教育支援環境とIT

金城学院大学の教育ポータルサイト構築への取り組み


1. はじめに

 金城学院大学は、プロテスタント・キリスト教の精神に基づいて、女性のための高等教育を行うことをその目的としています。聖書の教えにかなう豊かな人間性と、高度な実践的能力をバランスよく兼ね備えた女性を送り出し、21世紀社会の「地の塩」「世の光」となってくれることを、本学の祈りとしています。このために「主を畏れることは知恵の初め」をスクールモットーとしています。学部、学科構成は、大学院文学研究科博士課程、人間生活学研究科博士課程、文学部、生活環境学部、現代文化学部、人間科学部、薬学部の2研究科5学部13学科となっており、学生数5,126名、専任教職員数280名です。

2.マルチメディアセンターの施設

 本学のネットワーク環境を整備する部門はマルチメディアセンターと呼ばれています。他大学では基盤センターとか情報処理センターなどという名称の部門です。
 センターの所轄するコンピュータ施設は、学内ネットワーク、コンピュータ教室が11室、コンピュータ自習室、オープンPCです。学内に設置されているパソコンの総数は633台、そのうちWindows 476台、Macintosh 157台となっています。
 その他、iMac4台によるデジタル編集システムを持つテレビスタジオがあります。その他、言語センターにはCALL教室と呼ぶPCによるLL教室が3室あります。

図1 マルチメディアセンターのホームページ

 施設の管理運営はマルチメディアセンター長の下に5学部各1名の委員と情報教育科目委員会委員長で構成されるセンター委員会が行います。実質的なサポート体制は技術系事務職員1名、派遣事務職員1名、実務助手4名で行っています。TA(ティーティングアシスタント)およびSA(スチューデントアシスタント)が情報系の科目の補助を担当し、実務助手がそれをサポートするというのが本学の方式です。

3.学生支援システム

 教務システムはWeb履修登録などがすでに数年前から実施されている他、履修登録のためのガイドとしてWebシラバスも稼働しています。休講情報は学内の各所に設置したプラズマディスプレイでスクロール表示する他、携帯からも確認できるシステムになっています。また、就職担当のカウンターには常時エントリー情報などを検索するためのPCが数台設置されています。また、事務棟(本部棟)4階の学生ラウンジにインターネットカフェがあり、学生が自由にPCを利用するようにしています。

4. 図書館システム

 本学図書館では、本年度9月に、図書館システムをCALISから、CALIS Odinにリプレースを行うとともに、ホームページのリニューアルも行いました。リニューアルの一番の特徴は、図書館ポータル機能を持つ、MyLibraryを作成したことです。多くの図書館システム、図書館ホームページですでに、行われていることですが、以下の機能があります。
 1)分類表検索 (ホームページでは不公開)
 2)典拠検索  (ホームページでは不公開)
 3)貸出し中の資料照会
 4)予約資料の照会
 5)貸出しの履歴
 6)予約の履歴
 7)資料の購入依頼
 などの機能があります。
 今後は、MyLibraryを利用して、相互協力の申し込み受付、シラバス掲載資料と図書館所蔵資料のリンクなどの機能を追加していきたいと考えています。

5.情報ネットワークシステムの更新

 正直に書けば、本学のネットワークは2006年7月現在までセキュリティに関してもユーザビリティに関しても問題を抱えていました。
 コンピュータ教室、通常教室、演習教室、無線LANなど学内の共用施設は、学内者・学外者を問わず誰でもアクセスすることができる状態に放置され、セキュリティ上の重大な危険にさらされていました。また、大学に用意されたファイルサーバは、学内LANに直接に接続した端末からしかアクセスできない、教職員も学生も大学のファイルシステムに外部からアクセスすることができないという不便をかけてきました。大学当局としても認証システムやユーザビリティの向上は焦眉の急ではあったのですが、ネットワークにかかるセキュリティコストは私大にとって小さなものでないことも事実でした。
 この懸案の問題の解決のために、2005年4月学内ネットワークの安全な運用と、学外からの利用を可能にするために、ユーザ認証システムとファイルサービスシステムの構築を提案し、2006年9月末に導入を果たし、本学もやっと一定レベルの水準に達することができ、マルチメディアセンターの職員一同の積年の念願が成就したわけです。

6.教室と自宅のシームレス利用-LDAPとAD

 新しいネットワークシステムでは、学内のIP接続端子をもつ教室すべて、学内のすべての無線LANは、DHCPでIPアドレスを取得し、LDAPでユーザ認証をするようにしました。コンピュータ教室(オープンPC、インターネットカフェ、なども含む)はローカルホストにパスワードなしでログインしていたため、学生個人のプロファイルを持つことはできませんでした。今回、Active Directoryを導入し、学内のどの端末からアクセスしても自分のプロファイルを獲得できるようになりました。
 また、大学と自宅のデータ移動はこれまでUSBメモリのようなメディアを利用していましたが、今回、ファイルサービスとして、1個人あたり1ギガバイトのホームディレクトリを用意し、学内LAN接続のPCからはもちろん、SSL-VPNによりインターネットを利用した自宅からも、SMB方式によってファイルの保管、アップロード、ダウンロードが自由に利用できるようになりました。

