翻訳

リベラルアーツカレッジのIT事情について
A Liberal Arts IT Odyssey

David L. Smallen


翻訳は、EDUCAUSEの許可を受けて行い、今号と次号の2回に分けて掲載します。
原文はEDUCAUSEの以下のサイトよりご覧いただけます。
    PDF  http://www.educause.edu/ir/library/pdf/erm0412.pdf
    HTML http://www.educause.edu//apps/er/erm04/erm0412.asp

David L. Smallen is Vice-President for Information Technology at Hamilton College.



 ITサービスのベンチマーキングは、現在、大学にとって非常に重要な活動となっている。カレン・リーチと私が1996年に開始したCOSTSプロジェクト(http://www.costsproject.org/)は、高等教育にかかるITサービスのコストについて数値データを使ったベンチマーキングを行うもので、現在継続中である。この方法は、自大学のIT関連予算や職員配置が、同じタイプの大学と比較してどのような状態にあるのか把握するのに役立つ。しかし、最近、それとは異なる種類のベンチマーキングを行った。ITが戦略上不可欠と考えられる分野で、我がハミルトン・カレッジが他校に対してどのような位置にあるのか、数値によらない実態を得る目的で、9ヶ月以上かけて我が校と同じタイプの大学を歴訪したのである。

 私はハミルトン・カレッジのIT部門の長として、役員や理事、父兄、卒業生、その他の関係者から、大学のテクノロジー利用の記事に対する問い合わせをよくいただく。その記事というのは、例によってテクノロジーを利用することの利点、そしてテクノロジーの利用がその大学の教育環境に「大変革をもたらして」いることを絶賛したものである。そして問い合わせの中身は決まって、「ハミルトンでは、この件に関してどんなことをしているのですか」ということだ。

 そこで私は、大学をいくつか訪問して、それぞれの大学で実際にどんなことが行われているかを自分自身の目で確かめたら役に立つに違いないと考えた。私はハミルトン・カレッジと同じタイプの一群の大学を選び出して、半日ほどそこを訪問させてもらえるかどうか各大学に問合わせた。その際、ITに関する質問をいくつか提示して、それに対する回答を用意してもらうようにした。その質問とは、

 (1)教育プログラムに対する支援について
 (2)キャンパス全体にわたるインフラとサービスの提供について
 (3)学外の人を引き付けるためのWebの利用について
 (4)テクノロジーによって大学の活動の全体的な効率を向上させることについて


である。各大学には、最も自負しているテクノロジー関係の活動、解決された問題など、報告内容は問わなかった。私が各大学に約束したことは、自分が学んだことを皆と共有することである(注1)。私は、訪問先の大学が報告してくれた内容が、どの程度成功しているのか正確な評価方法は持っていなかったが、それでも、各大学の報告を比較することはできた。

 自分を取り巻く環境を抜け出すと、非常に元気を与えられたり、新しい発見をしたり、啓蒙されたりするものである。しかし私がこれらの大学を訪問することによって得られた興奮は、自分の大学に戻ったときに、職員たちが感じている懸念のせいで冷めてしまうことが多々あったことを、ここに記しておくべきだと思う。私は、他の大学での見聞に基づいた数々の新しいアイディアを持ってハミルトンに戻った。しかし、私の意見は時に、我が校が行っていることに対する批判と思われたり、何か別のことをするように命じていると取られたりした。職員たちは、我が校も素晴らしいことを数多く実行しているという事実や、我が校でも同様の活動を既に行っていることを私に思い出させてくれた。

 私の大学歴訪の旅は、2002年10月にメイン州で始まった。その後24,000キロを旅して28の大学を訪問し(注2)、私は今、約束どおり、自分が学んだことを発表することとなった。
 以下の記事は、アメリカ中の大学の担当者が私に報告してくれた情報をまとめ、それを抽出したものである。


