教育支援環境とIT


コメディカル教育におけるマルチメディア教育環境の展開
〜鈴鹿医療科学大学〜




 鈴鹿医療科学大学は平成3年に開学した4年制のコメディカル教育を中心とした私立大学です。現在3学部7学科および大学院に2専攻科を擁しています。すなわち、保健衛生学部に放射線技術科学科、医療栄養学科、理学療法学科、医療福祉学科を、医用工学部に臨床工学科、医用情報工学科を、鍼灸学部に鍼灸学科を、また保健衛生学研究科に医療画像情報学専攻と医療栄養学専攻を有し、学生数は学部学生1387名、大学院生34名、教員数110名、職員数44名です。
 本学では、教室のマルチメディア化、ネットワークシステムの強化を図り、「いつでも、どこでも、誰でも」使えるマルチメディア教育環境を整備してきました。本学のシステムの特徴は、講義室、図書館、ネットワークシステム、教材作成支援システムが機能的に連携して、基本的にどの講義・実習でも多機能なマルチメディア教育が可能な点にあります。


1.マルチメディア講義室

 本学の最大の特徴は80名以上収容する教室がすべてマルチメディア教室となっていることです。すなわち、プロジェクターに接続された、パソコン(備え付けまたは、持込型)、DVDデッキ、ビデオデッキ、書画カメラ、カセットテープデッキがほぼすべての講義室に備えられ、また一部の教室にはビデオカメラに接続するi-Link端子も備えられています。また、これらのマルチメディア機器は、映像コンバータによって一元的にコンポジット信号としてプロジェクターに送られ、機器の切り替えはスイッチ一つで行えることも大きな特徴です。これにより、機器について初心者でも、同じ講義の中で多様なマルチメディア機器を切り替えて教材提示をすることが可能になりました。
 一部の講義室では、さらにコントロール用PCを用意して、タッチパネルで、入力機器の切り替えだけでなく、スクリーンの昇降や暗幕の開閉も行えるようになっています。現在、学部講義棟の15教室、大学院棟の2教室がマルチメディア講義室となっており、また、この他履修学生一人につき1台のPC、二人の学生に1台の教材提示用モニタを備えたコンピュータ教室が3室あり、ここでもマルチメディアを活用した講義が可能です。


2.図書館データベースシステム

 本学図書館では、蔵書検索システム、国立情報学研究所データベースの他に、ビデオオンデマンドシステム(医学映像教育センター「Visualearn」)、辞書サーバシステム(イニューシステム「こととい」、図1参照)、診断・治療情報データベース(医学書院「今日の診療」、図2参照)、医学文献検索システム(NIH「Medline」、医学中央雑誌刊行会 「医中誌Web」)へのアクセスを可能にしています。これらのデータベースは、図書館内だけでなく、学内であれば、学内LANによって講義室でも教員研究室、実習室、実験室でも検索・閲覧が可能です。
図1 医学辞書データベース
図2 診断・治療マニュアルデータベース

 ビデオオンデマンドシステム(VOD)は、主に基礎医学・臨床医学の教育用ビデオをネットワーク配信して学内のPC上で閲覧できるようにしたもので、講義にも活用されています。現在、解剖と生理・疾患・生化学・栄養・リハビリテーションの分野について視聴が可能です(図3)。さらに、平成16年度からは、教員のオリジナル教材が配信可能となり、各学科で学生に視聴を薦める教材、講義で活用する教材、宿題・課題などで活用する教材がアップロードされています(図4)。このシステムはビデオ教材だけでなく、PC上で再生できるものであれば、WordやPowerPointなどで作成された教材、静止画も配信が可能です。
 辞書サーバシステムには、医学辞典、理化学辞典、広辞苑、英和辞典、科学用語辞典を備え、特に医学辞典は学生が個人で購入するには高価であり、また大学に持ち込むには大きく重いため、利用頻度が高くなっています。これは、図書館での自己学習だけでなく、講義の中でも、辞書を調べながら演習を行うといった、インタラクティブ講義にも活用されています。また、 診断・治療情報データベース、 医学文献検索システムもマルチメディア講義教材の一つとして活用されています。
図3 ビデオオンデマンドシステム医学教材
図4 ビデオオンデマンドシステムオリジナル教材

3.ネットワークシステム

 本学のネットワークシステムでは、移動プロファイルシステムとネットワークフォルダシステムを採用しており、学生がコンピュータ実習室、図書館などドメイン登録されたコンピュータであればどこのPCを使っても自分の「My Document」フォルダにアクセスすることができます。また、電子メールはWebベースのシステムを採用しており、自宅など学外でも大学アカウントのメールアクセスが可能となっています。回線は、外部接続・内部接続とも100 Mbpsで接続されています。


