教育支援環境とIT

城西国際大学における情報メディア教育の環境とその展開



1.はじめに

 城西国際大学は、1992年「学ぶことを通じての人間形成」と「国際社会に生きる人間としての形成」を建学の精神として千葉県東金市に設立されました。現在では、経営情報学部、人文学部、福祉総合学部、メディア学部、薬学部、観光学部の6学部8学科、大学院4研究科を擁する大学として発展してきました。
 キャンパスは、東金はもとより、昨年東京紀尾井町に、今年4月鴨川市に安房キャンパスが発足し、学生数4600名の総合大学となりました。
 本学の特色として、学部のカリキュラムと連動しながら、インターンシップ・国内外の研修をはじめとする各種の「フィールド教育」、地域や企業との協働や学生の発想と企画による「プロジェクト教育」、学生の能力を開発しキャリアを身につけるための「キャリア形成教育」の3つの実践的な教育プログラムを実施しています。

2.城西国際大学におけるメディアとしての情報環境

 本学は、メディアとして、また問題解決のツールとして、学生が様々な情報機器を、授業中だけではなく大学生活のあらゆる場面において、日常的に十分に活用できるよう教育しています。その前提として、学生の皆さんには携帯情報端末としてのノート型パソコンを各自所持するよう薦めています。
 経営情報学部、メディア学部、福祉総合学部では、ノート型パソコンの所持を義務付けています。
 大学が推奨したノート型パソコンを購入した場合、在学4年間の保守・保険制度を設けており、故障したとき、無償で修理可能で、盗難・火災・全損扱い(修理不能)等の場合(免責あり)も新しいノート型パソコンが提供されます(1回のみ)。いずれの場合でも対応が完了するまで無償で代替機の貸出しサービスを行っています。不測の場合であっても、学生がいつでもパソコンを使える環境を整えています。
 ネットワーク環境として、学内には3000個を超える情報コンセントが設置されています。学生と教職員の皆さんがいつでもどこでも自由にインターネットを使用できるように、すべての教室、部室、会議室に情報コンセントを整備しています。学生食堂、学生ホールなど学生がよく集まるところにも無線LANを設けています。
 水田記念図書館には、ノート型パソコンを快適に使用できるネットラウンジや(写真1参照)、72台のデスクトップのパソコンを設置しているメディアラウンジがあります(写真2参照)。インターネット検索、オンラインデータベース、音楽・ビデオ、本・雑誌など、複合的な情報環境を提供しています。

写真1 図書館ネットラウンジ
写真2 図書館メディアラウンジ

 情報科学研究センターでは、パソコンだけではなく、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、映像スタジオ、サウンド・ラボ、デザイン・ラボなど、様々なデジタルメディアを教育する環境とカリキュラムを整えています。アメリカRealNetworks社のストリーミング映像配信サーバHelix Universal Serverとマイクロソフト社のWindowsMediaサーバを設置し、業界標準フォーマットであるRealMedia、Windows Media, QuickTime, MPEG4などで、大学と地域の映像を配信しています。ポッドキャスティング、ケータイ配信、デジタルハイビジョンのインターネット配信などの先進的な取組みも行っています。
 「フィールド教育」「プロジェクト教育」を支援するため、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ等の情報機器の貸し出しも行っています。
 このような複合した情報メディア環境を支え、学生に対して連続した情報メディアのサービスを行うために、情報科学研究センター、メディアコミュニケーションセンター、IT教育センター、図書館などが、ビジョンを共有し、組織横断的に運営しています。
 IT教育センターでは、学生のIT関連の資格取得をサポートしています。Microsoft Office Specialist受験対策講座、 初級システムアドミニストレータ受験対策講座、 基本情報処理技術者受験対策講座 、CG検定受験対策講座を行っています。
 紀尾井町キャンパスの大教室は、複数のスクリーンを持ち、遠隔授業に対応しています。地下ホールの160名の座席のすべてに、情報コンセントと電源を備えています。また4Kデジタルシネマ・プロジェクター、デジタルハイビジョンカメラ、編集機器を備えており、デジタルハイビジョン映像で展開しています。

3.三つのキャンパスとTokyo Bay Areaの教育拠点をつなぐユビキタス環境

 本学は、三つのキャンパスの他に千葉県の最先端の研究拠点「かずさアカデミアパーク」には、「城西国際大学かずさ創薬研究センター」があり、民間企業と共同で医薬品開発などの研究活動をしています。副都心幕張には、「幕張メディアスタジオ」があり、日本IBM、千葉ロッテマリーンズ、幕張ベイタウンなどの企業、NPO、商店街とITとメディアを生かした協働プロジェクトを進めています。千葉県鋸南町には「鋸南セミナーハウス」、千葉県大多喜町には「城西国際大学薬草園」があります。Tokyo Bay Areaに広がる様々な教育拠点で、特色のある教育研究活動を進めています。
 このようなTokyo Bay Areaで広がっている教育拠点を、インターネットを利用したVPN (Virtual Private Network)で結び、シームレスな情報環境を提供しています。またTV会議システムを導入し(写真3参照)、講演会・セミナー・シンポジウム・授業・会議などの双方向の遠隔中継を行っています。
 地域で広がっている様々な教育的実践をネットワークで結び、互いに啓発し合い、教育の過程と成果を共有し情報発信していく体制を整えています。

