教育支援環境とIT

 

大阪工業大学の特徴ある教育とIT活用環境



1.はじめに

 大阪工業大学は、1922 年(大正11年)に創設された関西工学専修学校を前身とし、1949年に工学部のみからなる単科大学として設立されました。その後、1996年には情報科学部、2003年にはわが国初の知的財産学部を設置して、今日に至っています。現在、工学部、情報科学部、知的財産学部の3学部15学科と、大学院3研究科10専攻で構成され、専任教員は268名、専任職員は117名、在籍学生は約8,000名です。
 関西工学専修学校の創設時の基本方針を継承しつつ、時代の変遷と大学自体の発展に照らして、次のことを教育の理念としています。
 健全な人間性、社会性、倫理観及び国際感覚と広い視野を養い、確かな人間力の向上に努めるとともに、社会・産業界において時代の要請に応じて活躍できる専門学術の基礎と実践的応用力を身につけ、加えて常に新しい知的・技術的創造を目指す開拓者精神にあふれた、心身ともにたくましい専門的職業人(高度プロフェッショナル)の育成に主眼を置く。
 また、本学園(学校法人大阪工大摂南大学)には、大阪工業大学の姉妹校として、摂南大学、広島国際大学、大阪工業大学高等学校が設置されています。2008年4月には、法人が学校法人常翔学園へ、高等学校が常翔学園高等学校へ改称予定です。


2.特徴ある教育

 実学を旨とする教育理念のもと、各種の特徴ある教育が展開されています。ここでは、最近の話題からごく簡単に紹介します。

(1)学部教育
 学部においては、現代GP選定事業の「淀川学」として、環境共生を実現する技術者教育が学内および地域に向けて行われています。また、情報科学部および工学部都市デザイン工学科の教育プログラムは、日本技術者教育認定機構(JABEE)に認定されています。
 この他、ひらかた地域産業クラスタ「組込みソフトウェア研究部会」と連携し、学生と地域企業の技術者を対象とした組込みソフトウェア開発実践公開講座などを、本学のIT設備を活用して精力的に進めています。

(2)大学院教育
 大学院関連では、文部科学省「社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム」選定事業として、製造現場で活躍できる高度プロフェッショナルの養成を目指した教育プログラムを本学内のものづくりセンターを中心として進めています。また、文科省「先導的ITスペシャリスト育成推進プログラム」選定事業として高度なソフトウェア技術者育成教育を実施するほか、知的財産教育については専門職大学院を創設しています。このように、産業界と連携して専門職業人養成を目指す点が本学の特徴です。

(3)iLoop(information Loop)
 ITを専門とする情報科学部においては、学生有志による iLoopプロジェクトがあります。このプロジェクトは、学内情報ナビゲーションシステムの作成・運用をするもので、大型液晶パネルを用いた掲示板(図1、図2)、非接触ICカードを併用したKIOSK端末(図3)、携帯電話による情報確認インターフェイスなどを自分達の力で作り上げています。学生生活を快適・便利にすることを考えて進めてきたプロジェクトですが、ここから枚方市役所への技術提供や地元の木工家具業との協力関係も生まれようとしています。

図1 エレベーターホールの掲示板
図2 掲示板での表示内容例
図3 KIOSK端末


3.ITを活用した教育

 様々な取り組みが行われています。ここでは、その一部を紹介します。

(1)プログラミング教育(情報科学部)
 プログラミングの課題に対して学生から提出されたソースコードを、コンパイル・実行し、テスト入力に対する出力をチェックした結果を成績掲示用のHTMLファイルとして作成するシステムを運用しています。このシステムは教員により独自に作成されたもので、課題に応じてチェックする規則を記述することで、ソースコードレベルで間違いの内容を指摘できることが特徴です。これを、C言語、Java、アセンブリ言語などの演習に用いています。
 また、演習時間に、Teaching Assistantに携帯ゲーム機(ニンテンドーDS)を持たせる試みも始めています。これは、サーバ側で個々の学生の演習状況をリアルタイムでチェックしておき、その結果を無線LAN経由でゲーム機のブラウザに表示させるものです。これを用いて一人で悩んでいる学生を見つけ出したり、間違いの内容をゲーム機上で見ることで、きめ細かな学習支援を目指しています。

(2)プログラミング教育(工学部)
 工学部では、Webブラウザ上でC言語のソースコードの作成・コンパイル・実行ができる環境(cClipPlant)を提供しています。これにより、学生は自分のパソコンにC言語開発環境を用意しなくても、自宅などで容易に学習することができます。

