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2004年版米国高等教育機関における実態調査
Core Data Service Fiscal Year 2004 Summary Report



翻訳はEDUCAUSEの許可を受けて行い、今号より数回に分けてに掲載します。
原文はEDUCAUSEの以下のサイトよりご覧いただけます。
http://www.educause.edu/apps/coredata/reports/2004/

第1章 IT組織、スタッフ配置、計画策定

 第1章では、学内(campus)のITリーダーシップと組織、ITスタッフ配置、そしてIT戦略策定についての調査結果を述べる。

ITリーダーシップと組織

 IT管理者の最上位職位名(title)について質問した。この職位名はバラバラで、予測しにくい。職位名についての様々な順列と組み合わせがあるため、2004年調査データでは890大学で職位名は249、昨年は822大学で294あった。副学長(vice president)、学長補佐(assistant/associate vice president)、学部長、そして、情報システム、情報サービス、情報技術担当などの名称もあった。また、しばしば、CIO(chief information officer)、CTO (Chief Technology Officer)も付記されていた。最も一般的なのはCIOで、昨年は全回答の29.2%あったが、今年は32.8%であった。また、CTOは昨年より3%増加し27大学あった。CIOに続いてIT担当部長(Director of Information Technology)とIT担当副学長(Vice President for Information Technology)があがっている。
 この調査では、大学の分類にあたって、カーネギー財団による分類(Carnegie classification:以降、大学分類と表記。分類表は章末に掲載)を用いて区分した。博士/研究大学機関(Doctoral/Research Universities-Extensive and Doctoral/Research Universities-Intensive)をDR、修士大学(Master's Colleges and Universities I、Master's Colleges and Universities ll)をMA、学士/教養大学(Baccalaureate Colleges-Liberal Arts、Baccalaureate Colleges-General、Baccalaureate/Associate's Colleges)をBA、短期大学(Associate's Colleges)をAA、専門学校(Tribal Colleges and schools in the Specialized Institutions)などを、その他とした。
 表1-1は、大学分類毎での様々な職位名の比率を示している。これを見ると、DRではCIOが最も一般的であり、BA、AAでは部長が多い。昨年は、DRでは副学長が一般的であったから、昨年とは変わってきている。しかし、2003年と2004年の調査データの689大学をとってみれば、最上位IT管理者の職位を副学長と回答した学校の割合が増加している。
 最上位IT管理者には、様々な職位名があるだけではなく、組織内での多様な所属関係もある。表1-2は、大学での直属上司について示している。
 直属上司として、AAでは学長の割合が非常に高く、DRでは最上位の学術担当役員とする回答がもっとも多い。最上位役員や管理担当役員以下の役職者に属すると答えた回答者は、DRで約9%、BAで18%未満と、非常に少ない。
 DRでは、最上位IT管理者の約33%は副学長、副総長を兼務し、約24%が学長(president)、総長(chancellor)に属している。それらの職位名は幹部チームの中での重要性、経験年数を反映しているのであって、必ずしも組織的な上下関係や業績評価を示しているわけではない。
 所属関係は興味深いけれども、実際に誰がITリーダーの業績評価をするかは、さほど重要でない。むしろITリーダーが理事会(executive cabinet)のメンバーであるかどうかのほうが重要である。学長会議(president's cabinet)、経営委員会(executive committee)、最高政策評議会(top policy forum)などの場を通じて、最上位ITリーダーが、大学全体の戦略方針や政策にかかわり、大学の様々な部門で、どのようにITが果たすべきかについて、他の役員と連携することができるからである。

