私情協ニュース1

平成14年度教育の情報化フォーラム開催される


 「平成14年度 教育の情報化フォーラム」が、6月21日(金)、22日(土)の2日間、兵庫県西宮市の関西学院大学上ヶ原キャンパスにおいて開催された。参加者数も3年連続で400名(今年度:約430名[130大学、25短期大学、賛助会員27社])を越える盛況であった。
 第1日目の全体集会では、フォーラム運営委員長山崎和海氏(立正大学)の司会のもと、戸高敏之私情協会長(同志社大学)による開会挨拶、そして会場校を代表して関西学院大学平松一夫学長による、示唆とユーモラスに富んだ挨拶が行われた。
 今年度のフォーラム運営委員の紹介に続いて、「e-Learning時代における教育の情報化と今後の課題」と題し、徳田英幸氏(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科委員長)による基調講演が行われた。同氏は、大学教育の高度情報化の課題と展望を考える上での「四層モデル(基盤インフラ層、応用アプリケーション層、コンテンツ層、キャンパスカルチャ層)」を提示しながら、慶應義塾大学での実例を示された。
 引き続いて、私情協活動報告として井端事務局長より、平成14年度の事業計画、サイバー・キャンパス・コンソーシアム事業、大学等電子著作物権利処理事業等の説明が行われた。
 その後テーマ別自由討議(第1日目4分科会、第2日目4分科会)を開始した。テーマ別自由討議は、フォーラム運営委員(各2名)による司会のもと、実質2時間半ほどの時間を有効に使いながら、課題提起者(1名から2名)を中心に、会場からの積極的な参加による活発な討議が行われた。今年もフォーラムの趣旨である「授業改革の視点から教育の情報化に関わる問題について広く討議を行い、対応策を模索すること。またそれぞれの教育現場で実際に直面している問題・課題についての意見交換と情報の共有すること」が、全体的に活かされたフォーラムとなった。
 第1日目の分科会終了後に懇親会が開催され、参加者相互の親睦を深めることができた。また2日目の分科会終了後の午後に、2班に分かれたキャンパスツアー(西宮上ヶ原キャンパス、神戸三田キャンパス)が組まれ、多くの方々が参加された。
 最後にあたり、本フォーラムの会場校をお引き受け下さった関西学院大学の関係教職員の皆様に謝意を表します。



テーマ別自由討議(6月21日)

 A:大学におけるネットワークセキュリティー

 キャンパスネットワークは、本来オープンを原則とする研究教育システムと、高いセキュリティーを維持すべき事務システムが混在している。本分科会では、大学等のセキュリティー管理業務の観点から、山根勝司氏(日本アイ・ビー・エム株式会社ネットワーク・サービス事業部)より「ネットワーク認証システム」と「不正侵入検知システム」の概要の紹介があり、キャンパスネットワークのセキュリティー管理について討議した。
 ネットワーク認証システムとは、「ユーザーの利用目的ごとに、予め利用者・端末・アプリケーションなどのネットワーク利用方針・条件(ポリシー)を取り決め、それに基づいて運用できるネットワークシステム」のことをいう。各ユーザーが、どの端末からでも常に同じネットワーク環境を利用可能にするもので、管理者にとっては、ユーザーの一元管理が可能となる。無線LAN、Webアプリケーションのシングルサインオンなどにも対応し、ICカードや指紋認証機器との併用などの拡張も比較的容易である。
 不正侵入検知システム(IDS)とは、「不正攻撃パターンDBとサービスプログラムのパケット・モニタリング機能を用いて、ネットワーク上を流れるデータを定常的に監視するシステム」である。不正侵入と思われるデータ送受信パターンを検出すると、管理機器への報告や警報の送付やサービスの停止などを自動的に行う。
 これらのシステムの導入により、ケーブリングなど物理的な信号制御をすることなしに、アプリケーション層と物理的ネットワーク層からの情報の漏れを防ぐことができる。図書館棟に無線LAN認証システムを導入した大学や、複数のキャンパスにわたって全学的に統一した規格で認証システムを導入した大学などが導入事例として紹介された。導入にあたっては、定期的なシステム監査の実施に加え、「ネットワークを含む学内情報システムの運用・利用の指針」を運用者・利用者に伝達し遵守させることが重要である。


