私情協ニュース3

平成14年度 大学情報化職員研修会開催される


 今年度の大学情報化職員研修会は、A日程(平成14年9月18−20日)、B日程(平成14年9月25日−27日)の2回に分けて、グランドホテル浜松にて開催された。
 本研修会は、日常業務の情報化をはじめ意志決定支援のためのシステムづくり、さらには教育支援までを視野に置き、職員の情報活用能力の向上を図ることを目的としている。変化の時代にある大学の情報化について、参加者が共に考える場としたことや、事務処理にとどまらず教育支援を討議の視野に含めたことなどが本研修会の特徴となっている。
 今年度のテーマとしては「大学の変革期における事務情報化の目指すもの」をメインに掲げ、「1)大学の事務情報統合化」、「2)教育の情報化支援」、「3)経営に関する意志決定支援」、「4)インターネットと情報共有」という四つの切り口を設定し、業務や切り口ごとに全部で12のグループを置くことで多様な視点から討議を行った。
 研修会をより有意義に進めるために、グループ討議に先立ち「私立大学経営の実践的側面」というテーマで、井原 徹氏(早稲田大学理事、大学行政管理学会会長)による基調講演を行った。情報機器の普及発達により職員が時間を費やしていた膨大な事務処理が軽減されたが、反面高度なレベルでの業務が職員一人一人に要求されるようになった。大学経営の意思決定にあたっては、目的や戦略が明確に示され、それを元に各職員が組織の中における自分の役割を正確に認識し業務を遂行することが重要である。職員が大学経営の指針として常に受け継いでいくものとして、「建学の精神」、「経営グランドデザイン」、「政策評価制度」を三種の神器になぞらえてみた。これらがPlan-Do-Checkのマネジメントサイクルとして相互に関連し繰り返されていくことで健全な大学経営が行われる。アウトソーシングが進む大学事務の中で命令されて動く職員ではなく、自分自身でグランドデザインを描き、積極的に大学のミッションに関与していけるような職員になっていただきたい、と結ばれた。
 B日程においては基調講演に続き、教育支援の観点から南 雄三氏(獨協大学情報センター次長)より、獨協大学が進めてきたプロジェクトについて事例紹介が行われた。
 全体講演を踏まえ、大学が進める情報化の目的やあり方について、システムのユーザーという視点からだけではなく、顧客(学生等)に対し教育をはじめとする良質のサービスをサポートするスタッフという観点からグループ討議を進めることとした。各グループでは、運営委員を中心に積極的な議論が行われた。討議内容については、報告書を参照されたい。本研修会により大学経営に直接・間接に関与する職員としての意識を少しでも涵養することができたとすればその目的は果たされたと言えよう。


A-1 入学業務

(14大学、賛助会員2社、16名)

 大学は18歳人口の減少により、入学者選抜方法の多様化や特色ある入試といった入試制度改革で受験生の確保を行ってきた。こうした状況の中、入学者選抜方法の多様化は頭打ち状態になりつつあり、入学してきた学生の学習能力の低下などといった新たな問題も起こり始めており、受験生の数の獲得だけに走った入試から、大学の本質を見据えた新たな入試制度改革を模索せざるを得ない状態にある。
 本グループでは、これらの問題を解決するために、今後の大学職員に求められるITを活用したデータ分析能力や判断力の重要性について議論を行った。
 また、今後の入試制度改革については、単に選抜方式のみの改革ではなく、大学として全学的な意識を持った入試制度改革や、大学のカリキュラムやカリキュラム外教育にマッチした受験生を確保する重要性について議論が行われた。


A-2 学生基本情報管理

(15大学、賛助会員2社、22名)

 メインテーマは「学生サービスとしての個人情報の活用」である。学生の個人情報をどのような方法で収集、分析を行い活用すれば学生のキャンパスライフをより満足度の高いものとすることができるか。また教育効果を高めるために教員へどのような形で学生の情報を提供すればよいのか。当然、個人情報の保護は必須の条件である。しかし、本来の大学の目標の一つである人材の育成という部分を考え合わせてみると、学生個人の情報は、その学生を大学の事務処理のために管理するだけではなく、学生を支援するために積極的に利用しなければならないのではないか。学園は学生に何を提供したいのか、学生が学園に期待するものは何かという考え方に自ら取り組み、掘り下げていくことで、学園全体の意識の変化を進めていくことが必要なときにきているのではないのだろうか、という認識を得た。


A-3 履修登録と成績管理業務

(31大学、賛助会員3社39名)

