特集 IT活用によるファカルティディベロップメントへの取り組み(4)

福岡大学における全学的なIT環境整備への取り組み

吉村 賢治(福岡大学総合情報処理センター長)



1.はじめに

 本学は、昭和9年に創立された福岡高等商業学校を前身とする私立の総合大学で、法人としては附属中学校と附属高校、附属看護専門学校、二つの大学病院を擁しています。大学は9学部30学科と大学院9研究科31専攻からなり、学部と大学院を合わせて約21,500名の学生が在籍しています。
 本学におけるファカルティディベロップメント(FD)は、平成13年に設置された教務担当副学長を議長とするFD推進委員会を中心にして、講演会や授業評価アンケート等が実施されています。ITを活用したFDに関しても、各部局でハードとソフトの両面から取り組んでいます。例えば、ハード面では教務部や各学部によるマルチメディア教室の設置(本稿執筆時現在で28教室)や総合情報処理センターによる一般講義室等への学生用情報コンセント設置(本稿執筆時現在で19教室の1,719口を含む2,213口)が継続的に行われ、ソフト面では総合情報処理センターの支援によるVOD教材の作成や総合情報処理センターと共通教育センターによる情報リテラシー教育を目的としたe-Learningシステムの導入などが行われています。
 このようにIT技術を活用したFDへの取り組みは言語教育研究センターによるCALLシステムの導入など現在検討段階のものも含めて継続的に行われていますが、これまで本学における情報化は、教務系や財務・会計系などの事務システムも含め、それぞれの担当部署で必要に応じて半ば独立に進められてきた結果、ユーザ認証の多元化やデータ連携の非効率化、データベースの重複などの問題が生じ始め、ITを活用したFDの今後の展開においても無視できない状況になりつつあります。
 このような現状を見直し、さらなる情報化を効率的に進めることを目的の一つとして、平成14年11月に財務担当副学長を議長とする情報化推進委員会が設置されました。本稿では、現在本学で情報化推進委員会を中心にして進行しているIT環境整備の状況について紹介します。


2.情報化推進委員会

(1)委員会の構成

 情報化推進委員会は、副学長、事務局長、文系学部長1名、理系学部長1名、教務部長、学生部長、図書館長、研究推進部長、福岡大学病院長、大学院学務委員長、総合情報処理センター長、総合情報処理センター研究開発室長、総合情報処理センター事務室長の13名で構成され、次に示す6分野の専門部会とこれら専門部会の取りまとめを行う情報化推進統括専門部会を下部組織として持ちます。

1) 学生教育・生活支援分野情報化基本構想検討専門部会
2) 研究分野情報化基本構想検討専門部会
3) 情報公開・広報分野情報化基本構想検討専門部会
4) 医療分野情報化基本構想検討専門部会
5) 大学運営及び管理業務分野情報化基本構想検討専門部会
6) 情報基盤分野基本構想検討専門部会

 それぞれの専門部会は、情報化推進委員会の委員を部会長とし、関連する各種委員会の委員や事務局の次長など20名程度で構成されています。

(2)基本理念の策定

 情報化推進委員会は、最初に「情報化」を福岡大学の「建学の精神」や「教育研究の理念」を実現する一つの手段としてとらえたうえで、情報化の「3つの基本理念」を掲げ、これを実現する際の「5つの指針」を示しました。

【3つの基本理念】
1) 情報の蓄積と共有により、人間性豊かなキャンパスコミュニティを形成する。
2) 情報の活用と、情報伝達の高速化により、本学の教育・研究・医療および法人運営の効率化と高度化・充実を図る。
3) 学外への情報発信と情報公開を積極的に行い、本学のさらなる社会的価値を創造する。

【5つの指針】
1) 利用者(学生、患者および全大学職員)の立場にたったシステム構築を行い、ハンディキャップを持つ利用者(学外を含む)に対しても十分な配慮を行う。
2) 学生を含む本学構成員の情報リテラシー向上と、ネットワーク社会におけるセキュリティ意識の浸透を図る。
3) 急速な社会的・技術的変化に対応し、全学的に統合化された効率的な情報システムの整備と再構築を、財政面を含めて計画的に推進する。
4) 適切なアウトソーシングの活用と、情報化に必要な学内の人的資源の養成・確保を図る。
5) 情報化の進展に対応した学内の業務改善や組織改革を積極果敢に行う。

