巻頭言

情報化時代の新たなモラル

川並 弘昭(聖徳大学 理事長・学長)


 学生時代にレポートや卒業論文を書いていて行き詰まったときに、芥川龍之介の小説『河童』を思い出したことがあります。河童の国では、機械の漏斗形の口へ紙とインクと驢馬の脳髄の粉末を入れると、5分も経たないうちに無数の本ができるそうです。このような機器があったら、と考えたものです。
 それから半世紀、情報機器の進展は芥川が想像した以上のものがあります。コピー機、ワープロ、ファックス、パソコン、ケータイ等々、巧みに使えば資料を集めてくれますし、知らない漢字も意味も教えてくれます。文章の上手下手の採点機能もあります。作成した文章はキーを叩くことにより、瞬時に世界どこにも送ることができます。汗牛充棟の図書や雑誌に埋もれる書斎は昔の話、奇特な方々の努力によるデータベース化により、国内外の万巻の図書も居ながらにして閲覧することができます。
 こうなると、情報機器に熟練した方が優位に立ちます。かつては、大学の教員は学生よりも情報量の多いことに優越感を感じ、教員としての存在価値を誇りましたが、今や巧みに情報機器を使いこなす学生には頭が上がらず、教員の価値下落の一端となっています。
 図書館員に聞くと、年々「情報」「情報機器」の図書の増加が著しいそうです。「大学教育」の棚には『大学生インターネット活用シミュレーション』などという本があり、就職・勉強・生活・遊びに至るまでインターネット活用により他の学生と差をつけろと呼びかけています。このような時代の中に、学生は生きています。どこの大学でも情報教育には力を入れるのは当然のことです。
 聖徳大学も人後に落ちません。基礎教育の情報活用演習も効果を発揮してきていますし、情報処理教育センターの自由開放時間は学生で満員の状態であり、先端情報用語を駆使する情報教育委員会は、今や最も日の当たる委員会になり、カタカナ文字に疎い教員の肩身を狭くさせています。
 情報教育の研究も盛んです。私立大学情報教育協会主催で開催される平成15年度「大学情報化全国大会」は、3日間朝から夕方までぎっしりのプログラムで、研究発表は67件に及びます。情報機器音痴の私たちの世代の者には、理解できない発表タイトルが並び、河童の国に入り込んだ小説の主人公のようなものです。
 しかし最近、教員からモラル消失の憂えの声を聞きます。コピー機に群がり、手当たり次第コピーをする学生の著作権の観念の無さ、知の財産への尊敬の念の失墜であります。
 パソコンによる情報収集は、先行著作の無断借用に陥りやすい。執筆者名も掲載誌名も明記されていないので、引用注記しようがありません。テーマに則した論文を打ち出して繋ぎ、アレンジすれば、たちどころに論文はでき上がります。学生だけではありません。大人の物書きの間でも、著作の無断借用・盗作が頻りに表沙汰になる昨今です。
 大学教育に占める情報教育の割合はますます高まるでしょう。それならば、情報化時代の新たなモラルを確立して、それを学生に教えることも大学情報教育の重要な課題ではないでしょうか。


【目次へ戻る】 【バックナンバー 一覧へ戻る】