私情協ニュース3

第9回情報教育方法研究発表会報告



 「私立大学・短期大学の教職員による自主的な情報教育方法の研究を促進・奨励し、研究成果の発表・評価を通じて大学教育全般の質的向上をはかる」ことを目的に設立された情報教育方法研究会の第9回発表会は、平成13年7月7日(土)にアルカディア市ヶ谷(東京、私学会館)において開催された。今年度の参加者は157名(79大学、10短大、企業7社)で、発表会は一次選考も兼ねて40件の研究発表が行われた。当日に発表されたテーマ・発表者、内容は以下の通りである。
 その後、第2次選考会は9月13日(木)に行われた。選考結果については、平成13年11月26日の私情協の臨時総会にて発表する予定である。(第2次選考結果は次号に掲載)



[ Aグループ ]

A-1 留学生支援のためのWeb教材
〜コンピュータリテラシー支援の試み〜
玉川大学 和高 慶夫氏

 増加する中国からの留学生を対象としたコンピュータリテラシー教育において、必ずしも十分とは言えない留学生とのコミュニケーションを補うために開発された、コンピュータの基本用語と基本操作の修得を支援するバイリンガル教材の紹介。教材はHTMLファイルで構成され、中国語(簡体字フォント)をインストールしたブラウザで利用可能。


A-2 情報リテラシー教育としての情報検索
新潟国際情報大学 高木 義和氏

 情報リテラシー教育の一環として1995年以来継続されてきた情報検索リテラシーを課題とする授業実践の現段階における到達点の報告。インターネットの普及に伴い、検索エンジンを使用した検索から、Web上で利用可能な新聞記事、雑誌記事、図書情報データベース、さらにDialogの検索に至る実習の成果と今後の課題を示す。


A-3 図書館利用教育を通しての情報活用教育の実行
桃山学院大学 藤間 真氏
兵庫大学 平井 尊士氏
桃山学院大学 志保田 務氏

 機器操作の修得、プログラム理解のレベルに終わりがちな情報リテラシー教育の障壁を乗りこえ、講義、体験実習、演習等を組み合わせた図書館利用教育を通して情報活用教育を実施した授業実践の報告。図書館司書課程における資格修得という明確なモチベーションが成果につながったことが確認されている。


A-4 Windows Office98を利用した事務管理の授業
沖縄キリスト教短期大学 宮国 薫子氏

 短大における授業科目「事務管理」において、Windows Office98を利用して履歴書、名簿、名刺、案内状等の作成から、アンケート調査実施のためのドキュメントの作成、調査実施、分析結果発表に至る一連のビジネス文書管理の授業実践の報告。実習を通じて学生同士の交流が深まり、ビジネスマナーの修得にも成果があった。


A-5 文系短大生のための処理原則解説型コンピュータリテラシー教育
帝京大学短期大学 宮地 利彦氏

 コンピュータリテラシー教育においては個別特定のアプリケーションの操作方法を修得させることに終始しがちであるが、この限界を超えるため、Windowsのアプリケーションに共通の一般的処理原則に注目し、その原則の解説・修得を中心に据えた授業方針を構想して実施した授業実践報告。


A-6 情報倫理教育における予復習システムの導入
日本大学 毒島 雄二氏、小林 貴之氏、谷口 郁生氏

 従来、主として講義形式で実施されてきた情報倫理教育において、学生の関心の高さにもかかわらず必ずしも所期の成果があがっていないことから、これを克服するためNetTutor:INFOSS(野村総研)を使用して開発された情報倫理教育用の予習・復習システムの紹介。教育効果の増大が確認されている。


A-7 学習者中心型情報環境の導入と実践の試みRing−Ryutsu Keizai University Interchange for Groupsについて
流通経済大学 市川 新氏

 社会科学系大学の情報環境としては、コミュニケーションの効率化を促進し、小集団による協調的知的活動の場を提供するような、学習者中心のシステムが必要である。本発表では、Ringと呼ばれる電子会議形式のコミュニケーション手段を、ゼミの場に段階的に導入しながら運用を行った実績を報告した。


A-8 複数のOSやバージョンの違うアプリケーションソフトの利用環境の構築
九州共立大学 守 啓祐氏

 情報機器利用の普及にともなって、基本ソフトウェアの操作の違いや、バージョンの違うアプリケーション間のデータ交換における互換性などの問題が生じている。本研究では、1台の機械の上に複数のOSやアプリケーションを動作させるための仮想的なPC/AT互換機を作成するシステムを構築し、各種の動作テストを実施した。


