私情協ニュース1

平成15年度教育の情報化フォーラム開催される



 平成15年度「教育の情報化フォーラム」は6月20日(金)、21日(土)の2日間、名古屋の中部大学において開催された。参加者数は約360名余り(125大学、18短期大学、賛助会員14社)に上り、今後の授業改革の視点から「情報技術を活用した教育の情報化」に関わる問題について、テーマ別に幅広い討議が行われた。
 第1日目の全体集会では、フォーラム運営委員長山崎和海氏(立正大学)の司会のもと、私立大学情報教育協会戸高敏之会長(同志社大学)による開会挨拶、引き続き会場校を代表され中部大学の飯吉厚夫学長による中部大学の教育の情報化への新たな試みの紹介を含めた示唆に富んだ挨拶が行われた。その後運営委員16名の紹介に続いて、「教育のオープン化とIT活用」と題し、戸高敏之会長による基調講演が行われた。2004年から実施される「第三者評価」に伴い、大学は独自の教育理念・方針に基づいた教育の実現と内容の明確化が求められ、教育内容の通用性、高度化が問われるとの問題意識により講演された。大学にとっての最重要課題である「教育(人材育成)」とITを活用した効果的な教育・学習の工夫などについての私立大学情報教育協会が進めているプロジェクトの紹介、さらに「教育振興基本計画」の最新動向についての紹介や、「特色ある大学教育支援プログラム(通称COL:center of learning)」の重要性についても触れられた。また当協会が展開している事業の全体像も明示され、「教育の情報化フォーラム」にふさわしい基調講演であった。
 全体集会の締めくくりとして当協会活動報告として、井端正臣事務局長によるサイバー・キャンパス・コンソーシアム(CCC)、電子著作物権利処理事業の活動状況や戸高会長の基調講演の補足説明を含めた平成15年度の事業計画、補助金申請についての説明等が行われた。
 運営委員の司会の下で進められたテーマ別の8分科会では、実質2時間半ほどの時間を有効に使った、課題提起者と会場からの積極的な参加を得た活発な討議が進められた。フォーラムの趣旨である「授業改革の視点から教育の情報化に関わる問題について広く討議を行い、対応策を模索する。またそれぞれの教育現場で実際に直面している問題・課題についての意見交換と情報の共有、会員同士の理解と協力を必要とする問題及び関連情報等について協議すること」が、全体的に活かされた今年のフォーラムであった。
 また第1日目の分科会終了後に懇親会が開催され、参加者相互の親睦を深めることができた。また2日目の分科会終了後の午後に、中部大学のキャンパスツアーが組まれ、多くの方々がキャンパス見学に参加された。
 最後にあたり、本フォーラムの会場校をお引き受け下さった中部大学の関係教職員の皆様に謝意を表します。


テーマ別自由討議(6月20日)

A:ネットワークセキュリティポリシー制定への取り組み

 本分科会では、「早稲田大学メディアネットワークセンターにおけるセキュリティポリシー策定について」というタイトルのもと、伊藤敦氏(早稲田大学教務部情報企画課)より課題提起いただいた。
 近年、大学におけるネットワーク環境の整備、教育の情報化が進むとともに、ウィルスの感染や不正アクセスによる被害等の問題が発生し、セキュリティ対策への関心が高まりつつある。昨年9月にセキュリティポリシーが策定されるまでの経過や問題点等について、事例紹介がなされた。早稲田大学メディアネットワークセンターの事例では、1)早急にセキュリティポリシーを策定する必要性があったこと、2)既存の複数の規約に基づいて様々なサービスが提供されていたこと、3)運用実態に合わせたポリシーの策定が求められていたことなどから、ボトムアップによってセキュリティポリシーが策定された。現時点では、このポリシーによる効果を評価することは難しいが、運用のための組織体制のあり方、セキュリティポリシーの更新、ユーザーへの告知や啓発、セキュリティ概念・危機管理に関する教育の必要性が指摘された。また、アウトソーシングされたサービスの取り扱いや、規約等における用語の統一なども重要な課題となるだろうとのことだった。
 65名ほどの参加者があり、フロアからも自大学におけるセキュリティポリシー策定の紹介があった。本テーマは、重要かつ関心の高い分野であることは間違いないが、現時点ではまだ運用事例が少なく、継続的に本フォーラムで議論していくことが期待される。