表1−1  最上位IT管理者の職位名
  ALL DR MA BA AA その他
副総長,副理事長VP, Deputy VP, Vice Chancellor, Vice Rector 21.0% 32.8% 19.5% 17.2% 18.7% 16.4%
CIO 24.8% 40.8% 28.2% 18.3% 13.9% 20.0%
CTO 4.0% 2.3% 5.0% 4.1% 5.4% 2.9%
副学長Vice Provost, Assistant or Associate Vice Provost/VP/VC 11.1% 15.5% 16.6% 8.3% 7.2% 4.3%
部長,学部長 34.6% 7.5% 29.5% 49.7% 47.0% 44.3%
副部長Director, Dean, Executive Director 1.1% 0.0% 0.8% 1.2% 3.0% 0.7%
マネジャー 3.3% 1.1% 0.4% 1.2% 4.8% 11.4%

 

表1−2 最上位IT管理者の直属上司
  ALL DR MA BA AA その他
理事長President/chancellor/CEO 30.7% 24.1% 28.2% 32.0% 42.2% 27.9%
学長Highest ranking academic officer (Provost, Academic VP, Dean) 25.1% 36.2% 32.4% 28.4% 13.3% 8.6%
上位業務役員Highest ranking administrative officer (Administrative VP, Executive VP) 24.0% 20.1% 20.7% 14.2% 28.3% 41.4%
上位事業担当役員Highest ranking business officer (Business Officer, CFO) 11.5% 5.7% 10.8% 17.2% 12.0% 12.1%
次席学術担当役員Second-level academic officer (Assistant or Associate Provost/VP 1.1% 2.3% 0.8% 0.6% 0.0% 2.1%
次席業務担当役員Second-level administrative officer (Assistant or Associate Administrative VP) 0.7% 1.1% 0.8% 0.0% 0.0% 1.4%
共同学長/理事長Jointly to president/chancellor/ CEO and chief academic officer 2.1% 2.9% 2.1% 4.1% 0.0% 1.4%
共同学術担当/業務担当役員Jointly to chief academic officer and chief administrative or financial officer 2.1% 5.2% 2.9% 1.2% 0.0% 0.7%
その他 2.7% 2.3% 1.2% 2.4% 4.2% 4.3%


 表1-3に示されるように、最上位IT部門管理者が評議員会(executive council)に出席する割合は、学長直属の割合よりはるかに非常に多い。2003年と2004年の調査データと689大学の両方で、最上位IT管理者が学長/総長会議のメンバーである割合は、2003年から2004年でかなり増加している。すべての大学で増加しているが、BAがもっとも増加率が高く約4.5%である。

表1−3 最上位IT管理者が学長/総長会議のメンバーである
  ALL DR MA BA AA その他
Yes 46.5% 51.7% 41.9% 39.1% 57.2% 44.3%
No 53.5% 48.3% 58.1% 60.9% 42.8% 55.7%


 最上位IT部門管理者の担当する職務分野も、職位名と同様に様々である。ITの複合化に伴って、ITスタッフが所属するサブグループと重要な分野が多くなった。本部(central)のIT部門の長としての最上位IT部門管理者の下にどのような職務があるかを、調査データによって明らかにしたい。
 この質問について、21職務分野のうち、全回答者の50%以上がチェックした次の上位15分野は、大学分類毎でほぼ同じであった。

●ネットワークインフラ(Network Infrastructure and Services)
●デスクトップコンピューティングサポート、ユーザ支援、研修、ヘルプデスク
 (Desktop Computing Support/ User Support Services/Training/ Help Desk )
●ITセキュリティ
●IT部門業務(Administration of IT Organization)
●ITポリシー
●学内業務システム(Administrative/Enterprise Information Systems)
●運用/データセンター(Operations/Data Center)
●Webサポート
●電話(Telephony)
●学内インフラ(Enterprise Infrastructure/Identity Management)
●教育技法(Instructional Technology)
●学生のコンピュータ利用(Student Computing)
●学術的利用(Academic Computing)
●技術開発(Technology R&D/Advanced Technology)
●マルチメィディアサービス(Multimedia Services)

 表1-4に見るように、大学分類毎に、まったく同じ順序ではなかったが、大きく異なってはいなかった。しかし、興味深いパターンが見られる。DRとMAは、BAやAAよりも類似している。

