特集 教育改善のための教育・学習支援


ラーニングテクノロジーを活用した授業改善の支援と普及 〜帝京大学〜


武井 惠雄、渡辺 博芳(帝京大学ラーニングテクノロジー開発室)


1.はじめに

 帝京大学理工学部では、eラーニングを通常のオンキャンパス授業を改善する手段と位置付け、ラーニングテクノロジーを活用した授業改善を進めている。「確実に授業がわかる大学」「どの授業もよくわかる大学」を短期間に実現したい、努力する教員には教育活動を技術的に支援したい、そして“努力する新世代の大学”でありたいと願ってのことである。本稿では、ラーニングテクノロジー活用による授業改善の考え方、その普及と教員への支援の具体的な内容を紹介する。

2.ラーニングテクノロジーとその活用効果

 ラーニングテクノロジー(LT)はシステム指向で捉えた教育に関するテクノロジーであり、“人につく”内なるテクノロジーと、外なるテクノロジーとしての学習活動支援の情報システムとから成る[1]。前者は、学習者と学習支援者のICT能力を前提に、インストラクショナルデザイン(ID)として知られる教員の力、すなわち授業設計力・授業実行力がある。一方、後者の情報システムの主要なものとして、コース管理システム(CMS)がある。
 図1に示すように、LTを活用した授業では、確実な授業設計(Instructional Design)のもと、多様な学習モードを提供する。これによって、学生の自己学習力を練成する。これは教員機能の現代的拡大であり、大学に備わるべき教育の基本機能と考えている。このような取り組みは、数人の教職員による授業改善プロジェクトとして開始され、2002年のコース管理システムWebCT導入後は理工学部内に広まり始めた。また,その具体的な成果も見えてきた[2]

図1 ラーニングテクノロジーとその活用効果

3.支援と普及の体制

(1)支援部署の設置
 教員がLT活用による授業改善を進めるためには、ある程度の労力が必要となる。また、技術的な困難を抱えるケースも少なくない。そこで、組織的に教員の教育活動を技術的・労力的に支援することで、授業改善を進めるアプローチをとった。
 2003年10月、理工学部が置かれている宇都宮キャンパスに「ラーニングテクノロジー(LT)開発室」を設置した。当初、兼任3名の体制でスタートし、半年後に専任1名を加えた。現在では専任2名・兼任3名である。

(2)学生補助員(LTA)制度の整備
 支援活動において、以下のようなラーニングテクノロジー開発アシスタント(LTA)制度を設けた。まず、教職員への支援等のLT開発室の業務を行う学生補助員(LTA)を募集し、人材登録をしておく。補助のニーズが生じた際に、登録されている補助員の中から人材を割り当てて実際に作業を行ってもらう。LTAには自覚と責任を持ってもらうために、学長名で辞令を交付し、作業に応じて給与を支給する。
 LTAの登録対象は、学部1年生から大学院生までの全ての学生で、2006年度の登録者は25名である。LTAを積極的に活用した支援を効率的に行うために、独自の業務支援ユーティリティを開発し、LTA制度の運用に当たっている[3]

4.支援と普及の具体的活動

 ラーニングテクノロジー開発室の設置以来、以下のような活動を継続的に行っている。
(1)教育支援のための活動
1)コンサルテーション
 教員が担当する授業における授業設計、コース管理システムの活用方法等についてコンサルテーションを行っている。これは、教材の電子化にLTAをどう活用するかについての打ち合せや、個別の教員に役立つテクノロジーの紹介、意見交換等を含んでいる。
2)教材開発・作成・活用支援
 これまでの支援の事例として、以下のようなものがある。
講義を録画・エンコードし、コース管理システム・動画配信システムに載せる。
教員の手書きの講義ノートをスライドファイルに変換する。
教員が作成した小テストをコース管理システムに入力する。小テスト自体を作成する。
教員とLTAが協同でHTML形式の教材を作成し、新規な授業を開発する。
3)授業の支援
 以下のような授業支援のニーズに応えている。
通常はティーチングアシスタントを置かない講義授業でも、その何回かをコンピュータ教室において実施する場合等には、LTAを派遣して、授業の効果を高める。
コース管理システムのコースにLTAをティーチングアシスタントとして登録し、掲示板への質問等に対処する。
4)ヘルプデスク
 コース管理システムの操作に関する教員・学生の質問、学生のパスワード忘れへの対応、その他、授業の準備から実施における技術的トラブル一般に対処している。

