巻頭言

情報社会の基礎力


坂東 眞理子(昭和女子大学学長)



 文章の読み書きに加えてパソコンを使いこなせることが、仕事をする上だけでなく、社会人として生活していく上でも不可欠となっている。携帯電話も通話するためだけでなく、インターネットに接続し、メールをやり取りする必需品である。履修届けも、成績表も、休講の連絡もネットを通して済ますことができる。大学の授業もe-Learningなどいろいろなツールで、情報は手に入るようになってきた。
 こうした社会風潮の中で、大学も大学生も今までと異なるリテラシーを身に付けなければならなくなっている。情報はクリック一つで大量に手に入るが、どれが正しく、どれが間違っているか見分けるのは容易ではない。こうした情報化社会を生きていくリテラシーを身に付けるには、どうすればよいのであろうか。
 まず第1には、自分はどういう情報を何のために欲しいのだとしっかり自覚しておくことである。ネットサーフィンをしていると次々と面白そうな情報が押し寄せてきて、時間があっという間に経ってしまう。目的を持って情報と接しないと何がなんだかわからなくなってしまう。情報は手段であって目的ではない。
 第2は、真贋を見分けるカンを養うことである。そのためには自分自身の基準を持っていなければならない。基準に照らしてこれは信頼できる、これは怪しいと見分けなければならない。例えば、活字時代は新聞やテレビなどのマスコミは一応情報をスクリーニングする機能を持っていたが、ネット時代はそれに変わるものはまだ確立していない。現実にはあのブログが面白い、あのホームページがいいとか、口コミで伝播していくのが実態である。口コミの元は人間であるが、その信用性を見分けなければならない。
 第3は応用力である。情報を組み合わせ、足りないものを探し、作り出すには自分がどの程度実世界の実体験を持っているかが大事になる。したがって情報社会になればなるほど実際に、どんな人と出会い、何に感銘し、どんな体験をしたかが重要になる。逆にどれほどの情報を知っているか、持っているかはそれほど重要でなくなる。
 大学は学生に情報そのものを与えるより、こうした使いこなす力を与えなければならない。そのために昭和女子大学では地域の子育てや環境つくりに積極的にかかわり、学生たちが実際に実社会に働きかける経験を積めるよう様々なプログラムを始めている。
 例えば、世田谷FMの番組を企画・取材・放送して、地域の情報を英語で伝えるプログラムや、子育て広場に来る子どもたちの誕生会の企画やベビーシッターを行うプログラムなど、地域との連携を進めている。それは地域に役に立つだけでなく、学生たち自身が人の役に立つ経験をし、それによって自信を得るとともに自分の足りないところを自覚し、もっと学ばなければとモチベーションを高める効果もある。学生たちがこうした生の経験をすることで、情報社会を生き抜く力をつけることになると期待したい。
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