表1−4 最上位IT管理の担当職務
  ALL DR MA BA AA その他
学術的利用 58.4% 64.4% 63.1% 66.9% 47.0% 46.4%
IT部門業務: 94.8% 98.3% 98.3% 94.1% 88.0% 93.6%
学内事務システム 92.2% 92.5% 95.4% 91.7% 88.0% 92.1%
コンピュータショップ(Computer Store) 13.8% 25.9% 10.8% 16.6% 3.0% 13.6%
デスクトップコンピューティングサポート,ユーザ支援,研修,ヘルプデスク 97.0% 96.0% 97.5% 97.6% 97.0% 96.4%
学内インフラ 70.6% 77.0% 74.7% 62.1% 63.9% 73.6%
通信教育(Distance Education) 19.3% 12.6% 28.2% 12.4% 24.7% 14.3%
教育技法 70.2% 78.7% 78.0% 71.0% 59.6% 57.9%
ITポリシー 93.8% 94.3% 93.8% 92.3% 92.8% 96.4%
ITセキュリティ 95.2% 94.8% 96.3% 94.1% 93.4% 97.1%
図書館(Library) 13.6% 11.5% 15.4% 15.4% 12.7% 12.1%
郵便室(Mailroom) 4.4% 2.3% 4.6% 7.1% 3.6% 4.3%
マルチメィディアサービス 54.9% 58.0% 64.3% 53.3% 46.4% 47.1%
ネットワークインフラサービス 97.3% 97.1% 98.3% 95.3% 97.6% 97.9%
運用/データセンター 89.9% 97.1% 91.3% 82.8% 85.5% 92.1%
印刷/コピーサービス(Print/Copier Services) 28.5% 21.3% 24.5% 34.3% 30.1% 35.7%
研究利用(Research Computing) 23.5% 42.5% 20.3% 18.9% 9.6% 27.1%
学生のコンピュータ利用 59.2% 59.8% 63.5% 63.9% 48.8% 57.9%
技術開発 56.1% 61.5% 58.9% 60.9% 46.4% 50.0%
電話 77.2% 87.4% 80.9% 64.5% 74.1% 77.1%
Webサポート 85.5% 90.2% 88.4% 78.1% 84.9% 84.3%
その他 10.9% 14.9% 14.9% 6.5% 6.0% 10.0%


 さらに、BAとAAは、DRやMAよりも似ている。やや直感的ではあるが、本調査によってこの考えが支持される実証的証拠が提供されている。
 本調査データの689大学のうち、次の職務分野がすべての大学で大幅に増加している

●教育技法
●マルチメィディアサービス
●運用/データセンター
●技術開発
●電話
●Webサポート

 しかし、通信教育(Distance Education)職務は減少している。2003年には27.3%(188)であったが、2004年は16.8%(115)である。

ITスタッフの配置

 本調査では、スタッフ配置の比率を示すためのスタッフ配置のレベルに関するデータを依頼した。また、スタッフ配置に関する実務についても報告する。

スタッフ配置レベル
 いくつかの職務がCIOの下に属しているのは明らかであるが、これらの職務にスタッフがどのように配置されているかについての比較は興味深いものがある。ITの正規スタッフ(FTE: full time equivalent)だけでなく、ほとんどのIT部門では、ITサポートのために多様な能力をもつ有能な学生を活用しているので、学生スタッフにも質問した。
 回答にあたって、職務に0.1単位で人数を割りふった。小規模の大学であればあるほど、一つ以上の職務分野を担当するスタッフがほとんどいないことが特に重要である。2003年−2004年度で、50%の時間をネットワークアーキテクチャに、30%をデータベース業務に、残りをセキュリティに費やしているならば、0.5、0.3、0.2という数値が、個人を職務分野に分けるのに適している。
 これらの職務分野におけるスタッフと学生スタッフの配備について、絶対数値と相対数値で把握する必要がある。この表はそのような違いについて、表1-5と表1-6で正規スタッフと学生スタッフの平均人数を示している。表1-7と表1-8は、各職務領域を担当する本部ITスタッフと学生スタッフの合計人数の割合を示している。大学の規模の違いについて多少調整している。

