情報教育と環境

マルチメディア機器が文房具として使いこなされる日を目指して
−学習院大学−



1 はじめに

 計算機センターは1974年の設立以来、学内ならびに法人全体のネットワークを含めた情報化に対する指導的役割を果たしています。また、平成10年度以降の国家補助による、マルチメディア対応教室への改修(現在40教室)を機に、マルチメディア等情報関連施設・設備全般に対する設計指導等も担っています。
 本稿では、教育を担う我々が設計したマルチメディア等情報関連施設・設備・システムについて説明し、教育効果を上げるために教師が取り組む必要のある「教育内容・方法の改善」に対する支援体制について述べます。


2 情報環境

 学習院大学の情報環境やその設計理念は、以前本誌[1]で紹介したとおりですが、昨年度新規導入時に行った代表的な変更点としては、
  1. 基幹ネットワークを100Mbpsから1Gbpsへ増速し、ギガスイッチにてNTサーバおよびファイルサーバに接続し、支線は10Mbpsから100Mbpsへ変更しました。ただし、これらは、すべてではなく、必要性のないところは以前の状態です。
  2. ファイルサーバのユーザ領域を90GBから1.5TBへ増強。
  3. クライアントOSはWindows3.1からWindows NT4.0へアップグレード。当初Windows2000の予定でしたが、ドライバやファイルサーバの対応等を考慮して1997年度に行った変更をそのまま継承しました。
  4. NFSをCIFSへ変更(PC-NFSクライアントソフト代の節約)。これは、導入時の計画でしたが、ファイルサーバのバグにより現状実現していません(近々実現予定)。
  5. クライアント総数を約1,000台に増やしました。
クライアントで使用できるソフトウェア(詳細は省く)の初期状態は全台数同じものであり、接続するネットワークドライブは、利用目的により幾つか選択できるようにしました。ネットワークドライブは、共通仕様として、個人用ドライブ2(ホームページ公開用、個人データ保存用)と共通ソフトウェア用の三つのドライブを使用できます。これは、学生と教員の情報環境のコア部分を共通化することにより、学生が持っている情報技術(IT)が最低どの程度か(初等の情報処理教育では、導入されているソフトウェアの利用方法を教育している)を一般の教員が把握した上で、授業に情報処理を持ち込むのが重要なことと考えているからです。
 各教員は教育用と研究用の二つのアカウント(ID)を持つことができ、教育用IDでは学生へのデータ配布用のドライブが見え、各教員は教材を教員所有のフォルダへコピーしておけば、学生はそのドライブから必要なデータをコピーできるようになっています。これは、メールで代用できると思われるかもしれませんが、学生が受け取ったメールを削除してしまうという事故防止、教材の公開と共有という面から有効な手段です。また、教育用IDでは、電子レポートボックスを所有でき、提出期限等を設定して学生からの電子レポートを受け取ることができます。学生が提出できるファイル形式は任意のものですが、提出課題となりそうなファイル形式に対しては、自分が何を提出したかを確認できるようになっています。なお、学習院大学ではレポート提出システム(自作ソフト)と、プログラム開発支援システム(C、PASCAL、FORTRAN言語によるプログラム作成やホームページ作成に使用している:自作ソフト)を組み合わせることにより、レポートの授受を簡便化して教育効果を高めています。さらに、プログラム開発支援システムと、フリーのコンパイラーを含めたCDを受講学生に配布して(ただし、自宅からはレポートシステムは使用不可である)自宅のPC(Windows版)で自習ができるようにしています。
図1 マルチメディア教室の使い勝手


3 マルチメディア教室とマルチメディア編集ラボ

 平成10年度から昨年度までに、大教室(200名以上)4室、中教室(100名〜200名)4室、小教室(40名前後)29室をマルチメディア対応教室に、また、3教室をCAI対応教室(30名)へ改修しました。これらの全教室には、VTR・LD/DVD/CD・カセットテープレコーダー・書画カメラ等の機器(これらを総称してマルチメディア機器と呼ぶ)と、インターネット接続用の情報コンセントが備え付けられており、PCをはじめ様々なメディアを授業で用いることが可能となっています。これらの使用にあたり、表示系には高照度液晶プロジェクタを使用し、学生はノートが取れる明るさで授業が受けられるようにしました。高照度化はここ数年で格段の進歩があったことの恩恵です。また、各マルチメディア教室の特徴として、単に教室内に各メディア機器が設置してあるのではなく、種々のメディアはマルチメディア卓の一箇所でコントロールできる作りになっています。それゆえ、使うユーザ(教師)にとっては、メディア操作のために場所を移動する必要がなく、授業を行いながら、手元での操作が可能となっています。なお、教師は一つの教室だけを使うわけではなく、いくつかの教室を使うのですべての教室での操作性の統一を図っています。図1はマルチメディア教室を使用している教師(非常勤も含む)に対してアンケートをとった結果であり、60%以上の方が使い勝手が良いと答えていることをみても、我々の設計の妥当性が覗えます。なお、年々普通と答える教師が増えているのは、多くの大学でマルチメディア教室が増えていることの表れであると考えられます。
 大教室では教室の広さをカバーするためにマルチメディアを使って教材を大スクリーンに表示することが不可欠です(後部座席では板書をノートするには遠すぎるし、読めるように板書する教師の体力の消耗が大きすぎます)。すなわち、大規模になって希薄になりがちな授業はマルチメディアを使うことによってカバーできます。これについては、雑談や居眠りをする学生の数が減ったという報告も受けており、本学では、旧来の板書型授業にも対応できるように電子白板(本誌冒頭カラーページ参照、120×90cm2のホワイトボードにペンで板書したものをパソコン画面に表示できる装置)を用意しています。この装置が用意されている教室を使用する教師の約20%の者が利用しているという統計データもあります。  中教室は対面授業の限界と思われますが、教師の表情が覗えかつマルチメディア教材の提示に適した教室で、教師からの評判も良いようです。
 小教室の利用のほとんどは語学教育であり、カセットテープ・ビデオを副教材として使っていましたが、その時代から、CD・DVD(初めから数カ国語が入っている)を副教材として使う時代になってきています。なお、ゼミ等で利用する場合は、ウェブの利用が多いようです。
 CAI対応教室で特筆できることは、情報処理教育以外の利用が全体の91%(20/22コマ)を占めていることです。このことは情報処理の授業以外においてもPCがかなり導入されていることを示しており、学生自身はそれを抵抗なしに受け入れているようです。
 マルチメディア編集ラボには、ノンリニア編集機、アナログ編集機、AVダビングシステム、カセットテープ高速ダビングシステム、音声ダビングシステム、World Videoデッキ、DVカメラ、ビデオCD作成システムがあり、教師は教材作成や、機器を授業に利用することが可能となっています。ダビングシステムは、使い方も簡単で多くの教師が利用しています。しかしながら、新たな教材作成用に意図した各種編集機や作成機の利用は、使い方の難しさもあり、また、完成までの時間がかなり必要なことから、ほとんど使われていないのが現状です。これに関しては、教材作成の支援体制と使用者のスキルアップが今後の課題となっています。


