私情協ニュース3


平成17年度 大学情報化職員研修会開催報告


 本年度の大学情報化職員研修会は、A日程10月5日(水)〜7日(金)と B日程10月12日(水)〜14日(金)とし、両日程とも静岡県の浜名湖ロイヤルホテルにて開催した。
 本研修会は、教育支援、人材育成支援の取り組みをコーディネート、マネージメントする能力を育むため、情報技術活用による教育改善および人材育成支援、望ましい情報環境や運営組織のあり方などの大学改革に不可欠な課題について、討議や事例研究等を通じて職員一人ひとりの資質の向上を目指すことを目的とするものである。
 昨今、大学教育の成果である人材育成について、社会から厳しい目を向けられている。卒業生に対しては、創造性、即戦力、基礎学力など人間力の低下が指摘され、大学に対しては、学生の質保証が取り沙汰されるなど、教育全般に亘り喫緊の改革が求められている。それに対応するには、理事会をはじめ教員・職員による人材育成の取り組みが不可欠である。そこで、本年度は「大学の社会的責任とITを活用した教育支援のあり方」をテーマとし、社会からの要請に応えられるような人材を輩出するために、職員がどのように教育支援に取り組んでいくべきか、全体講演や分科会を通じて考えることとした。
 全体会では、上記テーマに基づき、大学として、学生の育成を重要な使命と捉え、教職一体となって組織的に教育支援に取り組んでいる大学より、学長、副学長をお招きして、大学での取り組みの経緯、職員に求められる資質について講演いただいた。また、私情協事務局からは、昨年度、加盟校全教員を対象に実施した授業改善調査の結果をもとに、授業で教員や大学が抱える課題について解説を行い、今後の授業改善の方向性について示唆を与えた。


− 全体会(基調講演) −

A日程 伊原 豊實氏(帝塚山大学副学長)

 帝塚山大学では、社会の要請に応え得る教養と創造力を備えた人材の育成を実現するため、ITを活用した教育学習方法の工夫と改善に取り組んできている。2004年には特色GP、現代GPに採択されるなど、大学の独自性を発揮して教育理念の実現のため邁進している。特にTIESと呼ばれるe-Learningが著名である。帝塚山大学では、なぜこうした取り組みが必要だと判断したのか、その実現のためにどのような方針、体制で臨んだのか、そして職員はどのように関わったのかについて、大学副学長としての立場から講演いただいた。

B日程 松原 典宏氏(日本文理大学学長)

 日本文理大学では、大学の使命を「学生一人ひとりが持つ優れた個性や能力を余すところなく引き出して社会で活躍できる人材に育て上げること」ととし、その実現のために、教職が一致団結して「責任教育宣言」のスローガンのもと教育改革に取り組んでいる。「基礎学力支援センター」や「進路開発センター」などの開設により、学生一人ひとりに対して肌理細やかな支援を行っている。これらの取り組みを行うに至った経緯や、職員に求められる資質、姿勢など、大学長としての立場から講演いただいた。

− 分科会 −

A−1 学生基本情報管理と活用

(27大学、賛助会員1社:33名)

 個人情報保護法の施行に伴い、情報管理、セキュリティ対策が喫緊の課題となっている中で、人材育成に必要な新たな教育支援サービスの実現に向け、学生基本情報の活用について考察した。
 具体的には、学生基本情報の共有、職員の教育参加と教員とのコラボレーションによるチュータシステム、学生・父母のニーズに応えた学生支援サービスの充実、個人情報保護と安全管理について、学生基本情報の利用者または管理者を対象に討議を行った。


A−2 財務・会計管理

(14大学、賛助会員2社:16名)

 これからの財務・会計管理に求められる視点は、人材育成を保証するための特徴ある教育の実現が大学経営の基本戦略として共通認識されることである。本分科会では、大学経営に必要な経営情報システムとは何かという視点で、財務・会計管理部門から経営部門を対象に、「予算編成・執行・統制システム」、「短・中期財務計画シミュレーション」、「財務状況の点検・評価システム」、「外部資金の導入と情報化投資の管理」の4テーマについて、事例発表を参考にしながら討議し、初日から参加者間のコミュニケーションが活発に行われた。


