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通訳トレーニングに対応したCALL教室の構築

長尾 ひろみ(神戸女学院大学英文学科助教授) 出口 弘(神戸女学院大学情報処理センターディレクター)



1.はじめに

 2002年度より神戸女学院大学文学部英文学科では通訳教育プログラムを立ち上げた。これは通訳者養成トレーニング法を手段として使い、将来の通訳者養成、あるいは仕事で英語をコミュニケーションの手段として活用できる人材の養成を目的とするものである。また、2004年度からは文学研究科英文学専攻では、さらに大学院レベルでのプロ通訳者養成、また通訳・翻訳論の研究者養成を目的として日本で初の通訳コース修士課程を設置した。
 そこで用いる通訳者養成基礎トレーニング法としては、1)Shadowing(反復練習による発音、イントネーション、アクセントの矯正)、2)逐次通訳練習(発話を区切って訳す)、3)同時通訳練習(聞くのと同時に訳す)、4)Paraphrasing(発話された文章を内容を変えずに異なる表現で言い表す)、5)Summarizing(要約)、6)Sight-translation(文章を目で読みながら他言語に変換した訳文を、あたかもその言語で書かれているかのように読みあげる)などがあり、これらの通訳トレーニング技法を用いた効率良い学習を実施するための設備と教室が必要となった。


2.通訳トレーニングのためのCALL教室

 PC教室の増設、ITを活用した授業への要求に対応するための2003年度の情報科学教室システム更新に合わせて、通訳トレーニングに対応したCALL教室を新たに整備した。CALL教室構築に向けては、ヒアリング並びにデモンストレーションを依頼した数社の中から、我々の要求仕様が実現するシステムとして、島津理化機器のeCALLを中心としたキヤノン販売(株)のシステムを選定した。
 具体的なシステム構築にあたっては、まず通訳を教える立場の教員から希望を出し、それに応えてエンジニアがシステム開発を行っていった。通訳トレーニング以外でも活用できるように、30人のPC教室をベースに、LL機能を実現し、さらに教室内に同時通訳ブースを2室設け、一度に4人がブースに入ることを可能にした。 なお実際の工事は、夏季休業期間を利用して、空調、OAフロア等の普通教室の改装を開始し、PC関連搬入調整、CALL関連搬入調整を行い、2003年度の後期から実用を開始している。



3.教員側の要求とシステムの対応

1)同時通訳ブースをコール教室内に設けたい。
 同時通訳ブースは、狭い教室内にコンパクトに配置する必要性から、パーティションシステムを利用して設置(図1)。学習環境を現在利用されている実際の同時通訳ブースに近づけるため、通訳ブース内端末は会議システムとしてメーカ販売されている実機を利用した。

後方の同時通訳ブース
 
教員用操作卓
図1 同時通訳ブースを備えたCALL教室
2)同時通訳者の通訳音声がフロアの学生のヘッドホンで聞こえるように、また、場合によっては教室スピーカーからも聞こえるように使い分けたい(図2)。
図2 ルームスピーカーの使い分け
 音声は「同時通訳ブース」「CALL学生フロアブース」「教室内スピーカー」の各ラインへ様々な組合せで流せるようにした。また、映像は音声と分けて(例:ビデオ音声は流すが、画面は教材提示カメラ上の資料を表示など)送出できるように構成した。

3)Shadowingや同時通訳の練習時には、学生に教材の音声のみが聞こえて自分の声がヘッドホンから聞こえない状態にしたい。
 学生マイクカット機能を取り付けた。

4)しかし、マイクカットした音声を卓上でテープ録音し、自分の音声を反省材料として後で聞く(リフレクティブ・スタディー)ようにしたい。
 音声のミキシングは現在主流のデジタル式音声ネットワークでは操作が複雑になり、またPCに影響されない音声品質の確保が必要なため、アナログ式の音声ネットワークベースでシステムを構築した。

5)Shadowingや同時通訳をしている学生一人ひとりを教員がモニターするときに教材の音声が邪魔になるため、教材音声をカットし、学生の音声のみをモニターしたい。
 学生音声のみのモニターシステムを構築した。

6)音声と映像を駆使するが、授業を円滑に行うために、操作が簡単なシステムにしたい。
 多様な授業を可能にするが、教卓の操作性を良くするために、操作タッチパネル(図3)にした。

7)電子化済み教材をはじめ多様な教材(テープ、CD、DVD)をPCに取り入れ、同時通訳や逐次通訳の練習に使いたい。またDictationの練習、SummarizingやParaphrasingの練習もPC上で可能にしたい。
 PC側で音声教材の録音・練習が行えるように、ソフトレコーダ(図4)をインストールした。
図3 教卓の操作タッチパネル
図4 ソフトレコーダー
8)DVDやCD(CNNやBBC)教材は大スクリーンに映像を映しながらその音声を通訳したい。
 映像送出ラインは学生卓上の中央モニターと教室の天吊液晶プロジェクターへの2系統送出を設定した。

9)通訳教材を聞きながら、分からない単語は英日・日英辞書、国語辞典で調べたい。
 各PCに辞書(リーダーズ+プラスと広辞苑)をインストールした。

10)通訳教材の背景知識を構築するため、即インターネットを用いてその場で情報を収集したい。


11)あらゆる教材を一旦PC内に取り入れデータ化した後、学生に一斉配信したい。学生は教材を自分のPCに保存することも、FDやUSBメモリースティック等で自宅に持って帰ることも可能にしたい。


12)通訳の練習で必要なペアリングができ、ロールプレイをその場でしたい。


13)出席管理をPCでしたい。


 10)〜13)はPC教室をベースにしたCALLシステムなので、インターネット利用をはじめPCでできること、あるいはCALLシステムの既存の機能で実現できた。


4.通訳トレーニング効果

 同時通訳ブースの中には本格的な同時通訳機器が設置されているため、LLの席で同時通訳をするのとはまったく異なった緊張感が体験でき、学生たちには大変好評である。またLL機能で音声練習をしていながら、通訳するための教材に対する背景、知識をその場でインターネットで検索したり、PC内臓辞書(英和、和英、国語辞典)を検索しながら、耳から入ってくる教材の分からない単語を即調べ、Excelを同時に立ち上げ自分の単語リストを作成保存するなど、学生にとって効率よく学ぶことができる。また、教材音声と混同せずに学生の音声のみをモニターできるので、教員の疲れも半減した。
 ソフトレコーダー導入でDVDやCD、テープ教材をPC内にデータ化することで、一斉に学生に教材を送ったり、デスクトップの共通フォルダーに教材を保存することにより、学生がUSBメモリーで取り出し、自宅で予習・復習が簡単にできるようになった。学生たちの興味を引き、出席率がほぼ100%で安定している。学習意欲も大きく膨らんでいるようである。
 2002年度からの学生への好影響と、彼らの英語力アップの成果が顕著に表れたため、その結果を基に、2004年7月に文部科学省「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」に「通訳トレーニング法を活用した英語教育〜英語運用能力向上の新しいプログラム〜」というプロジェクトで申請した結果、採択された。


5.まとめ

 PCシステムとLL装置、同時通訳ブースなどの通訳トレーニング専用機能を組み合わせたCALLシステムは開発段階であるが、マイクカットや学生音声のみのモニターシステムなどを網羅したものとしては国内初めてのシステムとなった(図5)。今回のシステムの構築にはそれぞれの分野の専門担当者(システムコンサルティング、AV機器(音声)、PC(教員・学生用PC設計)、制御システム・プログラム)の連携が必須条件であった。
図5 CALL教室システム図



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