B:e-Learningの実践 −Web対応のCAI教材を用いた授業展開−

 e-Learningを導入、または導入しようとしている大学は多いが、それぞれが様々な問題を抱えている。コース設計からコンテンツ作り、運用、教育効果、支援体制など。本分科会では、そのすべてを個人ベースで行っている及川義道氏(東海大学理学部基礎研究室講師)に課題提起いただいた。
 社会的なニーズから発達したアメリカのe-Learningとは異なり、日本ではニーズよりも教育方法多様化の一つとして導入されており、常に教育効果の向上が要求されている。及川氏からは、授業評価の結果から講義と同程度の評価が得られること、またそれ以上ではないことが示された。また、学生のモチベーションを維持するためのコンテンツ作りについては、文字ベースが良いが、文字だけでは読んでくれない。他人任せでは作れない支援体制の難しさなどが示された。その後討議に入り、以下のような多岐にわたる質疑応答が活発になされた。
 個人対応のコースプランは当初7コースから中間試験後複数に分岐し、評価方法は平均値による重み付けをしている。授業中の学生の集中度は画面を見てチェックし、近くに行って質問しやすいように配慮している。コンテンツの美しさと理解度を高める工夫は、文字の大きさと動画の導入で対応している。学生が文章を読まなくなったため、文字数を減らしている。市販の支援システムの評価としては、良いものもあるが、個別対応に多額の費用負担がある。
 全体のまとめはしなかったが、参加者がそれぞれの立場で何らかの示唆を得、充実した分科会であったと思われる。最後に、e-Learningの成否は教員がどう使うかに関わっている。一つのコース(15週分のコンテンツ)を作るのに1年はかかるという説明にフロアから賛同とため息が聞かれたことを付記しておく。


C:教育支援を目的とするネットワーク環境の構築

 本分科会では、北村 了氏(金沢工業大学情報処理サービスセンター)より課題提起いただいた。
 金沢工業大学におけるネットワークインフラは、トラフィック量に応じて100Mbps、155Mbps、622Mbps、1Gbpsとなっており、約2,000台のコンピュータが接続されている。また、約8,000人の学生全員がラップトップPCを所有しており、学内の9,500箇所に情報コンセントが用意されている。また、2001年度より学生アパート約200棟(3,500室)に光ケーブルが引かれ、学生は月3,500円の負担でアパートから学内ネットワークに入れる。セキュリティに関しては、2002年4月からPKI(公開鍵認証システム)の運用を開始している。このような環境の下に、2003年5月より学生向けポータルサイトを運営し、学生が個々の修学情報をアクセスできるようにしている。また、修学履歴システムを構築して、工学基礎教育に関する個人の学習指導履歴がアクセスできるようになっており、ポートフォリオシステムを用いて、教員の提示した課題に対し、自分の提出したレポート全部を見ることができる。また、2001年度よりWBT(Web Based Training)の教材開発を行い、ビデオ映像配信システムも運用している。このようなシステム構築に対し、様々な大学から質問が多数あった。各部署のシステム統合についてはプロジェクトまたは委員会で検討し、データベース構築に関しては以前からあった大型コンピュータのデータベースを移築した。ラップトップに関しては、大学推奨のものは4年間保証し、PCカウンターに3名を常駐させて受付を行っている。WBT教材開発に関しては、e-Learningチームを編成し、教員1名とオーサリングのための職員5名、学生スタッフ7名が担当している。また、これらのシステム開発およびメンテナンスに関しては、元電算部門のスタッフが会社を設立し、そこに業務委託(SE5〜6名)している。24時間利用できるコンピュータ室は、夜間は学生証でドアの開閉を行っており、ビデオカメラを設置している、などの質疑応答があり、その後の懇親会でも個別の質問が多くあった。金沢工業大学のシステムは教育支援を目的とするネットワーク環境として手本となるもので、今後いろいろと参考にしたい。


D:学外講師との連携教育におけるIT利用

 社会(企業)からのニーズをカリキュラムに反映し、ネットワークを使った教育方法が提案・実施され、産学協同の新しい形態の一つとして注目されている。
 本分科会前半は衣袋洋一氏(芝浦工業大学システム工学部助教授)より課題提起いただき、学外(産業界・卒業生)から非常勤講師を迎えた「Web Learning Studio」と呼ばれる建築設計の教育方法について紹介いただいた。ネットワークを用いることにより、学外講師(Web型非常勤講師)の時間・場所を拘束することなく最先端の知識・意見を提供してもらう。これに教員・TAが加わり「Web based Trainingシステム」上の実時間授業チャットとして演習が進行する。
 後半は古屋興二氏(工学院大学工学部教授)より課題提起いただき、卒論を廃止し、これに代わる産学連携型教育「Engineering Clinic Program」と呼ぶ、主として技術開発テーマに取り組む新しい形の教育方法について紹介いただいた。従来の知識習得型から基礎工学を重視し、英語力・創造力・人間力(自ら考え、工夫、実践、学習し、コミュニケーションする力)を持つグローバルエンジニアの育成を目指すものである。
 いくつかの質疑応答の後、フロアーからの提案により、このような学外との連携教育を行う際の「情報セキュリティ対策」について自由討論を行った。前半の話題に関しては「ネットワークセキュリティ」という技術的問題、後半の話題に関しては機密保持・契約(特許など)という法的・道義的問題を含んでいる。これらの問題は、特に学外連携において十分留意しなければならないことであり、技術開発と意識啓蒙など今後の取り組みが望まれる。



