特集 高等学校における教科「情報」への取り組みと大学との連携

高校・大学間連携による特色ある高校づくり
−多様な学習機会の提供:神奈川県立茅ヶ崎高等学校−


森本 祥夫(神奈川県立茅ヶ崎高等学校教諭)



1.はじめに

 神奈川県立茅ヶ崎高等学校は1948年に創立され、50年以上の歴史をもつ茅ヶ崎市内で最も伝統のある高校です。市内の官公庁や小中学校また地元企業などで多くの卒業生が活躍し、地域に密着した学校といえるでしょう。現在は約1,000名の生徒が学び、部活動や学校行事も盛んです。
 本校では神奈川県教育委員会が提唱する「特色ある高校づくり推進事業」に呼応し、生徒への多様な教育の提供を目的とした実践を推進してまいりました。その大きな柱が「多様な選択科目の設置」と「大学との連携」です。


2.これまでの情報教育

 本校では「多様な選択科目の設置」の一環として1995年度より学校独自の科目「情報数理基礎」を設け、小集団学習とティームティーチングによる情報教育を行ってきました。開講当初の環境はMS-DOS機23台であったものが、1997年度にはWindows95機40台に更新されました。
 開講当初の主な授業内容は、キーボード操作の実習、ワープロソフトによる文書作成、BASICによるプログラム言語の学習が中心でしたが、1998年度にはISDN回線によるインターネット環境が整備され、さらに2001年度にはケーブルTVを介したブロードバンドも実現し、ホームページの作成実習やインターネットを利用した情報収集およびその活用ができるようになりました。授業などでのコンピュータの利用について、はじめは数学科が中心でしたが、次第にその他の教科や教科外活動にも広がっていきました。


3.新教科「情報」の新設

 2003年度より新設される教科「情報」に伴い、各都道府県では担当者の養成として2000年度から2002年度までの3年間に現職教員に「情報」の教員免許を付与するための「現職教員等講習会」を実施しています。神奈川県では3年間に約860名の「情報」担当教員を養成する計画で、基礎となる教員免許を有する者として数学、理科、家庭等の高校教員を対象とし、県立教育センター等の施設にて3週間の講習会を受講させ「情報」の免許を与えるというものです。
 その他「情報」の教員免許取得方法として、文部科学省が実施している「教員資格認定試験」および大学における教職課程があります。


4.新教科「情報」開講への準備と課題

 「情報」開講まであと数ヶ月となり、各高校ではその準備と課題への対応に取り組んでいるところです。ここに本校における現状と課題を取り上げてみます。

(1)「情報」担当教員

 本校では理科(2)、数学(1)、国語(1)、社会(1)の計5名が「情報」の教員免許を取得し、今年度は元教科の授業を担当しながら、情報科のスタッフとして来年度開講への準備を進めています。他校では2〜3名という状況の中で、本校の多教科にわたり5名という担当者の構成は恵まれていると思います。

(2)カリキュラム編成

 本校では1年生全員に必修科目として「情報A」を2単位、3年生の選択科目として「情報B」および「情報C」をそれぞれ2単位ずつ設置しました。必修科目の「情報A」は、クラス単位(40人)の授業を2名の教員で担当するティームティーチングを予定しています。

(3)指導内容

 学習指導要領では「情報A」について総授業時数の2分の1以上を実習に配当することとなっており、本校では主にコンピュータ教室を使用した2時間連続の授業を週に1回予定しています。
 新教科「情報」は以前の「情報処理」教育とは内容が大きく異なり、コンピュータを扱う技術の修得にとどまらず、情報の収集やその活用、情報の発信、情報モラルや情報化社会へ参画する態度の育成など、多岐にわたる内容が盛り込まれています。

(4)評価

 多くの「情報」担当教員の元教科が数学と理科であるため、筆記試験や実験レポートの点数による評価(デジタル的な評価)には慣れていますが、生徒の学習態度や制作物、また発表に対する評価(アナログ的な評価)については大変不慣れです。
 そこで実習・実技が中心の教科である芸術、家庭、体育などの教員よりその評価方法を聞いていますが、すでに日々実践なさっている情報関連学部の大学の先生方からもアドバイスをいただきたいと思います。

(5)施設設備

 本校ではコンピュータ教室に40台のパソコンを設置し、ケーブルTVを介したブロードバンドを導入、校内LANを構築してあります。神奈川県内では平均的な環境と思われますが、必修科目として生徒全員に「情報A」を学ばせ、さらに選択科目として「情報B」と「情報C」を開講するにあたり、第2コンピュータ教室の必要性が高まっています。
 また現在でもコンピュータ教室の管理や機器のメンテナンスはどうしても「情報」担当教員に任されがちであり、来年度以降はますますその傾向が強まると思われます。大学のようにコンピュータルームの管理や機器のメンテナンスが教員の職務と分離できれば、情報科の教員は授業に専念できると思います。


5.大学との連携

 本校では生徒へ多様な学習の機会を提供するために、積極的に大学との連携事業を推進しています。特に同じ茅ヶ崎市内にある文教大学とは、本校生徒が大学での授業を体験させていただくという形で1996年度より高校大学間連携がスタートし、毎年その内容を充実してきました。
 そして2001年度には茅ヶ崎高校と文教大学との間に「教育交流に関する協定」を締結し、名実共に高校大学間連携が確立しました。以下に文教大学との連携の実践を紹介いたします。

