4% であり、次に1年次で21.6%であった。また、大学院では修士課程1年における授業での活用が13.4%と多かった。
 授業おける対象学生数(図1)は、100名以上の学生に対して実施している授業が全体の約6割を占め、コンピュータを活用した授業が多くの学生を対象とした形で実施されていることが明らかとなった。

表1 対象学年
学部/大学院学年回答数(%)
学部
(81.4%)
1年21.6
2年15.7
3年28.4
4年15.7
大学院
(17.0%)
修士1年13.4
修士2年2.2
博士1年0.7
博士2年0.7
不明・回答なし1.5
 
図1 対象学生数

(2)授業の開講数およびコンピュータ利用回数

 コンピュータを活用した授業の開講数(図2)については、15回以下の回答が全体の3/4を占める結果となり、その中で開講数が1回という回答が16.7% みられた。また、各授業におけるコンピュータの利用回数(図3)においても、利用15回以下の回答が約8割を占め、その中でも利用2回以下の回答が約2割を示した。これらの結果から、実際には、授業でコンピュータを活用していても利用頻度が数回にとどまっている例が少なくないことが明らかとなった。

図2 開講数
 
図3 コンピュータ利用回数

(3)コンピュータを活用している科目及びその具体的内容

 コンピュータを活用している科目とその具体的内容について調査を行った。その結果、表1に示すように学部においては「講義」における活用が59.8%、「実習」における活用が27.7%、「その他」が12.5%となり、その科目内容としては「情報科学系の科目」及び「薬剤系以外の実習」における活用が14.3%と比較的多かった。一方、大学院では、表3に示すように「講義」における活用が70.6%、「実習」における活用が29.4%であった。その科目内容については「医薬品情報学実習・演習」が29.4%、「医薬品情報学」が23.5%であり、大学院レベルでは「医薬情報学」に関連した科目において情報教育がさかんに行われていることが示された。
 各授業におけるコンピュータ活用の具体的内容について調査した結果(表4)、薬学分野における活用分類としては、「医薬品情報関係」(22.9%)、「医療薬学関係」(10.4%)、「コンピュータ操作関係」(18.2%)、「専門教育への利用」(21.2%)、「授業法への改善」(22.8%)、「その他」(4.7%)の6項目に大別された。具体的内容では、「教材提示・資料提示」の活用が13.4%、「医薬品情報検索」及び「コンピュータ基本操作の修得」に関する活用が11.9%と多かった。

表2 学部における科目内容
分 類内 容(複数回答)回答数(%)
講義(59.8%)情報科学系の科目14.3
医薬品情報学4.5
薬剤学系の科目7.1
医療薬学関連科目4.5
化学系の科目11.6
生物学系の科目8.0
衛生系の科目3.6
教養科目0.9
演習科目1.8
英語関連科目3.6
実習(27.7%)情報科学系の実習4.5
医薬品情報学実習2.7
薬剤学系の実習6.3
薬剤系以外の実習14.3
その他(12.5%)実務実習事前指導5.4
卒業論文作成等3.6
その他3.6


表3 大学院における科目内容
分 類内 容(複数回答)回答数(%)
講義(70.6%)医薬品情報学23.5
化学系の科目11.8
生物学系の科目35.3
実習(29.4%)医薬品情報学実習・演習29.4


表4 コンピュータ活用の具体的内容
分 類内 容(複数回答)回答数(%)
医薬品情報関係(22.9%)医薬品情報検索(含、副作用)11.9
文献検索4.2
患者情報・薬歴管理2.6
医薬品鑑別1.6
保険調剤1.0
処方解析1.6
薬物速度論的解析3.6
医療薬学関係(10.4%)TDM4.7
輸液に関する計算1.6
実務実習中の通信連絡0.5
コンピュータ操作関係(18.2%)基本操作修復11.9
プログラミング2.6
データベース作成1.6
ホームページ作成2.1
専門教育への利用(21.2%)シミュレーション1.0
モデリング2.1
計算機化学3.1
データ処理7.2
データベースの利用1.6
インターネット情報の検索4.7
測定機器の制御1.5
授業法への改善(22.8%)資料の入手1.6
教材提示・資料提示13.4
教材作成・資料作成2.6
資料配布2.1
メールによる課題提出・添削1.6
メールによる質疑応答0.5
成績処理1.0
その他(4.7%)CAI4.2
アンケート調査0.5

(4)授業に使用している教材の内容

 コンピュータを活用している授業で使用している教材については、「一般的パソコン用アプリケーション」を使用している例が26.8%と最も多く、次いで「自作教材」が14.6%、「市販医薬品情報データ集」が13.0%という結果であった(表5)。「自作教材」が多く見受けられた理由として、薬学教育に適した教材の供給不足の現状が考えられる。表6には「自作教材」の事例内容について示したが、その内容については、各教員の授業に対する工夫が色々となされており、利用価値の高いものが多いと思われる。

表5 授業で使用しているソフトウェア
内 容(複数回答)回答数(%)
文献検索データベース3.3
TDM関連ソフト7.3
調剤業務市販ソフト5.7
市販医薬品情報データ集13.0
中毒情報データベース0.8
分子モデリング及び計算機化学用ソフト8.1
その他の専門科目に関するソフト6.5
一般的なパソコン用アプリケーション26.8
インターネットブラウザ7.3
メールソフト4.9
その他(国家試験問題ソフト)1.6
自作の教材14.6

(5)コンピュータ活用授業の経費

 授業でコンピュータを活用する際の経費とその資金内訳について調査を行った。回答が得られたもののみについての分析結果(回答率:46.5%)であるが、かかった経費については図4に示したように、10万円以下の回答が全体の約半分を占めた。しかし、一方で経費が100万円以上かかった例も約1割みられた。
 これら経費の資金内訳(重複回答有り)については、図5に示すように「研究費」、「校費」及び「補助金」をあわせると8割を越え、経費の多くは大学などの公的予算から支出されていることがわかった。しかしながら、一方では「私費」の回答も13.6%あり、一部では教員の個人的負担も無視できないことが明らかとなった。

図4 コンピュータ授業実施の経費
 
図5 経費の支出内訳


4.まとめ

 今回の調査では、「授業でコンピュータを活用している」との回答が約3分の1(395 例中134)得られ、薬学教育におけるコンピュータ活用はかなり一般化していることがわかった。しかし、その詳細をみると、開講数やコンピュータ利用回数の数少ない例も多く、全体としてのコンピュータ利用頻度はさほど高い状況ではないことが示された。一方、コンピュータを活用した授業科目の内容としては、一般的に「情報学」関係のものが多かった。特に大学院レベルでは「医薬情報学」に関連してコンピュータ活用がさかんに行われていることが示され、今後は、情報技術の進歩に伴い益々この傾向が進むものと考えられる。
 さらに、今回の調査結果では、教材を自作している例も数多くみられ、薬学教育におけるマルチメディア教材不足の現状が示されたと同時に優れた教材の開発が望まれていることが示唆された。そこで薬学情報教育研究委員会では、これらのニーズに応じるべく、薬学教育に役立つマルチメディア教材の開発を行い、「私情協ホームページ」を通してその教材を一般に無料公開するとともに、その他の薬学教育に活用できる教材についても幅広く情報交換できるよう情報検索システム付データベースとして掲載することとした。このように収集した情報を有効活用し、マルチメディア教材の開発・提供を実施することにより、薬学分野における情報教育をさらに大きく進展させうるものと期待している。
表6 自作教材の事例



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