教育プログラムに対する支援

 教えることと学ぶことが、訪問先の諸大学の主要な使命であるから、教育プログラムを支援するためのテクノロジー利用に関して多くの報告を聞くだろうと私は予想していたが、実際そうだった。IT担当部署が、ITの素晴らしさを説いて回った時期が仮にあったとしても、そういう時期はとっくの昔に終わっていた。テクノロジー資源を利用した授業に興味を持っている教員を支援するため、これらの大学は可能な限りの設備を揃えているのである。

組織構成
 こういった支援を提供するために大学が作った組織に関する話題は、大学側の成功例として取り上げられることが多かった。訪問した大学のおよそ3分の1が、教育支援モデルについて話をしてくれた。この支援モデルでは、数人のIT担当職員が、大学全体に亘った業務を担当するのではなく、学部、学科、もしくは大学の構成単位に配置されている。この職員配置モデルの一つの目的は、IT支援の「顔」を提供することである。それぞれの大学は、こういった職員に様々な名称を付けている(例えば、教育指導アソシエート、カリキュラム・テクノロジー・スペシャリストなど)。このような職員が、例えば社会学部に配属されて、学部の教員たちが支援を必要とするとき最初に接触する相手となるのである。彼らは教員たちと同じ建物内に配置される場合もある。これらの技術者でも、IT担当部署の他の職員を頼ることもあるかもしれないが、教員たちは専門知識が必要な問題が起きたときに担当の技術者に尋ねればよいのである。

 大学単位をベースとしたこのモデルの主な業務は、授業へのテクノロジーの利用を教員が概念化し計画しやすくすることだった。しかしこれらの技術職員は、プリンターの故障を直すことから、教員の机に置いてあるコンピュータのアップグレードまで、ありとあらゆる問題を処理することが多かった。この組織構成を採用している大学は、こういった専門家の時間が、ヘルプデスク的な仕事に費やされるのをどう防げばよいか、対応に苦慮している。一部の例では、「自分の勤務時間の80%が、緊急かつ即時に対処すべき仕事に使われている」との報告もあった。しかし予想どおり、学部または学科単位に配置されたこれらの技術者たちは、ユーザーの必要性について理解しており、また、配置先の人々との関係に恵まれていると述べている。

図書館とITの協力
 いくつかの大学では、図書館職員と技術職員が協力して教員と学生のニーズを支援することが、いかに重要であるかを実感していた。これらの大学のうち、実際にIT担当職員と図書館職員を一人のCIO(最高情報責任者)の下に統合しているのは4分の1に過ぎなかったが、IT担当職員と図書館職員が正式の関係を結んで一つの窓口となり、教育プログラムに関連したニーズを支援している大学は多かった。あるモデルでは、授業にテクノロジーを取り入れたいと考えている教員たちが、資料図書館職員と教科指導技術者で構成されたチームと連携している。このチームは、学生が取り組める研究課題の作成など、学生や教員が必要とするコンテンツ、テクノロジー、トレーニングの支援を行う。

 多くの大学が直面している問題は、増え続ける蔵書の収容スペースが図書館に不足していることである。最も前向きな考え方をしている大学は、この難問をITと図書館の協力関係を検討する好機、もしくは「共用データ」といった共有サービスの開始を検討する好機だと捉えている。

学生参加型の支援モデル
 教員に対する支援に学生を参加させる方法は、コストの効率がよく、しかも理に適った方法である。興味深いモデルが数多く実行されている。いくつかの大学では(当初、助成金の援助を受けていた)サマープログラムを作っていた。このプログラムでは、数週間に亘って数人の学生に集中トレーニングを行い、その後、夏休みの残りの期間中に、彼らを特定の教員に割り当ててテクノロジー関係のプロジェクトに協力させる。教員はたいていの場合、自分が計画しているテクノロジーの利用が授業にどういった影響を及ぼすかを勘案して、このプログラムに参加するかどうかを決める。一般に、学生と教員はこのプログラムに参加すると賃金が支払われる。こういったプログラムは運営費が高くつく傾向があり、また、テクノロジー担当の職員が秋学期の準備に忙しい夏の数ヶ月間をこのプロジェクトに深く関与させる必要もある。通常、教員と学生アシスタントの人数は、使用可能な予算と職員数によって制限されるが、このプログラムは、小規模の教員グループを、より集中的にテクノロジー利用に携わらせることに成功している。もし、これらのプログラムを終身在職権のある教員に集中して行えば、テクノロジーに精通した教員が増えるにつれ、ゆくゆくは相当の効果が生まれる可能性がある。

