建築学の教育における情報技術の活用

Webサイトを活用した構造力学の自学自習システム

横井 友幸(福山大学工学部建築学科助教授)



1.はじめに

 構造力学は私どもの学科では、多くの学生の苦手とする科目であり、必ず問題を解いていかないと理解が進んでいきません。演習時間を多く取ったり、補講を開講するのは教員の数や手間などで限度があります。そこで、パソコンでグラフィカルな表示が出て、問題を分かりやすく図解しながら解いていける問題演習システムがあれば、授業とは別に繰返し、判るまで学習させられる、という想いから、筆者は卒業研究で学習プログラムを種々作成し、授業で利用することを試みてきました。
 急速なインターネットの普及に伴い、現在では、研究室の Webサイトに「建築力学の部屋」、「課題演習室[1]」などのホームページを設けてその運用を模索しております。ここでは、この「課題演習室」の利用とその効用についてご紹介いたします。


2.教育内容

 構造力学のなかで、筆者の担当する「建築構造解析I(建築力学IVより改編):3年次前期選択必修」は、それまで学んできた静定力学の後を受け、一般の建築構造物である不静定構造の解法を習得するものです。力の釣合いに対し、力と変形の関係、構造物を分解し、組み立てるための変形の適合性や釣合関係を理解できなければなりません。そのためには、充分に変形の計算を習熟している必要がありますが、多くの学生はここで躓きます。講義は、復習から入り、
概説と静定梁の変位算定復習
  課題1: 静定梁の変位計算(単純梁+モーメント荷重)
不静定梁の解法1:一端固定他端ローラー梁
  課題2. 不静定梁の解法1、2、3(固定端+ローラー端)
不静定梁の解法2:連続梁
  課題3. 不静定梁の解法4、5(2スパン連続梁)
不静定梁の解法3:両端固定梁
  課題4. 不静定梁の解法6(2次不静定両端固定梁)
と続き、応力法、応力法と変位法の対応、たわみ角法、固定モーメント法で構成されています。
 授業は板書による通常の形式で行いますが、理解を深めるため、毎回宿題として前述の課題を課しています。ただし、課題提出は強制するものではなく、提出すれば加点します。2〜3回の小テストと期末試験と課題提出点により成績の評価を行います。
 ここで対象とする演習課題は、不静定構造の解法の導入部の問題(課題1-4)であり、解法の理解を徹底するため、例題と同様の課題を出題します。提出は次週までにレポート提出するか、パソコン室で研究室のWebページ[1]を開き、課題演習室ページで直接答えてCGIにより提出します。Webページ上には、関連する力学のテキスト(建築力学の部屋)もすべてではありませんが掲載されており、質疑応答できる掲示板も用意されています。


3.Web演習

 Web上での学習では、その履歴が記録でき、自己の学習状況を学生に示して刺激を与え、学習意欲を喚起することができます。また、時と所を選ばず学習ができるので、自主性を助長し、教師と一学生間だけでなく、OB、学生同士の間でも掲示板による質疑応答の場での学習情報の共有・交流を図ることも可能です。教師の側からは、教育情報管理の省力化が図れます。
写真 学習風景
 Webページ上での課題演習実行の流れは、以下の通りです。
1) 課題演習室ページで学生番号とパスワードを入力(ログイン)
2) 科目を選択
3) 課題を選択し、STARTボタンをクリック
4) 課題画面が表示
5) 必要に応じて補助画面を表示し解答(Q図、M図選択、変位計算)
6) 正誤判定
7) 提出
8) ログアウト
 一方、課題選択してSTARTボタンをクリックしたときから、解答を終えて提出ボタンをクリックしたときまでの時間、判定時の正答数等の解答状況が記録され、教師サイドでは
1)学習登録者、2)提出状況、3)成績等の一覧表示ができ、かつ4)問題管理で課題を追加、削除し、同じく、5)部屋管理として、新たに、科目を追加、削除できます。
 また、ログイン画面では、新しく学習者が学生番号とパスワードを自由に登録でき、自己の累積学習時間や課題の提出状況等を把握できるようになります。画面の詳細は紙面の都合で省略しますが、本稿最後に記載の参考URLに直接アクセスしていただければ幸いです(ユーザー名[学生番号]は下5桁を数字にしてください)。


4.教育効果と問題点

 Web演習の学生の反応は良好です。
間違っているところがすぐに分かるのでやりやすいし、面白かった。
ネットによる課題形式は初めてで新鮮さがあり、とても課題がやりやすかった。
難しくてけっこう時間がかかった。コンピュータを使って課題を出すのは新鮮で面白い。
最初、問題の出し方が判らず困った。
自分の手で書かない分楽にはなったが、実際に身についているのかが少し不安。
等の感想が挙げられました。
図 Web演習画面
 Web演習開始初年度の受講生は127名で、4回の課題学習(Web演習は3回)の後の小テスト(不静定梁を解きQ,M図を描く、10点満点、117名受験)では、Web演習を1問以上行った解答者51名とWeb演習はしていない解答者66名のグループの平均点はそれぞれ3.8と3.4であり、約1割Web演習グループの方が良い結果が得られました。Web演習を2問以上行った解答者グループの場合さらに結果はよくなります。
 レポート提出であると丸写しで出すものが少なくありません。Web演習では数値を学生番号によって変えて、自分自身で覚えねばならないという気持ちにさせることができます。
 もう一つの効果として、課題の回収、成績チェックの手間の省力化が挙げられます。
 Web上の課題では、記号で答える記述式解答や応力図等の図を描く解答は答え難く、答え易い選択式解答になってしまいます。そうすると、安易に答えられ、学習効果が出るか疑問が残ります。学生の感想にも指摘されています。現状では、選択肢を多く採ったり、同種の問題を繰り返し出題することで記憶に結びつける工夫をしていますが、ゲーム感覚で正誤判定をしていると思われる結果が見受けられます(判定回数が設問数にほぼ等しいかそれより多く、1問毎に判定して、正誤を確かめながら答えたと、推測できます)。
 また、キーボードから入力したり、マウスでクリックする動作が書いて記憶する動作に匹敵するか、この点に関してもどの程度学習効果が出るのか、疑問が残ります。安易に答えていくのではなく、刺激を与え、関心を引き選択する時、常に記憶に残る対策を施す工夫でこの疑問に答えなければなりません。
 さらに、問題(Web上での種々の工夫を施したページ)を作る労力と掲示板で学生と質疑応答する労力の問題があります。これも一人で続けるには限度があります。現状では、学内外に支援環境がありません。


5.今後の課題

 このWeb演習システムはまだ動き始めて間もなく、学生の学習履歴表示も詳細なものではありませんが、問題数を充実させるなどしていけば、十分な効果が得られる手応えは得られたと思います。
 Web利用の普及、浸透は目覚しく、このようなWeb上での学習応答も早晩日常化していくものと思います。例えば、院生やOBから協力者を募り、また養成したり、さらに、学内に留まらず学外の協力者を募るなどして、提携していくことのできる組織作りを行い、サポート体制を整えていくことも重要な課題であります。扱う内容次第では、単なる基礎教育に限らず、広い情報交流へもつながるシステムへ発展させられるものであると考えています。


参考URL

[1]http://y-nts.fuhrc.fukuyama-u.ac.jp/CaiRiki/Sroom/login.cgi



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