表1−5 本部IT部門における職務分野別の平均正規スタッフ数
  ALL DR MA BA AA その他
IT部門業務/事務支援(Clerical Support) 4.8 12.6 3.1 1.9 1.6 5.3
学内業務システム 12.1 34.4 6.9 3.3 3.4 14.1
デスクトップコンピューティングサポート,ユーザ支援,研修,コンピュータショップ 8.1 18.1 5.6 3.2 3.7 10.9
学内インフラ 2.5 6.9 1.2 0.5 0.7 3.7
ヘルプデスク 3.4 7.7 2.4 1.1 1.6 4.6
ITポリシー 0.4 0.9 0.3 0.2 0.2 0.7
ITセキュリティ 1.1 2.8 0.6 0.3 0.4 1.5
教育技法マルチメィディアサービス,学生のコンピュータ利用 6.1 15.7 4.4 2.3 2.9 5.6
ネットワークインフラサービス 5.6 15.9 3.3 1.9 1.8 6.0
運用/データセンター 5.1 15.8 2.5 0.9 1.3 5.7
研究/学術利用(Research Computing, Academic Computing) 2.3 6.7 1.4 0.6 1.0 2.1
電話 4.5 14.6 2.3 0.9 0.8 4.2
Webサポート 2.4 5.4 1.7 1.0 1.1 3.1
その他 7.6 12.5 4.2 1.2 4.7 12.9
表1−6 本部IT部門における職務分野別の平均正規学生スタッフ数
  ALL DR MA BA AA その他
IT部門業務/事務支援 0.3 1.1 0.3 0.1 0.7 0.0
学内業務システム 0.2 0.7 0.2 0.1 0.0 0.1
デスクトップコンピューティングサポート,ユーザ支援,研修,コンピュータショップ 2.3 5..4 2.7 1.2 0.9 1.0
学内インフラ 0.1 0.3 0.1 0.0 0.0 0.1
ヘルプデスク 2.4 6.0 2.4 1.8 0.5 1.2
ITポリシー 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0
ITセキュリティ 0.1 0.2 0.0 0.0 0.0 0.0
教育技法,マルチメィディアサービス,学生のコンピュータ利用 4.5 13.4 4.7 1.5 1.0 0.9
ネットワークインフラサービス 0.5 1.7 0.5 0.2 0.1 0.2
運用/データセンター 0.4 1.4 0.3 0.1 0.0 0.1
研究/学術利用 0.7 1.8 0.9 0.2 0.3 0.4
電話 0.3 1.1 0.4 0.1 0.0 0.0
Webサポート 0.4 0.9 0.5 0.3 0.0 0.2
その他 1.6 3.1 2.2 0.4 0.5 0.3

 表1-7は、本部IT部門における正規スタッフの割合を示している。ほとんどのスタッフが「学内業務システム」、「デスクトップコンピューティングサポート、ユーザ支援、研修、コンピュータショップ」など、多様な職務に、バランスよく配置されていることがわかる。 しかし、AAでは逆で、ほとんどのスタッフが支援職務に配置され、その次が「学内業務システム」であった。それ以外は次の順であった。

●教育技法、マルチメィディアサービス、学生のコンピュータ利用
●ネットワークインフラサービス
●IT部門業務/事務支援
●ヘルプデスク
●運用/データセンター
●電話
●Webサポート
●研究/学術利用
●学内インフラ
●ITセキュリティ
●ITポリシー

