教育支援環境とIT

 

教室に活力を与える情報環境〜文教大学湘南キャンパス〜



1.はじめに

 文教大学は、越谷キャンパスと湘南キャンパスの2キャンパス体制をとっています。越谷キャンパスには、教育学部、人間科学部、文学部があり、湘南キャンパスには情報学部、国際学部のほかに、女子短期大学部があります。
 2007年2月現在の学生の在籍数は表の通りです。
 この他に、越谷キャンパスには、人間科学研究科(修士、博士)ならびに言語文化研究科(修士)の大学院があるほか、教育専攻科と、留学生別科が設置されています。湘南キャンパスには、情報学研究科(修士)ならびに国際協力学研究科(修士)があります。


2.教育理念・方針

 文教大学は生命の尊厳を基礎とする「人間愛」を建学の精神としています。
 情報学部は、情報の本質を理解し、単なる情報利用者を超えた「情報」のスペシャリストを育てる学部です。
 国際学部は幅広い教養と信念を持った国際人を育てる学部であり、コミュニケーションツールである英語とコンピュータ教育には力を入れています。
 女子短期大学部は、健康栄養学科の1学科であり、ほぼ100%の学生が卒業時に栄養士の資格をとります。英語教育と情報教育にも力を入れています。
 湘南キャンパスには以上のように、二つの学部と女子短期大学部があります。こうした学部等における教育・研究を、ITを使って向上させることが、湘南情報センターの大きな目的です。情報学部には情報システム学科があり、情報システムに関する教育研究を行っていますが、そのために設備を特別に強化するようなことは行っていません。情報システム学科以外の学部学科は、コンピュータに関してはユーザという立場で教育研究を行っていることから、湘南情報センターで提供している設備およびサービスも、そうした立場の授業が支障なく行えるようにすることを中心としています。

表 学生の在籍数(2007年2月現在)
キャンパス 学部 学科等 学生数
越谷キャンパス 教育学部 学校教育課程 1,071
心理教育課程 415
人間科学部 人間科学科 1,016
臨床心理学科 755
文学部 日本語日本文学科 615
英米語英米文学科 591
中国語中国文学科 536
湘南キャンパス 情報学部 広報学科 690
経営情報学科 672
情報システム学科 640
国際学部 国際コミュニケーション学科 500
国際関係学科 572
女子短期大学部 健康栄養学科 298

 これまでの変遷を振り返ると、1985年に湘南キャンパスが設置されました。その際に越谷キャンパスから情報学部が移転し、旗の台キャンパスから短期大学部が移転してきました。1986年には情報システム学科が情報学部に増設されました。当初湘南キャンパスでは、メインフレームの端末が、授業で使うために提供されていました。それを使う多くの授業がプログラミングなどの、いわゆる情報処理科目でありました。その後、提供される教育研究用の情報システムはいろいろと変遷し、またそれを運営する組織も変遷を重ねました。
 そうした中で、コンピュータを使う授業も着実に変化しつつあり、いわゆる情報処理以外の授業での使用が増加してきました。特に1990年に湘南キャンパスに国際学部が設置されたことから、語学教育へのIT 活用の必要性が高まりました。
 またe-Learningに対する世の中の関心が高まったことから、本学でもLMSを導入し、いくつかのコンテンツを作成し、単位を出す実際の授業に活用しています。


3.教育支援の実践

(1)日常的業務
 湘南情報センターでは、いろいろな形で教育支援を行っています。第一に、授業その他で使用できるPC教室として、60台のPC教室が5部屋、80台の教室が1教室、100台の教室が1教室、CALL用の34台の教室が4部屋、30台程度の教室が5部屋ほどあります。PC教室の稼働率が約60%と高いこと、ならびに、宿題等でPCを使うことが多いことを考慮して、授業を入れない部屋をいくつか用意しています。
 これらの教室のPCは、毎日ハードディスクの内容を復旧することにしており、このことで毎日の授業がどの学生にも同じ環境で受講できることを保証しています。また、在学生一人ひとりにファイルサーバ上の領域を割り当てており、どのPCからアクセスしても常に各自のファイル領域を使うことができるようにしています。
 PC使用中に何らかのトラブルが生じた場合には情報処理課のカウンターに相談することができ、またメールで相談することもできるようになっています。システムの維持やこうした日常的な業務はすべて情報処理課が対応しており、毎日の授業が支障なく行われつつあることは評価されるべきことと考えています。