4.教材作成支援システム

 PowerPointとビデオ映像を並行提示するマルチメディア・コンテンツ自動作成システム(アイ・ビー・イー「EZプレゼンター」)を導入し、講義や実習の復習、手技の練習に使用できる環境を整えました。また、ビデオ教材などをネットワーク配信用にファイル変換、アップロードするシステムが導入されており、簡単に教材を学内LAN上で配信できるようになっています。将来的には、遠隔教育への応用も検討されています。並行提示システムは、インターネットの医学学会講演の放映でも活用されていますが、ブラウザ画面上、中心にパワーポイントの静止画が表示され、左上にビデオ映像による解説が提示されるものです。このシステムによって、黒板を映像でそのまま録画するシステムに比べ、1)図表などの画面が鮮明になる、2)特定の図表の解説を選んで視聴することが可能になる、3)図表作成の時間がなく、図表に対しての解説がすぐに視聴できる、など多くの点で優れた特長があります。


5.マルチメディア活用講義の例

 本学でこのシステムを活用した講義についていくつか例示いたします。

(1)「医学英語」
 講義はコンピュータ室で行い、人体の構造・機能について基礎的な説明英語で行うビデオ教材を提示します。ネイティブスピーカのスピーチを講師が、まず英語で書き取り、スピーチの一部を隠して、聞き取りの練習に使われます。文字にされた英文は、学生二人に一つ配置されたサブモニタに提示されます。学生は、自分の端末PCを使い、知らない単語をインターネットの辞書や図書館データベースシステムの医学辞典を使って調べ、自分のノートをPCで作ります。このとき、特に医学英語では発音のわかりにくい単語が多いため、ネットワーク上の辞書システムで発音を確認します。また、関連する医学映像はVODで提示します。学生が覚えねばならない医学用語は宿題にして、自分で調べるように指示します。このときも、辞書データベースシステムが活用されます。また、聞き取りの宿題にもVODが活用されます。宿題の提出後、正解はネットワーク上のファイルサーバでアクセスできるようにされています。

(2)「生体機能代行装置学」
 この講義では、臨床工学技士の業務として取り扱う、人工透析装置、人工呼吸器、人工心肺装置などの機器と関連医学・疾患について解説します。まず、循環器・呼吸器・泌尿器の基礎医学、疾患と病理について、講義室のマルチメディアシステムから学内配信されるビデオオンデマンドシステム「Visualearn」教材を提示します。PowerPointによる解説では、あらかじめ、重要ポイントを空欄にした配布資料を用意して学生用のノートにします。このとき複雑な図表は資料の中に入れておきます。マルチメディア・コンテンツ自動作成システム「EZプレゼンター」に録画された講義内容、講義資料などはサーバ上で繰り返し視聴できるようにします。また、透析療法の基本、透析患者との接し方などについて独自に製作されたビデオ教材をVODオリジナル教材メニューから自主学習するよう、指導します。個々の学生がどれだけの時間視聴したかがログに残るため、自主学習時間を容易に把握することができます。

(3)「文学」
 この講義では、松尾芭蕉の俳諧、特に「奥の細道」の旅程との関連について学びます。講師らのグループが独自に作成したインターネット上に公開されているマルチメディア動画像が活用されています。千住大橋、草加、八島、日光、那須野が原、白河、須賀川、郡山、二本松、福島、白石、岩沼、名取、仙台、多賀城、塩釜、松島、石巻、平泉、出羽越え、尾花沢、山寺、大石田、出羽三山と芭蕉とその弟子がたどった足跡をビデオ映像で鑑賞しながら俳諧の背景について解説されます。
 このように本学のマルチメディアシステムの特徴は、次のようにまとめられます。
1) パソコン、DVD、ビデオ、模型・標本(書画カメラで提示)、カセットテープデッキなど様々なメディア、教材の提示に対応したシステムです。
2) 学内配信システムの活用により、従来ビデオでは、一人が借り出すと他の学生が視聴できなくなってしまう問題を解消し、いつでも誰でも教材を視聴可能としています。
3) サーバの活用により、教材・資料を講義終了後にも参照することが可能です。カラー図表や動画像など、従来コピー機・印刷機を使った配布資料では配布が不可能であった教材も、学生が自分のPCに取り込んで資料とすることが可能となりました。また、講義時間外でも学生との双方向の情報伝達が容易に行えるようになりました。
4) 画像だけでなく、音声資料についても従来のLL教室やビデオ閲覧室のような環境では実現できなかった、学生の多様な自主学習が可能になりました。


6.今後の課題

 講義室のマルチメディア化がほぼ完了し、データベースシステム、ネットワークと連携して多角的なマルチメディア講義が行われています。これは、CT、MRI、内視鏡など様々な医療画像、超音波診断装置の血流音、聴診音など音声を教材とするコメディカル教育において重要な意義を持ちます。
 今後は、より多くの教員が活用できるよう、学内のサポート体制を整えると同時に、DICOMなどの、医療画像・医療機器のネットワーク標準規格を利用した教育環境の構築、著作権への対応が課題と考えられます。

 本事業の一部は、私立大学等経常費補助金「特色ある教育研究の推進」「高等教育研究改革推進」による援助を受けて実施しました。


文責: 鈴鹿医療科学大学情報処理センター
林 顕效、伊原 正、河村 徹郎、高羽 実



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