教育支援環境とIT

立教大学の情報化と教育支援環境



1.大学の設置学部、学科、学生数、教職員数

(1)設置学部、学科

 1)文学部(キリスト教学科、日本文学科、英米文学科、フランス文学科、ドイツ文学科、史学科、心理学科、教育学科)、2)経済学部(経済学科、経営学科、会計・ファイナンス学科)、3)理学部(物理学科、化学科、生物学科、生命理学科)、4)社会学部(社会学科、産業関係学科、現代文化学科)、5)法学部(法学科、政治学科、国際比較法学科)、6)観光学部(観光学科)、7)コミュニティ福祉学部(コミュニティ福祉学科)。

(2)学生数

 学部15,116名、大学院1,296名、合計16,412名

(3)教職員数

 教員  専任344名、兼任講師944名、特任・嘱託等69名、チャプレン等6名、合計1363名
 職員  専任249名、実験技術員等8名、嘱託等26名、合計283名


2.教育理念、方針(特に教育改善のためのIT活用について)

 一人一人の人間が、神から愛されるかけがえのない存在であり、それぞれ固有の人格の持ち主として尊重され、それぞれ異なった環境に、異なった資質をもって生まれるものであり、そうした一人一人が、互いに他者を尊重しながら、学び、生活することを大切にしなければなりません。立教大学、そして小中高校を含む立教学院は、人間をあらゆる束縛から解放して、自由に真理を追い求めることのできる場に導くことを教育の理念としています。そこに求められるのは真理への畏敬の念であり、真理探究の謙虚な姿勢です。
 このような理念のもとにおいても、大学で行われている新しい知識あるいは技術を生み出し、それを学生に伝授するという日常の実践が目的と化してしまうことには気をつけなければなりません。よい論文を書けばそれでよいとか、学生の成績がよければそれでよいといった考えになりがちです。しかし、それは目的に奉仕するための手段であることを忘れてはなりません。新しい時代を担う人々、単に担うだけでなくそれを創り出す人々を育てることが目的であるはずです。地球社会の「共生」の実現に向けて、それを体現できる学生を育てるのが大学の使命でなければなりません。本学の情報システムが、自立した個人が手を取り合って互いに認め合い共に楽しみ愉快に過ごす、その手段である道具に逆に使われてしまうことのないシステムを創造することを基本思想にして設計されたのも、そうした共生の理念の実現に近づくためです。


3.立教V−Campus:キャンパスデジタル化への取り組み

 インターネットはキャンパスの不可欠の構成要素になっています。みんなが使いこなせる、参加するシステムとして構築しました。本学のシステムにV-Campusと命名したのはそのためです。大学は常に外に向かって情報を発信する、開かれた知の創造主体でなければなりません。その点ではインターネットは極めて有効な手段に違いありません。しかし、一方では、学生のプライバシーが守られた環境の中で忌憚のない語り合いも必須ですから、V-Campusはイントラネットとインターネットを組み合わせたシステムにしました。
 情報システムは高速性はもとより安全性、安定性が重要ですから、メールやWebやIDの認証といった基幹となるサーバは通信事業者にアウトソーシングして、サーバの保守点検、停電対策、セキュリティ管理に万全の体制をとっています。大学の中に置いていると、保守点検などで年に数回停電にすることがありメールが止まってしまいます。しかし、インターネットの時代にそのようなことが起こるのはおかしなことです。学校のサーバが停まったために大事な情報が来なかったということがあってはならないのです。
 校地だけで学校を運営するのは時代に合わなくなってきました。かつては、地方から進学してきた学生が大学の周辺に下宿する姿を多く見かけましたが、最近は首都圏一円から2時間ないしそれ以上の時間をかけて通学する学生が増えています。となると、学校に来なければ情報に接することができないのでは困ります。このため、自宅からもイントラネットに接続できるようにしました。そして、学生が自由に使えるサービスを豊富に用意して、大学が提供する情報だけを受け取るのでなく、自ら発信する主人公になれるようにしています。学生・教職員全員にインターネット側とイントラネット側にホームページ・スペースを提供し、掲示板やメーリングリストも全員が自由にいくつでも作ることができます。こうした環境の中で、学生自身や教職員によるコンテンツが日々生み出され、電子のキャンパスのなかでのコミュニケーションが展開されています。
 また、携帯電話を活用したモバイルV-Campusも立教大学の情報化の特徴といえましょう。学生のほぼ100%が携帯電話を所有する状況においては、V-Campus上に存在する無尽蔵ともいえるコンテンツを携帯電話に配信するのは必然のことでありました。このため、PCのモニター画面での閲覧用に作られたコンテンツを携帯電話の小さなディスプレイ用に変換するシステムと、携帯電話から構内情報網であるイントラネットにアクセスして、授業コンテンツ、休講情報、履修状況のデータベース検索を可能にしています。