 GPAやセメスターなど、教学の根幹をなす新しい制度の導入や、Webを利用したシラバスの公開や履修登録など情報技術を活用した取り組みが行われる中、本グループでは、このような新しい取り組みや制度を取り上げながら、履修登録と成績管理について、学生に対する学習支援と学習指導体制を整備するという両方の視点から課題、問題点を整理し、情報技術を活用した解決策を模索した。
 Webを利用した履修登録については関心が高く、多くの大学で導入の検討が進行している。一方、成績結果を履修指導や次の履修登録に繋げるために、処理を迅速化する必要性が理解されつつも、セキュリティ面の不安から、成績処理の革新は進んでいない。しかしながら、教務事務情報化の目指すものが、省力化や合理化という観点を越えて、まさに教育の改革を支援するものであることが共通の認識として理解された。


A-4 カリキュラム・時間割編成とシラバスデータベース

(25大学、賛助会員2社、28名)

 学生の多様な学びを支援するため、シラバスを中心にした学生への提供情報の充実が近年強く求められている。また、授業については、カリキュラムや時間割を学生の学び方に適した形でどのように編成できるかが問われている。
 本グループでは、シラバスと時間割についてITを活用した情報提供とその課題、それをどのように活用すれば学生サービスの向上につながるのか事例研究を交えて討議を進めた。冊子体シラバスを電子化して提供している大学は参加者の半数を超えており、今後は、その情報内容の充実と、時間割や学内他部局情報との連携を高め、教育の質および学生の学びの環境の向上を図る方向に改革しなければならないことが認識できた。特にシラバスと時間割は、教員や施設など部局との連携なくして改善・改革ができないものであり、そのために、全学的な情報の共有と一致協力体制での取り組みが重要であることがわかった。


A-5 奨学金管理業務

(20大学、21名)

 長引く不況の中、私立大学では、奨学金の充実を受験生確保や教育効果の向上等、生き残りをかけた戦略として活用しようという動きがある。日本育英会の「きぼう21プラン奨学金」による奨学事業の拡充や独立行政法人化の中、今回の研修では「大学における経営戦略としての奨学金制度」をメインテーマとして、活発な意見交換を行った。事例紹介をもとに、日本育英会の「イクシス」に関する対応や、大学独自の奨学金制度の意義や効果について討議を進め、経営戦略としてどのような奨学金制度が効果的であるか具体的な検討を行った。
 大学経営あるいは大学の存在自体が危ぶまれている昨今、カリキュラムの充実や授業改善等をはじめとする教育改革への試みが活発化しているが、制約の多い私学経営において、奨学金担当者は大学職員として、自学の教育内容や学生生活に関する情報を分析して、より効果的な奨学金制度を提案していく姿勢が求められていることを認識した。


A-6 就職支援

(18大学、20名)

 近年のインターネットの普及に伴い、就職支援サービスに求められる情報化と活用方法などを通して、学生サービスの向上を図るとともに、学生の求める情報化を実現するうえでの情報共有、部門間連携、体制整備が急務となってきている。また、就職活動の早期化に伴い、低回生から職種・職業選択の意識を持たせ、適性・自己点検等の検査情報や学生の個人情報を一元的に収集整理し、進路・就職指導における適職選択の判断材料として活用することが期待されている。そこで、この分科会では「情報化で実現できる就職支援サービス」をメインテーマに据え、事例発表などをもとに討議を行った。
 事例発表は、南山大学、京都文教大学、大阪経済大学、立命館大学の4大学から行われ、新しい就職支援システムが稼動し、実現されている事例、具体的な機能、特色、稼動後の就職支援、進路指導、相談、助言等の体制について、活発な討議が行われた。また、インターンシップの実施効果や卒業生の情報管理、キャリアプラン等を通して、現状に即した情報化を推進し、広範な活動を支援する「就職支援サービス」の業務体制を整備・強化することが求められ、期待されているとの認識を高めた。


B-7 学術情報サービス

(24大学、賛助会員2社、27名)

 図書館資料の量的・質的整備については、IT、とりわけインターネットによってもたらされる外部情報や、学内の情報化によってもたらされるものなど、情報量や多様性の点では劇的な伸展があった。しかし、大学図書館は、時代が求める積極的な教育・研究支援にどこまで、どのように関わることができるか、すなわち図書館サービスを、利用者の学習支援・生活支援・ビジネス支援の具現にどう結びつけるのか、それぞれが置かれた状況下で最適な回答を見い出すことが求められている。
 そこで、本質的問題に踏み込む題材として、学生の読書離れや学力・マナー低下、情報格差の拡大、学習・創作意欲向上など教育現場が抱える課題を取り上げ、図書館や情報化がいかなる力になり得るかという立場から討議を進めた。
 討議では大学事例を通して図書館員が教育支援に積極的に関わるための方策について意見交換が行われた。大学の財産・ミッションであるメディアやセクション、時・場所の拘束を受けない「知」の情報管理が必要との認識を持った。