表1−7 本部IT部門における各職務分野別の正規スタッフの割合
  ALL DR MA BA AA その他
IT部門業務/事務支援 9.2% 7.8% 8.9% 10.9% 8.9% 9.7%
学内業務システム 17.9% 20.6% 18.6% 17.1% 14.4% 18.6%
デスクトップコンピューティングサポート,ユーザ支援,研修,コンピュータショップ 16.0% 12.0% 16.2% 17.0% 19.4% 15.4%
学内インフラ 3.5% 4.3% 3.0% 2.9% 3.2% 4.9%
ヘルプデスク 7.3% 5.4% 7.4% 7.3% 8.6% 7.7%
ITポリシー 1.2% 0.6% 1.0% 1.6% 1.4% 1.7%
ITセキュリティ 2.1% 1.8% 1.9% 2.3% 2.3% 2.5%
教育技法,マルチメィディアサービス,学生のコンピュータ利用 10.2% 9.8% 11.0% 10.2% 11.5% 7.5%
ネットワークインフラサービス 9.9% 10.0% 9.3% 11.3% 9.6% 9.3%
運用/データセンター 6.2% 9.3% 5.9% 4.4% 4.9% 6.4%
研究/学術利用 3.8% 4.1% 3.7% 3.4% 4.5% 3.4%
電話 5.5% 8.4% 5.6% 4.7% 3.6% 4.5%
Webサポート 5.1% 3.5% 5.1% 5.7% 6.1% 5.2%
その他 7.6% 6.2% 7.9% 5.8% 8.9% 10.0%

 表1-8を見ると、本部IT部門で採用されている学生は、「ヘルプデスク」、「デスクトップコンピューティングサポート、ユーザ支援、研修、コンピュータショップ」、「教育技法、マルチメディアサービス、学生のコンピューティング利用」の三つの分野に配置されている大学が、最も多いことが簡単にわかる。大学分類によって、この三つの分野の順位は異なっている。DAでは「教育技法」、BAでは「ヘルプデスク」、AAでは「デスクトップコンピューティング」に多くの学生を活用している。

表1−8 本部IT部門における職務分野別の学生スタッフの割合
  ALL DR MA BA AA その他
IT部門業務/事務支援 2.1% 2.7% 2.1% 1.7% 3.0% 0.8%
学内業務システム 1.4% 1.8% 1.4% 1.2% 0.9% 1.3%
デスクトップコンピューティングサポート,ユーザ支援,研修,コンピュータショップ 24.6% 17.8% 21.9% 25.9% 38.0% 24.6%
学内インフラ 0.5% 0.7% 0.6% 0.2% 0.0% 1.6%
ヘルプデスク 26.4% 19.6% 23.7% 35.6% 23.2% 34.6%
ITポリシー 0.1% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0%
ITセキュリティ 0.4% 0.7% 0.2% 0.3% 0.0% 0.9%
教育技法マルチメィディアサービス,学生のコンピュータ利用 26.3% 35.8% 28.7% 19.7% 21.1% 20.7%
ネットワークインフラサービス 3.6% 5.3% 3.8% 2.3% 2.4% 3.4%
運用/データセンター 1.9% 3.1% 1.9% 1.7% 0.5% 1.5%
研究/学術利用 4.8% 3.9% 6.1% 2.8% 5.9% 5.1%
電話 2.4% 3.3% 3.6% 1.9% 0.6% 0.5%
Webサポート 3.2% 3.1% 3.5% 4.1% 2.0% 2.6%
その他 8.4% 5.5% 8.9% 11.6% 13.5% 6.9%