 資料のデジタル化といった、教科指導に関する教員たちの基本的なニーズを学生が継続的に支援するために、大学は三つの一般的なモデルを使っている。一つ目はサービスビューロー・モデルである。この場合、支援センターはテクノロジー担当の職員が管理し、作業は主に学生が行う。そのようなセンターの一つで働いている学生たちは、この作業をキャンパスで最も面白い仕事だと考えていた。なぜなら、彼らはここでさまざまなハードウェアやソフトウェアの使い方を学べるからである。彼らは自分たちのことを学生「ウィザード」と呼んでいたが、そういった学生たちは、教員のニーズを予測してそれをタイムリーに満たしていたし、しかも教員に対して真のサービス意識を持っていた。このモデルを成功させるには、管理や手続を効果的に行うことが重要である。面白いことに、多くの図書館がこの種のモデルを使って電子保存データを作成しているが、それ以上の作業に関しては正規の図書館職員が行う傾向がある。

 二つ目は学習センター・モデルである。このモデルは、適切な指導を行えば教員は簡単なテクノロジー関係の支援方法を自分で学ぶであろう、という前提に基づいている。しかし多くの教員は、テクノロジーの利用にあまり慣れていない段階では特に、スキャニングやデジタル化の方法を学ぶには多大な時間がかかると考えており、またそれによって自分の教育目標の達成が妨害されると感じている。

 最後は混合モデルである。これは支援センターとトレーニングの提供を組み合わせたものであり、最も効果的で教員からの評価も高いモデルだと思われる。急な支援が必要となることが多い教員は、その支援を自分自身でできるようになるメリットが分かるだろうし、前もって計画を立てる傾向の強い教員は、サービス・ビューローを有効に活用するだろう。この方法はまた、急勾配の学習曲線を描くような最新のテクノロジーと、普通のユーザーが習得できるほど十分に成熟したテクノロジーを区別する手段も提供してくれる。


意思伝達手段
 私が非常に関心を持っていることは、教員のテクノロジー利用に関して、どうすれば学内で活発に議論し続けることができるかということである。この問いに対する答えは、この問題を、大学に関するより広範なテーマと結びつけることにあると思う。特に効果的な一つのモデルは、授業に関することを主として取り扱う施設を中心とした構築である。「リベラルアーツ技術革新センター(Center for Innovation in the Liberal Arts)」とか「研究・教育センター(Center for Scholarship and Teaching)」というような名称を持つこれらの施設は、教員が中心となって運営されており、このことが、成功の秘訣なのである。こういったセンターは、教員の話し合いを継続させるのに役立ち、また、支援する職員と交流する場も与えてくれる。他にも、定期的な昼食会、テクノロジーに関する発表会、会報、サマーセミナー(教員が集り集中トレーニングやカリキュラムに関する話し合いを行う)など、これに代わるいくつかの方法が生まれている。

 ある大学では、授業にテクノロジーを取り入れた教員たちにインタビューを行い、それらのビデオ・アーカイブを作っている。インタビューは、その大学のホームページに掲載されているので、他の教員も興味を持ったときに見ることができる。インタビューをWebベースにすることで、大学側はその教員が作成または利用した実際のデータを見本として添付することもできる。

教室
 私が訪問した大学のほとんどでは、堅固なインフラが構築されて、大学の隅々まで高速通信網が整っていた。しかし、クラスの人数や教え方、利用するテクノロジーが多岐にわたることを考えると、いくつの教室に設備を施すか、そして、どんなテクノロジーを使うかを決めるのは、複雑な問題である。大学を学びの場として真にふさわしい所にするためには、備品、照明、音響効果を含めた教室という環境全体の質を上げる必要があることを、大学側はますます実感している。

