私情協ニュース2

平成16年度「教育の情報化フォーラム」開催される



 平成16年度「教育の情報化フォーラム」が6月11日(金)、12日(土)の2日間、武庫川女子大学(西宮市・中央キャンパス)において開催された。参加者数は、昨年度とほぼ同数の約350名余り(123大学、25短期大学、賛助会員16社)を数え、今後の授業改革や教育改善の視点からの「情報技術を活用した教育の情報化」に関わる問題について、テーマ別(8分科会)に幅広い討議が行われた。
 第1日目の全体会では、フォーラム運営委員会の山崎和海委員長(立正大学)の司会のもと、私立大学情報教育協会の戸高敏之会長による開会挨拶、引き続き会場校を代表され、武庫川女子大学の山本俊治学長による同大学の教育の情報化への取り組み紹介など、示唆に富んだ挨拶が行われた。その後フォーラム運営委員の紹介に続いて、「教育のオープン化と質の高い授業の実現〜米国MITの事例をふまえて〜」と題し、MIT(Massachusetts Institute of Technology)教授の宮川 繁氏による基調講演が行われた。MITのOpen CourseWare Advisory Boardメンバーである同氏より、2003年10月時点で500コース(80万人の個人ユーザが閲覧している)が、2004年3月時点で700コースがオープン化されているOpenCourseWare(OCW)の状況とともに、OCWプロジェクトの真意(教材のオープン化と大学教育の意義やMITの教育システム、そのモデルなど)について紹介いただいた。その後、会場との積極的な質疑応答も行われ、「教育資産の活用と教育のアイデンティティ」、「大学教育を巡るコミュニティ作り」、「OCWの公開と教員に対する授業改善インパクト」など「教育の情報化フォーラム」にふさわしい基調講演であった。
 全体会の締めくくりとして、本協会の井端正臣事務局長による、情報化関連補助金の留意点の紹介や本協会の活動状況、16年度事業計画などについて説明が行われた。
 運営委員の司会の下で進められた、2日間に亘るそれぞれのテーマ別自由討議(8分科会)でも、実質2時間半ほどの時間を有効に使い、課題提起者と会場からの積極的な参加による活発な討議が進められた。フォーラムの趣旨である「授業改革の視点から教育の情報化に関わる問題について広く討議を行い、対応策を模索する。またそれぞれの教育現場で実際に直面している問題・課題についての意見交換と情報の共有、会員同士の理解と協力を必要とする問題および関連情報等について協議すること」が、今年度も全体的に活かされたフォーラムであった。
 第1日目のテーマ別討議の終了後に懇親会が開催され、参加者相互の親睦を深めることもでき、また2日目の討議終了後の午後には、武庫川女子大学のキャンパスツアーが組まれ、多くの参加者がキャンパスを見学された。
 最後にあたり、本フォーラムの会場校をお引き受け下さった武庫川女子大学の関係教職員の皆様に謝意を表します。


テーマ別自由討議(6月11日)

A:大学におけるセキュリティ・マネジメントのありかた

 本分科会では、大学における情報セキュリティ・マネジメントのありかたについて、南山大学(学園)のネットワーク設計や運用に携わってこられた後藤邦夫氏(南山大学数理情報学部教授)より全般的な解説をいただいた。さらに、他大学に先駆け教務関連業務のISMS認証取得に尽力された大宮則彦氏(南山大学教育・研究支援事務室長)より、その経緯とその運用ノウハウについて紹介いただいた。
 個人情報の組織外への流出が頻出する今日、大学においても学生関連や教務関連の情報管理の在り方が問われている。南山大学においても、教務関連の情報サービスである“Can@home”を構築する際に、学内情報財産の機密性、完全性、可用性をいかに維持するのかが問題となった。そこで、ISMSの認証を受けるべく全学的なセキュリティ・マネジメントの取り組みを開始した。
 取り組みの一環として、「南山大学情報セキュリティマネジメントガイドライン」を制定するとともに、各部局において情報財産に関するリスク分析を行い、その結果をもとにリスクアセスメントを行っている。それらに基づく具体的な情報セキュリティ・マネジメントについても、外部団体の監査を毎年受けることにより見直しをかけ、体制を維持運用している。
 その結果、情報セキュリティ対策投資の最適化、情報財産取扱い方法の統一化および徹底、第三者の監査に基づく運用が適切であることの証明、Can@homeなど情報システムが持つ利便性の有効活用などが実現した。
 会場に集まった参加者の質問からは、先進的な取り組みとしての情報セキュリティ管理体制の確立方法やその運用ノウハウについて学ぼうとする姿勢が窺えた。
 本テーマは、重要かつ関心の高い分野であり、現時点ではISMSの認証取得事例もまだ少ないので、今後も継続的に本フォーラムで議論していくべき課題であると考えられる。


