特集 e-Learningの実践〜魅力ある教育を目指して〜

オンデマンド型インターネット授業の概要と課題

宮崎 耕(同志社大学経済学部教授)



1.はじめに

  同志社大学経済学部では、2001年3月30日の文部科学省告示[1]を受けて、同年4月から、教室での面接授業を一切行わずインターネット配信でのみ授業を提供し、正課授業科目として単位を認定する「オンデマンド型インターネット授業」(以下、「インターネット授業」)を開始しました。(表1)
 本稿では、これまでに延べ553名の学生が履修したインターネット授業の概要を紹介するとともに、通学制大学におけるインターネット授業の実施について、その課題を明らかにしたいと思います。

実施時期2001年度
春学期
2001年度
秋学期
2002年度
春学期
2002年度
秋学期
科目名情報処理2情報処理1情報処理2IT
ソフトウェア
履修者数45名99名213名196名
授業回数13回12回12回12回
配信期間各回を毎週水曜日から
翌週月曜日まで
6日間配信後,差し替え
各回を毎週木曜日から
翌週水曜日まで
7日間配信後,差し替え
配信時間帯24時間
受講場所インターネットに接続されたパソコンを
利用できる場所
上表のほか,同志社大学では神学部,工学部でもオンデマンド型のインター
ネット授業が開講されています.
表1 インターネット授業の概要

2.授業方法

 インターネット授業で配信されるコンテンツは、教員の講話、板書、教材をデジタル化し、これらをオーサリングしたものです。受講生はインターネットを通じてVODサーバに接続し、所望のコンテンツを随時呼び出して授業を受けることができます。質疑応答や設問回答、添削指導など、受講生と教員とのやり取り、および受講生同士の意見交換は、電子メールや電子掲示板を用いて行われます。(図1〜3)

図1 インターネット授業の仕組み[2]


図2 インターネット授業のトップページ



図3 インターネット授業の授業画面

3.開講目的と履修実態

 インターネット授業で提供されている科目は、文系の学生を対象としたコンピュータ基礎の講義で、インターネット授業だけでなく、同一内容の面接授業も2クラスが提供されています。したがって、履修希望者(各セメスタとも約1,000名)は、これら三つのクラスの中から都合のよいクラスを自由に選択して受講することが可能となっています。
 現在インターネット授業で提供しているクラスは、従来、夜間主の学生のために土曜日の夜の時間帯に開講していた面接授業を置き換えたものです。授業形態をインターネット授業に変更した当初の主旨は、オフィスや自宅で仕事の合間や時間的余裕のあるときに、いつでも授業を受けることを可能とし、社会人学生をはじめ、時間的制約の大きい受講生にとって、より利便性の高い教育サービスを提供することです。
 注目すべき点は、インターネット授業を開始する直前の2000年度に27名に過ぎなかった夜間主クラスの純履修希望者数(昼間主クラスの再履修者や他学部からの履修者を除く履修者数)が、2002年度には97名と大幅に増加していることです。これは、夜間主の学生だけではなく、昼間主の学生にもインターネット授業の履修希望者が多数いることを示しています。
 この科目の全クラスの履修者総数との比率で見ると、2002年度春学期は総数943名に対してインターネット授業の履修者数は213名、2002年度秋学期は総数1,170名に対して196名と、概ね2割の学生が「面接授業」よりも「インターネット授業」を志向したことになります。(2001年度は初年度ということもあり、インターネット授業の履修者数を春学期50名、秋学期100名に制限しましたが、2002年度はこの制限を撤廃し、希望者全員が履修可能としました。)


4.受講生の反応

  2002年度秋学期のインターネット授業の受講生を対象に実施したアンケート調査の結果は、次のとおりです。(図4〜6)

図4 インターネット授業の利点


図5 インターネット授業の効果


図6 インターネット授業で履修したい単位数

5.認識すべき課題

(1)NetAger

 銀行での手続きや駅での座席予約など、ほんの数年前まで「決められた時間帯」に「決められた窓口」でのみ提供されることが常識だった様々なサービスが、いまやインターネットを通じて24時間いつでも、どこででも利用できることが当たり前となっています。2年間のインターネット授業を通じて経験した学生の履修選択の動向や受講生の反応(本稿3〜4節)は、「授業は、決められた時間帯に決められた教室でのみ提供される。」という常識が急速に変化しうる可能性を強く示唆するものだといえます。
 高等教育サービスの事業者である大学にとって、消費者である学生のニーズに応えることは当然取り組むべき課題だといえます。サービスに関わる時間的、空間的制約に対する消費者の意識が急速に変化しつつある現在、「NetAger」をターゲットとする新世代の教育サービスへの対応が求められています。

(2)ファカルティ・ディベロップメント

 学生のインターネット授業に対する反応が概して肯定的、積極的なもの(図6)となっているのに対して、学会や研究会などでの教員の反応は、概して批判的、消極的なものだと言えます。インターネット授業は面接授業に比べて教育効果が低く、実質的なサービスの低下が懸念されるという教員の代表的な意見と、インターネット授業を実際に受講した学生の意見(図5)のギャップに注目しなければなりません。
 このギャップを埋めるために、教員がファカルティ・ディベロップメントに積極的に取り組み、まずは、担当科目の授業形態の選択肢の一つとしてインターネット授業の可能性を検討し、実施する場合には、旧来の面接授業に勝るとも劣らない教育効果を発揮できるような授業コンテンツを制作するためのスキルを身に付けてゆくことが求められています。

(3)e-University

 インターネット授業の提供にあたり、そのサポート体制を整備することは不可欠な課題です。しかしながらそのポイントは、現在議論の中心になっている教員に対するサポートではなく、受講生に対するサポートであることに注意しなければなりません。
 本稿では誌面の都合で具体的なデータは示しませんでしたが、インターネット授業を受講した学生からの不満や要望のほとんどは、VODサーバへの接続方法や教務手続きに関するもので、授業そのものに対するクレームは実質的に皆無だといえます。
 インターネット授業によって、いつでも、どこでも授業を受講することが可能になっても、受講手続きや、学内掲示板の確認、参考資料の入手のために結局キャンパスに出向かなければならないのであれば、その効果は極めて限定されたものとなってしまいます。資金移動や座席予約だけにとどまっていた金融機関や交通機関のインターネットサービスが、契約内容の変更や決済手続きにも拡大されてようやく実用的なサービスとして普及したように、授業だけでなく、関連するサービスも含めた総合的なインターネットサービスを提供する「e-University」の実現が求められています。


参考資料
[1] 宮崎 耕・北室康一:ユビキタスラーニング, オフィス・オートメーション,2001予稿集(春), pp.81-84, 2001
[2] 宮崎 耕:e-Learningのサービスポリシー,平成14年度教育の情報化フォーラム資料, 私立大学情報教育協会, pp.78-81, 2002
[3] 宮崎 耕:大学教育におけるIT革命−『eラーニング』の衝撃−, 大学時報, 日本私立大学連盟, No.278, pp.100-103, 2001
[4] 宮崎 耕:オンデマンド型インターネット授業の有効性, オフィス・オートメーション,2001予稿集(秋), pp.121-124,2001
[5] 宮崎 耕:通学制大学における通信授業HINES world, 北海道大学大型計算機センター,No.56,pp.28-40, 2002


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