 こういった教室は、いくつかのレベルによって分類されるのが一般的である。少なくとも常置のデータ・プロジェクターと、プレゼンテーション用プロジェクターに接続したコンピュータがあれば、その教室はテクノロジー強化(technology-enhanced)教室と呼ばれる。この教室には、さまざまなオーディオ・ビジュアル装置(例えばDVD/CDプレーヤー、チューナー、VCRなど)が整っている場合もある。テクノロジー集約(technology-intensive)教室では、これらの設備すべてに加えて、学生の席の全部またはそのいくつかにコンピュータが置いてある。これらの教室ではコンピュータの配置がさまざまで、従来どおり部屋の正面に向かって横並びになっている場合もあれば、教室の真ん中に置いたセミナー用のテーブルを取り囲むようにコンピュータが置いてある場合もある。後者の配置方法は、生徒の気が散らないだろうかと心配することなく、いつどのようにテクノロジーを使うかを決められるため、ほとんどの教員に評判が良いようである。

 少数の大学では、教室の正面にある教卓上のコンピュータを取り除き、その代わりに講義者が自分のノート型パソコンを持ち込んでデータ・プロジェクターに接続するという試みを行っている。このような大学では、1台のノート型パソコンを大学専用のコンピュータとして使うよう教員に促すか、または、貸し出し用ノート型パソコンをプールする態勢を整えていることが多い。この「ノート型パソコンのみ」のモデルには、他の方法と同様にいくつかの長所短所がある。まず長所としては、教員はほぼ確実に、自分のしたい授業を研究室で考えたとおりに教室でもできることである。授業に必要な特殊な資料(データベースなど)も、(例えばネットワークを介して)研究室と同じ方法で使えるだろう。この方法を使えば、教室の設備を整えたりアップグレードしたりする費用も低減できるし、教室内の制御装置も簡素化できる。この方法の短所は、教員が他の資料だけでなくノート型パソコンも教室に持ち込まなければならないことと、ノート型パソコンをデータ・プロジェクターに接続してシステムを立ち上げるまで時間の余裕を見ておく必要があることである。また、1台のノート型パソコンを大学専用機として使うよう教員に求めると問題が生じる可能性があるし、プールしてあるノート型パソコンを教員が共用すると、イメージの管理を教室でなくノート型パソコン上で行うことになる。

 「教室備え付けコンピュータ」モデルにも、同様の長所短所がある。長所はシステムがすでに据え付けられ、基本的にはすぐに使用可能な状態になっているので時間を節約できることである。短所は、機器構成が教員の使用している他のシステムとマッチしない可能性があること、また、機器の盗難や破損など、教員が知りえない問題が教室に起こっているかもしれないことである。複数のコンピュータ・プラットフォームを提供しているほとんどの大学においては、どちらのタイプのモデルを教室で使用するかを決めるのは難しいこともある。かと言って両方を採用すると費用がかかりすぎる。

 いくつかの大学では、教室の設計と改造という問題を主として話し合う、教員と職員と学生からなる委員会を設立し、毎年いくつかの教室を改造していくための基金の設立まで行っている。このような委員会は、機能的な教室を作ること、また、人々の理解を深めることに役立ち、結果的にIT担当部署に対するほどよい期待感や協力しようという意欲を生むのである。ある大学が見積もったところでは、教室を改造する費用は1部屋あたり50,000ドル〜75,000ドルだった。ただしこのコストの大半は、テクノロジー関連ではない。

 最後になるが、このような教室を信頼できる状態に保つことと、さまざまな教室でテクノロジーに一貫性を持たせることは、大きな課題である。教員たちは、「きちんと動かない機器をいじっている暇はないし、また、教室が信頼できる状態になかったり、一貫性がなかったりすると、それが教室でのテクノロジー利用にとって大きな障害となる」と言っている。


【信頼性について】
 大学職員の数を抑制しているにもかかわらず教室数は増えている昨今では、テクノロジーを装備した教室を信頼できる状態にしておくことは、特に、大学が抱えている難題の一つである。例えば、大学側はソフトウェアのイメージを、複数のコンピュータ上で完全な状態に維持しなければならない。それを行う一つの方法は、ソフトウェア・オートメーション(例えばGhost、RevRdist、Assimilator)を使って、これらのイメージを定期的にリフレッシュすることである。別の方法は、ソフトウェア(例えばDeep Freeze)を使ってイメージの変形を防ぐことである。目的は同じである。つまり、どの教員が使っても、またどの授業で使っても、ソフトウェアが同じように動作するようにすることである。