A-9 協調型プレゼンテーション学習システム on “SMILE for ME”
大谷女子大学 大倉 孝昭氏

 PCとプロジェクタを活用したプレゼンテーションのスキルを学生に身に付けさせるための学習システムを開発した。発表者を映したムービーとPowerPointのスライドショーを同期させてサーバーに置き、各クライアントの学習者が相互に閲覧しながら、評価をフォームから時間軸に沿ってリアルタイムに記入・送信できるようになっている。


A-10 フレキシブルネットワークによる授業展開の試み
南大阪大学  松崎 光弘氏
大阪短期大学 和田 千鶴氏

 ノートパソコンをサーバとして用い、教室内のLANを学内LANから切り離してネットワークをフレキシブルにし、ネットワーク資源の有効活用を図ろうとする試みである。教室外のトラフィックに関係なく快適なネットワークの利用ができ、学生のサーバに対する認識も深まったことが報告された。


A-11 無線LANによるキャンパス内「どこでも学習」基盤の構築
岡山理科大学 大西 荘一氏、市田 義明氏、山本 英二氏

 無線LANの基地局をキャンパス内に設置し、キャンパス内のどこからでもLAN接続を可能にして行った遠隔授業の報告である。キャンパス内接続可能マップを作成し接続エリアが充分であることを示した。遠隔授業を行い音声、動画像ともスムーズに表示され、支障なく1対1形式の遠隔授業が行われたことが報告された。


A-12 インターネットを利用した教育資産の相互活用−北海道工業大学と武蔵工業大学の試み−
武蔵工業大学  村原 貞夫氏
北海道工業大学 藤田 勝康氏

 ネットワークを介して複数の大学によって行われたマネジメントゲームおよびデシジョンゲームの報告である。マネジメントゲームでの参加者の感想、学習効果が報告された。また、デシジョンゲームの参加形態をグループ参加、個人参加、ネット参加の三つとし、それぞれの参加形態による利点、欠点、学習効果が報告された。


A-13 ネットワークによる授業統合の展開
早稲田大学 岡田 昭夫氏

 複数大学での同一もしくは同様授業において受講学生間のネットワーク連携を行い教育効果を上げているという報告である。他大学の学生と繋がっているという実感、学生の自発による授業お助け隊の活動などが紹介され、施設見学会、緩和ケア研究会の連携など、多くの成果が報告された。



[ Bグループ ]

B-1 履修登録支援システムの1学年終了時における利用効果
大阪芸術大学短期大学部 武村 泰宏氏

 新1年生に対して履修登録の支援がなされた場合とそうでない場合に学習効果に影響があるかどうかを調査した。必修、選択科目、関連科目など複雑な条件を含めて適切な履修計画が立てられるクライアントサーバ型のシステムが開発された。その結果、1年次の終了時に取得科目や平均点に、支援効果を確認することができた。


B-2 週間小テストの簡易実施法
近畿大学 ネルソン・ヘンリーエリック氏

 定期試験1回にかわる12回程度の週間テストを実施するために、CGIスクリプトを活用するシステムをパソコンのUNIX上で実現した。小テスト実施上のカンニングなどの問題点はあるが、成績付けよりも学生の学習の促進を支援する目的で実施している。UNIXのユーティリティーを活用した手作りのシステムである。


B-3 Webを利用した個人指向型リアルタイム授業評価システム
東海大学福岡短期大学 大塚 一徳氏、八尋 剛規氏
北海道東海大学 光澤 舜明氏

 Web上において授業評価をほとんどリアルタイムに閲覧できるシステムを作成した。授業時間ごとのマークシート方式の授業評価をWebページにおいて学生が入力でき、その結果がただちにフィードバックされる。レポート形式の記述式授業評価データを学生個人単位で時系列に閲覧できる特徴を有している。


B-4 システム工学領域における実験演習科目の創設
大阪工業大学 倉前 宏行氏、木村 彰徳氏、中西 真悟氏、上野 精順氏、松本 政秀氏、亀島 鉱二氏、下左近多喜男氏

 2年次の学生を対象に、システム工学のさまざまなテーマを7人の教員が担当して、実験演習を行わせる科目を導入した。教員が研究対象として開発したソフトウェアを公開して、学生に実験計画を立案させ、最終の報告書作成とプレゼンテーションまで至らせることで、卒業論文あるいはセミナーの導入教育の効果が得られている。


B-5 問題解決のための情報処理手段の活用とその動機付け
兵庫大学 森下 博氏

 プログラミング言語の学習の基礎として、筆者の体験に基づいた例をもとに、解決の手段と過程を説明し、日常生活における問題の解決の考え方や組み立て方に目を向けさせ、アルゴリズムを自然に意識させるための実例を述べている。