B:新たな教育システム:遠隔e-learningの試み〜通信教育での実践と今後の展開〜

 IT化進展の中、必然的に大学における教育への影響が考えられる。その一つとして、インターネットを用いた在宅型教育の可能性が、遠隔e-learningという形で問われてきている。本分科会では、後藤順久氏(日本福祉大学経済学部助教授)栗原英樹氏(同大学通信教育部ラーニングアドバイザー)に同大学通信教育部で行われている先進的なインターネット活用の教育について事例紹介いただいた。
 後藤氏からシステム立ちあげまでの経緯(構想から業者選定、プロトタイプから完成まで)と稼働状況の概要、栗原氏から同大学のシステムを実際に稼働しながらシステムの詳細と利用学生の状況が説明された。対象学生は、目的意識の高い社会人を想定し、時間と場所にとらわれない在宅学習システムとし、学習履歴を独自の方法で柔軟に認め、単位制の学費システム(1単位当たり5,000円)で安価な教育を実践している。また、「セッション」と呼ばれる対面形式のスクーリングを重視し、モチベーションの維持を計っている等々が報告された。
 後半のセッションでは、紹介された事例に対する質疑が行われた。単位認定に関わる質問が多く出され、特に、在宅で行われる科目修了試験と学習に合わせて行われている添削試験について多くの質問と討議が行われた。この中で、五択で行われる添削試験では理解につながらないのではという疑問や、単位認定のための科目修了試験における「なりすまし」問題に関心が集まった。独自のラーニングアドバイザー制度についても質問が多くなされた。これに対し、善意の学生(30代を中心とした目的意識の明確な社会人)との前提で、そうした問題が発生しないと仮定していることなどが回答された。
 議論が表面上の問題に終始し、コンテンツや教育の在り方にまで及ばなかった点で物足りなさも感じた参加者もいたことと思われるが、正解のない課題だけに難しい問題ではある。いずれにせよ今後サイバーキャンパス化は重要課題となることから、引き続きこれからの検討が必要となろう。


C:電子化教材作成のための支援環境

 現在、Webページが大学の授業の中に利用されてきているが、その維持・管理のために担当者はかなりの作業量が要求されてきている。そうした中で支援体制を整えた2大学から事例紹介していただいた。まず、高橋 誠氏(大阪学院大学庶務課メディア係)から教育支援システム「Caddie:キャデイー」とその利用状態、問題点等について事例紹介いただいた。次に、4年前に実施したという杉山恵子氏(中部大学学術情報センター)http://edu.isc.chubu.ac.jp)から、支援体制とWeb Factoryの内容と問題点等について事例紹介いただいた後、討議に入った。
 両氏ともスタッフとして3、4年前から教材作成に携わっているので、支援体制のあり方(テンプレート作成)、環境(メディア・ラボ、Web factory)、サポート内容ツールの紹介があり、これらに関した質問が参加者から数多く寄せられた。この他、パスワードの紛失対策、携帯端末の利用、アニメーションや3次元画面構成問題、学生のノート不筆記問題、教育効果有無問題、教材作成代行指導問題、等の質問があり、全体をまとめる時間がなかった。しかし、参加者は討議の中から自分の持ち場、立場の中でそれぞれ解答を見つけ出していたようであり、とても充実した実りの多いセッションであった。