A−3 教育学術情報

(21大学、賛助会員2社:23名)

 Web検索エンジンの性能向上による利便性、図書館の規模・内容における日米間の情報環境格差の拡大など、世界情勢を例示しながら、教育支援・人材育成に厳として対峙する大学図書館は、どこまで変革を遂げられるか、その可能性を参加者全員で考え、探ることにした。図書館の情報化における新進の事例紹介や話題提供を通じて、現状を検証することから討議を展開し、後半は、SOAなどの新たな技法、変化に符合させるための各種取組み、大学の成果物の権利保護いわゆる知財マネジメントから見たe-文書法、利用者保護に係るセキュリティや個人情報保護法などについて展望し、参加者個々の具体な目標の絞り込みをねらった。
 世界情勢から俯瞰して自学の学術情報基盤を考えるという本年の取り組みの刷新は、アンケートでは、参加者が少なからず情報社会の変革の実態から大きな刺激を受けている様子が窺え、大学図書館が、大学や地域にとっての特色ある情報資源の機関となる必要性を改めて認識できた。


A−4 大学Webサイト分析

(17大学、賛助会員1社:22名)

 大学は今、アカウンタビリティとして教育・研究情報を始め、財務情報など様々な情報の開示が求められている。そのための広報媒体であるWebサイトは、効果的な情報発信とともにデザイン等が重要なポイントである。分科会では大学ホームページランキングなどを参考に、「大学における効果的なWeb広報と情報発信」について討議した。具体的には、1)広報媒体としてのホームページとその効果的な活用方法、2)社会が求める大学情報と大学が発信すべき情報、3)戦略的なWebサイト設計、4)情報発信のための推進組織体制、5)大学の知財公開とセキュリティをテーマに討議を行った。討議の結果、広報に携わる職員の役割として、外側からの視点を持ち、大学の方向性や存在価値を見い出し、大学Webサイトの「価値作り」をすることが今求められているとの共通認識を得た。


A−5 情報化推進組織の管理運営

(12大学、賛助会員1社:14名)

 これからの大学教育では教える授業から、学生一人ひとりが主体的に学ぶ授業の実現が求められ、学生がいつでもどこでも学習が可能な情報システムが求められている。情報システム部門がこうした大学の活動全般(教育・研究・事務)に対し、現在どの程度まで能動的に関与しているのか、ITを活用した新しい教育手法への教員支援の在り方、教育研究用ITリソースの効果的運用に関する利用実態、対費用効果等、全学的な個人情報セキュリティ保証に関するシステム面からの支援策について検討した。
 討議を通して、参加者の資質の高さを再確認させられた一方で、参加者間の情報技術レベルの格差が個々の参加姿勢に反映されていたことも感じられた。情報技術とマネジメント能力の異なる業態の相互浸透を目指しつつ、スキルレベルの均質化を前提としたコース設定が必要と認識された。


A−6 ITを利用したコラボレーションシステム

(11大学、賛助会員3社:15名)

 大学の使命である学生の品質保証に応えるには、教職員一体となった対策が不可欠である。それには、縦割り組織の弊害を打破し、大学構成員間での課題共有と問題解決に向けた密接な相互コミュニケーションが求められる。参加大学での試みは、一定程度効果をあげているものの、半面多くの問題も抱えていた。全体会や元気な事例、世界動向紹介を参考に、問題とその解決策を整理していった。 
 ITを利用したコラボレーションシステムは、組織の壁を越えた協業の空間として有効であるが、多くの関連するステークホルダーが活用するには、利用者の了解、システムの信頼性、簡易な操作性、利用者の教育体制整備など多くの考慮点が必要であることが確認された。また、校友、地域、企業連携を目的としたコラボレーションについては十分な論議ができなかったが、今後の大きな課題であることも確認された。


B-1 学修支援

(参加大学34校、賛助会員1社:38名)