B:e-Learningの実践(1)〜対面授業とe-Learningとの協調的な教育事例〜

 教育現場における情報基盤の状況は様々であるが、e-Learningをすでに導入、または導入を検討中の大学は多い。一方、高等教育における対面式講義の重要性は論を待たず、その中でのe-Learningの役割・活用法、マルチメディア利用との相違など少なからぬ問題についても解明が望まれている。
 本分科会では、e-Learningを重視し、対面式を補助手段とさえ提唱される杉山伸也氏(慶應義塾大学ITC所長、経済学部教授)より、担当の講義「日本経済史」の現状と学生の評価が紹介された。同氏は、講義理解に必要な資料をホームページに掲示し、その予習を前提として講義し、SCORM準拠の事後テストや議論のためのBBSもあり、予備資料が授業の中でのスムーズなグループ討論の基礎となり、学生の評価も高いことが示された。
 また、加藤 潔氏(工学院大学情報科学研究教育センター所長・工学部教授)より、自主開発の予・復習用電子教材を含め、学生実験のための予備知識ガイドの電子化など、工学系におけるセンター管理のソフトの実例紹介と学生の評価が紹介された。これらの製作には大学経費・私学助成を利用し、外部に委託している経緯も紹介された。
 文系と理工系との事例の対比から、e-Learningに適した科目や教材の在り方に関する知見を得ることが本分科会の一つの目標であった。しかし、課題提起からは系の違いよりは講義内容の違いがe-Learning利用の適否に関与することが示唆された。例えば、日本経済史ではグループ討論における予備知識のグループ内共有に、工学部では学生実験の予備知識の共有に、それぞれe-Learningが活用されている。
 なお、全体会で講演いただいたMITの宮川 繁氏にも本分科会に参加いただき、話題提供や質疑応答にも応じていただき、OCWに関するさらに詳しく説明された。
 デジタル資料の内容についても参加者の関心が集まり、講義ライブの利用の適否、その質の向上として録音技術の重要性の指摘やノウハウの提示など、幅広い話題が議論された。


C:教育支援のための新しい体制づくり〜電子教材作成の支援組織〜

 大学・短大の教育改革の手段として、e-Learningの活用が内外で活発な話題となっている。本分科会では、実施上の大きな障壁である電子教材作成支援組織とその体制づくりについて、先進的な取り組みを展開中の2大学から課題提起いただいた。
 「京都外国語大学におけるCALL教材作成支援体制の整備の試み〜マルチリンガルCALL授業に向けて〜」と題して、梶川裕司氏(京都外国語大学マルチメディア教育研究センター副センター長)から、維持管理中心の視聴覚・情報処理センターを教育支援中心のマルチメディアセンターへ改組した経緯と目的が語られ、村上正行氏(京都外国語大学マルチメディア教育研究センター講師)から実際の運営状況についての紹介なされた。
 次に、宮川裕之氏(文教大学湘南情報センター長・情報学部教授)より、「電子教材活用の支援体制作り」と題して、文教大学におけるe-Learning導入の背景と目的(入学生の学力の分散化、ぶれの少ない授業実現、個人の学習支援)、実現へのネックとなった事柄、電子教材作成にあたっての1)企画→2)設計→3)開発→4)運用の各段階での支援体制の実情と課題について紹介がなされ、寺田靖男氏(文教大学湘南情報センター情報処理課長)から補足説明がなされた。
 質疑応答では、体制・組織作りの面において、大学上層部の理解が不可欠なこと、教員と事務職員の対話と協力関係の重要性、教務関係委員会との連携の実情、事務処理部門と教育支援部門を分けたことなどが明らかにされた。教材作成支援組織に関して、文教大学では学生アルバイトを中心とするNPO法人や株式会社の立ち上げで、経費の削減を図っていることなどが紹介された。今後の方向については、全授業科目まで広げていく必要はないこと、また、教育効果の評価などについて議論された。


