特集 高等学校における教科「情報」への取り組みと大学との連携

高校における情報教育の本格的な始動
−東京都立墨田川高等学校での試み−


小泉 力一(東京都立墨田川高等学校 数学科教諭)



1.はじめに−教科「情報元年」を来年にひかえて−

 新教育課程への移行に伴い、平成15年度より高校において新しい教科「情報」が始まります。「情報」には「普通教科情報」と「専門教科情報」があり、いずれも「情報」という免許で指導します。これを受けて、平成12年度から3年計画で、現職教員を対象とした「情報」の免許認定講習会が全国で開催されています。また、教職課程を置く大学では、昨年来「情報」免許を取得する講座の開設が相継ぎ、早いところでは来年度の卒業生の中から「情報の先生」が誕生する予定になっています。
 「普通教科情報」には「情報A」「情報B」「情報C」という三つの科目があり、生徒はこれらを選択履修します。「情報」は必修科目である点が特徴で、すべての高校生が「情報」を学ぶことになります。一方、「専門教科情報」はいわゆる「情報高校」において履修される教科で11科目から成ります。
 「普通教科情報」の教科書検定はすでに終了しており、現場での採用を待っている状態にあります。ほとんどの出版社からはすでに採用見本が届いており、新しい教科らしくそれぞれに個性のある内容になっています。
 本稿では、高校現場における教科「情報」の準備状況を紹介し、あわせてその課題と大学教育に期待することを述べます。


2.カリキュラム編成の現状と中学校への期待

 高校では新教育課程に基づいたカリキュラム編成作業が進められており、「情報」を含む新しいカリキュラムが決まりつつあります。必履修科目である「普通教科情報」(以下「情報」)については、他教科での情報活用能力の利用という点で、早い年次に履修することが望まれます。実際、「情報」で学んだ知識や考え方は、他教科での学習活動に生かせるだけでなく、進路情報の収集、教科外活動でのコミュニケーション、日常生活における問題解決など、高校生活のいろいろな場面で利用されることが考えられます。逆に、このような利用が可能にならない限り、本来の「情報」に求められた教育目標は達成されないといえます。しかし、現状では必ずしも早い年次に「情報」が開講されるとは限らず、進学重視の現場などでは、直接受験に関係しない教科の優先度は低いものになりがちです。
 本校では、今年度、数学科の選択科目「コンピュータ」で、2年次に「情報A」に準じた授業を試行しており、19名と24名のクラスを週2時間ずつ展開しています。実際に授業を始めると、予想以上に生徒の情報スキルが不足していることが分かり、「導入部分」に予定を上回る時間を費やすことになりました。受講した生徒の多くが、中学校や家庭で情報スキルを身に付ける機会が少なかったようです。中学校では今年度から新教育課程に移行しており、「技術・家庭」の「情報とコンピュータ」では以前にも増して情報機器の指導が本格化することになっています。高校における「情報」は、小中学校で身に付けた情報スキルを前提とすることが必要であると感じています。

普通教科 情報 専門教科 情報
情報A(2)
情報B(2)
情報C(2)
 
情報産業と社会(2〜4単位)ネットワークシステム(2〜4単位)
課題研究(2〜4単位)モデル化とシミュレーション(2〜4単位)
情報実習(4〜8単位)コンピュータデザイン(2〜4単位)
情報と表現(2〜4単位)図形と画像の処理(2〜4単位)
アルゴリズム(2〜4単位)マルチメディア表現(2〜4単位)
情報システムの開発(2〜4単位) 
( )内は標準単位数。
表1 高等学校における教科「情報」


表2 「情報A」年間計画案(一部)