 ITを活用した学生の学修行動(シラバスの検索・閲覧、履修科目の検討から単位の取得までの一連の流れ)に焦点を当て、それぞれのプロセスにおける効果的な支援のあり方について検討した。
 単にシステムを構築するだけでは意味がなく、どういう教育を行っていきたいのか、そのためにどのような仕組みを提供できるのか、それぞれの大学が明確なビジョンを持ってシステムを構築していくことが重要である。本来、最も重要な対面の学生対応に注ぐために、どの部分をどのようにシステム化していけばよいのか、職員、教員が連携して考えていく必要性を改めて認識した。


B−2 キャリア支援

(26大学、賛助会員2社:30名)

 人材育成という社会の要請に応えるためには、学生の就業観を涵養し、将来設計が可能となるような「人間力の教育」が必要不可欠であり、キャリア形成支援部門には教務部や教員組織と連携した全学的な観点からの取り組みが求められている。本分科会では、この視点を常に意識しながら、ITを活用したキャリア形成支援のあるべき姿、その可能性と限界について意見交換を行い、いくつかの理想モデルを導き出す試みを行った。その結果、「学生による自律型キャリア形成」、「情報やナレッジの蓄積と組織的活用」、「時空を越えたコミュニケーション」といったキーワードを見出しながら学生の人間的成長を支援するシステムの方向性を共有することができた。


B−3 人事制度改革とシステム構築

(13大学、賛助会員2社:16名)

 これからの大学職員の業務は、教育・研究支援、キャリアアップ支援、それらを効果的に行うためのITの活用など、より専門化・高速化している。業務の質、内容の高度化に対処して、充分に教育・研究支援活動に即した適切な人材を確保するためには、人材の有効活用のための諸制度の見直しや検討を加え人事政策を立案していく必要がある。本分科会では、人事部門が自ら大学の教育・研究の政策とその支援について考え、人事としてのアプローチからそれを具体化させるための方法について討議、検討した。
 日常業務が規定している文面と状況の比較検討だけが焦点になりがちな中で、大学は何を目標にしているのか、どうあるべきかを常に考え続ける気持ちが、今後の方策を切り開いていくためには重要であることを認識できた。


B−4 教育方法と教育支援

(18大学、賛助会員2社:20名)

 社会から大学教育に対する質の保証が求められ、教育が評価される時代になってきた。学生の能力が多様化してきたことに伴い、大学も教育内容を多面的に用意し、学生の能力に応じた授業の提供が避けられない事態になってきている。しかしそれらを実現するには、教員の個人的な努力には限界があり、教材の電子化、教材・素材の収集、著作権問題、教育改善のための教育内容の豊富化・高度化を意識した授業形態が求められる。本分科会では、従来の教員・職員・組織にとらわれない教育支援体制の構築や新しい教育方法の展開、授業改善の取り組みとそのシステム化について、先進的な大学の事例をもとに、教育支援システムのあり方を検討した。


B−5 教育・研究の情報基盤整備

(13大学、賛助会員1社:14名)

 情報センターや管財施設部門は、教育・研究活動の基盤的な環境として、教室のマルチメディア化、個人研究室・共同研究室のIT化、学内LAN(無線LAN含む)の整備、入退室管理を含む施設設備のセキュリティ対策などの整備計画の策定・実施、運用管理の高度化が求められている。それには、教育政策との整合性を図ることが重要で、教学部門との連携が課題である。本分科会では、このような点を視野に入れて、教育・研究情報の基盤整備のあり方について、当面取り組まなければならない対策、中長期的に取り組まなければならない課題について整理し、情報戦略の可能性と限界について検討した。
 特に、増大する「ヘルプデスクに関する支援」については重点的に討議を行い、これまでの支援内容の整理・公開や外部委託によって、専任職員が本来遂行すべき専門的なスキルが必要な業務や教員・他部課室の調整業務のほうに時間を費やすことができることを確認し、専門職員の役割についても、深く掘り下げた議論を行うことができた。情報基盤整備のあり方として、利用者が満足し使いやすく、かつ安心して利用できる情報基盤整備を進めることの重要性を認識した。


文責:研修運営委員会


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