テーマ別自由討議(6月21日)

E:ネットワーク利用者支援とユーザ管理

 インターネット等の普及拡大に伴い、大学内の情報ネットワーク環境も次第に多様化、高度化し、ユーザ管理やユーザ教育あるいはトラブル対応など、利用者支援のあり方やその組織体制に様々な課題が残されている。本分科会では、まず、鳩貝耕一氏(甲南大学情報教育研究センター助教授)ならびに深堀太博氏(甲南大学情報教育研究センター事務室)から甲南大学における無線LAN環境の状況や大学OB等の利用を含む高度知的工房空間の利用環境について紹介いただくとともに、これらの利用に伴うセキュリティ対策等の問題点について課題提起いただいた。また、甲南S-net計画に基づくノートPCの貸出しや必携推奨事業ならびに教材コンテンツ作成支援の現状と問題点、あるいは現在計画中である履修登録のオンライン化やポータルサイトの構築に伴う統合認証システムの必要性などについて紹介いただいた。フロアーからは、大学OBが利用する際のアカウント管理の方法や、常駐スタッフによる教材コンテンツ作成支援の状況、ノートPCのトラブル対応方法など多岐にわたる質問が寄せられた。後半の討議では、情報環境利用に伴うITリテラシー教育の方法やノートPC必携に伴うトラブル対応について意見交換が行われた。学生のノートPCに関わるトラブル対応については、複数の大学から事例報告をいただいたが、いずれも職員では責任がとれないため、業者窓口を開設してトラブル対応を行っているとのことであった。また、利用者のリテラシー教育については、学生はもとより教員の利用に対する教育が必要であり、教員に対する試験制度導入の必要性やネットワーク利用の制限を設けざるを得ないなどの意見が寄せられた。


F:電子化教材作成の支援組織

 e-Learningはまだ用語が先行し、IT利用の教育関連を包括した幅広い意味で用いられている。本分科会では課題提起として、幼稚園から大学院に及ぶ幅広い教員の教材作成の支援を一つのセンターで取り組まれている興味深い事例が入澤寿美氏(学習院大学計算機センター教授)、松本喜以子氏(現:東京農工大学助手)から紹介された。教員の自助努力によるマルチメディア教材製作とその利用による教育もe-Learningの一形態だとされる同教授らの見解は参加者の共感を得ていた。同センターの活動目標の実践と成果は教材作成支援を越えて示唆に富むものであった。主な内容は以下の通り。
 1)教材の作成自体には一切関与せず、作成に必要なPC利用技術の習得を全面的に支援する。最も極端な事例として、ある教員の外国出張中のホテルからFAXによる支援要請を受け、教員持参のPCからホテルの電話回線でインターネット接続する詳細な手順をそのホテル特有の仕様も含めてFAXで指示して、接続に成功した逸話が紹介された。フロアからは溜息まじりの賞賛のざわめきが起った。2)補正予算を活用して全教室の半数近くをマルチメディア対応の教室に改装し、かつ、これらの教室では機器の正常な動作を常に保証する体制を学生も利用して整えた。3)利用者からの多様な質問は、各施設をほぼ1週間単位で巡回する「勉強会」に利用者が持ち込んで問題提起し、これに対しセンター派遣の職員が応答する。このような運営を3年間続行した結果、教員の技術レベルの向上とともに、マルチメディア教育の普及を呼びかけることなく、講義内容と教員各自の技術に見合う手法で作成した教材利用の教育が多様な形態で実践されていることが報告された。
 フロアとの質疑応答の中で、教員の自発性の向上には2)の二つの要件が貢献し、3)も寄与しているとの説明も示唆に富むものであった。
 参考までに、学習院大学計算機センターのWebを参照されたい。
http://www.gakushuin.ac.jp/univ/cc/