3.環境整備と教科を越えた連携

 本校のコンピュータ室には5年前にリースで導入されたコンピュータ(OSはWindows95)が稼動しており、処理能力の低さも去ることながら動作の不安定なことが少なからず授業の進行を妨げています。私は、平成12年度まで東京都総合技術教育センターにおいて、生徒および教員の情報スキルの指導を行ってきました。そこでは、実習や研修を2名で担当するのが原則であり、この経験に基づく限り、高校における「情報」の指導も2名以上によるチームティーチングが原則と考えています。また、教室に40台のコンピュータがあることと40人を一斉指導することは別のことであり、少なくともコンピュータを使った実習では20人程度の参加が理想的と考えています。しかし、現状ではこのような余裕のある教員配置は期待できません。「環境の整備」は「情報」の授業においては必要条件ですが、教員不足を補うことにはつながらないと考えています。
 教員不足を補うヒントは「他教科との連携」に隠されていると考えています。「情報」の教員だけが「情報教育」を推進するのではなく、英語の教員も社会の教員も、あらゆる教科の教員が独自のスタンスで情報教育に関わるべきだと思います。当然、「情報」特有の内容は「情報」の授業で始動するべきですが、コンピュータやインターネットを利用する際の基礎部分の指導は、他教科の教員と連携できるはずです。また、「情報」の教員は他教科でのコンピュータやインターネットの利用に積極的に協力すべきでしょう。
 本校は、文部科学省から「スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール」の指定を受け、本年度から英語の授業に情報機器やインターネットを利用することになりました。これを受け、海外の高校とのコミュニケーションにインターネットを利用するなど、教科外の立場として私も協力する予定になっています。「情報」はある意味で特殊な教科ですが、それだけに他の教科と積極的に連携すべき立場にあると考えています。


4.ネットワークを利用した学校の情報化

 教科を越えた連携という考え方は、これまではあまり一般的ではありませんでした。しかし、「情報」を前倒しで実施している高校や、情報教育を推進している高校の実践例を見ると、このような形でのチームティーチングが成功をおさめているケースが少なくありません。その背後には、学校全体で教育の情報化に取り組んでいる姿勢が伺えます。
 「情報」の教員が不足しているいないに関わらず、教科を越えた連携は重要だと考えます。ワープロによる教材作りや表計算ソフトによる成績管理で終わるのではなく、各種のデータを教員間で共有したり互いの情報スキルを高め合うなど、積極的に情報化を広めていく必要があると思います。その際にキーワードとなるのがネットワークの利用です。教員同志がネットワークを利用して情報共有やコミュニケーションを行うことにより、日常的にコンピュータを利用することになり、結果的に担当教科でのコンピュータの活用が意識されることになります。
 本校では、平成12年度入学生から単位制を導入しており、平成13年度から出欠入力や成績入力をコンピュータで管理することになりました。このため、教員は授業の出欠状況を各研究室からオンラインで入力します。このため、すべての教員が否応なくキーボードを操作することになっています。すべての高校がこのような形でコンピュータやネットワークに慣れていくわけではありませんが、ネットワークの利用は教育の情報化に効果的であるといえます。


5.学校を越えた連携と人的ネットワークの構築

 高校では中学校の指導に期待すると述べましたが、大学では高校の指導に期待していることと思います。それに応えるような「情報」の指導を行うのは高校の義務だと考えています。しかし、週2時間という限られた時間の中では、情報機器を使いこなすまでの指導はできないと考えます。なぜなら、「情報」には機器操作以外に指導することがたくさんあるからです。したがって、中学校、高校、大学の間で協議を重ね、それぞれのステージで子ども達が身に付ける内容をもっと明確にする必要があると思います。また、高校の現場では大学生の応援も期待したいところで、ティーチングアシスタント等で大学生の協力を検討していただければと考えています。
 昨年10月に、東京都の情報教育を推進する目的で「東京都高等学校情報教育研究会」(略称:都高情研)が設立されました(http://www.tokojoken.jp:図1)。「情報」の指導法や環境整備についての情報交換をはじめとして、「情報」以外の教科での情報活用についての研究を行っています。この研究会では大学生や専門学校生が「学生会員」として参加できます。情報教育に関心があれば東京都以外からも参加できます。また、高校教員だけに限らず、全国の大学教員も参加することができます。今後、情報教育を中心とした人的ネットワークを築いていきたいと考えていますので、研究会への支援をよろしくお願いいたします。

図1 東京都高等学校情報教育研究会Webページ
 
URLhttp://www.tokojoken.jp
連絡先info@tokojoken.jp



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