(2)語学教育への対応
 先に述べたように、いわゆるCALL教室が4部屋あり、各部屋34人までの学生が受講できるようになっており、以下のような機能を有します。
1) 各学生はマイクとイヤフォンのついたヘッドセットを装着して受講します。教師の音声を、任意の学生またはグループ全員の学生PCに配信でき、任意の学生のマイク音声を教師PCでモニタできます。また、任意の学生ペアで会話練習、ディスカッションができるほか、同時通訳の練習ができる、サイマル機能を持っています。
2) 音声教材を再生しながら、自分の声を録音し、録音した音声を音程の変化なく、再生速度を調整し、ピッチ波形を表示できます。教材をメディアに保存し、自宅学習ができます。
3) 教師PCよりAV機器の映像・音声をリアルタイムに一斉配信できます。またCALL教室のPCには、英文の速読を練習するソフトであるMagicShowerをインストールしています。
CALL教室は国際学部の語学科目を中心として高い稼働率を誇っています。

(3)e-Learningへの取り組み
 本キャンパスで行う授業のほとんどは、LMS(Learning Management System)を用いない、いわゆる対面授業ですが、対面授業とLMSによるe-Learningの両方を行うブレンディド学習を行う科目もあります。また、通常の授業においても、理解度を高めるための自主学習や、課題の提出等にLMSを用いています。
 学期はじめにはLDAPに本キャンパスの全学生のデータが登録されます。LMSを使用する科目については教育支援課の履修登録データを登録します。
 LMSを使用する授業に関しては、出席状況、LMSで受け取った課題の採点結果、クイズの自動採点結果および紙ベースで受理した課題や試験の採点結果を総合して、集計表にまとめる機能を有しています。その際に、課題毎に加重平均の割合を設定可能であり、採点結果は100点満点として、90点以上、80点以上、70点以上、60点以上およびそれ以外に応じて、それぞれAA、A、B、C、Dなどの記号を併せて表記できます。また欠席の場合はEを、出席回数が規定に達しない場合にはFを表記できます。
 現在使用しているLMSでは、受講している学生を学習状況に基づいてグルーピングすることができます。一部の教員は、この結果に基づいて、進度の遅い学生を集めて補講を行っています。
 具体的なコンテンツについて述べると、主なものとして以下のようなものがあります。
1)著作権と情報倫理
 これは、インターネットの時代に必要なネチケットや、著作権に関する基本的な知識を内容とするもので、本キャンパスに入学してくる1年生全員に、受講させています。具体的には、いくつかの必須科目の中で1,2回をこのために当てています。またこの内容は越谷キャンパスにも配信しています。
2)テクニカルライティング
 この授業は、情報をわかりやすく伝えるための技術を教えるもので、e-Learningと対面授業を組み合わせています。最初にe-Learningで講義を受け、締め切りまでに演習課題を作成提出します。そして演習課題についての解説を対面授業で行うものです。
3)インターネット
 この授業はインターネットの仕組みについて基本的な知識を与えるものであり、e-Learningで各自が自分のペースで学ぶものです。期末試験はペーパーテストを行います。
4)プログラミングI
 パソコン上でJavaの基本を学ぶもので、実習を伴う授業です。毎回の授業内容に関連した小クイズをe-Leaningで出題し、自動採点によって各学生の理解度を評価してグルーピングし、授業の進め方に反映しています。
5)情報と経済
 オンデマンド型のe-Learning教材での学習を基本とし、進度の遅い学生や単元ごとの理解度クイズの得点の低い学生を対象として、適宜補習授業を行っています。
6)その他
 この他に、課題の提出にLMSを使って行うものとしてプログラミングIIなどがあります。
 