G:高等教育に及ぼすIT化のインパクト−その世界的潮流−

 最近e-Learningと言う言葉が一般的になってきたが、まだ概念が明確ではなく、また、本分科会のテーマである「高等教育に及ぼすIT化のインパクト」も、日本では結果を出すまでに至っていない。前半のセッションでは課題提起者として吉田文氏(メディア教育開発センター教授)から、米国におけるe-Learningの歴史的な経緯、現状、勝ち組と負け組、教育業界に与えたインパクト等が紹介された。本格的なe-Learningは、1989年に開校し5万人の学生を有するフェニックス大学に代表されるが、その後収益性が高いとして各大学が参加しており、2002年では62.5%の大学が何らかのe-Learningのコースを開講している。しかしながら、市場価値があるとされたe-Learningは、営利大学であるフェニックス大学の一人勝ちとなっている。本大学の特徴は大学に教員が居らず、ほとんどすべてが非常勤である。また大学は研究と教育をする場とされてきたが、ここでは研究活動をせず、知識生産をしていない大学である。e-Learningの主な対象は社会人であり、米国では高等教育人口の40%が25才以上で占められている。教育の内容では職業訓練的な科目が多く、達成度を容易に設定できる科目が多い。日本でe-Learningが発展するにはインストラクショナル・デザイナーが不足しており、有職成人の学生の増加がさらに必要である。通学制と併用するハイブリッド型の可能性も高いが、大学のコスト負担能力が問題となる。後半のセッションではフロアーを含めた活発な質疑応答が行われ、コストはどれほどか、コミュニケーションの度合いは、アクレディテーションについて、e-Learningは教育効果があるかなどの質問があった。


H:リテラシー教育 −新たな展開に向けて−

 和田悟氏(明治大学政治経済学部助教授・情報科学センター)と、濱谷英次氏(武庫川女子大学情報教育研究センター長)より課題提起をいただいた。
 明治大学では一学年あたり5,300人の学生の75%ほどに対して情報基礎論を、週100コマ、非常勤を含めて40名以上で実施している。これらについて報告があった。
 内容統一のためにミニマム・リクワイアメントを作成し、
インターネット(仕組みを理解し、学術情報環境の活用をめざす)
情報倫理(知的財産やセキュリティも含め、情報環境の適正な利用を知る)
に加えて、メディア論、コミュニケーション論、情報文化など社会的な広がりを採り入れることを求めている。年に一度担当教員を集めて意見交換会も行っている。
 スキル教育はやめてしまっている。その代わりに学生が自主的に参加できる基本操作学習支援のための講習会(90分)やヘルプデスクがある。担当教員間の情報共有をメーリングリストで行えるようにするなど、いくつか教育支援が用意されている。教材はhttp://www.kisc.meiji.ac.jp/manuals/ 等にあるので参照されたい。
 武庫川女子大学では、大学7,000名、短大2,000名、他あわせて1万名(文系)対象の基礎情報教育科目を外部委託しており、その報告があった。
 当初、基礎情報教育と学科専門科目とで内容の重複があり、その役割分担の明確化が課題とされた。今は情報基礎教育科目を全学規模で新設し、1年生後期ともに1科目ずつ、前期は必修とした(前期は操作習得、後期は学科によって内容が異なる)。
 講座ごとにメイン1名、受講生20名に1名程度のサブインストラクターをつけて外部業務委託で開講している。評価は日常的指導状況、課題提出状況、内容などで専任教員が判定する。ここでも指導内容の一貫性の重要さや、高校での教育を受けた学生を受け入れる時期までの過渡的な措置であることが強調された。
 資格取得との連携や、既に操作を習得している学生への対応(進度別クラス編成)などを検討中。
 その後全体討議では多く議論があった。代表的なものは以下の通りである。
2006年春に高校で教えられてきた学生が入ってくるインパクトはどのようなものだろうか?何か対応作業を始めているところがあれば事例紹介して欲しい。
高校での状況について私立大学情報教育協会で話してもらえないか?
Web 履修登録など、新入生の授業より前に操作を要求する場面があるが、それらの操作法のレクチャーはどうしているか?


文責: 教育情報化フォーラム運営委員会
  委員長 立正大学 山崎 和海
委 員 獨協大学 立田 ルミ
  慶應義塾大学 加藤 文俊
  日本大学 宮本  晃
 
早稲田大学
平澤 茂一
  中部大学 足達 義則
  京都産業大学 安田  豊
  関西学院大学 北橋 忠宏
  長崎総合科学大学 横山 正人



【目次へ戻る】 【バックナンバー 一覧へ戻る】