教育・学習支援への取り組み

ICTキャンパスの構築による学生教育・生活支援
〜福岡大学〜


1.はじめに

 福岡大学は9学部31学科、大学院10研究科32専攻、二つの大学病院と附属中学・高校を設置する総合大学です。学生・生徒数は約23,000人、教職員約3,300人、卒業生は21万人を超えました。本学は来年2009年に創立75周年を迎えます。
  本学の教育は「建学の精神」(思想堅実・穏健中正・質実剛健・積極進取)に基づいた全人教育を理想とし、「人材教育と人間教育」「学部教育と総合教育」「地域性と国際性」の三つの共存を図ることによって、真理と自由を追求し、自発的で創造性豊かな人間を育成し、社会の発展に寄与することを目的としています。
  福岡大学でも大学を取り巻く厳しい環境変化に対応するため、様々な改革を推し進めています。特に大学生の学力や社会人基礎力の低下が危惧されている中、本学が目指す全人教育、すなわち「人らしき人」を育成するためには、勉学はもちろん、正課外の活動や学生一人ひとりの日々の生活についても、できる限りきめ細かく支援できる体制を構築する必要があります。教職員すべてが学生としっかり向き合って人間的成長を培う気概が必要です。しかし、20,000人を超える学生一人ひとりと向き合うことは容易なことではありません。そこで、福岡大学ではこれを可能にすると同時に、今後果敢に推進すべき大学全体の改革を支えるインフラとしても欠くことができない情報環境の再構築に努めてきました。各種の情報システムおよびサブシステムで構成される「ICTキャンパス」です。
  創立75周年の記念事業の一つとして位置づけ推進してきた「全学の情報化」は、昨2007年度にその中核となる学務系の新システムが本格的に稼動しました。他のシステムや学務系システムの一部は既に年次を追って稼動していましたが、昨年度に新学務系システム全体の構築が完了し、現在稼動2年目に入りました。再構築した新たな情報環境「ICTキャンパス」を活用し、学生に対する教育や生活の支援強化に努めている本学の現状をご紹介します。

写真1 福岡大学キャンパス


2.全学的取り組みの発端−それは「えんま帳」の遅れから始まった−

 福岡大学の情報化は決して先進的とは言えないにしても情報化自体は進められてきました。しかしそれは、教育研究、学務、法人業務等、それぞれの必要に応じて構築され運用されてきました。教育研究システムを除けば、教員が情報システム導入に関与することはなく、総合情報処理センター(旧電子計算センター)と業務担当組織の職員によって情報化は担われてきました。
  ところが2000年4月、新たな教務システムへ更新したことによって、新学期の第一日目の授業に受講生の名簿、いわゆる「えんま帳」の準備が間に合わないという事態が発生しました。本学では伝統的に講義開始日に受講登録者の名簿を授業担当者に提供しています。
  問題を重視した教務委員(教員)とセンター職員との間で、協議や検討が重ねられました。そのうち、一部の関係者による勉強会が始まりました。それはやがて、情報システムの構築には全学的な見地からの検討が必要であること、ICTをFDや学生にとって複雑な学内手続きの簡素化に活用する可能性、さらには教務業務にとどまらず、多くの学内業務におけるデータの共有化を図り、業務の効率化を実現することの必要性などが学内で認識されることになりました。
  そこで、当時の大学執行部の決断により、学内の情報システム全体を見直し、理想的な情報環境を再構築することになりました。


3.福岡大学の情報化の基本理念と基本構想

 情報環境の再構築にあたって、これを効率的に実現するため、2002年に情報化推進委員会を設置し、翌2003年には本学の「情報化基本理念」を定めました。これは、三つの基本理念と五つの指針からなっており、具体的には以下のとおりです。

三つの基本理念
1. 情報の蓄積と共有により、人間性豊かなキャンパス・コミュニティを形成する
―大学構成員のすべてが情報化の恩恵を享受できる魅力ある大学づくり―
2. 情報の活用と、情報伝達の高速化により、本学の教育・研究・医療および法人運営の効率化と高速化・充実を図る
―正確で整理された情報を、必要な人が必要なときに迅速に利用できる情報環境の実現―
3. 学外への情報発信を積極的に行い、本学のさらなる社会的価値を創造する
―学外への多彩な情報発信と広報の充実、および学外との多様な連携の推進による地域社会と世界への貢献―
五つの指針
1. 利用者の立場にたったシステム構築を行い、ハンディキャップを持つ利用者(学外を含む)に対しても十分な配慮を行う
2. 学生を含む本学構成員の情報リテラシー向上と、ネットワーク社会におけるセキュリティ意識の浸透を図る
3.

