教育ミッションとIT化(2)

名古屋学院大学における教育へのIT活用に対する取り組み

皆川 芳輝(名古屋学院大学商学部教授)



1.本学の概要

 名古屋学院大学は、キリスト教主義に基づき、「敬神愛人」を建学の精神として、1964年に開学されました。現在、「学ぶ喜び」を教育目標として掲げています。その下、約4,500人の学生(経済学部、商学部、外国語学部、経済経営研究科、外国語学研究科、留学生別科)がキャンパスに集い、将来の夢を追求しており、約180人の教職員(専任)がそれを支援しています。
 本学は、キリスト教主義に基づく教学の精神に従って、人々の幸福に貢献する学生の育成を使命にしています。最近においては、情報化社会の健全な発展に資する人材の育成を重視しています。
 本稿では、名古屋学院大学における教育へのIT活用の取り組みを紹介します。


2.本学におけるITを用いた教育支援システム

 名古屋学院大学は、1994年の学内情報ネットワークの本格的な整備以降、3年周期で学内LAN環境を拡充してきました。現在では、情報コンセント設置場所が教室をはじめとして図書館や食堂までキャンパス全体に及んでおり、1,900を超えるノートパソコンが同時にネットワークにアクセスできます。さらに、1996年より全学部のすべての学生に対して入学時にノートパソコンを配付し、またインターネットIDも与えています。学生は、全員1年次に情報教育関連科目においてノートパソコンおよび学内情報ネットワークを用いて情報リテラシーの修得に励みます。
 本学は、最近において、新しい情報システムを相次いで開発しました。まず、2001年度に教育支援システムと自学自習システムがスタートしました。これらはともにネットワークを利用したWebベースのシステムであり、学生の能動的な学習を促進します。さらに、翌年度からはCCS(キャンパス・コミュニケーション・システム)が稼動しました。その全体概要は、次ページの図の通りです。CCSの主要な目的には、次の二つがあります。
 一つは、学生を日常的にITに触れさせ、それを通して、学生に「ネット社会のあるべき姿」を考察させることです。もう一つは、学生・教員・事務局の3者間のコミュニケーションを従前に増して活性化させ、学生一人ひとりに対応したきめ細かな教育・指導を徹底して実施することです。

図 CCSの全体概要

3.教育におけるIT活用の重要性

 大学がe-Learning[1]を推進すべきかについては議論の分かれるところです。ITを教育において活用すべき理由としては、とりあえず次の三つがあげられます。
 まず、今日では健全な高度情報化社会の構築に貢献する人材の育成が大学の使命になっています。したがって、文系大学でも、学生がIT機器を使用する機会を増やして、学生にITが与える社会・経済への影響を学習させることが必要です。これこそが、本学のCCSの目的です。
 また、多くの学生がすでにコンピュータ・リテラシーを保有していることも重要です。その結果として、教育においてITを使用すれば、教育的効果は格段にあがります。換言するならば、学生はITによるコミュニケーションが苦手であるどころか、逆に得意であり、したがって、従来の集合教育・対面講義だけでなく、ネットワークを利用した教育・講義をも取り入れるならば、講義の魅力は倍化します。
 さらに、従来の対面講義においてe-Learningを活用することによって、学生の講義内容の理解促進が期待できます。本学では、何人かの教員がe-Learningの効果測定を試みています。それによると、実際に、Webベースの自学自習システムは、試験成績に対してプラスの影響を与えます。たとえば、「情報処理入門」は、学生が講義内容をいつでも学習できるWeb-Based自学自習システムを使用しています。このシステムの利用度と期末試験の成績との関係を分析した結果、成績の良い学生ほどWeb-Based自学自習システムを積極的に利用していることが明らかになりました。また、会計関連科目でも同様な効果があがっています。当該科目は、事前学習向けのWeb-Based自学自習システムを構築・使用しています。効果分析は、「成績の良い学生の中にはWeb-Based自学自習システムをよく利用する学生が多い」という結果を示しました[2]


4.魅力あるe-Learningシステムの開発

(1)FD活動

 上で述べたように、学生はすでにITスキルを身につけています。さらに、教育におけるIT活用は、学生の講義内容の理解促進に貢献します。したがって、たとえ教職員がITスキルを未だ習得していないとしても、大学はe-Learningを推進しなければなりません。しかし、e-Learningは、学生がそのシステムを積極的に使用してはじめて効果が上がります。そのためには、学生を引きつけるシステムが重要です。
 本学は、学長のリーダーシップの下でFD(ファカルティ・ディベロップメント)を実施しています。FDでは、柱の一つに魅力あるe-Learningの開発ならびにその運用を置き、現在、次の活動を行っています。まず、教職員相互間のCCS利用方法の共有を推し進めるために、CCSに基づく授業改善の諸事例を冊子にまとめて、それを教職員に配付しています。また、教職員研修会でIT活用事例発表を行い、全員で有用なCCS利用方法の修得および新しい活用方法の開発に努めています。さらに、新しいIT活用教育手法を創るために、モデル講義プロジェクトを実施しています。たとえば、外国語学部のグループは、CCSを利用して学生に英語で意見を発表させる形態の授業の開発やネットワーク機能を利用して教室外でも使用できる自習システムの開発などに取り組んでいます。今後は、これらの活動を継続するとともに、新たな取り組みも実施する予定です。

(2)学生を引き付けるWeb-Based教育支援システム

 本項では、本学の自学自習システムおよびCCSにおける魅力アップに向けた仕組みを示します。
 自学自習システムのユーザー(学生)は、自分のパソコンでインターネットを通じて択一式の設問を繰り返し解答します。ランダムで出題される5択式の設問を解くと、すぐに採点結果や解説がブラウザーに表示されます。さらに、問題を解いた学生の中でのランキングがハンドルネームの形でディスプレイに出ます。このように、自学自習システムの開発においては、学生に嫌われないシステムを狙って、「ゲーム感覚で学習できる」をコンセプトとしました。
 次にCCSに移ると、教職員がこれを使って伝達する情報は、パソコンだけでなく学生の携帯電話にまで転送されます。学生は希望さえすれば、CCSによって伝達される情報のうちの一部を携帯電話からも見ることができるのです。今や、携帯電話は学生の必需品です。そのような携帯電話をCCSと一体化させることによって、学生のCCSに対する親近感は一層増します。


5.今後の課題:コンテンツ作成に対する支援体制の強化

 e-Learningの発展には、全学的なコンテンツ作成の活性化が不可欠です。しかしながら、コンテンツ作成には相当な時間を要します。また、必ずしもすべての教員がコンテンツ作成に慣れているわけではありません。したがって、人的支援が重要になります。本学の場合、現在のところ、情報教育センターの支援が中心です。しかし、これにも当該センター・スタッフ数の面から一定の限界があります。そこで、目下、全学的な支援組織づくりや他大学との連携強化などを検討中です。

注および参考文献・関連URL
[1] e-Learningについて、清水康敬先生は、ディスプレイの提示内容に対して、能動的な学習者がインタラクティブに学ぶ形態と定義しておられる。サイバーキャンパスとこれからの大学教育. 大学教育と情報, Vol.11 No.4, pp.2-9, 2003.
http://www.juce.jp/LINK/journal/0302/03_01.html
[2] 名古屋学院大学の会計関連e-Learningについては、次の文献を参照されたい。岸田賢次:簿記e-Learning兼教育支援システムについて. 大学教育と情報, Vol.11 No.4, pp.25-27, 2003.
http://www.juce.jp/LINK/journal/0302/04_01.html




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