特集 IT活用によるファカルティディベロップメントへの取り組み(3)

関西学院大学におけるファカルティディベロップメントへの取り組み
〜Web上でのシラバスと授業評価システムの連携例〜


村田 治(関西学院大学教務部長)



1.はじめに

 関西学院は、1889年の創立から114年を経た現在、上ケ原キャンパスと神戸三田キャンパスの二つのキャンパスに8学部からなる大学を擁しています。大学各学部の学生数(2003年度収容定員)は、神学部80名、文学部(文化歴史学科、総合心理科学科、文学言語学科)2,460名、社会学部(社会学科、社会福祉学科)2,100名、法学部(法律学科、政治学科)2,120名、経済学部2,280名、商学部2,080名(以上、上ケ原キャンパス)、総合政策学部(総合政策学科、メディア情報学科)1,700名、理工学部(物理学科、化学科、生命科学科、情報科学科)1,144名(以上、神戸三田キャンパス)、および2003年5月1日現在の教員は、専任教員388名、実験助手・教育技術主事13名、非常勤講師934名です。
 関西学院大学では「授業を通じた知的活性化の推進委員会」を1998年度に設置し、
 1) 「英語の関学」にふさわしい英語教育
 2) 授業評価・ファカルティディベロップメント(FD)の推進
 3) 情報関連教育の充実(ソフト、ハード両面からの整備)
 4) キリスト教主義教育の充実・活性化
の4点を重点推進事項として、さまざな方策を検討してきました。今回は2)の「授業評価・FDの推進」の中から、シラバスのWeb化と授業評価システムについての現状と今後の課題について報告します。


2.FDについての基本的な考え方

 関西学院大学では、「知的活性化」をキーワードにFDの視座を「教育の質的向上」におきました。この「教育の質的向上」は、教員の自発的努力による教育改革(授業改革)の推進によってなされるものであるという考え方に基づいており、FD活動自体もトップダウン方式ではなく、教員の自発的努力を支援する仕組みの中で行われています。したがって、推進の形態も教務委員会のもとに全学的専門部会として「ファカルティ・ディベロップメント部会」を設置して情報の共有化を図るとともに、その下に学部・センター等カリキュラム提供部局ごとに分会を置き、FD推進のための具体的な活動を行うという形を取っています。


3.FD活動とシラバス・授業評価

 FD活動を自発的に進めるためにまず、授業の活性化を促すという観点から、学生・教職員の相互啓発を行うことから始めました。2000年度秋に教務部と総合教育研究室との共催で「こんな授業にしてほしい〜学生の言い分、教師の言い分〜」をテーマに教員と学生がパネリストとなったシンポジウムを開催し、活発な意見交換がなされました。これによって、「学生が授業評価を行う」という意識の喚起ができたのではないかと思われます。次いで、2001年度に学生への情報充実として、講義概要をシラバスとして整備することに取り組みました。一部の学部で既にシラバスは実施されていましたが、全学的に大学として統一した様式のシラバスを作成し、ホームページに掲載しました。このことによって、授業に関する十分な情報開示の必要性が、多くの教員に認識されたのではないかと思います。さらに、2003年度からの事務電算システム再編の前段階として、2002年度には教務事務システムの中に学生による授業評価をも組み込んだ、イントラネットによるシラバスシステムとして改編し、その運用を始めました。もちろん、この「学生による授業評価システム」は先に述べたように、教員の自発的努力による授業改革を促進するためのツールの一つとして設けたものです。


4.シラバスシステムと授業評価の連携

 教務部では、かねてより課題となっていた大学要覧(講義概要、諸規程等を掲載)のコンパクト化とWeb化を検討していましたが、シラバスのWeb化(ネット化)が、諸条件の中で急進してきました。特に事務電算システムの再編は大きな要因となっています。新しい教務事務システムでは、履修登録から始まる一連の教務事務についてのトータルシステム化を図り、教学をサポートすることを目指しており、この流れの中でシラバスのネット化が編成されました。

(1)シラバスシステム

 新システムの特徴にWebからの学生・教職員の教学情報等へのアクセスがあり、この中の一つとして、シラバスシステムがあります。教務事務システムからは、新年度のカリキュラムが決定され次第、シラバス用の原稿フォームの出力ができます。また、あわせてシラバスシステムではWeb上にもフォームをカリキュラム編成と連動して作成することが可能となりました。これによって、教員は紙あるいはフロッピーディスクで原稿を提出することのほか、個人のID、パスワードを入力することによってWebからこれにアクセスし、シラバスの内容を直接入力・修正することもできます。このWebシラバスでは、新年度のカリキュラムデータが入力されれば、授業科目、クラス、担当教員名などが入ったフォームが作成され、教員は所定の項目(講義目的、各回ごとの授業内容、授業方法、成績評価方法・基準など)を直接入力することになります(図1)。ここで入力されたシラバスデータから冊子状の大学要覧の原稿を作成するためのデータを抽出することができるほか、紙あるいはフロッピーディスクで提出されたシラバス原稿のデータをWebシラバスにアップロードするシステムも併設しています。

 
  図1 Webシラバスの修正画面

(2)授業評価システムの連動

 前記のシラバスシステムのサブシステムとでもいうべき機能として、各授業のシラバスについて授業評価(学生による授業評価)のフォームを組み込みました。
 Webでの授業評価を行おうとする教員は、シラバスシステムのメニューから授業評価の設定を行います。授業評価のフォームは、教務部で作成した大学共通のフォーム(図2)のほかに質問項目を自由に記述できる白紙のフォームも用意しています。これらのフォームは6段階の回答肢からなる質問項目と自由記述欄とになっており、それぞれに集計(自由記述欄はテキストで表示)されます。各担当者は随時アンケート結果を画面で照会することができるとともに、CSVファイルでデータをダウンロードすることができます。また、各科目の履修者データともリンクさせているため、アンケートの提出状況もわかります。履修者のデータとアンケートをリンクさせることによって、履修登録をしていない学生からの書き込みを除外し、信頼度の高い結果を得ることができます。

 
  図2 授業評価の大学共通フォーム


5.今後の課題

 FDを推進するためのツールとしてITを活用していくことは、本稿の例のように様々な事務システムとの連携を図ることによって、フォームの作成や集計、配布・回収の手間など教職員の負担を一部軽減し、「手軽に」FDの諸活動を行える可能性がありますが、どんなシステムを作ったとしても、教員・学生にうまく協力・利用してもらえるかが問題となります。本学のシラバスは先に述べたように、2001年度からWeb化を行ったシラバスシステムは、2004年度以降、原稿を直接ネット上から入力したり修正したりすることができるようにしましたが、直ちに紙やフロッピーディスクでの提出がなくなるものではなく、Web入力を促進していく必要があります。これに加えて、シラバスの講義概要などを掲載した大学要覧のスリム化を進め、将来は廃止の方向で検討を行っていますが、学生・教職員のための学内のIT環境の整備はまだまだ十分とは言いがたく、紙媒体の大学要覧とWebのシラバスとの併存が当分続くことになると思います。また、システムの問題としては、事務システムのデータと密接にリンクを行ったことにより、プログラムの複雑化を招いたと同時に膨大なデータ量を短時間に処理しなくてはならないために、ホストコンピュータの負荷が大きくなり、必ずしも順調な運営であるとは言えない状況です。インフラの整備とシステムの整備をバランスよく進めていくことが求められています。



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