(3)英語教育
 知的財産学部にはIT技術を生かした英語教育の在り方に関心の高い教員が多いこともあり、様々な研究とそれに基づいた授業実践が行われています。
 まず、Moodleを用いた「英語学習支援サイト」を独自に運営しており、工学部および知的財産学部のテクニカル・イングリッシュ、ビジネス英語、知的財産英語、時事英語、English Presentationなど10科目で使われています。このサイトでは各教員が追加・補助教材や解説資料、自学自習のための素材などを授業の前後に掲載することが多く、学生からのアクセスも頻繁に行われています。
 また、データベースソフトウェアを用いて読解プリント教材やe-Learning用素材を効果的に作成するツールが英語教員の手で独自に開発されており、平成18年度「全国大学IT活用教育方法研究発表会」や平成19年度「大学教育・情報戦略大会」においても発表されています。このツールによって出力したプリント教材は大宮キャンパスの多くの英語教員によって広く利用されており、授業でも有効に活用されています。
 加えて、近年特に注目が集まりつつあるポッドキャスティングを利用した英語学習環境の提供にも比較的早い時期から取り組んでいます。英語担当教員グループが推奨するポッドキャスティング番組は簡便な方法で各学生の個人環境に登録できるようになっており、大宮キャンパスの情報演習室では、学生が空き時間を利用してポッドキャスティング番組を自由に聴くことができるようになっています。
 その他にも工学部の専門系教員と連携した理系英語のライティング支援ツールや科学技術英語のe-Learning用コンテンツ開発、専門分野別英語教育のための授業・研究開発を支援するデータベースの構築や授業アーカイブ、英文特許明細書に焦点を当てた翻訳支援システムの開発など、様々なプロジェクトが進行しており、本学のみならず日本の英語教育全体に対しても大きな貢献があることが見込まれています。

(4)全学向け教育
 情報センターでは、学習管理システム(LMS: Learning Management System)としてInternet-Navigware を導入し、TOEICや情報処理試験対策講座の自習用学習教材を提供しています。しかし、本学で作成されたオリジナル教材はごくわずかです。学生アルバイトを雇って電子化教材の作成に成功している大学もありますので、そのような事例を参考にして本学における教材の電子化方策を立案することが現在の課題です。
 この他、Xoopsで授業課題の提出などのサポートページを教員個人で作成している例もありますが、同時100人程度が限界です。情報センターとして、200〜300人程度が同時使用できるような高性能のLMSを全学向けに導入すべきか検討しています。


4.ITを活用した学生サービス

 情報センターでは、巻頭の写真のように二つのキャンパスの演習室・自習室で合計約1,300台のパソコンを管理運用しています。大宮キャンパスのパソコンでは、WindowsとVMware上でのLinuxを提供し、枚方キャンパスでは、Vine Linux とWindowsのデュアルブートとしています。Windowsの一部の有償ソフトウェアはZ!Streamを用いて効率的に使えるようにしており、また、プリンタ出力のポイント制度を導入して印刷枚数の節約を図っています(申請により上限ポイントは増やせます)。さらに、図書館には自主学習用に35台を設置し、Thin client構成による管理コスト軽減を図っています。
 教室・研究室等には情報コンセントを整備し、さらに図書館・食堂・一部の教室など33箇所に無線LANアクセスポイントを設置している他、自宅などの学外からでもVPNを通して学内LANを利用できる環境を整えています。
 学務系サービスとしては、履修登録、シラバス閲覧、求人情報閲覧をWeb経由で提供し、休講・補講情報などは携帯メールで通知しています。さらに、平成20年度には学生証をICカード化する予定であり、現在、授業出欠管理のためのICカードリーダをすべての教室に設置し、証明書自動発行機や新校舎への入館管理システムを導入中です。ICカードは、FCF(Felica Common-use Format)仕様とし、電子マネー(Edy)も搭載しています。今後、FCF仕様の他大学と単位互換などの大学間連携においても活用していきたいと考えています。
 また、様々なサービスを統合した学生ポータルシステムの導入や、図書館でのICカード利用を含めたキャンパスセキュリティシステムの拡充、電子掲示板のリニューアルなどを計画しています。


5.現状での問題点と今後の課題

 上述のように、e-Learningシステムの取り組みは研究室レベルや教員グループで行われていますが、用意できるサーバはどうしても小規模になり、空調管理やセキュリティ対策などの運用コストもかかります。また、学生側にとっては、個々のシステムごとに異なる利用者インターフェイスに対応せねばなりません。これらの問題を解決するためには、学習管理システムを情報センターで集中管理することが考えられます。そのためにも、まずは大学全体としてのe-Learningの方向性を決めることが今後の課題です。

文責: 大阪工業大学
情報センター長  中西 通雄
情報センター課長 八重垣茂夫


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