 このような教室数や使用時間の多さを考えると、専門の職員が毎日これらの教室を点検することは到底不可能である。それならば学生に手伝ってもらえばよいのである。定期的に教室やラボに行き、すべてが適切に動いているか、備品が「紛失して」いないかを点検するのに、学生ヘルプは広く利用されている。高い信頼性を得るには、こういった学生たちを効果的に管理しトレーニングすることが不可欠である。興味深い方法の一つに、Webベースのチェックリストがある。教室に行ったときに、このチェックリストに記入するのである。このチェックリストは、点検をもれなく行うこと、そして問題点をすぐに報告し解決することに役立っている。


【一貫性について】
 各教室が信頼できる状態にある場合でも、教員が新しいハードウェアやソフトウェアの機器構成や操作方法をいちいち覚える必要なく、さまざまな教室で授業できる状態でなければならない。このため多くの大学では、予測可能なフロントエンドをいろいろな装置に取り付けるため、タッチスクリーン・コントロール・システム(例えばCrestronやAMX)を導入する方向に動いており、テクノロジーの一貫性の維持は、多大な費用のかかる大きな課題となっている。

 問題が往々にして起こることは分かっているので、多くの大学では各教室に電話を備え付けて、迅速な救援ができるようにしている。もちろん、その部屋にすぐに駆けつけられる人員が必要なのだから、この業務には人員配置の問題が生じる。100%稼動という目標は非現実的だが、しかしこれに対する期待は高いので、IT担当部署は期待にできるだけ応えられるよう、効果的な措置を取らなければならない。

講座管理システム
 講座管理システムは、学習プログラムへのテクノロジーの利用を促進している。これらのシステムは広く利用されてはいるが、市販されている現行の製品は、価格が高く、サービスに一貫性がなく、必要な特色を備えていないため、多くの大学は不満を持っている。最も普及している二つのシステム(Blackboard、WebCT)を利用している大学では、教員と学生による使用が増えており、その理由は主に、1)時間を節約できる、2)学生が授業外で教材に取り組む機会が増える、と教員が感じているからである。講座管理システムを電子保存データおよび大学のポータル・プロダクトと統合できることが、これらのシステムがますます使われるようになっているもう一つの理由である。

 市販の講座管理システムを利用していない大学のうち、その多くは1990年代初めから、同様の機能を別々の製品(例えば教材用フォルダー、個々の電子保存データ、ディスカッションボード、電子メールのリストサーブ)を使って提供している。これらの大学はまた、主要なリサーチ・ユニバーシティー(総合研究大学)で目下開発中のオープンソースの講座管理システム(例えばCourseWork、CHEF)にも興味を示している。こういった新製品はコスト抑制を期待できるが、現在のところ必要とされる支援機構がない。このような重要な教育ツールに対する適切な支援を確保する方法を小規模な大学が見つけられるなら、おそらく今後数年の間にこういった講座管理システムは活発に利用されるようになるだろう。


キャンパス全体のインフラとサービス

 信頼できる堅固なインフラをキャンパスの隅々まで行き渡らせることは、IT関連のサービスすべての土台である。きちんと行えば多くのチャンスが生まれるが、失敗すれば、大学はいつまで経っても危機対応に追われることになるだろう。

ネットワーク
 私が訪問した大学はすべて、寄宿舎を含め高度にコンピュータ・ネットワーク化されている。もっともその多くは、建物内のネットワークをアップグレードしてスイッチ方式(か共有方式)のイーサネットを構築し、すべての建物にコネクションが存在するようにしている最中である。帯域幅の管理は、音楽やビデオの共有に対応するために定期的に行われている作業の一つであり、さまざまな方法を試すために相当の時間が使われている。ある大学ではPacketHoundというソフトウェア・プロダクトを使っていたが、これは帯域幅を管理するだけでなく、大学の方針ガイドラインに反する接続(例えば音楽の共有)を切断する働きも持っている。