D :2006年に向けた高大情報教育の連携 〜高校で教えることと大学で教えること〜

 少子高齢化社会の到来とともに教育のあり方が変貌しつつあり、大学が取り組む教育課題の一つとして、社会との連携が重要視されてきている。特に、高校へは「出前講義」や「体験講座」などが模索されてきているが、高校における情報教育が2003年度からスタートし、大学における情報教育のあり方(2006年問題)が問われるようになった。
 本分科会では、一瀬益夫氏(東京経済大学経営学部教授)と小泉力一氏(東京都立墨田川高等学校数学科教諭)に事例紹介と課題提起をいただいた。
 一瀬氏からは、東京経済大学におけるコンピュータリテラシー教育の現状と使いこなせるソフト面から見た学生の実態を、小泉氏からは高校における教科「情報」の現状を実施科目と使用教科書、パソコン保有率など、高校生の実態と、2006年度における卒業生のイメージを紹介していただき、その後討議に入った。
 参加者からは、「リテラシー教育を1年次で実行しても、必要となる2、3年次には忘れてしまっており、常に継続しないと個人の本当のスキルアップにならないのではないか」、「家庭環境などで、スキルの差が大きいのではないか」、「社会が必要とするスキル習得を実習で行っているが、評価が難しいのではないか」、「操作教育はできればしたくないが、一度も体験していない学生はなくならないか」などの意見が出された。また、高校側を代表して、小泉氏から、高校では指導要領に則って授業をするのみで、大学側のニーズが見えていないこと、「センター試験」から外れたため、高校側では「情報」の必要性を感じていないことなどが述べられ、時間を超過しての活発な質疑応答がなされた。
 参加者がそれぞれの立場で抱えている問題を披瀝し、自分のみの悩みでなく共通の認識に立っていることを理解する分科会となった。高校と大学の風通しを良くし、連携して効率的な情報教育実践を行う必要性を感じて終了した。


テーマ別自由討議(6月12日)

E:著作権侵害・ネットワーク犯罪の防止のためのユーザ教育

 本分科会では、まず福森幸久氏(産能大学情報管理課長)から「躾としての情報倫理教育の制度的展開」と題して、また赤井敏夫氏(神戸学院大学人文学部教授)からは「神戸学院大学のユーザ教育について」と題して、それぞれ課題提起いただいた。
 産能大学では全員にPC携帯をさせるようにしたところ、セキュリティに対する考え方が変わったことが示された。従来、Firewallなどで外部との接点を防御するような方向だったが、内部からの攻撃や、学生の学外での行動にも注意が必要になった。そこで学生が知識を持ち、実際の自身の行動に結びつけられることを重視した情報倫理教育を実施していることが紹介された。
 具体的には入学時に授業で解説を実施し、仮ライセンスを交付。10月に講義をして理解度テストを実施。二年時以降は毎年更新。違反があれば反則点をつけて減点し、一定条件で処分、といったライセンス制としている。
 神戸学院大学からは大学のネットワーク利用と情報倫理指針策定の動きの流れが紹介された。現在は5学部の学生にPCを持たせており、2,000台以上のPCが学内ネットワークに接続されている状況である。その中で、情報倫理指針は最低一度は読んで理解することが必要だが、ネットワーク利用に関する用語(たとえば「login」など)が分からないため、それを機械的に経験・学習させる仕組みが学内にないことが示された。また、教材提示、レポート提出、掲示板、電子メールなどは既にサービスされており、支援スタッフもいるが、利用が進まない状況から、学内で利用する層と利用しない層の差があることも指摘された。
 このような課題提起に対し、活発な質疑や討論が行われた。例えば、「情報倫理違反事例と警察導入の有無」、「学生の携帯するPC の導入および運用支援の方法と情報倫理教育との関連」、「情報倫理教育の実施方法」等々、多岐にわたる意見の交換がなされた。最終的なまとめは行わず、参加者がそれぞれの問題として捉えていただいたものと考えてセッションを終了した。