 2003年から2004年までの平均的なスタッフ配置レベルは、全体的には減少しているが、正規スタッフは増加している、など、ややばらばらである。13職務分野のうち、増加している分野は5、減少している分野は7、そして1分野では増減がなかった。これらのほとんどは、大きな変化とはいえないが、確かな差異を示している。
 「データセンター運用」と、「研究、学問でのコンピュータ利用」の両方が、最も顕著に減少している。また、「教育技法」と「ITセキュリティ」は増加している。「研究利用」、「学術利用」というカテゴリは、以前は、「研究/学術利用」として一つで呼ばれていたことと関係があるかもしれない。今年の調査結果を、少ない順に見れば、学術利用が強調されず、「教育技法」に、より多くのスタッフがおり、「研究利用」、「学術利用」分野にほとんど人がいないように、回答者に思わせてしまったのかもしれない。
 また、今年の調査では、新しい職務分野が加わった。「学内インフラ、アイデンティティ管理」である。以前に、「その他」の職務分野で報告された人数が、この新しい分野で報告されていると考えられ、2004年には減少している。
 大学分類による集計は、簡単でとても便利ではあり、重要なことが抜け落ちることはほとんどない。しかし、本部ITスタッフの職務分野別の合計人数を、この分類方法とは異なる分類をしてみると、表1-9のように、より意味深い結果がえられる。大規模DR(Doctoral Extensive)と中規模DR(Doctoral Intensive)とで大きく異なっていることは非常に面白い。
 職務分野の定義における上記の変化を考えてみると、昨年に比べて、今年の、本部IT部門の正規スタッフの合計人数が、実際にかなり増加しているなど重要な傾向を示している。689大学をとると、総人数は2.7%増加し、そのうち正規スタッフは平均で1.76人増加している。 また、本部ITスタッフ総数の大きな増加は、各大学分類でも見られ、DRでは最大で2.82人が増加した。正規学生スタッフの総数は2003年と2004年では大きな変化はなかった。
 最後に、スタッフ配置レベルに関連するこれらの表を見ると、大学分類間の相違は、予算や複合性に原因なのかもしれない。しかし、職務分野によってはクリティカルマス(臨海的な人数)があるので、比較表は多少歪曲されているかもしれない。

表1−9 本部における正規ITスタッフ統計サマリー
  平均(Mean) 中央値(Median) 最小(Minimum) 最大(Maximum)
全て 60.5 29.9 1.0 652.0
大規模DR( EXT) 203.4 174.0 14.0 652.0
中規模DR (INT) 82.5 69.0 17.5 280.0
修士 I 40.2 33.0 4.0 174.0
修士 II 17.4 14.0 3.0 55.0
教養BA 23.6 22.0 3.5 69.5
一般BA 12.7 9.5 1.0 77.0
短期 21.3 15.0 2.0 112.0
その他 71.5 49.5 1.0 507.0

スタッフ配置における集中と分散
 表1-10では、1列目に大学分類毎の本部での正規 ITスタッフ数の平均人数、2列目に学内の正規ITスタッフ総数の平均(本部と各部門のITスタッフの合計)、3列目に、大学内のITスタッフ総数のうち、本部ITスタッフの割合を示している。明らかに、大学が複合的になるにつれて部門ITスタッフの人数は、昨年とおなじように大幅に増加している。部門ITスタッフ数が大規模DRでは33.6%と最も多い。

表1−10 本部におけるIT正規スタッフの割合
  本部正規ITスタッフ平均人数 全学正規ITスタッフ* 本部正規ITスタッフの比率
全て 60.5 90.9 83.5%
大規模DR 203.4 358.7 66.4%
中規模DR 82.5 117.9 75.9%
修士I 40.0 50.0 85.2%
修士II 17.4 19.6 91.4%
教養BAA 23.6 26.3 90.4%
一般BA 12.7 14.1 91.4%
短期AA 21.3 24.6 89.8%
その他 71.5 101.3 79.8%

 非常に複合的で、規模が大きい研究指向の大学は、学部をサポートするために部門と大学に、専門的で訓練されたITスタッフに対する大きなニーズがあり、とりわけ、特定分野の学術アプリケーションに特にかかわっている。それに対して、本部のITスタッフに対しては、インフラストラクチャ、システム全体のアプリケーション、一般的なサポートなどがより必要とされている。
 数年前から、すべての大学で、分散的なサポートモデルへのシフトが進んできた。 表1-10での本部ITスタッフ比率の分子は、過去3年間一定であった。 2002年と2003年調査を比較すると、学内の正規スタッフの総数(比率での分母)の平均は全体的に増えている。その結果、事実上、分散的なITスタッフの割合が増加している。この傾向は2003年から2004年までも続いており、すべての大学分類において、分母が増加し続けている。 この分散的なサポート体制は時とともにすこしづつ増加しているので、今度、すべての分類で注意深くモニターすべきであろう。