図2 シームレス・ファイルサービスの概念図


 コンピュータ教室のPCは、フォルダリダイレクト機能により個人のデスクトップ及びマイドキュメントをファイルサーバに格納し、WindowsもMacOSXもOSに依らないシームレスなファイルアクセスを可能としています。この点、OS混在の環境であるために多少とも工夫をしているところです。

7. 研究室等のネットワーク環境

 全学の端末のMacアドレス管理をしている大学も多いと思いますが、本学では研究室などのMacアドレス登録というような厳しい制限はしていません。原則、研究室は教員の自主的な管理に任せています。ただし、Windowsユーザについてコーポレイト契約でAntiVirusソフトを配布してウィルス対策は義務づけています。

8.CMSの必要性

 ところで、本学もいわゆる狭義のe-Learningに取り組んでいないわけではありません。例えば言語センターにはTOEIC受験対策自習教材とマルチメディアセンターではINFOSS(情報倫理)があります。また、学院として個人情報保護の意識改善のためのeラーニングソフトを導入して教職員の自習を義務づけています。しかし、一般的にはマルチメディアセンターのような情報センターがもっとも時間と労力を割いてきたのは、全学共通教育の情報教育科目と専門科目に置かれているプログラミングや情報デザイン系の科目ではないでしょうか。ところが、こうしたコンピュータを教える科目は3,700を超える1年間の科目のうち、2パーセントか3パーセントにすぎません。残りの97から98パーセントに上るほとんどすべての科目がセンターのサポートなしに、古い環境で教員がたった一人で教育するしかないまま放置されています。
 しかしながら、これからの大学に突きつけられている問題はいわゆるe-Learningというよりは、CMS(コース管理システム)あるいはLMS(ラーニング管理システム)と呼ばれるネットワーク利用の複合的教育環境システムです。CMSはe-Learningの範疇には入りますが、よくある「講義ビデオ配信」だけのためのシステムではありません。CMSを導入する最大の利点は大学の持つネットワーク資産を活用して、コンピュータを使わない通常の講義科目やゼミの授業運営の強力な武器になることです。

9.CMS Moodleの運用開始

 商用のCMSには現在、大学などの教育機関でシェアを2分する大手のソフト、BlackboardとWebCTがありますが、問題点はそのコストです。本格的にやろうとすると1千万円単位のライセンスフィーが毎年発生します。
 マルチメディアセンターは費用対効果を考えて、2005年度後期から実験的にMoodle(ムードル)を導入することにしました。MoodleはもともとWebCTユーザが開発したもので、商用ソフトの限界とコスト高に対する反発から生まれたオープンソースです。
 オープンソースの短所はライセンスフィーが無料なだけに、トラブルが起こったときに文句をつけるところがないということです。しかし、その短所を補ってあまりあるMoodleの長所は教材掲載、掲示板・チャット、テスト・アンケートその他の機能が、商用ソフトと遜色のない実力を持っています。また、オープンソースという性格上、世界中のユーザコミュニティが活発で、いろいろなケーススタディや、Q&Aが期待できます。
 実験はMac miniでMoodleの安定版1.5.2を使って、2005年9月から2006年3月までの半年間運用を続けました。実際に使っていた教員数は15名程度でしたが、10名以上がヘビーユーザで、担当科目のほとんどで使ってくれました。80人のパソコン教室から一斉にログインするという非力のMac miniには過酷な実験を課した先生もいましたが、それから1年以上の実験運用中、一度もダウンしたことはありません。これは意外な収穫で、さすがUNIXだと驚かされたものです。
 授業以外でも、マルチメディアセンターのTA・SAの日計や連絡のためのコース設計とか、学科の掲示板代わりに使えることも分かりました。2006年度に入って、Linuxサーバ上でMoodle 1.6が動いています。

図3 金城学院大学ラーニングポータルのトップページ

10.CMS Moodleの教育ポータルサイト化

 CMSのMoodleは遠隔授業の手段をすべて実装しています。しかも、Moodleはオープンソースであるため、モジュールを追加したり、インターフェースの改善を自前でできるという利点があります。2007年度にむけて現在本学が取り組んでいることは、Moodleを真の教育ポータルサイトとして構築するものです。1)LDAPとの連携によって、Moodleへのシングルサインオンを実現する。2)教務システムと連携してコース(授業科目)・教員・学生の自動登録を実現する。3)シラバスシステムとの連携をはかって、教育ポータルサイトでいつでもシラバスが参照できるようにする。4)10年以上の実績のある授業評価をシステムとしてMoodleへ実装する。以上の4点です。以上の4点の実現は、近い将来に、履修登録・休講情報・図書館情報・時間割・e-Learningといった学生にとっての基本情報を網羅したmyMoodleへの進化の第一歩だと考えています。

参考文献
[1] 井上博樹・奥村晴彦・中田平共 : Moodle入門-オープンソースで構築するeラーニングシステム. 海文堂, 2006.
文責:
金城学院大学マルチメディアセンター長 中田  平
教育研究支援部図書館担当課長 鈴木 卓美
学生支援部マルチメディアセンター事務室課員 尾崎 聖也



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