 コンテンツの作成については、情報センターが取りまとめることで補助金申請を行ってきました。また外注先のスタッフが常駐し、日常的に教員とのやり取りを密にすることで上流工程でのやり直しを減らすことができます。現在まで作成されたコンテンツを呼び水としてe-Learningコンテンツの作成が広まることを期待しています。
 今後e-Learningがさらに普及するためには、品質の要求水準によって、分けて考える必要があると思われます。つまり高い品質を要求されるものについては、専門のスタッフによってナレーションの入ったコンテンツを作成する必要があります。また、一方でさほどの品質を要求しないものについては、授業を担当する教員が、自分で作成できるような環境を整えることが必要と考えられます。特に順序を指定して学ぶ必要がない場合や、ある特定の部分についての理解を促すための解説、あるいは自動採点するためのクイズ等については、内容を担当教員が作成できる場合が多いと考えられます。ただし、そのためには一般教員が容易にそうしたコンテンツを作成できる、使い勝手のよい作成環境を用意することが必須であり、今後の情報センターに課せられた課題と考えます。
 e-Learningを使用することは、あくまで授業の効果を高めるためであり、その観点からコンテンツの品質についても考えるべきです。したがって基本的には授業を担当する教員の判断によります。高い品質を要求するコンテンツに関しては、やはり予算の裏づけが要ります。そうした予算を獲得することは必ずしも情報センターの役割ではありませんが、できるだけ安価にコンテンツを作成する方策を講じることが必要と考えています。

(4)グループウェア
 平成19年度からは、グループウェアのサービスを開始することにしています。具体的には情報システム学科の新カリキュラムにおいて、プロジェクト学習が行われることになっており、その授業での使用が見込まれています。この授業では学生が自主的にグループを組んでテーマを決め、春、秋などの1セメスターの間に成果を出すことを想定しています。こうした授業においては、特定の授業時間だけに集まって相談するとは限りません。学生の間で情報を交換するのに、メールだけでは不十分です。プロジェクトの目標や進捗管理および、問題意識や知識の共有などにグループウェアが有効と考えられます。ただ、具体的にどのような使い方をするかは、やってみなければわからない点が多くあります。そのため、今回はコストを抑える観点からフリーのグループウェアを導入しました。
 グループウェアを使えることが学生の間に浸透すれば、この授業だけでなく、いろいろなゼミナール、あるいは学生のサークル活動などにおいても使われるものと考えています。


4.現状での問題点と今後の課題

 ちょうど平成19年4月に新しいシステムを導入しました。これはこれまでのリース期間が終了することに伴うものですが、入れ替えに伴っていくつかの新しい機能を導入しています。
 一つには最近とみに増えているスパムメールに対する対策を導入したこと、またウィルスを含むPCがネットワークに接続されたときの対策を強化したこと、グループウェアを導入したことなどです。
 世の中の変化につれて、情報センターには新しいサービスを提供することが要求されます。しかしながら、予算は限られていて、増加させることは困難です。そのため、従来から提供しているサービスのコストをできるだけ抑制しながら、新たなサービスを提供することが必要となります。
 e-LearningはITを使って教育の質を向上するための方法として、大きな可能性を持っています。しかしながら、新たなコンテンツを開発するために予算が必要となるだけでなく、現在使われているコンテンツを改訂してゆくだけでもコストが発生します。こうしたことから、進んでe-Learningコンテンツを作成しようという教員は限られてきます。この問題にどう対処していくかということが、今後の大きな課題のひとつと考えられます。

文責: 文教大学
湘南情報センター長 松原 康夫


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