(3)検討課題の集約

 各専門部会は、基本理念と指針に基づいてそれぞれの分野における現状での検討課題をまとめました。各分野から提出された検討課題は、基本構想統括専門部会おいて、次に示す五つの情報システム構築とそれらの導入に関連する制度的検討項目として集約されました。

 また、これらのシステム構築を適切に推進するためには外部の専門家によるコンサルティングが必要であることが報告され、基本構想策定のためにコンサルタントを導入することが平成15年7月の情報化推進委員会で決定されました。


3.コンサルティングの実施

 全学的な情報化基本構想策定に対するコンサルタントの導入に先立ち、多様化するカリキュラムの変更などに対応できなくなりつつある教務系システムを検討課題の一つに持つ、学生教育・生活支援分野情報化基本構想検討専門部会では、平成15年5月にコンサルタントの導入を決定し、同7月からコンサルティングの作業が開始されていました。このコンサルティングの目的は、学生の利便性向上を第一義に考えた学生教育・生活支援の効果を高める教務系システムの構築計画策定です。教務系システムに関するコンサルティングは平成16年2月末に完了し、現在は3月末に完了する他分野のコンサルティングの最終報告を待っている状況です。
 現在行われているコンサルティングは大きく分けて次の四つのシステム構築計画策定をその対象としています。

●学生教育・生活支援システム
 前もって行われた教務系システムのコンサルティング対象に含まれていない授業情報化支援システム(e-Learningシステム、デジタルコンテンツ作成支援システムなど)、ICカードシステム、教育研究システムを主な対象とする。

●学内外の情報共有・情報公開のためのシステム
 学外への情報公開として、ホームページのあり方、学内での情報共有として、文書管理システム、グループウェアを主な対象とする。

●大学運営・戦略的経営情報システム
 経営情報システム、財務システム、人事情報システム、人事給与システムと情報化を効果的に推進するために必要な制度・組織の見直しを主な対象とする。

●情報基盤
 統合ユーザ管理システムに基づいた統合認証基盤を主な対象とする。


4.中長期計画の策定

 現在コンサルティングの対象になっている各種の情報システム以外に、既定のスケジュールで平成17年度に入れ換えを予定している主なものには、総合情報処理センターが管理する教育研究システム、図書館が管理する図書館情報システムがあります。また、平成18年度には附属病院の一つでも電子カルテやオーダリングシステムを含む医療情報システムを導入することが決定しています。平成16年の3月、4月はこれらのシステム入れ換えを軸にして、二つのコンサルティングの結果報告を盛り込んだ中長期計画の策定が主な作業になります。
 平成16年度は、策定された中長期計画に基づいて、順次個別システムの詳細設計を行っていきます。これと平行して、規定集の電子化や緊急の対策が指摘されているホームページの改訂などが行われる予定です。


5.おわりに

 本学は5年後の2009年に創立75周年を迎えようとしています。全学的なIT環境を整備し終えて創立75周年を迎えることを目指していますが、もちろんこの間もe-Learningコンテンツの充実やCALLシステムの導入など、FDを目的とした情報化は継続的に行っていく必要があります。そのためには、中長期計画に沿った無駄のない情報化投資を行うために必要な制度・組織の見直しや個人情報保護のためのセキュリティポリシーの策定、デジタルコンテンツの著作権規定の策定など多くの課題がありますが、ITを活用したFDを推進するためには、教員のデジタルハンディキャップを解消するためのSD(スタッフディベロップメント)が重要であることを痛感しています。
 これまで職員向けのIT講習会開催やVOD教材の作成支援などは総合情報処理センターで行ってきましたが、授業情報化支援システムを本格的に活用していくためには、デジタル教材作成支援などを専門に行う組織が必要になります。情報化基本構想の中には、この役割を担う組織として教育支援センターの設置も盛り込まれています。



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