教育事例紹介 電気通信工学


電気実験科目におけるコース管理システムの活用


大森 康司(帝京大学理工学部情報科学科技術職員)
熊澤 弘之(帝京大学理工学部情報科学科教授)
海上 隆(帝京大学理工学部情報科学科教授)
高井 久美子(帝京大学ラーニングテクノロジー開発室技術職員)
渡辺 博芳(帝京大学ラーニングテクノロジー開発室准教授)


1.はじめに

 本学の理工学部では2002年にコース管理システム(CMS)であるWebCT[1]を導入し、セルフラーニング型授業[2]など、CMSを活用した教育を進めています。電気基礎実験においても、2004年度から予習・復習や実験レポート作成時における補助的な手段としてCMSを活用しています。学生の自己学習を引き出し、実験内容の理解を深めさせることを目指しています。


2.授業の概要

(1)電気基礎実験の概要
 本学部情報科学科の学生実験である「電気基礎実験」は、電気製品や情報通信機器の動作原理や仕組みを理解するために、電気回路の基礎的な知識を修得することを目的としています。
 授業は2年次後期に設定されています。学生は配布された実験の手引きに従い、2名1組で実験します。電気基礎実験で扱うテーマは「RC回路の周波数特性」、「共振」、「微分・積分回路」の3テーマです。実験終了後に実験レポートを作成し、担当教員に対面での指導を受けます。内容が不十分なレポートは修正が求められ、合格するまで再提出を繰り返します。

(2)授業改善の経緯
 電気基礎実験は電気回路等の科目を履修していることを前提としていますが、それらの科目を履修していない学生も見られ、実験内容の理解が十分ではありませんでした。そこで、2000年度より、まず実験内容とその背景となる理論についての講義をし、翌週に実験をするといった具合に、 2週間かけて1テーマの実験を行うようにしました。その結果、ある程度の改善は見られましたが、それでも理解が十分でない学生も少なくありません。実験レポートにおいても、実験内容の理解が浅く、考察内容が不十分なものが多く見られます。
 このような学生実験では、実験内容の理解を深めるために、学生自身に予習・復習を促すことが効果的だと考えられます。


3.コース管理システムWebCTの活用

 本学のラーニングテクノロジー開発室(LT開発室)[3]の支援を受け、2004年度から電気基礎実験でCMSを活用しました。
 CMSに実験テーマごとに図1のようなページを作成し、以下の教材を掲載しました。

図1 実験テーマごとのページ例

(1)講義ビデオ
 実験内容とその背景となる理論についての講義を録画した図2のようなビデオを配信しました。これは講義の一部を聞き逃した学生や、実験後にレポートをまとめる段階になって講義内容を確認したくなった学生をターゲットとしたものです。講義ビデオは見たい部分にすぐにアクセスできるように、実験内容やその理論などの項目ごとに見出しをつけて分割して配信しました。
 講義のビデオ化においては、LT開発室の協力を得て、学生補助員のLTアシスタント (LTA)がビデオカメラとノートPCを教室に持ち込み、撮影しながらWMV形式で保存し、それをFlashのビデオコンテンツに仕上げました。

図2 講義ビデオの例

(2)セルフテスト
 セルフテストとは、質問の解答を選択すると、その解答に対して正解・不正解の情報と解説がフィードバックされるCMSの機能です。アクセス記録は残りますが、成績は残りません。
 セルフテスト機能を活用し、実験に関連する基礎的な問題を掲載しました(図3)。セルフテストを解くことにより、学生自身が気軽に実験内容の理解度を確認できます。
 質問・解答・フィードバックは実験担当教員が作成し、LTAがCMSに入力しました。

図3 セルフテストの例

(3)Javaアプレットによるシミュレーション教材
 Webページ「電気回路用教育支援教材−iCASS」[4][5]に公開されているJavaアプレット教材を利用し、実験に関する教材へのリンクをCMSに掲載しました。
 「RC回路の周波数特性」のテーマでは、振幅・位相の周波数特性についての測定を行いますが、この教材は回路図やグラフが表示され、その中にあるカラーポイントや素子をドラッグすることにより図や数値が変化し、振幅・位相特性のシミュレーションができます。学生がシミュレーションを行うことで、特性を視覚的に捉え、実験内容の理解に役立つと考えられます。

(4)考察ガイド
 学生が実験レポートを作成する際に、どのような点を中心に考察すればよいかについてのポイントやヒントを掲載しました。この他に、考察のヒントになる課題や復習問題も掲載しました。

(5)レポートチェックリスト
 この実験で初めて本格的なレポートを作成する学生が多いことから、レポートの構成や記入上の注意点を学生自身に確認させるためのチェックリストを作成しました。チェックリストは印刷物で配布し、実験レポートと一緒に提出することを義務づけました。
 2004年度にはCMSでも提供していましたが、手書きのレポートにおいては、印刷物のチェックリストの方が使いやすいため、現在は印刷物のみを使用しています。


4.CMS活用の効果

 2007年度の履修者115名(回答数99)に授業アンケートを実施しました。
 本実践では履修者のCMSの使用を必須としていませんが、アンケート結果から約8割の学生が自己学習に使用したことが分かりました。教材の有用性を問う質問については、約5割から「役に立つ」という回答を得ました。
 自由記述では「セルフテストを使用して自分がどこを理解していないか分かった」、「講義ビデオが役に立った」等の意見がみられました。これらの意見から、学生自身が理解していない部分を把握した上で、教材を積極的に使用していることが窺われます。
 実験レポートの指導では、考察内容が不十分な学生に対してCMSを利用して書き直すことを促すと、再提出の際には実験内容の理解が深まり、考察内容についても向上がみられるようになりました。
 これらから、学生実験におけるCMSの活用は、自己学習を促す効果的な手段の一つだと考えられます。
 本実践においては、授業時間外にCMSを活用する方法をとっていますが、実験中に疑問点が生じる場合も多く、そのような場面でCMSの教材などを活用することで、よりスムーズに学習を進めることができると考えられます。今後、学生実験室にPCや情報コンセント等の設備を導入するなど学習環境を整えたいと考えています。


5.おわりに

 今回の実践により実験型の授業においても、CMSの導入により学習効果が上がることが分かりました。今後は、さらに内容を充実させて、CMSによる学習効果を検討し、改善を図りたいと考えています。

参考文献および関連URL
[1] エミットジャパン編:WebCT:大学を変えるeラーニングコミュニティ. 東京電機大学出版局, 2005.
[2] 渡辺博芳, 高井久美子, 佐々木茂, 荒井正之, 武井惠雄:セルフラーニング型授業の試み−LMS・ビデオ教材・評価支援システムによるプログラミング教育−. 論文誌情報教育方法研究, Vol.6, No.1, pp.11-15, 2003.
[3] 帝京大学ラーニングテクノロジー開発室
http://www.lt-lab.teikyo-u.ac.jp
[4] 森 幸男, 河野修平, 市川 雄, 相川直幸, 西田保幸:アニメーションを利用した対話型の電気回路学習教育プログラムの開発. FIT2002講演論文集, 2002.
[5] http://www.sia.co.jp/~icass


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