F:e-Learningの実践(2)〜自学自習のためのe-Learningのあり方を考える〜

 初日の「B:e-Learningの実践(1)」に続いて2日目の本分科会は90名近い参加者を集めて実施された。
 本分科会は2件の課題提起があり、始めは児島完二氏(名古屋学院大学経済学部助教授)と高橋公生氏(名古屋学院大学情報教育センター主任)から、小テスト等、授業理解度を常に把握し、理解度に応じた個人指導が可能となる自学自習システムの事例を紹介いただいた。次は堀田博史氏(園田学園女子大学国際文化学部助教授)より、対面授業によらずe-Learningのみで単位を修得するシステムの可能性と限界について紹介いただいた。  その後討議に入り、自学自習に関して以下のような多岐にわたる質疑応答が活発になされた。
 「自学自習システムは各科目の基礎部分を徹底的に学習させるためには良いシステムであるし、国家試験対策にも有効な方法である」、「対面授業は基礎知識が欠如するので、それを補うにはとても良く、授業の補完的役割を果たしている」、「さらに学生個々人の理解度を測るうえでも便利であるし、学生自身が自分の好きな場所からアクセスできる」、「学生の内発的動機を高めるために、学生同士の相互コミュニケーションを図る工夫も必要であり、ヘルパーに助けてもらっている」、「システム造りに関して、学生への選択問題には、3択、4択、5択問題といろいろあり、内容も毎年少しずつバージョンアップする必要がある」、「自学自習の教育効果を計ることは意外と難しい」
 最終的なまとめは行わなかったが、参加者は討議の中から自分の持ち場、立場の中でそれぞれ解答を見つけ出したのではないかと考える。とても充実した実りの多い討議であった。


G:意見発表を中心とした学生参加型の教育システムと新しい成績評価の試み

 本分科会では、いかに学生を授業に出席させ学習意欲を高めるか、という目標を、ネットワーク上に意見発表・交換の場を設けることにより達成している事例について、安藤弘明氏(甲南大学理工学部教授)と森田 彦氏(札幌学院大学社会情報学部教授)から紹介いただいた。
甲南大学理工学部物理学科では、BBSを発展させた「e-広場」というシステムを用いている。特徴は、教員と学生との間の1対多のコミュニケーションの場を提供し、投稿をクラス内の参加者全員に公開で行っていることである。実際の授業では、授業終了毎に課題を2題(できる学生には懸賞問題も)出題し、学生が常に授業を意識するようにと、授業時間外に課題を提出させている。課題は、講義の概要を書かせるようにすることで、学生の授業への集中力の向上が図られている。また、自分の言葉で表現させていることで、学生の文章表現能力の育成もできている。「e-広場」での得点は最高30点で、可・不可の判定のみに用いている。
 一方、札幌学院大学社会情報学部では、「比較プログラム言語論」という授業で、毎回の講義後に小レポートを課し、講義時間内の残り20分を使ってメールで提出させている。提出されたレポートのいくつかは、提出者を非公開にしてホームページに掲載するとともに、次の授業の冒頭でフィードバックしている。公表されたレポートは学生の言葉で書かれているので、他の学生にも理解しやすく、したがって、ある学生の疑問に対して、学生同士の議論により解答が導かれ、学生の主体性と学習意欲の向上が図られるという効果が得られる。教員の役割は多対多のコミュニケーションのコーディネータである。成績評価はレポートの採点のみで行われている。
 「e-広場」に対しては、外注費用に関しての質問があり、1学期ひとクラスで10万円程度ということであった。また両氏と参加者との間で、教員と学生の負担について、他の授業への展開の可能性について、そして両氏を駆り立てるモチベーションについて、討議を行った。


H:教材のオープン化と大学間連携

 e-Learningは、もはや大学内にとどまるものではなく、客観的な評価による教材の品質や教員スキルの向上、および社会貢献という次のステージが求められる時代に来ている。本分科会では、「教材のオープン化と大学連携」というテーマのもとに、中嶋航一氏(帝塚山大学経済学部教授)、堀 真寿美氏(帝塚山大学TIES教材開発室)、根本 進氏(早稲田大学教務部情報企画課長・メディアネットワークセンター事務長)、前野譲二氏(早稲田大学メディアネットワークセンター講師)より課題提起をいただいた。
 帝塚山大学では1997年から独自仕様のTIESを開発し、商用システムにないメリットを追求している。1999年からは大学連携プロジェクトを通して教材・授業の共有、外部評価による通用性、品質保証を目指し、ASPサービスとして広くオープン化するに至っている。大学間連携による相互の刺激という利点が発揮されているが、反面、教材開発の支援組織化の必要性という大学共通の普遍的な課題もある。
 早稲田大学では1997年から9ヵ年計画によって情報化推進プログラムが進められており、現在ではインターネットによるオンデマンド授業が確立している。この方式の授業ではわかりやすさや質疑応答などの点で通常の教室授業よりも学生の評価・満足度は高い。一方教員へのインセンティブ、編集・教材掲載の役割分担などの解決すべき課題もある。今後はさらに、国内外大学間連携・交流による特色ある授業の相互提供を促進する目的でオンデマンド授業流通
フォーラムを設置する計画である。
 課題提起後の討議では、支援組織の体制化、教材の著作権、BBSによるディスカッション、ディベートの活用など、広範囲な議論が交わされた。


文責: 教育情報化フォーラム運営委員会


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