D:デジタル・キャンパスと統合メディアセンターの役割と展望

 本分科会では、デジタルキャンパスの構想や統合メディアセンターの役割について、濱中正邦氏(青山学院大学事務システム室室長)より事例紹介いただいた。
 100年以上にわたる同学院および50年を越える同大学の歴史の中で、厚木、世田谷、青山と、キャンパス規模、組織ともに複雑肥大化してきた。そこで、新しい発想に基づいてコンセプトを練り直すとともに、厚木、世田谷の各キャンパスを統合し高機能化かつ合理化することで、新キャンパスを相模原の地に構築する。
 来年度より稼働する相模原キャンパスは、JR横浜線渕野辺駅より徒歩7分の地の利の中で自然環境との共生をはかり、人にやさしい1万人規模のキャンパスとなっている。この中でメディアセンターを中心として最新の安定したネットワーク技術を導入し、机上まで1Gbpsを目指した十分な容量の情報インフラを用意するとともに、24時間キャンパスを開けても周辺への迷惑がないよう配慮している。各建物内の隔壁はすべて外すことのできるユニバーサル構造をとっており、少人数教育を中心とした様々な形態の授業に柔軟に対応できるようになっている。人とのふれあいも大切にし、教職員と学生が視線をあわせてコミュニケーションできるような体制をとる。
 質問の多くはデジタルコンテンツ作成支援についてであったが、大学としては年度総額を決めて予算化し、新しいことを実施する教員には予算をつける方向で考えている。教員自身も授業を見直し新しいスタイルの授業を提案する必要があり、要員のスキルアップなどスタッフに課せられた課題もいくつかあるが、新しい時代のキャンパス空間や施設の提案として注目すべきものであった。



テーマ別自由討議(6月22日)

E:ネットワーク利用とユーザ教育

 江澤義典氏(関西大学総合情報学部教授)中芝義之氏(同大学情報処理センター)により「セキュリティ対策と個人認証システム」と題して、関西大学のネットワーク運用管理や利用規程、ユーザ支援体制および教育、個人認証システム等について事例紹介いただいた。その中で、危機管理に関して注意すべき点は障害等についての情報は速やかに開示し、システム復旧の連絡も忘れてはならないこと、ウィルスや不正アクセス等からシステムを守るには外部からの出入りを監視するだけでは不十分で、内部でのユーザ認証を厳密に行える環境が重要であり、関西大学では指紋認証システムを教室のPC 273台に導入して効果をあげているとの報告がなされるなど、いくつかの問題提起があり質疑と討論に入った。
 指紋などのバイオメトリックスを応用した厳密な個人認証システムの導入は学生に対するモラルやネチケットの教育にも効果的であるが、心情的に拒絶するユーザの存在も認めざるを得ない。したがって従来のIDとパスワードによる認証も必要で、パスワードの安全管理についてのユーザ教育が欠かせない。パスワードの再発行に講習会受講を義務付けている例も報告された。ウィルス対策についてはセンター管理のコンピュータはほとんど問題ないが、それ以外の研究室や学生の持ち込むコンピュータにワクチンソフト等をインストールさせることの困難さが多く指摘され、個人の責任であるといって放置できない状況にある。また、利用規程に関連して教育研究を行う大学で「営利目的の利用」「不良サイト」などを峻別することが困難になりつつあるとの指摘があった。


F:新たな教育システム:遠隔e-learningの試み〜キャンパス間・大学間授業とインターネット教育への展開

 今年度のフォーラムでは、「新たな教育システム:遠隔e-learningの試み」というタイトルの分科会が二つ開かれた。B分科会が通信教育に着目したのに対し、F分科会では、通学制の大学におけるe-learningが議論の対象となった。
 前半では、宮崎 耕氏(同志社大学経済学部教授)が、「キャンパス間・大学間授業とインターネット教育への展開」をテーマに課題提起を行った。「ネットワークでしか提供できない教育」や「ネットワークでは提供できない教育」ではなく、「ネットワークでも提供できる教育」に論点を絞るべきだという立場から、事例紹介があった。特に通学制の大学がネットを通じて提供しうる“教育サービス”について、同氏が過去数年間にわたって進めてきた、1)ネットによる教材および自習環境提供、2)ネットによるライブ型授業(ライブ中継型講義、ライブ中継型ゼミ、スタジオライブ型講義)、3)ネットによるオンデマンド型授業、の具体的なシステム構成、活動内容、学生による評価等が報告された。
 e-learningをめぐる議論は、技術的側面から論じられることが多いが、特に大学という「場」を考える際、大学設置基準等の制度面もきわめて重要である。ネット教育に関連する諸規定を理解した上で、「教育サービス」の望ましさと、技術的・制度的な実現可能性とのバランスを取ることが、これからの我々の課題だと言えるだろう。
 後半は、質疑応答を含め、討議を行った。フロアからは具体的な事例や運営方法等について、活発な質問やコメントがあった。120名を越える参加者があり、e-learningへの関心の高さを伺い知ることができた。