写真3 TV会議システム装置

4.ITとメディアを生かした地域・企業との協働プロジェクトの推進

 学内ではモバイルな情報メディア環境を提供し、さらに地域的にも展開しているのは、本学の情報メディア環境の特色です。学外の様々な団体・企業ともシームレスにつなぎ、様々な協働プロジェクトを進めています。このように地域に広がっている情報環境は、地域社会における社会関係資本(ソーシャルキャピタル)を支える基盤であり、協働のプラットフォームとして機能しています。
 副都心幕張では、千葉ロッテマリーンズ、幕張ベイタウン商店街、NPO、公民館、住民団体などの様々な地域での活動をブロードバンドで映像配信するサイト「幕張ドットTV」http://www.makuhari.tvを運営しています。昨年の千葉ロッテマリーンズの活躍を地域から支える原動力にもなっています。
 千葉県内では、幕張の「ベイタウンまつり」、茂原市の「茂原七夕まつり」、大多喜町の「お城まつり」、東金市の「やっさまつり」、木更津市の「港まつり」、鴨川市の八つの神社の「合同祭典」の様子をインターネット映像配信しています。
 日本IBMとは、海浜幕張(幕張メッセ)で「幕張ITスクール」を、東金市、大網白里町、鴨川市とはIT関連の公開講座を共同開催しています。一昨年には館山市の「わかしおマラソン」のインターネットライブ中継をしまいた。この成果は2004年度の「日経地域情報化大賞」の「南房総地域インフラ整備プロジェクト」の一部を構成しています。
 千葉県立東金病院とは、電子カルテを活用した地域医療連携を進めており、2005年度の「日経地域情報大賞」を受賞しています。木更津市とは、地域密着ポータルサイト「木更Con」の立ち上げと運用を協力しており、インターネット映像配信の「木更CoN TV」に技術的な支援を行っています。
 昨年12月、落語家の古今亭駿菊師匠、三遊亭金八師匠にご協力をいただき、鴨川市の安房ラーニングセンターでの「創作一分落語」の映像をポッドキャスティング、ケータイ配信、インターネット配信をしています。
 鴨川市の観光学部に隣接する「安房ラーニングセンター」に、「インキュベーションセンター」の設置を計画しており、「デジタルビレッジ」構想のもと、IT、デザイン、デジタルコンテンツ、広告を活かした新しい地域おこし、街づくりを模索しています。
 横浜美術館では、美術館の紹介映像、展覧会予告映像、開催中の展覧会紹介映像などをオリジナルで制作しています。メディア学部の学生が制作した映像は、横浜市内140箇所の文化関連施設にDVDで配布され横浜美術館の紹介に貢献しています。
 城西国際大学出版会が小松左京事務所、コニカミノルタビジネスソリューションズと協働して、『小松左京全集完全版』(全55巻)を、オンデマンド印刷を活用して出版しています。
学内では、学生のプロジェクト報告書、文集、卒業論文、修士・博士論文、教員のレクチャーノート、著書を、オンデマンド印刷を活用して、機動的に柔軟的に出版できる体制、デジタルメディアだけではなく、本や雑誌などの洗練された蓄積型の紙媒体で展開できるように、設備とカリキュラムを整えつつあります。
 このように、Tokyo Bay Areaに広がる様々なITとメディアを活用した産官学民のコラボレーションで、地域の様々な課題の解決にチャレンジし、「プロジェクト教育」、「フィールド教育」「キャリア形成」の教育プログラムで学生を育てています。ITとメディアに関する知識とスキルだけではなく、「知の意味・活用・デザイン」を体験させることを地道に行っています。

5.ITを活用した学生サービス

 シラバスはWebで公開されており(図1参照)、学生の出欠管理も、ICカードの学生証でスキャンし、教員がWebで管理することができます。
 休講情報はケータイで確認でき、学内では様々なメーリングリストが活用されています。

図1 Webシラバス(メイン画面)

6.今後の課題

 e-learningの活用、Web2.0で代表されている新しい知の表現・集積・検索・活用・展開のあり方と大学教育での取り組み、ケータイ、iPod、デジタルハイビジョン、ブロードバンドなど日進月歩のデジタルメディアへの対応、様々な教育実践と研究の成果で蓄積された知の、コンテンツ化・体系化・構造化・メディア展開、など大学教育のあり方を本質から変更せざるをえない課題が多くあります。
 本学は、このような課題に対して、真摯に向き合い、地道な教育実践の中で経験を蓄積し、地域と社会との協働の中で、絶えず問いかけて方向性を見出していきたいと考えています。
 情報とメディアを活用することによって、私学としてのオンリーワンの教育研究を推進し、地域と社会の中における大学の役割を果たしていきたいと考えています。


文責: 城西国際大学
  情報科学研究センター所長 袁 福之



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