教育事例紹介 薬学

ITを活用した薬剤師国試対策学習支援

村上 悦子(近畿大学薬学部助手)
鈴木 茂生(近畿大学薬学部助教授)
大鳥 徹(近畿大学薬学部講師)


1.はじめに

  本学では、1994年度よりコンピュータによる薬剤師国家試験対策として、自学自習システムの構築・開発に取り組んできました。はじめはMacromedia Directorのプロジェクター機能(教材配布にはライセンスが不要)を利用した自学自習システムを作成しました。一方、薬剤師国家試験の問題および解説のデジタル化を行っています。その後、インターネットが普及し始め98年頃より、スタンドアローン型自学自習システムからネットワーク対応型自学自習システム、すなわちe-Learningによる「薬剤師国家試験学習システム」の構築に取りかかりました。2001年に私立大学情報教育協会の「第9回情報教育方法研究発表会」にて本システムについて事例発表を行い、私立大学情報教育協会賞(優秀賞)を受賞しました。本システムは「Xcalat」(NTT-X社)をベースに独自に薬剤師国家試験対策用にカスタマイズしたものです。演習&試験モードと学習モードの二つのモードを備え、演習&試験モードは「Xcalat」が備えているテスティング機能により、蓄積された薬剤師国家試験問題のデータベースより様々な検索条件で抽出した問題を、オンデマンドで学習できるようにしました。学習モードでは約3年間かけて教材(47タイトル)を作成しましたが、国家試験出題項目の全分野を網羅できていないのが現状です。本システムが学習者に有効利用されることを望んでいますが、学習者にとって身近な学習参考書と検索項目が異なること、ネットワークを介した学習システムであるためネットワーク環境によってはスムーズに動作しない等の理由から、利用度が伸び悩んでいます。そこで、わずかな時間(20分まで)を利用し、なおかつ簡単に学習状況をチェックするシステム「薬剤師国試対策正誤問題ソフト」を構築しました。このシステムはテコム薬学セミナー発行「ナビ・データ」を基に、問題および解説をHTMLファイルとして投入しました。その結果、分類項目を自由に細分化できる上に、問題文に図を挿入したり上付き、下付き、イタリックなどの文字修飾を可能にしました。本システムは学習者所有のコンピュータに通常のソフトと同様にインストールし利用します。また、学習進捗のチェックは学習開始時に作成されるテキストファイルに保存されますので、学習履歴を簡単に管理できます。ここでは本システムの構成、問題及び解説などの作成手順について紹介します。

2.「薬剤師国試対策正誤問題システム」の紹介

(1)システムの構成
 本ソフトはセットアップファイルが存在するPackageとデータフォルダ(問題及び解説ファイル)から構成されています(図1)。データを別にすることで、セットアップ後のデータの更新を可能にしました。学習者はSetup.exe(図2)を起動させることで本システムを自分のパソコンにインストールすることができます。問題および解説ファイルなどはインストール先のフォルダ(navi_data)にコピーします。

図1 システムのファイル構成
図2 セットアップ画面

(2)フォルダおよびファイル構成
 インストールフォルダ内には原稿の国家試験に対応して基礎薬学I、基礎薬学II、衛生、薬事関係法規、医療薬学I〜IV01〜08の半角数字の八つのフォルダが必要です。各フォルダの中に問題および解説のHTMLファイルが存在します。ファイル名は先頭2バイトが目次/章フォルダに対応する数字であり、“_”アンダーバーで区切り4桁連番とアルファベット(Q:問題ファイル、D:解説ファイル)1文字をつけます。拡張子はhtmlとします。

(3)問題のHTMLファイル
 問題及び解説ともHTMLファイルで構成されています。問題ファイルのHTMLヘッダ部に記載されるコメントタグの中の<H>タグを用い、目次/節、目次/項、目次/出題単位を構成するようになっています。ボディー部には画面に表示される問題文を記述します。設問間は、<HR>タグで区切ります(図3)。