スタッフ配置に関する指標
 スタッフ配置について不変の指標があるかどうかはわからないが、本調査データは単に統計目的ではなく、比較のためのベンチマーキングに提供するものである。比率分析は、長い間、事業業績を調査する際の標準であった、そして、本調査データによって、多様かつ重要な比率が、ITデータの効果的な比較によって行われるようになることが望まれる。
 スタッフ配置の観点では、本部ITスタッフあたりのサポート対象学生数を算出することができた。それは、正規学生数(大学によってIPEDS3に報告されたデータ)を、本部ITスタッフ(職務分野別サポートに関する質問での人数合計より算定)で割って計算される。この比率は表1-11に示されている。
 昨年と比較すると、本部ITスタッフ一人あたりのサポート対象学生は、2004年には平均して4.6%増加した。AAでは平均8%増ともっとも多い。以前の報告のように、本部ITスタッフの数が全般的に増加しているならば、この比率はなぜ減少しないのだろうか。この計算のもう片方の要素、つまり正規学生の数から理解できる。2003年から2004年に、IPEDSデータから得られた正規学生数がかなり増加した。したがって、大学は本部ITスタッフを追加したけれども、その増加は、学生数の増加ほど多くなかった。

表1−11 本部における正規ITスタッフ一人あたりのサポート対象学生数

  ALL DR MA BA AA その他
平均(Mean) 160.2 127.2 162.9 134.8 246.0 125.2
中央値(Median) 140.4 119.1 149.2 111.1 210.1 0.0
最小(Minimum) 0.0 23.2 56.5 40.6 29.1 0.0
最大(Maximum) 1,522.0 413.8 548.0 649.5 1,522.0 536.9

スタッフ配置の実務
 この調査データは、多くのスタッフ実務に関する示唆を与えている。有能なスタッフ雇用への市場からのプレッシャーに対応するため、大学は多様な方法を駆使している。全回答者の28.9%は、IT専門職のために個別の給与テーブルを活用していると答え、その比率は、昨年から大きくは変化していなかった。表1-12は、この実務がDRとMA機関(それぞれ42.5%と34.9%)の中で、かなり用いられていることを示している。また、報酬制度と、別々の職位名/IT職位階を用いているかを質問してみた。表1-13は、全回答者の約62%がこれらのどちらかを使用していることを示しており、特に、DAでは高い数字であった。これらの数字は、昨年から大きく変わっていない。

表1−12 IT専門職に対して個別の給与テーブルが設定されている
  ALL DR MA BA AA その他
Yes 28.9% 42.5% 34.9% 14.8% 21.7% 27.1%
No 71.1% 57.5% 65.1% 85.2% 78.3% 72.9%

表1−13 別々のIT職位名/IT職位階と報酬制度
  ALL DR MA BA AA その他
Yes 61.7% 75.9% 64.7% 47.3% 56.6% 62.1%
No 38.3% 24.1% 35.3% 52.7% 43.4% 37.9%

 専門家の継続的な育成は、ITスタッフの採用、保持、再教育にあたって重要である。一人あたりの育成、教育予算がいくらかを質問した。表1-14は、すべての大学分類の統計的指標において、相対的な整合性があることを示している。BAだけが例外的にDRやAAよりもスタッフの育成に多く投資している。平均的には、本部IT部門の研修に対するITスタッフあたりの年間予算は、昨年と今年では一定している。個人の成長と仕事満足度のために、スタッフスキルの更新と、専門職育成の機会を提供する重要性を示しており、これは観察に値するデータである。