G:教材の電子化促進に向けた権利処理問題

 電子教材作成に関わる重要な問題の一つとして著作物の権利処理がある。昨年度は教材作成と権利問題について一つのセッションで行なったが、今年度は権利処理問題を独立した形で取り上げた。
 前半、紋谷暢男氏(成蹊大学法学部教授)より資料として「はじめての著作権講座」(著作権情報センター)を使いながら一般的な著作権についての解説が行われた。国内と海外での事情の違いや、自動翻訳などのコンピュータが生成したものの扱いなどを含め、説明は広範囲に及んだ。大学を含めた教育現場には著作物の一大利用市場がある、ということが明らかであるため、教職員は著作物を慎重に扱う必要がある。教材の外注では、ロゴマーク、プログラムなども含めて発注者ではなく受注者が著作者となるなど、非常に多くの事例が示された。
 次に、井端正臣私情協事務局長より大学等の電子著作物権利処理事業について説明が行われた。著作権のような社会通念を作るというのは難しく、いわば永遠の課題というようなものであるが、私情協としては考えるだけではなく行動すべく準備を進めている。この事業は、インターネットを介して教材・素材など電子著作物の権利処理を行うもので、利用者は大学・短期大学の教職員とし、提供者は大学およびその教職員以外に、外部機関や企業も含められている。今年度は加盟校での実験を行い、15年度からは本格的に実施を開始する予定である、等であった。
 この後、質疑応答時間となった。多く質疑があったが、非常に具体的な問題をそのまま提示する場合が多く、回答もその問題に特化する傾向にあったため、一般的な考え方を抽出するのが困難になりがちであった。


H:新教科「情報」―教員養成の現状と課題

 石堂常世氏(早稲田大学教育学部教授)と、西之園晴夫氏(佛教大学教育学部教授)より課題提起をいただいた。
 石堂氏からは、早稲田大学における情報教員免許状課程の認定、および現状での問題点を紹介いただいた。特に文系を含む11の学部学科で課程認定を行った経験から、1)「情報」と「倫理」系の専門家の協力、2)科目名、シラバスには文部科学省の提示する専門用語の必携、3)専任教員確保のための教員所属変更や学内既設科目の流用転用など、大学全体の協力体制、4)対象学部学科が何ゆえ「情報」の申請を行うのかについての論理的一貫性と説得力、が強調された。また、授業担当者からの意見として、履修生の動機とレベルの多様性、教科と教職に関する科目のすり合わせ等の問題点が挙げられた。
 西之園氏からは、現在の学習指導要領にどう対応するかではなく、次の改訂をも考慮して講義実習の内容を構成していく必要性が強調された。特に、現在の指導要領が生徒の自発性を尊重せず、教科内容を細かく指定している点は、一部に網羅主義的な教科書が出版されている点とあいまって、変化の早い情報の分野においては今後の問題となることを指摘された。さらに教科教育法「情報」の授業を実際に担当されている経験から、学生グループが自ら授業プランを構成していく知識創造型の教育において、グループ討議やVisioとAccessを組み合わせたシステムを使う自己管理が有効であることを示された。
 討議においては、申請にかかわる事項から、授業における実習と倫理事項のバランス、総合演習科目への対応などが幅広く討議された。ただし、現時点では新教科「情報」の免状を持って高校の教壇に立つ卒業生からのフィードバックがないため、参加者の様々な試みもまだその利害得失が明瞭でない段階と思われた。

教育情報化フォーラム運営委員会
文責:委員長立正大学山崎 和海
委 員慶應義塾大学加藤 文俊
武蔵大学梅田 茂樹
中京大学中田 友一
中部大学足達 義則
京都産業大学安田 豊
関西学院大学岡田 孝
甲南大学鳩貝 耕一
広島工業大学喜久川政吉


【目次へ戻る】 【バックナンバー 一覧へ戻る】