(1)大学による高校生の受け入れ

 表1のように、現在三つのタイプにより本校生徒を受け入れていただいております。大学側は、受け入れた高校生に対し大学での修得単位を認定できるように学則および内規を整備し、高校側は大学での学修を高校の卒業単位として認定できるように、学校設定教科・科目として「学校外活動」・「校外講座」を新設しました。これにより、タイプ1の科目等履修生として大学生と一緒に学んだ生徒は、高校と大学とで同時に二つの単位を修得することができます。
 タイプ2の高校生対象の特別授業として、昨年度は9月〜11月の隔週土曜日に公開講座「情報リテラシー入門」を開講していただきました。特に高校にはない機器やソフトウェアを利用したマルチメディア関連の実習では、生徒達が夢中で取り組んでいました。今年度から実施となった学校完全5日制に関わり、休日となった土曜日の子供たちの過ごし方が話題になっていますが、この公開講座における土曜日の活用は大学の社会的な貢献として意義深いものであると思います。
 タイプ3の体験授業は、文教大学湘南キャンパスの情報学部、国際学部、短期大学部で受け入れていただいております。高校1、2年生を対象に1〜2日間、大学での授業を体験し、学生食堂やその他の施設・設備を利用することにより、大学での授業や大学生活というもののイメージが広がり、進路選択の一助となっていることと思います。

(2)高校による教育実習生の受け入れ

 各大学の情報関連学部においては、新教科「情報」の教員免許取得希望者のため教職課程の設置および整備が進んでいることと思います。本校では高大連携の一環として、文教大学で教職課程を履修する学生の教育実習の受け入れ校として体制を整えております。
 数年後には新卒の大学生が情報科の教員として高校現場に入ってくることになりますが、他教科から情報科担当として養成された現職教員と情報科専門の若い教員とのつながりをスムースにするためにも、特に「情報」の教育実習生の受け入れには意義深いものがあると思います。

(3)教員間の交流による高大連携

 高大連携に関わる担当の教員同士は、連携事業の連絡や調整にとどまらず、各々の構想や理想などについてアクティブに議論することもあり、お互いを高め合っています。さらに担当者以外の教員にもその交流を広げるべく、研修会や研究会も企画しています。

(4)高大連携における課題

 近年私立高校ばかりでなく、多くの公立高校でも他校との差異化を意識した特色ある高校づくりが盛んになってきています。かつて公立高校は公教育における平等性という観点から、特色づくりや宣伝などいわゆる経営努力による生徒の募集や学校のイメージアップには不熱心でした。しかし昨今の平等観の変化や急激な小子化等を背景として、公立高校も変革を迫られています。
 そのような状況の中担当者として痛感する問題点は、学校としての意志決定および行動決定システムが決済までに時間がかかる会議中心であるということです。特にリアルタイムな交渉と決断を求められる高大連携などの相手方がある事業において、案件を一々持ち帰って会議に諮っていては事業の進展は望めません。
 この問題点を克服するためには、担当者にある程度の決済権限を持たせることが必要となります。しかし、公立高校の一教諭にそのような職務権限はありません。そこで相手方との打ち合わせや交渉に入る前、「担当者としてはこれこれの方向で考えているが、その範囲内で相手方と話を進めて良いか」というように事前の会議にて了承を得ておくという工夫をしています。
 また、相手方である大学にも同様の問題点があると思います。それは高大連携事業の規模が研究室単位から学部単位へさらに大学全体へと拡大していく中で、大学として事業を統括する主体が曖昧になっている感が否めません。合理的かつ効率よく事業を推進していくためには、学部を横断し事務方にも通じた、ある程度の決済権限を持ったフットワークの良い組織づくりが有効であると思います。

表1 文教大学による高校生の受け入れ
  タイプ1 タイプ2 タイプ3
講座 正規授業(科目等履修生、聴講生) 特別授業(公開講座、講習会) 体験授業
受講者 大学生、高校生 高校生のみ 高校生のみ
開講時期 週1日90分を12〜15週程度
(前期又は後期に約3ヶ月)
毎週土曜日に90分を12〜15週程度 学年末試験後の午後1〜2日
大学での単位認定 2単位(科目等履修生) なし なし
高校での単位認定 2単位(学校外活動・校外講座) 1単位(学校外活動・校外講座) なし
対象学年 3年生 1・2年生 1・2年生


写真:文教大学での体験学習


6.高大連携の将来

 茅ヶ崎市は、大学を有する人口20万人程度の地方都市として、大学を中心としたひとつの学園都市を形成するのに適した規模といえるでしょう。
 現在推進している茅ヶ崎高校と文教大学の連携をさらに他の高校へも広げ、市内の小中学校、また行政機関、そして地域社会へも連携の輪を有機的に発展させていけば、21世紀の子ども達に素晴らしい教育環境を提供できるのではないかと思います。

E-mail:morimori@shonan.cityfujisawa.ne.jp



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