特集 教育ミッションとIT化(4)


学生の人間力を育む福祉実習教育の開発


坂本 勉(佛教大学福祉教育開発センター講師)


1.建学の精神・理念、教育目標

 本学は仏教精神を建学の理念とし、浄土宗の開祖である法然上人の教えを拠りどころに、仏教、人文、教育、福祉を中心とする大学として発展してきました。学則第1条において「仏教精神により人格識見高邁にして、活動力ある人物の養成を目的とし、世界文化の向上、人類福祉の増進に貢献することを使命とする」と明記しているように、学問の深奥を究めることだけではなく、真の人間形成を究極の目標として、共生(ともいき)社会の実現に貢献できる活動力ある人材の養成に重点を置いています。
 学科の特色としては、教育学科、社会福祉学科等、諸資格・免許取得が可能な学科が数多く、教育実習や福祉実習等、理論と実践を結びつけた教育に重点を置き、例年1,000名以上が諸資格・免許を取得しています。


2.大学の概要

 平成16年5月1日現在、通学課程は文学部、教育学部、社会学部、社会福祉学部の合計4学部に8学科を設置しており、学生数は6,405名となっています。併設されている通信教育課程についても同様の学部学科構成ですが、学生数は16,927名と通信教育課程としては全国一の学生数を誇っています。また大学全体で184名の教員が在籍しています。
 なお、福祉系学部学科については、2004年度の学部学科改組により、2004年度1回生入学者より「社会福祉学部社会福祉学科」、2回生以上は、「社会学部社会福祉学科」および「社会学部健康福祉学科」として開設しています。


3.カリキュラム

 社会福祉学部(2005年度1回生入学者および2回生編入学者)は、1)福祉援助コース、2)福祉開発コース、3)医療福祉コース、4)ライフデザインコースによって構成されており、またこれらのコースにはそれぞれ発展科目が準備され、「国際福祉」「仏教福祉」「福祉経営マネジメント」「学童保育実践」「保育実践」のプログラムを設置しています。特に、全コースにe-Learningの活用を可能にし、ITを活用した授業内容の改善工夫を行っています。また、情報リテラシーに配慮し、「福祉情報論」「福祉情報実習」などの科目も設置しています。


4.社会福祉援助技術現場実習

 本実習は第3学年で実施しています。対象者は「社会福祉学科」および「健康福祉学科」の学生で4単位の実習が義務付けられています。実習の目的は「学生の変化と不安に対応した教育方法の改善」で、具体的には下記のような取り組みを行っています。

(1)福祉教育開発センターの設置と教育方法、学生教育支援の充実
 福祉実習では、受け入れ先の福祉現場から学生に対して、自己管理やコミュニケーション能力、積極的な行動力が求められます。大学にとっては、授業においてどのような教育を行っているのか、また、現場で求められる能力の獲得のため、学生支援をどのように行っているのかなど、大学教育の質が個々の学生を通して福祉現場で検証されます。こうした認識のもと、大学として早くから実習教育の充実に重点を置いてきました。特に平成12年度より設置した「福祉教育開発センター」を中心に、学部教育・実習教育の専門的部署として教育支援の強化を図ってきました。
 本学での共通の目標として、1)学生の潜在能力に着目し、それを伸ばす教育を展開する、2)学生の個別状況をしっかり把握し個別支援システムを充実させ、学生と共に実習を乗り越えるという姿勢で教育を進める、3)実習教育の経験を学部全体で共有する、ことを掲げました。具体的には、以下のように、少人数教育・きめ細かな個別指導といった教育方法の改善、重層的な学生支援を組み合わせた特色ある福祉実習教育に取り組んできました。

1) 社会福祉援助技術現場実習指導を5名〜10名程度の少人数クラス(以下、実習クラス)で編成し、教員と学生が信頼関係を結び小集団のダイナミックスを活用できる教育単位を作っています。
2) 第2学年の段階で実習希望の全学生を全教員によって個別面接し、個別支援の必要な学生を把握、教員間で指導方針を確認し、学生の状況に応じた実習準備教育を行っています。

(2)三つの重層的な学生教育支援−実習教育サポート
 さらに、次の三つの学生教育支援を準備し、学生の不安解消や意欲的な学習を促しています(図)。
図 三つの重層的な学生教育支援
1) セイフティ・サポート
 健康問題や障害など個別の課題を抱えた学生のニーズに対応するサポートで、実習担当教員会議での指導方法の確認を経て、教員による個別指導を軸に展開されます。実習先との協力調整も十分に行い、指導を行う教員をチームで支えます。
2) ベイシック・サポート
 実習に伴う実技講習や情報提供を行い、学生の不安を解消し、スムーズに実習に入っていけるようにします。基本介護技術講習、音楽療法講座、実習施設の情報提供、実習報告書や文献など教材情報サービス、実習先との連絡調整、学生ボランティア室などと連携したボランティアの紹介、相談などを行っています。
 また、実習中のスーパービジョンを強化する目的で、ITを活用した、担当教員との日常的な交流を行うように環境整備を行っています。実習記録を電子化し情報を共有することを通じて適宜教員からの指導も行うこととしています。
3) プログレッシブ・サポート
 実習後の学びをさらに発展させる学習支援や国家試験受験対策、資格取得支援を行います。社会福祉士・精神保健福祉士国家試験の自主学習支援講座、国家試験学習支援誌「ア.ラ.」発行、ホームヘルパー2級養成研修講座の開催、リユニオン・プログラムなどを実施し、発展的学習支援と就職支援を行います。

(3)進路と結びついた「リユニオン・プログラム」
 「リユニオン・プログラム」は、学生の探究心を育てその学びを継続的に支えつつ、将来の進路や就職と結びつける学生支援プログラムです。
 「リユニオン」の意味は、1)カリキュラムやゼミの垣根を越え実習で学びあった学生が再結集する、2)それぞれの職場で経験した実践を持ち寄り卒業生が再結集する、ということであり、教員はコーディネーターの役割を担います。具体的には次の三つのタイプが現在運営されています。

1) 将来の進路を見つめ、就職活動を支援する総合型
 「アフター・ゼミ」と呼ばれています。学習や就職活動などにおける情報交換やサポートを目的に、学生同士が相互に励ましあい研鑽していきます。卒業生から就職活動の経験談を聞くなどの企画も行っています。
2) 特定分野を深める課題研究型
 共通した課題を見出した学生が共同学習の場を設定し、卒業生も参加しています。運営は学生主体によるものであり、教員は側面的支援に徹しています。
3) 専門職を志向する学生を支援し研究を深める専門職志向型
 福祉・保育・医療現場の専門職として活躍している卒業生とその領域を志向する学生を中心に研究会、交流会を開催しており、医療ソーシャルワーク研究会、精神保健ソーシャルワーク研究会、保育士交流会などが開催されています。学生と専門職として働く卒業生をつなげ、学生の専門職への意欲の高まり、就職情報の取得を支援します。


5.教育効果

 毎年、実習が終了した学生への評価アンケートを実施しています。実習教育を通じた教育効果は絶大であり、教育効果があったと答えた学生が90%を超えており、実習に関する関心度・期待度・満足度はいずれも高い状況です。


6.現状の問題点、今後の課題

 学内での、実習教育に関する体制作りは着々と整備されてきていますが、実習先である施設と大学との情報共有に基づくプログラム開発が不十分であると認識しています。
 今後は、ITの活用も含めた情報リテラシーを実習現場にも提供しながら、相互の円滑な情報交換と共通の教育目標の共有を図りつつ、より教育効果の高い実習教育体制を構築していく必要があると考えています。



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