(2)ラーニングテクノロジー普及のための活動
1)セミナー
 ラーニングテクノロジーを活用した授業改善についての情報共有の場として、LTセミナーと呼ぶセミナーを継続的に開催している。セミナーの内容は、単にコース管理システムの操作講習会にとどめず、大学教育における様々なトピックをとりあげるように努めている。ファカルティ・デベロップメント色の強い内容については、FD委員会と共催で開催している。
2)電子媒体による情報発信
 ラーニングテクノロジー開発室のホームページ(http://www.lt-lab.teikyo-u.ac.jp)からの情報発信に加え、LTレターと呼ぶ教職員へのBCCメールによってプッシュ型の情報発信をしている。これは、申込によって、学外の方々にも送付している。
3)紙媒体による情報発信
 LT開発室設置以来、年報を発行し、ニューズレターを四半期ごとに発行している。また、パンフレットを随時作成し、学内外に配布している。
4)帝京大学版コンテンツショーケース
 コース管理システム上のコンテンツを互いに見せ合い参考にするためにコンテンツショーケースを設置した。現在20のコースが登録されている。

5.取組みの状況と成果

 表1に活動の実施状況を示す。数値は、それぞれ実施回数、件数である。2003年度の活動は10月からの半年間であり、ヘルプデスク件数については記録をしていなかった。セミナーは、おおよそ一月に一度のペースで開催している。2005年度にコンサルテーションの回数が急増しており、そのニーズの高さがうかがえる。

表1  支援・普及活動の実施状況
  2003年度 2004年度 2005年度
LTセミナー開催数 10 10
コンサルテーション数 15 34
LTレター発信回数 12 22 24
ヘルプデスク件数 不明 127 113

 コース管理システムを活用している科目数を図2に示す。コース管理システムWebCTを導入した2002年度前期は2科目であったが、年を追うごとに増加し、2005年度には100科目を超えた。これは理工学部における開講科目の約20%に相当する。さらに、2006年度は、前期だけで、70科目に達している。これらの値には教育支援や普及活動の成果が表れていると考えている。

図2 コース管理システム活用科目数の推移

 また、コース管理システムの活用に至らなくとも、講義にシミュレーションやプレゼンテーションソフトを活用する教員も増えてきた。さらにFD委員会を主体とするFD活動とも相まって授業改善の議論が活発化してきた。学生の方も、コース管理システム導入以前の学生に比較して学習態度が積極的になったという強い実感がある。

6.おわりに

 ラーニングテクノロジーを活用した授業改善を目指した教育支援、普及活動の実践について述べた。今夏、コース管理システムWebCTのバージョンアップを行うとともに、大学のすべてのキャンパスで使用可能な体制を整備した。ラーニングテクノロジー活用を大学全体へ広めるにあたって、全学規模の新たな支援体制作りが課題となっている。

参考文献
[1] 武井, 渡辺, 高井, 及川:これからの大学教育とラーニングテクノロジー. 平成16年度情報処理教育研究集会論文講演集, pp.645〜648, 2004.
[2] 渡辺, 高井, 佐々木, 荒井, 武井:セルフラーニング型授業の試み −LMS・ビデオ教材・評価支援システムによるプログラミング教育−. 論文誌情報教育方法研究, Vol.6, No.1, pp.11〜15 2003.
[3] 鈴木, 渡辺, 及川, 高井, 武井:ラーニングテクノロジーを活用した授業の支援システムの構築−授業支援の動的管理のためのユーティリティの開発−. 第2回日本WebCT研究会予稿集, pp.19〜24 , 2004.

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