会計学の教育における情報技術の活用

Web-Based 授業理解度自己評価システム


高松 正昭(明治学院大学経済学部教授)



1.はじめに

 私立大学情報教育協会の報告書『私立大学の授業を変える―マルチメディアを活用した教育』(1966)および『授業改善のためのITの活用』(2001)に貫徹する基本的精神はあくまでも対面(face-to-face)授業の効果的な補助手段としてのITの活用にあります。両報告書の作成に参加しつつ、筆者は予習教材の一部電子化とWeb上での掲示、授業での提示教材の全面電子化、スプレッドシート教材の改良、会計諸則集のデータベース化の開始など、いくつかの努力を重ねてきました。
 今回、実験的に行っているWeb-Basedの「授業理解度自己評価システム」は、復習教材の範疇に入り、学生が授業理解度を自ら確認することを目的としています。詳しくは、高松正昭「会計教育におけるWeb-Based Trainingの利用」『研究所年報』(明治学院大学産業経済研究所,第18号,pp.21-35.)を参照してください。


2.授業理解度自己評価システムの構成

 システム構成といっても、ごく簡単なもので、その概略は図1に示してあります。使用OSはSunOS 5.6、使用言語はPerl.version 5.005_03、筆者の研究室に所属する院生の手づくりです。
 授業の内容を理解したかどうかを問うために、10の設問をもってひとつの問題とし、1回の授業で2〜3の問題を準備しました。実際の画面のイメージは、図2が問題、図3が採点結果です。学生は、授業終了後、図2の問題に挑戦し、「採点」ボタンを押すと図3の採点結果が返され、自らの授業の理解度を確認することになります。
 図2の問題は「キャッシュフロー会計」の授業に関連する2題のうちの1題ですが、このような穴埋め問題のほか、選択問題、マッチング問題など、問題の形式は多様にしてあります。また、穴埋め問題にしても、解答群のあるものとないもの、解答群の用語や語句を直接記入させるものとその番号を記入させるものなど、難易度を考慮しながら、作成しました。
 図3の採点結果画面では、設問一つに10点が付与され、100点満点で採点してあります。設問のBとDが誤答(正解はBが要求払預金、Dが定期預金)となっているので、80点と採点してあり、「授業の内容は十分理解できているようです」というコメントを付しています。現在のところ、評価は3段階に分け、70〜60点では「基本的な内容は理解できているようです。練習問題を繰り返し行い、基礎を固めてください。」、50〜0点では「基礎的な理解が不足しているようです。教科書やノートを読み返して、もう一度、練習問題に挑戦してください。」というコメントをつけました。



図1 システムのフロー図


図2 問題の画面イメージ


図3 採点結果の画面イメージ

3.授業理解度自己評価システムの試行

 2年間にわたってこのシステムを供用してきた結果、次のような知見を得ました。


(1)このシステムへのアクセス時間には、15時と0時を中心に二つの山が見られます。前者の時間帯は大学の実習室のパソコンを使って、そして後者の時間帯は自宅のパソコンを使って、アクセスしていることは自明です。このことは、「いつでも、どこでも」というWeb-Basedの教材の使い勝手の良さを証明していますが、深夜にアクセスする学生がかなり多いという事実は現代の学生気質を表わしているといえましょうか。

(2)このシステムへのアクセス状況ですが、セメスターによって異なるとはいえ、おおよそ履修学生(定期試験受験者)の60〜70%が何らかの形でアクセスしています。しかし、約10〜20%の学生はどのようなものか覗きにきただけの学生で、数題の問題に挑戦し、問題が解けないと再度アクセスすることはないようです。残りの約50%の学生もその大部分は試験直前のアクセスであり、われわれが期待したように、毎授業終了後にアクセスして、その授業理解度をチェックする数は、わずか5〜10%程度に過ぎません。

(3)このシステムへの1回当たりのアクセス時間の平均はおよそ1時間30分ですが、中央値を見ると40〜50分であり、これがパソコンに向かって集中力を持続できる標準的な時間幅と考えても良いように思われます。

(4)このシステムの利用者と非利用者の間では、試験結果に10〜15点程度の差異が見られます。また、システムの利用者のうち、問題(春学期26題、秋学期22題)の3分の2以上に挑戦し、2分の1以上の問題で合格点を獲得した学生をシステムの高度利用者、それ以外の学生を低度利用者と呼ぶと、両者の間でも5〜10点の差異が見て取れます。それだけ勉学の機会を増やしたのですから、それは当然といえましょうか。

(5)2001年春学期の「財務会計論1」クラスのデータを使って、このシステムの利用と定期試験結果の関係を分析していますので、表1で紹介しておきましょう。出席回数、定期試験の得点(@通常問題の得点、A計算問題の得点、合計得点)、解答した問題数、合格点を獲得した問題数、「採点」ボタンを押した回数の相関関係を分析したものです。定期試験の合計得点から見ると、解答した問題数(解答数)と合格点を獲得した問題数(合格数)との相関関数は認められますが、「採点」ボタンを押した回数(採点回数)との相関関係は認められません。これは、採点回数の両義性(一つの問題のみならず一つの設問の採点も1回とカウントしたこと)によるものと考えています。
表1 システムの利用と試験結果の相関関係

4.おわりに

 復習教材としてのこのシステムは、学生に対して自らの授業理解度をチェックさせるとともに、教師に対しても学生の理解不十分な点を確認させるフィードバック機能(教師は学習履歴をチェックし、どの問題の正解率が低いかを知り、次の授業でその個所の授業内容を補足したり、電子掲示板を通じて誤答の多い問題を解説する)を期待できます。しかし、毎授業後のアクセス率が極端に低い現実を見ると、この機能は現在のところ画餅に帰しているようです。
 なぜ授業直後のアクセス率が低いのか、アンケートやインタビューを通していろいろ調査していますが、必ずしも明確な回答を得ていません。全体として学生のイージーゴーイングな学習態度が気になりますが、これは筆者の僻みでしょうか。解答の入力を省力化するために符号付解答群を増加させたり、誤答に対して「ヒント」や「正解」を直ちに示したり、1問題あたりの設問数を減らしたりといった、学生のアクセスを誘発するような改善を今後とも続けていくつもりです。


URL
http://www1.meijigakuin.ac.jp/%7Etakamatu/


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