 いくつかの大学では、学外からのネット攻撃を最小限にするための事前の策として、学内のコンピュータへの学外からのアクセスを制限している。これは、非常に重要だと規定されたサービスだけにアクセスできるようにした方法で、例外に関しては事前に承認を得なければならない。この方針は理にかなっている。なぜなら、友人間での共有が広く行われている現在では特に、普通の学生が自分自身のコンピュータを守ることは期待できないからだ。

印刷
 印刷に料金を課すかどうかは、多くの大学で今最も検討されている問題である。私が訪問した大学の25%は料金を課しているか、または、その件を真剣に検討している。ほとんどの大学は、紙を節約するために両面印刷を基本としているが、電子保存データを含めたWebベース資料の大量使用に伴い、授業関連の印刷物はかなり増加しており、コピー機による複写は(面白いことに、常に大学側の小さな収入源であったのだが)、減少している。経験則ではあるが、印刷費を抑えたい場合は金額の多寡は関係なくとにかく料金を課せばよいと言える。

ヘルプデスク
 ヘルプデスクは、ほとんどの大学で中核的なサービスとなっている。予期せぬ、重要かつ/または緊急の問題に対処することがその目的であるが、多くの大学では、どうすればこのサービスをうまく提供できるか試行錯誤している最中である。最も一般的なモデルは、学生および専門職員が、代表番号にかかってきた電話に対応するものである。学生用と教職員用で別々のヘルプデスクを備えている大学が多い。たいていは学生アルバイトが救援の第一線にいて、学生では解決できない問題が専門職員に回される。

 大学の中には、ヘルプデスクのアウトソーシングを試みているところもあり、これには二つのタイプがある。一つは、業者にサービスを外注し、その業者が大学内にスタッフを派遣し、そのスタッフはかかってくる電話と相談に来る人の両方に対応する。もう一つのタイプは、大学から市内のある電話番号に電話をかけると、それが自動的に学外の業者につながるものである。どちらのモデルでも、大学側は時期を考えて(学年初めは夏場よりも多くの問題が予想される)、サービスのレベルを柔軟に調整できる。これらの方法をうまく成功させるには、業者が短時間のうちに高い確率で電話に出られるかどうかが鍵となる。

 ある大学では教職員用のヘルプデスクを完全になくし、その代わりに各学部に「コーディネーター」を配属している(一人のコーディネーターが、複数の学部に配属されていることもある)。コーディネーターはその学部のニーズを突き止め、学部関係者のためにITに関するあらゆる支援を提供し、その調整を行うのである。他のIT専門家はコーディネーターたちを支援する。現段階では、この方策が他の方策よりも能率的で効果的かどうかの結論は出ていない。

 ある大学で成功している興味深い方法は、ヘルプに関する全学的なディスカッショングループまたはリストサーブを使うことである。問題が生じたらそれをリストに報告し、リストをモニターしている人がその解決法を助言するという仕組みである。一般には、多数のIT支援の学生アルバイトと数人のIT専門職員が、定期的にリストをモニターしている。この場合、正規のヘルプデスクの電話サービスが終わってしまっている時間帯である早朝などに解決方法を教えてくれることもある。大学の自助を促進するこの方法は、効果的かつ能率的である。

トレーニング
 ほとんどの大学にとって、トレーニングは常に対応に苦慮する問題である。正式のトレーニング・クラスは出席者数にむらがあり、Webベースのトレーニングは柔軟に対応できそうだが十分に活用されていない。それなのにテクノロジーを学ぶ方法を多様化してほしいという要望は増える一方だからである。ジャスト・イン・タイム方式のトレーニング ― ソフトウェアの特定の機能の使い方を、自分が必要なときに合わせて学ぶこと ― が最も望ましいように思われるが、この方式には、トレーニングに使える時間数、対象者が利用できる度合い、学べるテクノロジーの種類の面で制約がある。