B-6 創造性を引き出すインタラクティブ教材の提案―様々な表現形態を探るマルチメディア教育の実施―
早稲田大学 安岡 広志氏

 Macromedia Flash を用いたインタラクティブなコンテンツ制作を通して、最終イメージの形成、意図の形成、行為・行動の詳細化、行為・行動の実行、外部状況の知覚、外部状況の解釈、結果の評価と再修正、最終表現物完了の表現形成のプロセスを理解させるための授業の提案である。


B-7 文系研究科における実プロジェクト参画によるIT教育―XMLを用いた実応用システム開発プロジェクト―
聖泉短期大学 井上 明氏
毎日新聞社  猪狩 淳一氏
同志社大学  金田 重郎氏

 実用システムを文系大学院生自身が設計・構築。そのプロセスを通じてIT導入の意義や、システム開発過程を学ぶために、XMLを用いた毎日新聞京都支局のHP自動作成の開発をOJT方式で行なった例を述べている。


B-8 Webを活用したプログラミング授業支援の試み
日本工業大学 青木 収氏

 実践的なサーバサイド・プログラム開発教育のために、サーバにアカウントを持たない不特定多数の学生が、自由にWeb サーバ上で動作するプログラムの開発が可能で安定して稼動できるメンテナンスフリーのシステム開発についての報告である。授業に適用した結果、このシステムが授業支援に有効であることがわかった。


B-9 画像データ処理のためのC++ Builderプログラミング演習
大阪電気通信大学短期大学部 高見 友幸氏、津村 一郎氏、加藤 常員氏

 C++ Builderを用いて画像処理プログラミング技法、画像解析習得のためのプログラミング演習を行った報告である。例題および課題については、現実的な様々な画像および画像処理技法を題材とし、課題を解くための手段としての側面を強調している。


B-10 本物を教材としたコンピュータの組立てを通して学ぶハードウェアの学習
東京家政学院筑波女子大学短期大学部 高藤 清美氏、余田 義彦氏

 女子短期大学におけるコンピュータのハードウェア学習のために、コンピュータの性能設定、部品の選択から購入、製作、動作チェックまでを数人のグループで行なった。授業終了時に講義を5段階評価した結果、高い評価を得た。


B-11 擬似OJTを前提としたネットワーク構築技術学習方法
慶應義塾大学 土本 康生氏、村井 純氏

 シスコシステムズ社が提供するプログラムを基本として、擬似的なOJT(On the Job Training)で経験を積ませることを試みた。冗長なネットワークが構成されたりしたが、その根拠を説明させることで学生に力がついた。


B-12 RoboCupソフトウェアロボットづくりによる問題設計解決型学習
高知工科大学 ラック・ターウォンマット氏、大森 洋一氏、平山純一郎氏

 ロボカップのソフトウェア作りを通して、問題設計解決型学習を行い、学生の着実な成長を確認した。ドリブルや回転キックを使える学生も多く、アンケート結果にも高い評価が現れた。



B-13 数式処理ソフトによる電子署名と暗号の教育方法
日本工業大学 小林 哲二氏

 1年次から数式処理ソフトであるMathematicaを利用して、電子署名と暗号の実習を行った。RSA暗号やハッシュ関数による暗号などをMathematicaで行うことで、高い授業効果を得た。


B-14 パソコンの導入が教育を変える
−Instructions・Commands・Results−
東海大学 渡辺 信氏

 パソコンの導入により、グラフ電卓で行っていたフィッティング・カーブの導出と視覚化が数学の教育現場に大きな効果をもたらした。ただし、パソコンの導入によって、学生の思考を阻害することにはならないことを確信した。



[ Cグループ ]

(C-1はB-14に変更)


C-2 「コンピュータ活用」のマルチメディア教材作成というスタイル
東海大学 佐藤 実氏

 中学の物理実験科目で使用することを目標として、教育課程の3年生にマルチメディア教材をコンピュータで作成させた。完成後、各人がその教材のプレゼンテーションを行った。終了後のアンケートを重回帰分析した結果、学生の教育に対する意識が高いことが示された。


C-3 図形科学教育におけるVisual Basic 言語と Visual C++ 言語との比較
大阪産業大学 平塚 彰氏、小河 茂樹氏

 図形処理の技法とプログラミングを理解させることを目的として、工学部1年生にVisual BasicとVisual C++の比較ができる教材を作成し、それぞれの言語の特徴を理解させた。


C-4 ネットワークを利用した美術教育支援ソフトの開発
女子美術大学 羽太 謙一氏
女子美術大学短期大学部 佐藤 善一氏

 Web上で機能する美術教育支援ソフトで、小・中・高を対象とする教職科目での実用を試みている。その構成は現在、パステル画制作、粘土ペインティング、3面ミラージュ、フラクタル造形の四つのモジュールから成る。ファイル管理の容易さや操作性の他にも、色彩、色調表現に独自の工夫がなされている。


