巻頭言

紅葉の季節と情報教育


河田 悌一(関西大学学長)



 ニューイングランドと呼ばれる、アメリカ東部の紅葉は美しい。秋の紅葉の季節になると、懐かしく想い出す地があります。それはアメリカ東部、カナダに近いニューハンプシャー州のハノーヴァーという大学町です。そのハノーヴァーには、アメリカの誇るアイビー校の中で唯一、大学院を持たず、学部生のみを教育する大学が存在します。知る人ぞ知るダートマス・カレッジです。
 今から四半世紀前の1980年秋、私は当時、客員研究員をしていたイエール大学から車を運転して、その地を訪れました。私と同業の、中国思想史を研究する、あるアメリカ人の学者に招かれたからです。そして彼の家の書斎で、驚くべきものを見せられました。小さなテレビ画面を持つタイプライターです。
 彼は得意気に、これは新型のコンピュータで、これで論文を書いていると言いながら「Kawata Teiichi」と、私の名前を打ちました。すると直ちに私の論文名、掲載雑誌名が出てきたのです。

 以来25年たった今も、そのとき受けた衝撃を、私は鮮明に覚えています。
 便利な世の中になったものです。学生諸君は当時より何十倍も性能のよくなったコンピュータを縦横に使いこなして、様々な情報を得て、勉強ができるのですから。
 情報化の必要性が叫ばれ、わが関西大学で各学部にいわゆるステーション教室を設置し、基礎的な情報教育を始めてから、約20年の年月がたちました。今やコンピュータが使えなければ、授業を受講できない仕組みができつつあります。

 現在、私たちの大学では、昨年2004年度からサービスを開始した、情報機器を利用した学生諸君の授業支援システムが、1クールを終えて、今年度は、以下のようないわば改善の過程に入っています。
 1)全学の全科目を対象に、Web型シラバスのサービス開始。
 2)Web型履修届けシステムのサービス開始。
 3)Web型成績発表システムのサービス開始。
 4)総合型の教育支援システムの開始。
 この4)の総合型とは、休講などの各種のインフォメーションの表示、出席欠席の管理システム、教材の指示、レポートや小テストの自動採点、アンケート集計、質問箱など多用な機能があります。
 これらのシステムを運用するために、学生は自分のインターネットPC、携帯電話、あるいは学内に設置されているインフォメーション・ターミナル端末を使えばよいのです。
 おそらく、わが大学は情報機器を使った教育的な基盤はほぼ整った、といっても過言ではないでしょう。では、進むべき次の問題はどこにあるのか。
 第1は、情報機器を利用した教員の授業力を高めることが、何よりも必要でしょう。そして第2は、情報機器を利用することによって、学生諸君の勉学に対する知的好奇心を持たせ、学習意欲を向上させ、社会から求められる人材を養成することが必要なのではないでしょうか。
 ニューイングランドの紅葉を想起しつつ、情報教育についてそんなことを考えています。
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