 現在試行されている興味深い方法の中に、「支援タイム制」と「スタディ・グループ」というものがある。「支援タイム制」では、IT担当部署が「決まった時間帯と場所で職員が相談に乗りますので、助けが必要な人はお立ち寄りください。」という通知を出す。この方法は支援してもらえる時間に制約があるものの、ジャスト・イン・タイム方式が持つ利点をいくつか備えている。

 「スタディ・グループ」モデルは、より多くの資料で勉強しながら、他の人たちと意見交換したいという要望に基づいたものである。特定のテクノロジーについて学ぶことに共通の興味を持っている少人数のグループが、適切な資料を選んで定期的に会合を開く。グループは資料を読む日程を決め、読んだ内容を会合で検討して、明確に理解できない点について議論し、また各自がどのように問題を解決したかを発表する。このモデルでは、グループの力によって学習意欲が高まるのだが、それはちょうど、インストラクターに助けられて、私たちがエクササイズのメニューを続けることができるのと似ている。グループは、必要なときに専門家に教えてもらうこともできる。

 モジュール方式のWebベースのトレーニング(例えばElement K)は、学生がソフトウェア・プロダクトの使用に関して一定レベルの能力を持っていると思われるクラスでは、うまく活用されている。例えば経済学の教員が、Excelのある機能を第3週目の授業までにきちんと使えるようにしておきなさい、と学生たちに指示した場合である。学生によって予備知識は異なると考えられるので、このトレーニングによって、まだ知らない機能を効率的に学ぶことができ、理解度を把握するために自分でテストすることもできる。

デジタル化された財産の管理
 大学は、電子化されたさまざまな情報を効率的に管理する方法については、取り組みが始まったばかりである。画像や音楽、テキスト、ビデオは、大学の業務を支援するために常に使用されている。ネットワーク上でアクセスできるよう、これらのデータをデジタル形式に変換すれば、能率が上がり、教育プログラムの質も向上する可能性がある。主として静止画像用のデジタル・アーカイブを作り始めたいくつかの大学は、市販のソフトウェアを利用していた。この方法を使うと、職員配置とライセンス許諾の問題が相当に関わってくる。一方、より多様なデジタル化された財産を格納・管理できるとされるソフトウェアを試している大学もあるが、このソフトウェアはまだ発展途上である。
 すべての大学が直面している差し迫った問題の一つは、増え続けるこれらのデジタルデータの格納と検索を、どのようにして効率的に行うかということである。これらのデータのほとんどは、教員がマルチメディア教材の使用を急速に増やしていることと関係があるのだから、緊急に対策を講じる必要がある。

(次号に続く)



(1) 当初私が各大学に送った電子メールの内容については、次ページの付録を参照のこと。
(2) 私が選んだ大学は、U.S.News社が行った、リベラルアーツカレッジ部門2002年版全米大学ランキングにおける上位25校である。ハミルトン・カレッジはこのリストに入っており、学生獲得のために、このグループの諸大学と競い合っている。私はまた、いくつかの大学を訪問した際に、その「近隣の」学校も4校ほど追加した。以下は私が訪問した大学である。

アムハースト・カレッジ(マサチューセッツ州)、ベーツ・カレッジ(メイン州)、ボードン・カレッジ(メイン州)、ブリン・マウル・カレッジ(ペンシルベニア州)、カールトン・カレッジ(ミネソタ州)、クレアモント・マッケナ・カレッジ(カリフォルニア州)、コルビー・カレッジ(メイン州)、コールゲート・ユニバーシティー(ニューヨーク州)、ダビッドソン・カレッジ(ノースカロライナ州)、デニソン・ユニバーシティー(オハイオ州)、グリンネル・カレッジ(アイオワ州)、ハーヴィー・マッド・カレッジ(カリフォルニア州)、ハバーフォード・カレッジ(ペンシルベニア州)、ケニヨン・カレッジ(オハイオ州)、マカレスター・カレッジ(ミネソタ州)、ミドルベリー・カレッジ(バーモント州)、マウント・ホールヨーク・カレッジ(マサチューセッツ州)、オバーリン・カレッジ(オハイオ州)、ポモナ・カレッジ(カリフォルニア州)、スミス・カレッジ(マサチューセッツ州)、セント・オラフ・カレッジ(ミネソタ州)、スワースモアー・カレッジ(ペンシルベニア州)、トリニティ・カレッジ(コネチカット州)、バッサー・カレッジ(ニューヨーク州)、ワシントン・アンド・リー・ユニバーシティー(バージニア州)、ウェルズリー・カレッジ(マサチューセッツ州)、ウェスレヤン・ユニバーシティー(コネチカット州)、ウィリアムズ・カレッジ(マサチューセッツ州)。