4 支援組織

 2.および3.で示したように情報環境や教室環境などインフラの充実は、教育環境を改善させていくために必要不可欠なものですが、与えられた環境(ハード面+情報処理技術)を教師が使いこなせて始めて真の教育環境(ソフト面:教育内容・方法、教育効果)の充実と言えます。学習院大学では、このハード・ソフト両面の充実を支えるために、「学習院コンピュータシステム支援組織」を平成11年度に設立しました。設立目的は、
1) マルチメディア教室の各設備の故障時間を極力短くし、安定稼動させる。
2) マルチメディア教材作成、マルチメディア装置や情報システムを用いた授業方法への助言を行い、間接的にではあるが学生への教育効果の向上を図る。
3) 情報処理に伴うトラブル(PCへのソフトのインストールや、各種設定方法等も含む)の解決法の指導により、各教師が独自でトラブルを解消できるようにする。
支援組織は、これらを実現するために、助手3名と、数名のアルバイトで組織化されています。
 1)に関しては、業者とのメンテナンス契約ではその対応に即時性がなく、授業運営に支障をきたすばかりでなく、授業方法の改善への教師の熱意をそぐ結果にもなりかねません。支援組織では、ラボ室(多くのマルチメディア教室がある建物と同じ建物内)に人を常駐させてトラブルが発生した場合に即座に教室へ出向き、少なくとも授業時間内にトラブルを解消するよう努力しています。多くのトラブルは教師の単純な操作ミスで、簡単な助言で解決しています。また、装置の故障等に関しては、故障機器を使用していない教室のものと取り替える等の対処をしています。図2は、マルチメディア教室を利用している教師のマルチメディア機器の利用率を示したもので、年々利用率が上がっていることが読み取れます。これは、1)の目的が達成されていることの結果であると考えられます。
 2)、3)に関しては、教師の研究室へ出向していきその場で助言して、極力教師自身で問題を解決してもらうようにしています。この方法について、すなわち、「やって貰う」のではなく「自分で行う」という方法に不満を抱く教師もいないわけではありませんが、最終的には教師のスキルアップにつながり、しいては教育方法の改善につながるものと思っています。
 なお、文系3学部には教師の教育・研究を補佐するための副手がいますので、その方々に覚えてもらってトラブルを解決しています。また、より一層のスキルアップを図りたいという教職員のために、週1回勉強会を開催し、情報処理技術に関するよろず相談を受けています。
図2 マルチメディア機器の利用割合


5 さいごに

 板書を基本にしていた授業から、情報処理機器を含めマルチメディア機器を用いた授業を行い、より学生への教育効果を高めようという目的でここ数年教室環境の近代化や情報環境の整備を行ってきました。マルチメディア機器を用いた授業に対し、学生は環境の変化にすぐに順応します。事実、学生はPCをあたりまえの文房具として捉えつつあります。しかしながら、教師自身は長年行ってきた方法で授業を行う方が楽であり、新たな教材作りや教育方法を考案するのに躊躇するかもしれません。したがって、より簡単に教材が作れる環境をハード・ソフトの両面から支援する機能が必要です。また、どのような教科にどのような新しい教育方法を持ち込むかを教師自身で見極める必要が出てくるでしょう(教科によってはマルチメディア機器を用いる必要の無いものもあると思われます)。そのためには教師自身がマルチメディア機器を文房具として使いこなせる必要があると考えます。

参考文献
[1] 入沢寿美、窪田誠:NFSによる大規模分散システムの集中管理.
私情協ジャーナルVol.3 No. 2, pp.8-10, 1994
 
(文責:学習院大学
計算機センター 所長 入澤 寿美
 支援組織助手 市川 収、松本喜以子、水上 悦雄)


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