図3 問題・解説はhtml形式で入力

(4)解説のHTMLファイル
 解説ファイル名のボディー部に正解と解説を記述します。設問毎に“解答”という見出しに続けて○か×を記述します(例: 解答:○)。設問解説と設問解説は必ず<HR>タグで区切る必要があり、<HR>タグの前後には必ず改行を入れます。最後の設問解説の後は、<HR>タグは必要ありません。このように問題および解説ファイルをメンテナンスすることで、自由に問題/解説の追加作成や更新が可能になります。HTML言語に精通していなくてもホームページ作成ソフトを利用すれば、簡単に修正更新することができます。
 また、このシステムの基本機能を利用すれば、各教科および講義の進捗状況に合わせた小テストを作成することもできます。

(5)システム操作手順
 システムを起動すると図4のような起動画面が表示されます。初めて起動した場合は「新規に解答」ボタンを選択します。ユーザ登録画面に遷移し、「学籍番号」と「ユーザ名」を入力し(図5-a)、学習進捗データの保存先を設定します。設定が完了すると学習項目一覧(ナビ・データの目次に合わせました)が表示されます。学習したい項目をクリックすると演習が開始されます。表示された問題を、「○」、「×」のボタンで解答します。判定が解説表示画面の右上に表示されます。問題の下に解説が表示されるので、学習者は問題と解説を照らし合わせながら確認することができます。一項目当たりの問題は約20問を目安に構成しており、10分〜20分くらいで一つの項目を演習できるようにしています。解答が終了すると正解率が表示されます。一度演習した項目は目次の文字色が赤色に変わり、チャレンジしていない項目が一目瞭然で分かるようになっています(図5)。

図4 起動画面
図5 解答時の画面遷移
(a)ユーザ登録、(b)項目の選択、(c)問題と(d)解説の各画面

(6)進捗状況管理
 学習者の進捗状況はテキストファイルに保存され、同じ項目を繰り返し演習した場合、結果は上書きされ最終結果のみが記録されます。学習者に進捗記録ファイルを提出させ、管理者用システムから学習者全員のファイルを統合すれば、クラス単位での学習進捗が把握できるようになっています。

3.まとめ

 今回ご紹介した「薬剤師国試対策正誤問題ソフト」は自宅あるいは研究室で手軽に利用できること、追加更新もホームページ作成ソフトを利用し簡単にできることから、自由度が高く、教員にとっても負担の少ないシステムとなっています。最初にご紹介した「薬剤師国家試験学習システム」のマルチメディア教材に関しては経済的なサポートもなく、コンテンツの追加更新が難しい状況となっています。しかし、テスティング機能を利用する「演習&試験モード」はデータベース(国家試験問題)を毎年追加更新しており、学習者にとっても過去問を網羅的に学習することができると定評があります。
 このようなe-Learningシステムを有効活用するには、学習者のサポートはもちろん、学習者の意見を積極的に聞く必要があると痛感しています。また、対面学習でないので、教材に関する疑問点などを常に受け付ける場所を提供する必要があります。そこで、Open SourceであるXoopsを利用してコミュニケーションサイトを構築し、学生のサポートを始めました(図6)。また、通常講義の講義録サイト(exCampus)も構築し、各講義の予習復習をサポートしています(図7)。e-Learningにおいても対面学習と同様、きめ細やかなサポートを行っていく努力が必ず必要だと思い、現在も様々な検討を行っています。しかし、Xoopsに寄せられた疑問や意見の多くは、来年度以降に国家試験を迎える学部生にとっても役立つはずです。国家試験問題に加えて、これらの学生からの質問や疑問とそれらに対する解答を蓄積することで、これらのシステムが学部教育の補助手段として役立つとともに、教員の負担を軽減するものと確信しています。

図6 Xoopsを使ったコミュニケーションサイト
図7 exCampusを使った講義サポート

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