付録:各大学に送付した電子メールの内容

××××大学 御中

私はいくつもの大学を訪問して、IT事情に関する調査を行おうとしております。おそらく御校でも経験されたことがおありかと存じますが、(役員や父兄、それに卒業生によって、)私どもが行っている事柄と他の大学が行っている最良の事柄は常に比較されております。この調査の目的は、私どもの大学を最も優れたものの中でも最高のものにするために努力することです。

今学年中の私の目標は、ハミルトン・カレッジと同じタイプの25の大学を訪問し、ITサービスの提供に関する各大学の最善の方法を学び、実際にそれらをこの目で確かめることです。私は特に次の3点を明らかにしたいと思っております。

a) 教育プログラム関連で、教員と学生のIT利用をどのように支援しているか(インフラ、組織機構、組織間の協力など)。

b) 入学希望者を引き付け、卒業生との関係を維持するために、Webをどのように利用しているか(組織機構、コミュニティーを構築する方法)。

c) カレッジとしての能率を高めるために、ITをどのように利用しているか(ポータルサイト、システムの統合)。

私はそれぞれの大学を半日ほど訪問させていただいて、しかるべき方々のお話を聞き、写真を撮らせていただきたいと考えております。御校で実施しておられる最良のことがらを学ばせていただきたいのです。もしご同意いただける場合、詳細については下記をご覧ください。

これは非常に野心的な試みかもしれませんが、私はとにかくやってみようと思います。訪問を快諾してくださった学校には、私が学んだことを喜んで共有させていただくつもりです。



IT関連のトピック

I. 科目関連で、教員と学生のIT利用を支援するために、インフラとサービスをどのように提供しているか。

御校の教員から見て、テクノロジーがもっとも整備されている教室。
公共のコンピュータ設備を信頼できる/継続維持できるものとするために、御校が用いている方法。
教員と学生を支援するための組織機構と職員配置。
教育プログラムを支援するために図書館と共同で行っている活動。
図書館/ITの設備を整えるための新しい計画(改造/拡張)。
科目管理ツールを利用して教員が行っている興味深い事柄。
統計用パッケージ等の専門的ソフトウェアに対して行っている支援。
授業改善のためにITを利用するよう、教員に奨励する方法。
情報または技術に関する学生の能力を高める方法。
講義でのマルチメディア利用を支援するために、御校が行っている事柄。
講義でのGIS(一般化情報システム)利用を支援するために、御校が行っている事項。
ネットワークを信頼できる安定した状態に保ち、それを行き亘らせるために、御校が行っている事柄(ワイアレス計画など)。
ヘルプデスクの支援を、大学全体に効果的かつ効率的に提供することについて。
学生と学外の人との交流を拡大するために、テレビ会議を行うことについて。

II. 入学希望者を引きつけ、卒業生との関係を維持するために、Webをどのように利用しているか。

大学のWebサイトが完全であるよう管理するために、どのような組織構成(テクノロジーと情報)を作っているか。
大学のWebサイトが、それにアクセスする大学内外の人々にとって、より新しく、より一貫性があり、より有益なものとなるために、どのような努力をしているか。
インターネット上に卒業生のコミュニティーを作る方法。
入試プロセスにWebを活用する努力。

III. どのように能率を高めているか。

Webを使って、管理面のデータを入手可能にすることについて。
ポータルサイトを使って、データへのアクセスをパーソナライズすることについて。



【目次へ戻る】 【バックナンバー 一覧へ戻る】