B-8 経理・会計

(22大学、賛助会員3社、26名)

 経営指針を立てるうえで、情報技術を活用して的確な分析が可能な情報とはどのようなものかについて考察し、さらに情報の迅速化、適正化を図るとともに情報開示・公開等について意見交換を行った。
 東京電機大学より「単位従量制学費処理について」、法政大学より「経理・財務システムの開発について」、大阪経済大学より「経理・財務システムの状況」、の3件の事例紹介が行われ、活発な討議を行った。
 研修会のテーマである「大学の変革期における事務情報化の目指すもの」に関連し、大学の説明責任、収入の安定化など、経理部門ならではの意見交換があり、大学職員としての意識改革につながったように感じた。


B-9 人事・給与

(24大学、賛助会員2社、26名)

 本コースでは、経営に関する意志決定支援等、人事・給与情報の幅広い活用を目指し、大学改革の動きに対応した人事・給与システムのあるべき姿を先進校の事例紹介を交えながら、参加者全員で討議し、理想の人事・給与システムを模索した。
 討議の進行については、参加者全員が本研修会の趣旨を理解し、共通の意識のもとに進められるように、全体講演についての意見交換を行った。その後、参加者による具体的な事例紹介があり、討議の際の動機付けとした。
 グループ討議では、あらかじめ用意した討議シートをもとに討議希望項目および事例発表での課題項目について、あるべき姿、現状の問題点、解決手法についての白熱した意見交換が行われ、中にはすぐにでも取り組める提案もあった。最終日に班ごとの討議内容の報告と全体討議を行い、お互いの成果を共有した。


B-10 学園の戦略情報化

(15大学、賛助会員2社、20名)

 ネットワーク社会においては、これまで一種の規制産業のような形で保護されてきた大学が市場原理の働くサービス産業として捉えられる場面が多くなってくると考えられる。今後、大学が大学として存続するためには、より良質な教育を効率的な形で提供することが求められることが予想される。これに対応するためにはどのような情報技術を用いるべきか、あるいは情報技術を用いてどのような事業を戦略的に展開していくべきかについて検討した。
 事例紹介としては青山学院大学から新キャンパスにおける「これからの情報伝達」、京都産業大学から「学園総合情報化構想」、東京電機大学から「e-Learningの現状・転機と課題」の3件の発表があり、これを受け、情報関連組織の支援体制のこれからのあり方、ITへの設備投資の問題、e-learningを巡る問題等について活発な討議を行った。そして、責任体制と戦略手法採用基準の明確化、環境変化を含んだ将来動向への洞察等がリスク回避と成功への重要な要素であることが明らかとなった。


B-11 グループウェアを利用した業務改革

(33大学、1短期大学、34名)

 WWWやメールが日常化した昨今、各大学において基幹業務システムの他にもネットワークを利用して様々な情報を共有することで、教育活動、経営指標など大学の意思決定に関わる情報の入手が容易となり、大学改革に向けてそれぞれの立場でそれらの情報を活用することが求められるようになった。本コースでは、現在注目されている「グループウエア」を取り上げ、理想的な情報共有のあり方と業務効率化の進め方について様々な角度から討議した。
 「各セクションの情報を横断的に見る」、「無駄を省く」、「ペーパーレス」等の目的を遂行するうえで、学内共通作業ツールとしての必要性の認識が得られた。また、どのように日常業務に取り込んでいくか、目的の明確化などが導入のキーポイントになり、教育活動、経営指標情報提供などの充実につなげる必要性を認識した。


B-12 ホームページを利用した情報公開と情報共有

(16大学、賛助会員1社、31名)

 ホームページは、大学に問われるアカウンタビリティという面から見ても、これからは社会が「知りたい」情報をどのように掲載していくかが重要となっていく。また発信するだけでなくホームページを見たことによる様々な問い合わせ(電子メール)にも適切に対応することが必要となる。そして一般社会に対してだけでなく、教職員の情報共有といった利用法や、学生へのホームページを利用しての情報提供・情報収集などへの展開も充実させなければならない課題である。このようにホームページの役割は日々拡大し、ウェブマスターの役割も、さらに重要となる。この視点から関東学院大学、専修大学、東京女子大学、東北学院大学、立命館の5件の事例紹介による共通理解をもとに、質疑応答も含め活発な討議が行われた。ホームページ広報に携わる人間は、その大前提が真実を伝えることにあると認識し、全学に情報発信の重要性を理解してもらう努力する必要がある。そして信頼を得るために大学の現状、環境の動向を見極め、評価し、社会の求める情報を結実させることへの責任を果たさねばならないとの認識を持った。

(文責:研修運営委員会)


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