教育事例紹介 薬学

e-Learningを利用した自学自習支援システム


梶原 正宏(明治薬科大学薬学部教授)


1.概要、成果

 明治薬科大学は平成15〜17年度および18〜20年度の文部科学省選定「明薬サイバーキャンパス整備事業」により、学生が自主的に「いつでも、どこからでも、何回でも」インターネットを介して自宅から学習できる自学自習支援システムを構築・推進してきました。特に薬学アーカイブスは現在1,500コンテンツを超え、また第90回薬剤師国家試験では全国国公私立大学46校中、大学別合格率全国第1位という結果を残し、昨年(17年)度の第91回では全国第5位の成績を残すことができました。
 本学では、新しい教育方法の実践としてオンデマンド型学習からリアルタイム型学習まで幅広くe-Learning製品群を導入しており「Total e-Learningソリューション」として、毎年拡充を続けています(図1)。

図1 新しい教育方法の構築

 本学のe-Learningの取り組みとしては、まずはじめにコンテンツの作成・蓄積・閲覧から開始しました。その際には、担当教員が各授業を誰の助けも借りずに一人でデジタルコンテンツ化できることが極めて重要であると考えています。
 次に4年生には薬剤師国家試験の薬学演習やCBT(Computer Based Testing)による学習評価を自ら行うことができる個別自学支援システムを構築しました。
 更には遠隔授業システムも導入し、「教員と学生」あるいは「教員同士」が離れている場所でも相手方の顔を見ながら文字・音声・画面(資料)を共有しつつ双方向通信(コラボレーション)できる環境を整備しています。
 以下、「e-Learningを利用した自学自習支援システム」として機能や特徴、また実施上のポイントについて記載します。

2.方法と特徴

(1)コンテンツの作成とストリーミング配信
 15年度に全22講義室にコンテンツ作成および電子黒板システムである“EduCanvas”(メディク・クエスト社)を導入しました。本システムは各教員が準備したPowerPoint、Word、写真等の電子資料を取り込み、タブレットを使用して黒板と同じように手書き入力による資料への加筆・説明ができます。その内容はプロジェクタでスクリーンに投影されるため、学生は投影された大画面を見て聴くことに専念し理解を深めることができます。本システムの特徴は、前述の電子黒板機能に加えて音声も圧縮保存できる録画機能を有しており、リアルタイムにデジタルコンテンツが作成できることです。80分授業では約7〜10メガバイトに圧縮でき、音声や文字、背景(教材)と同期しながら時間軸に合わせて繰り返し再生できます。
配信方法としては、コンテンツの著作権とセキュリティ上の問題からストリーミング配信方式を採用しています。ストリーミング再生機能には三つの大きな特徴があります。

1) インフラを選びません。先述のように、圧縮技術が優れているため、ネットワークへの負荷が少なく極端に早い回線帯域や高スペックの配信用サーバがなくても再生可能です。
2) ストリーミング受信の際には、圧縮されたデータを文字・音声・背景(教材)の3種類に切り離し、音声だけを後から小さなパケットで受信する配信方式のため、一旦再生が開始されると従来製品でよく見受けられるバッファリングストップもなく、またコマ落ちすることもなく、滑らかに再生できます。
3) 高いセキュリティを保持しています。ASF やWMVといったストリーミング形式では汎用性が高いものの、第三者がオリジナルデータをサーバから盗み出すことができます。本システムでは、仮にオリジナルデータを盗み出すことができてもいっさい復元できないように工夫されています。

(2)CBTによる自学自習支援システム
 これまでIT化を進めてきた目的としては、薬剤師国家試験対策が重要な要素の一つです。本学では過去の国試問題や演習問題、過去の卒業試験問題をデジタルデータ化し、学生はこれらの試験問題を実際にインターネット上で解答し、結果を確認できるようにしました(図2)。学生は現在の実力を判定でき、さらに正解・不正解・未回答の問題を区別して用途に合わせて繰り返し学習ができるようにしました。特に「国試過去問題試験」では問題毎もしくは試験毎に制限時間が設定されており、制限時間に達するかもしくは学生自身が答案提出ボタンを押すと自動的にサーバに答案が回収され、自動採点も行うようになっています(図3)。制限時間を設けることにより、問題を早く正確に読み取る力を養う「ねらい」があります。なお、解答途中であっても「セーブ」(中断)は可能とし、忙しい学生達にも配慮しました。

図2 CBTアクセス
図3 国試過去問テスト

 また本システムでは、問題について全国の正答率による分類も実施しており、例えば正答率が80% を超える難易度の低い問題を解答できなかった場合は、その領域の自己学習の必要性が示されることになり、不得意分野の解消に大いに役立っています(図4)。教員にとっては、例えば「この分野については明薬大生の正答率が低い」等客観的なデータが確認できるため、その後の指導の見直しにも活用できます(図5)。
 一方、薬学教育では6年制が始まり4年後には共用試験が現実のものとなります。このうち長期実務実習の導入に向けた知識評価をCBTシステムで行うことになりますが、既に「明薬サイバーキャンパス」機能の一環として、いつでも対応できる準備は整えています。

図4 テスト統計画面
図5 統計管理画面

(3)双方向通信対応の遠隔授業システム
 次に導入した遠隔授業システム“VideoCanvas”は、インターネットを閲覧できる環境であれば、接続したいバーチャル講義室を選択し、認証後に自動的にソフトウェアをインストールおよび起動できるプラグインインストール方法を実施しています。画面中央には全員共通の電子資料を提示し、また同時に最大4名までの手書き入力、音声通信、カメラ表示を双方向通信(コラボレーション)でき、全参加者は交代で書き込みも発言もできます。これにより不特定多数(1:N)に対応した遠隔授業システムが構築できました。
 今後は4年生または6年生の卒論生に対しても指導教員との遠隔授業を実施し、卒論実習中の学生と指導教員間でのコミュニケーションを活発に行って教育効果を高める準備をしています。また実務実習において本来教育現場ではない病院や薬局内で実習する内容および方法は環境設備や指導薬剤師の人数等に大きく依存しますが、遠隔授業システムによって医療現場との頻繁なコミュニケーションを行い、同時に一定レベルの実務実習を維持できる教育支援を行う予定です。

図6 VideoCanvas画面例

3.今後の課題
 学生および教員の利用率を毎年向上させることを目標にしています。そのためには、システムの総合管理やマルチメディア管理など、常に次の段階を踏まえて日々検討しています。しかしながら提携先の他大学や病院、薬局、企業など、より多くの協力体制を確立することが必要です。

 文部科学省平成15年度〜17年度、18年度〜20年度「明薬サイバーキャンパス整備事業」に選定されました。

参考文献
梶原正宏, 向日良夫, 日野文男, 高取和彦 :サイバーキャンパスを利用した薬学アーカイブス. 論文誌情報教育方法研究 Vol.7, pp.6-10, 2004.

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