教育事例紹介 電気通信工学


電気関係の簡便Web授業支援システム


玉野 和保(広島工業大学工学部電子情報工学科教授)


1.はじめに

 IT応用技術の驚異的な進展には、その授業改善への応用を如何にすればよいのか、戸惑いを感じさせられます。ノーベル賞受賞の小柴先生は「良い教育を行うことは、方法や技術ではなく、教師自身が“教えることが楽しいと思うこと”なのだ」と言われました。IT応用技術利用の効果的な教育の窮極は、技術の問題ではなく、教師の教育に対する姿勢と情熱だと言えるでしょう。これが明確であれば、安価で日常的な「身構えない」「さりげない」IT応用技術でも、十分高い学習効果、血の通う授業は実現できるように思えます。本稿で筆者の関わっている授業の効果的運用支援にIT応用事例を、読者の参考になればと思い、紹介させていただきます。


2.簡易Webシステムを利用した授業支援の構築事例

(1)教育の諸課題とIT応用技術
 学生の「学ぶ姿勢」「自己研鑽」への意欲低下が指摘されています。これからの教育は、このことを前提として学生と教師が共通の視点に立ち、学び合いやすい方法の探索にあると思います。「ケイタイ」「チャットシステム」などのIT応用技術利用は共通の視点に立てる効果的な「道具」でもあります。一方でこれらが教師の独りよがりを増長する道具にならないように自戒も大切です[1]。近年、板書、口述筆記など伝統的方法が見直され、「機械」による方法への批判もあります。
 学習効果の向上には「繰り返し予習・復習」が不可欠です。特に得た知識を反芻することは最重要だと思います。「Webシステム」は「いつ、どこでも、一人でも」双方向で反復学習できる便利な仕組みです。「一方的、人不在」になりがちな短所を可能な限り低減し、学生・教師の双方向交流を高め、血の通う仕組みが構築できたら、非常に効果的な方法になると信じています。
 「Web利用は難しい」「そんな時間は・・・」と、声を聞きますが、日常利用しているIT技術の応用で十分です。簡単なサーバシステムと、一般的なフリーソフトによるプログラムに少し手を加えるだけで、教育に利用できる効果的なシステムが実現できます。

(2)簡便Web授業支援システム事例
 図1に筆者の簡便Web授業支援システムの構成概要を示します。これは当初、試験の過去問題とその解答・解説を掲示するために立ち上げたホームページに変更を加えながら構築したものです。構築には、著者のゼミ生の助言も得ています。構築や大きな変更は夏期休業や冬季休業中のまとまった期間を利用しています。

図1 簡便Web授業支援システム

○装置の基本構成

○基本ソフトウェア構成
  (サーバシステム)
  基本Webシステム構築のために

  双方向システム構築のために


3.実施事例

(1)ホームページの立ち上げ
 パソコンからホームページの立ち上げには、大学の情報システムの管理部門で固定IPアドレスが必要です。IISはネットからダウンロード、またはOSのCDからインストールしています。ホームページは出回っているサンプルを変更して利用しました。
 ホームページがあれば、試験の過去問題の解答やその解説、授業の学習項目、評価項目、さらにPower Pointを用いた授業のコンテンツ、資料などを「いつでも」「どこでも」閲覧可能になり、かなり授業効果を高められます。
 筆者はコンテンツをFTPでダウンロードできるようにしているので、授業に持参している学生も多く見受けます。この方法で予習・復習を支援しています。
 細かなホームページの調整には、HTML 言語の知識が必要ですので、HTMLハンドブック[2]を参照しています。参考までに筆者のホームページを文末に掲示しておきます。

(2)ケイタイ閲覧システム
 ケイタイで情報検索する学生が増えています。ケイタイは、「いつでも」「どこでも」「気軽に」「手軽に」を一層強めています。
 写真1、2はホームページの電磁気学演習を、ケイタイからも自動で解答と採点集計できるように変更したシステムの表示画面です。


(a)使用法説明 (b)採点ログ選択
写真1 「電磁気学演習」のケイタイ画面
(a)演習問題メニュー (b)解答入力(ラジオボタンで入力)
写真2 「電磁気学演習」の設問と解答画面

 ホームページをケイタイ閲覧可能にするには基本的には構成の変更は不要で、文字のフォントサイズや写真サイズの指定を外すだけで対応できます。
 ケイタイからの授業内容の閲覧は予習、復習習慣を一層高めることができます。

(3)双方向システム
 受講者からのデータや意見を得るには、CGIによる双方向システムが便利です。CGIは簡便な記述言語のPerlで作成しています。プログラム記述には若干の知識は要りますが、事例集[3]やゼミ生支援で比較的に短期間に構築できました。
 筆者は入学学生の導入教育である「総合ゼミナール」で、講義後、習熟度の確認と意見収集アンケートに利用しています。図2にその表示画面を示します。

(a)授業後の習熟度確認
(b)授業アンケート
図2 「総合ゼミナール」の設問画面

 これを利用した自由意見投稿集計結果からは意見全体に対して、「楽しかった」が56%、「よく分かった」が18%であったことが分かり、さらに「授業は生の声が大切だと思うのでネット授業は補助程度に使用すべき」という意見の学生がいることも分かりました。


4.簡便e-Learningシステムへの試み

 Webカメラとそれによるビデオチャットシステムを用いると、電話代を気にせずパソコンで映像を見ながら長時間話ができます。これを授業に利用すれば簡易e-Learningシステムが実現できます。
 写真3で示すように教壇のノートパソコンにWebカメラを取り付けます。これだけのことで受講者は持参のパソコン画面に授業内容と同時に、Webカメラの映像を表示して、板書や教員の声、また資料などを閲覧できるようになります。

写真3 Webカメラとパソコンを用いたe-Learningシステム

 このビデオチャットソフトは録画できます。 
 この方法で授業風景を繰り返し見させることで、一層反復学習を高められます。
 e-Learningシステムは高価で操作が複数だというイメージがあります。こんな簡単な方法でも高度なシステムにひけを取らないシステムが実現できます。効果的な授業実施のためには「何を」「どんな思想で」実施するのか、これらの明確化が重要です。


5.おわりに

 IT応用技術利用で学びへの動機付けと予習復習習慣までは可能ですが、知識の深化、質化は未解決です。このための体験を通した「振り返り学習」は今後の課題だと思います。教育は人間の生きた活動です。書経に「(教)うるは學ぶの半ばたり」とあります。学生と同じ視点に立って教師も常に学ぶことで「感動する授業」実現への一歩が踏み出せるのではないでしょうか。


参考文献
[1] 谷口 守:授業評価に基づくティーチング技術アップ法. 技報堂出版, 2005.
[2] e.g. 磯野康孝、蔵守伸一:HTMLタグリファレンス. ナツメ社出版, 1999.
[3] e.g. 古川 剛・谷中一朝・成田政司:CGI&SSIサンプル集. 秀和システム出版, 1998.
  HP: http://tamanoac.cc.it-hiroshima.ac.jp


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