4.立教サイバーラーニング

 日々生み出されるコンテンツの中でも、大学の業務として組織的に取り組んでいる「立教サイバーラーニング」を紹介したいと思います。この事業は、「1000コマ・プロジェクト」の名称で2001年4月に開始しました。「コマ」とはご承知のように、大学用語で科目数の単位です。一つの科目は半期15回の授業が行われますが、それを一コマとして1000コマ分、すなわち15,000回の授業内容をサイバースペースで提供するプロジェクトです。
 立教大学がこのプロジェクトを開始したちょうど同じころ、米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)はオープン・コース・ウェア(OCW)計画を発表しています。それと比較しても、立教大学1000コマ・プロジェクトは着実な進展をみせ、2002年1月時点までに160科目(半年単位)の授業内容をWebで公開しました。数の多さでは世界初といってもよいでしょう。2002年度に240科目、2003年度および2004年度にそれぞれ300科目、すなわち4年間合計1000科目の公開をめざしています。このプロジェクトへの参加科目数は順調に伸びており、3年目を迎えた2003年度に「立教サイバーラーニング」という名称に変更しました。
 大学教育へのWebの利用は珍しいものではなくなっています。私立大学情報教育協会が開催している年次大会で数多くの教育実践事例が毎年報告されています。しかし、それらの実践例はほとんど、一部の熱心な教員の個人的な努力であることが多く、大学全体としての取り組みにはいたっていないことが多いようです。優れた実践事例とその有効性が知られていても、それが全学的に広がらないのはコンテンツ作成のサポートがないからではないでしょうか。本学のサイバーラーニング事業では、教員へのコンテンツ作成のサポート体制を整えましたが、そのことがこれほどの規模での展開を可能にしたものと考えています。

図1 立教サイバーラーニングのページ

 このプロジェクトを開始する前には学内においてさまざまな議論が交わされました。特に、授業内容をネットワークで配信することは学生の欠席を助長することになりはしないか、という懸念はもっともな意見であったと思います。しかし、サイバースペースにおける学習は、決して授業の代わりになるものではありません。それは、授業の効果を高めるための補助手段です。通常の90分の授業は、教員の話と板書と身振り手振りの総合によってできあがる一つの作品ですが、サイバーラーニングは授業の要約ではあっても授業の代わりになるようなものではないのです。
 しかし、教室での授業には難点もあります。教室がざわついて教員の話がよく聞こえない、教室は静かでも教員の声の通りが悪くてよくわからなかった、板書が読みづらかったなど、授業に出ていてもその教育効果が十分でないことが多いのです。また、教育実習、就職活動、福祉実習、病気など正当な理由で欠席する学生もおります。その間の授業をどのように補うか、個別対応は教員の時間配分からいっても難しいのです。こうした補助手段はインターネットならではといえるでしょう。サイバースペースでの学習によって、ゆっくり授業を振り返り、学習の内容を整理するのを援助することで学習効果を高めるのがこの事業の目的だと訴えてきました。

図2 サイバーラーニング・経済学部での一例


5.成果と課題

 利用者である学生はどのように考えているでしょうか。アンケート結果を紹介しておきましょう。「受講していない科目の内容をみることがある」と答えたものが53.4%と半数以上を占めています。大学では毎週3000科目以上が展開されていますが、1学生が卒業までに履修するのはその中のわずか数十科目です。サイバーラーニングが時間空間の制約を超えて大学の知へのアプローチに役割を果たしていることがわかります。また、ページを一度見ただけで終わるのではなく、複数回訪れるものが55.3%と半数を超えています。また、画面を見るだけでなくフロッピーに保存するとか印刷するものが58.2%となっており活用方法も積極的です。
 演習や講義で役に立つかどうかという質問では、役に立つと答えるものが圧倒的多数です。また、授業の復習や欠席した日の補完として役に立つと答えるものも80%以上でした。授業を履修していない人にも役に立つと答えたのは約60%と内容を評価するものが半数を超えています。
 「講義の内容がわかりやすくなったか」という質問では「よく当てはまる」28.4%、「当てはまる」42.3%、「どちらともいえない」22.1%、「あまり当てはまらない」4.8%、「当てはまらない」2.4%となっています。「授業をサボリやすくなったか」という質問では「よく当てはまる」18.3%、「当てはまる」15.4%、「どちらともいえない」24.5%、「あまり当てはまらない」24.5%、「当てはまらない」17.3%となっています。欠席を助長するのではないかという当初の懸念は杞憂であったことになりますが、授業の補充であるという仮説を実証するものといえるでしょう。
 アンケートでは「各回の内容はそのままでいいので、授業科目を増やしてほしい」という希望が48.6%と目立ちます。開始初年度は専任教員に限定していましたが、学生の目から見ると専任・非常勤の区別は意味がありませんので、2002年度からは非常勤の先生にご参加いただくことにしました。次に要望が多いのは、「数も内容ももっと充実してほしい」というもので、38.5%になりました。事業を滑らかにスタートさせるために、参加しやすい形のコンテンツ作成方法を考えましたが、内容改善を行うのは当然の課題であると考えます。e-Learningがそうであるように、動画や音声を用いた改善が有力な方向ですから、そのための教材作成の実験を進め普及に努めています。


文責:立教大学コミュニティ福祉学部長
坂田 周一


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