C-5 心理学実験CAI教材の開発
関西学院大学 中澤 清氏

 心理実験に関する学習支援の教材開発で、20種のHybrid CAI教材から成る。Macintoshスタンドアロンのブラウザー上で動作するが、実際の実験機器とも差異がないかのような工夫がみられ、教材の充実とともにマルチメディアツールDirectorの特徴も生かされている。1997年の本研究発表会報告をさらに進化させたもの。


C-6 意思決定における感性の計量化シミュレーション
沖縄国際大学 安里 肇氏、平良 直之氏、大井 肇氏

 感性の計量化によるAHP意志決定支援ソフトで、Web上で動作する。補完情報としてのアンケート結果の整合性チェックの繰り返しをリアルタイムで実現し、数量化し難い嗜好や感性を計量化して意志決定に反映させることができる。これを用いて、通販等利用における評価基準の計量化に貢献する事例を示した。


C-7 Webを利用した薬剤師国家試験学習システム
近畿大学 村上 悦子氏、岩城 正宏氏、鈴木 茂生氏、伊藤 栄次氏、西田 升三氏

 薬剤師国家試験の自学自習用に、学内LAN上で利用できる学習システムを構築した。システムは学習モードと演習・試験モードを持ち、お互い有機的に結合しているため、誤った解答をした場合はその解説を示したり、関連した基礎問題も表示できる。解答結果の集計分析も組み込まれ、大変に完成度の高いシステムとなっている。


C-8 歯科放射線学臨床実習へのコンピュータ支援学習の導入と教育効果
日本大学 橋本 光二氏、江島堅一郎氏、新井 嘉則氏、荒木 正夫氏、岩井 一男氏

 歯科の臨床実習を支援する目的で、放射線学の学習支援システムを構築した。放射線画像や動画像を取り込んで撮影法や症例など41項目を作成し、放射線科内にLANを構築して実習中の学生に閲覧させた。3年間のアンケートの結果では75%以上がこのシステムの有効性を認めた。


C-9 歯の色調、歯冠形態の正確な伝達方法について
愛知学院大学 荒木 章純氏、墨 尚氏、伊藤 裕氏、栗田 賢一氏、金子 道生氏

 歯冠補綴の際に、歯の正確な色調と形態を把握させることを目的として、その計測技法の教育を試みた。客観的な色調を得るための室内、口腔内の環境設定やモニターの色補正などを行うことで、これまでのスケッチ法よりも詳細な色調が確認できた。


C-10 自習用CALL教材の開発・利用と一斉授業におけるその効果:コミュニケーション活動を活発にする英文読解授業の試み
東海大学短期大学部 岡田 礼子氏
東海大学 鈴木 広子氏、藤枝 美穂氏

 英語学習におけるコミュニケーションの充実を図るため、自習用にCALLプログラムを開発、一斉授業と自習教材による個別学習の組み合わせを実践して習熟度の違いと学生の反応を検証した。


C-11 マルチメディアによる中国語教育の実践
明海大学 市川 桃子氏、石毛 文茂氏、遊佐 昇氏

 中国語教育の効果をあげるため、大学独自のCALLプログラムを開発し、授業シラバスに対応した教材作成を行った。効果測定として同一教材をそれぞれCALLとLLで使用し比較検証した。


C-12 総合的運用力向上を目指した英語授業実践と口頭英語実力テスト
早稲田大学 原田 康也氏、楠元 範明氏、寄高 秀洋氏、藤田 真一氏、阪原 淳氏

 聴解力や口頭表現力など英語運用能力の効果測定を定量的に裏付ける客観的指標を得る試みとして、項目応答理論にもとづく電話を利用した口頭英語実力テスト(PhonePass)を実施した。


C-13 テキストベースVR空間「MOO」の日本語対応とその教育利用
中部大学 淡路 佳昌氏、加藤鉄生氏

 サイバースペース「MOO」の開発経過と教育的意義を論じながら、日本語教育と英語を学習する日本人学習者のため、MOO日本語化を提議・検討した。


C-14 学内LAN環境を活用したプレゼンテーション評価のフィードバック
玉川大学 安間 一雄氏

 CALL授業の過程で英語表現能力の育成を目指す英語プレゼンテーションを実践、聴衆者としての学生評価を即時フィードバックするコンピュータ支援自動集計プログラムを開発し、評価検証した。同時に学内LANとノートパソコンの有効な利用方法を提言した。

(文責:情報教育方法研究会運営委員会)


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