表1−14 正規ITスタッフ一人あたりの専門職育成予算
  ALL DR MA BA AA その他
平均(Mean) $1,123 $1,103 $977 $1,279 $969 $1,392
中央値(Median) $1,000 $1,000 $1,000 $1,200 $800 $1,003
最小(Minimum) $0 $0 $0 $0 $0 $0
最大(Maximum) $13,500 $3,500 $3,655 $3,625 $4,000 $13,500

IT計画策定とアドバイザリーグループ

 IT計画に関して、この調査では、大学の戦略計画がITのための戦略と方針が含まれているか、独立したIT戦略計画を持っているか、などを質問した。表1-15で見るように、すべての回答者の80%以上が、大学の計画にはITに関する方針と戦略が記述されていることを示している。昨年は約78%であったので、今年はかなり増加している。さらに、すべての大学の73%が、独立したIT戦略計画をもっており、表1-16に見るように、昨年とほぼ同じであった。独自のIT計画を報告する学校の割合は、BAは例外的にかなり低いが、それ以外のすべての大学分類では比較的高かった。
 この章における最後の2つの質問として、IT戦略、とりわけITセキュリティと方針に関してフィードバックするグループについてのデータを求めた。IT戦略についての結果は表1-17に報告されている、ITセキュリティについての結果はセキュリティについての検討の一部として4章の表4-22で報告する。回答者は、複数回答が可能なため、合計は100%にならないが、各アドバイザリーグループの活用頻度を示している。

表1−15 学内の戦略にはIT戦略/方針が含まれている

  ALL DR MA BA AA その他
Yes 80.6% 71.8% 83.0% 78.7% 89.8% 78.6%
No 19.4% 28.2% 17.0% 21.3% 10.2% 21.4%

表1−16 単独のIT戦略がある
  ALL DR MA BA AA その他
Yes 73.1% 75.3% 78.0% 58.0% 81.9% 70.0%
No 26.9% 24.7% 22.0% 42.0% 18.1% 30.0%

表1−17 IT戦略に関するアドバイザリーグループ
  ALL DR MA BA AA その他
理事会(Trustee Committee) 15.5% 26.4% 14.5% 20.1% 6.0% 9.3%
学長会議(President’s Cabinet/ Council) 57.2% 52.3% 61.0% 56.8% 68.7% 43.6%
業務委員会Administrative Committee 57.8% 70.7% 58.1% 46.7% 54.8% 57.9%
学術会議/学部議員会Academic Committee/ Faculty Senate 64.6% 75.9% 73.0% 54.4% 53.6% 61.4%
技術アドバーザー委員会Technology Advisory Committee 78.2% 82.2% 78.0% 69.8% 83.7% 77.1%
学生委員会Student Committee 25.4% 37.9% 30.7% 16.6% 18.7% 19.3%
州当局/地区事務所(State Agency or System/ District Office) 17.1% 15.5% 20.7% 4.1% 33.1% 9.3%
その他 13.7% 20.1% 13.3% 11.2% 6.0% 18.6%
アドバイザーグループなし 2.1% 2.3% 1.7% 3.0% 1.2% 2.9%

 学内のIT戦略作成にあたって、関係する部門は数多く、かつ増加している。学長会議、業務委員会、学部委員会、技術諮問委員会がIT戦略にアドバイスをしていると、半分以上回答があった。また、すべてのグループが、昨年よりも戦略的なアドバイスを与えていると報告している。この増加は、学生専門委員会、州当局/出張所でも事実であった。しかし、半数以下の学校では、これらのグループからIT戦略に関するアドバイスを、まだ、取り入れていない。
 IT戦略に関するアドバイスに理事会を活用する大学の割合は注目すべき動向である。DRの25%以上とBAの約20%が理事会を活用しているが、AAでは6%である。この傾向は、全般的に、昨年から再び増加しているが、2年目のデータであるので統計的に有意とは言えない。
(次号の第2章に続く)

【参考資料】表1 カーネギー教育振興財団の分類基準による大学分類
 
【参考資料】表2 日米の学位取得者の人数比較

 




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