環境学の教育における情報技術の活用

ランドスケープの計画と設計におけるコンピュータの活用


金子 忠一(東京農業大学地域環境科学部助教授)



1.はじめに

 地域環境科学部造園科学科は、自然と人間が調和し共存できる地域の環境を実現するための科学技術、計画手法や政策、市民活動のあり方を研究・教育しています。具体的には、ガーデニング、都市緑化、公園のデザイン、都市の骨格を形づくる緑や景観の計画、自然保護と復元の計画、観光地計画などに携わる人材を養成しています。造園科学科は、環境計画・設計、ランドスケープ資源・植物、景観建設・技術の三つの分野を教育研究の枠組みとしています。順に、造園科学の応用の着地点である各種環境の空間創成に向けて、造園の総合化を計画科学およびデザイン面からアプローチして、地域環境計画における保全、ランドスケープ計画、ランドスケープデザインの理論と実際を扱う分野、造園科学のバックボーンである植物、植生そして自然を科学し、生物技術による環境創成を扱い、造園樹木や地被植物などの造園材料、快適空間をつくりだす造園植栽、特殊環境地などの緑化技術の理論と実際を扱う分野、そして造園科学が適用される空間を建設するエンジニアリング部門で、造園工法や造園施工法に着目して、建設技術工学、建設施工管理などの理論と実際を扱う分野になります。
 こうした特色をもつ造園科学科におけるカリキュラムの中で、情報技術を活用した授業科目がいくつかありますが、ここでは「造園総合演習V」と「ランドスケープCAD演習」における実状を紹介します。


2.地域解析における情報技術の活用

 4年次前期に配当される造園総合演習・の選択コースの一つに造園計画の実践的な手法を学ぶことを目的として広域圏計画、地域活性化計画、都市域を対象とした緑とオープンスペースの計画など、広域の計画策定手法、総合化手法を演習を通して習得する演習授業があります。具体的には、現在、各市町村において策定されつつある「緑の基本計画」を課題とした都市域の計画演習です。
 これは、市町村域を対象地域として、公園、緑地、自然などの緑に関わるまちづくりの将来計画が課題ですが、計画の前提として、対象地域を理解するために現況や歴史の調査と分析が必要になります。"地域を読むこと"、すなわち地域の解析が求められ、その結果を踏まえて将来の計画を立案する過程へと進んでいきます。地域解析では、自然的要素や社会的要素など、さまざまな視点から解析することになり、多様かつ多量な地図情報、統計情報、文献情報等が基礎的な資料となります。こうした一連のプロセスの中で情報技術を活用した地図情報、統計情報の解析を取り入れています。地形、土地利用、河川や緑地の分布、道路の状況などを把握するため、従来の紙面情報に加えて、GIS(地理情報システム)を用いた解析手法を実践しています。なお、ここでは次のような基礎データを利用しています。
 数値地図200000(地図画像)
 数値地図25000(地図画像)
 数値地図2500(空間データ基盤)
 数値地図50mメッシュ(標高)
 細密数値情報(10mメッシュ土地利用)
 さらに、ランドサット衛星データ(TMデータ)を用いての地表面温度、植生指数等を解析し、都市環境を把握することを行っています。
 また、景観解析における情報技術の活用として、都市環境あるいは自然環境の計画やデザインにおいて、景観の評価や計画をすすめるなかで、コンピュータを用いての景観シミュレーションを行っています。具体例としては、斜面緑地においてのマンション建設などの開発による地域景観への影響を検討するため、画像ソフトを用いて、緑地の写真を基礎画像として、当該地の開発に伴う建築物の出現を仮定して、建築物の形態や色彩等をシミュレーションし、景観の阻害状況の把握や建築物の代替案などを検討します。

図1 ランドサットデータを用いた地表面温度分析

図2 数値地図を用いた地形分析


3.デザイン表現における情報技術の活用

 1年次の後学期に配当されている「ランドスケープCAD演習」は、前学期に開講される「造園製図実習」で学んだ作図に関する基礎的知識をふまえて開講されるものです。(なお、平成13年度までの旧カリキュラムでは、3年次配当でした。)
 造園の実務においては、企画・構想、計画、設計、施工においてコンピュータを用いたCADの汎用がなされ、業務の効率化、高度化が図られています。この演習では、作図CADソフトによる作図作業の機能性、迅速性、効率性、高度性などを理解するとともに、CADによる図面表現の限界性を認識することを目的としています。
 授業内容は、CADによる基礎製図からはじめ、各種設計図(平面図・立面図)の作成、透視図の作成、さらに、設計図書作成への展開を課題を通して学びます。この授業をふまえて、他の演習科目において、公園や庭園の設計、施設設計などの計画やデザインにおいて、個々の学生が タ際に活かしていくことになります。なお、現在は、学生が容易に入手できることにも配慮して、CADソフトは、JW−CADを用いて授業はすすめています。

図3 ランドスケープCAD演習による公園施設設計


4.授業の効果と今後の課題

 本稿では、地域解析、景観解析、計画・設計、図面表現におけるコンピュータの活用状況について紹介しましたが、いずれも数多くの繰り返し作業、あるいは多様な提案が求められ、柔軟な創造力と思考能力を築くことが大切になります。特に、ランドスケープの計画や設計のプロセスにおいて、フィードバックは欠かせないものです。これらの授業により、学生は試行錯誤を臆することなく創造的な思考をもって他の演習授業に取り組んでいます。
 また、コンピュータの活用により、高度かつ多量の地域情報の解析とビジュアルな提示、試行錯誤が容易なシミュレーション、効率的で迅速な作図など、実社会で導入されている技術を実体験することにより、実際の技術と手法を習得できることから、学生も真摯に授業に取り組んでいる姿がうかがえます。
 そうした中で、今後の課題としては、一つは授業の指導体制があげられます。本学科においても、複数の教員とティーチングアシスタントにより授業をすすめていますが、汎用ソフトの操作や機能に関する基礎と、実際の環境計画や設計へ応用する技術や手法という二つの側面を指導するには、さらなる充実が必要になります。
 そして、二つめは汎用ソフトの価格があげられます。最近は、学生のパソコンの保持率が急激に高くなっており、各自が授業で学んだことの復習や自習をする環境は整ってきました。しかし、汎用ソフトの種類によっては、まだまだ高価格のものも多く、学生が個人レベルで自由に活用していく環境になっていないのが現状です。



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