急速な社会的・技術的変化に対応し、全学的に統合化された効率的な情報システムの整備と再構築を、財政面を含めて計画的に推進する

4. 適切なアウトソーシングの活用と、情報化に必要な学内の人的資源の養成・確保を図る
5. 情報化の進展に対応した学内の業務改善や組織改革を積極果敢に行う

 本学では、これらの理念と指針に基づいて情報システムを再構築することになりましたが、多岐にわたる学内業務(活動)の情報化を検討するため、以下の6分野に分けて専門部会を設置しました。
 

 1.学生教育生活支援分野
 2.研究分野
 3.情報公開広報分野
 4.大学運営及び管理業務分野
 5.情報基盤分野
 6.医療分野

  さらに外部コンサルタントを導入し、本学情報化のグランドデザインを検討するとともに、それぞれの分野での基本構想とその実施計画の検討に着手しました。


4.学生教育・生活支援分野の情報化−教職協働による構築−

 学生に対する教育や生活支援の場面での情報化を担当する学生教育生活支援分野専門部会は、学生にとって快適で魅力ある勉学環境を提供すると同時に、学生生活を支える人間的な交流システムとしての情報化を目指しました。一言で言えば「学生サービスの向上」ですが、それは単なる旧来からの窓口対応サービスの改善にとどまるものではなく、図1に示したように、入学前から卒業後まで、一人ひとりの学生の個性を見ながら、それぞれの目的に合ったプログラムやサービスを教職員が一体となって支援する「エンロールメント・マネジメント」の実現です。これは学外のステークホルダーに対しても本学に課せられた使命を適切に果たしていくことでもあります。

図1 エンロールメント・マネジメント
図1 エンロールメント・マネジメント

 

 言うまでもなく、本学の第一の使命は教育にあります。学生に対する本当の意味でのサービスの向上は、学生と教職員間および教職員相互のコミュニケーションの適時化・迅速化をはかり、その内容をより深化させることによって、学生がより豊かなキャンパス生活を実現できるようにすることを第一の目的とするものです。
  その実現には、学生にとってもっとも身近な履修登録作業や成績処理をはじめ、大学全体の業務の効率化・迅速化が大前提となります。もちろん情報システムの整備だけではなく、組織や業務の見直しも必要になります。無駄な業務を省き、教職員が本来やるべき業務に専念できる環境を整備することが学生サービスの向上につながるからです。
  専門部会では「教育・教務系」「学生生活系」「就職・進路支援系」「その他」の4分野に分けてワーキング・グループを設置し、さらにサービス単位に20の小ワーキング・グループを設け、各システムの概要・基本・詳細の各設計から最終的な運用評価・運用教育まで検討・実施してきました。小ワーキングの中には年間100回以上も開催したものもありました。
  これらの専門部会やワーキング・グループは、いずれも関連する部署および総合情報処理センターの職員と教員とによって構成された組織であり、まさに教職協働によって進められたことが大きな特徴です。併せてワーキング・グループは関連する既存の学内審議組織(教務委員会、学生部委員会、就職・進路支援センター運営委員会等)との連携を図りながら作業を進めました。
  必ずしも順調な進捗をみせない部分もありましたが、約3年を費やして2007年度から本学の情報化の中核を担う新たな学務系システムがいよいよ本格的に稼動することになりました。再構築したシステムは、主要な機能項目で65、サブシステムは793にのぼりました。その主なシステムは以下の通りです。

快適で魅力ある勉学環境のためのシステム
  授業支援システム
  オフィスアワー検索システム
  教員プロフィール公開システム
  Web休講補講システム
  授業出席管理システム
  Web履修登録システム
  Webシラバスシステム
  Webアンケートシステム

学生生活を支える人間的な交流システム
  Webプロフィールシート
  奨学金申請
  Web健康診断予約
  交換留学・海外研修申請
  Webアルバイト・アパート検索
  学友会活動申請
  エクステンションセンターシステム
  就職情報システム


5.「FUポータル」(ポータル・システム)を基点としたICTキャンパス

 本学では「FUポータルを基点に始まるICTキャンパス」のキャッチフレーズで学生および教職員に新たな学務系システムの活用を促しました。すべての在学生と教職員(非常勤講師を含む)には、一人ひとりに専用ポータルサイトが提供されています。学内の情報サービスのほとんどはこのポータルを介して利用することができます。そのため、単一のIDとパスワードで全システムを利用できるように、情報基盤としての統合認証システムを導入しました。
  ポータルにログインすれば、まず利用者本人に向けた「お知らせ」が飛び込んできます。各教職員はFUポータルのお知らせ配信機能を利用し、対象者を限定した連絡や通知が直接送れるようになりました。これまでの紙媒体による掲示板に代わるものです。学内のパソコン教室や自由に利用できるオープン端末室に設置されたパソコンのブラウザのホームはすべて「FUポータル」のログイン画面になっています。学生がパソコンを利用する際には、自然に「FUポータル」に誘導するようにしています。

図2 FUポータルのログイン後の画面
図2 FUポータルのログイン後の画面

 ポータル・システムには多くの機能を持たせていますが、必要な操作が必要な時期にのみできるよう左側メニューを制御しています。したがって、例えば履修登録期間以外は当該メニューは表示されなくなります。
  学生は、インターネット環境があれば、大学への手続きの多くを窓口に出向くことなく、どこからでもこのポータルを介してすませることができるようにしています。ただし、事前の相談や確認が必要なものについては、あえて窓口での対応を残しています。それでも学生は複数の窓口を巡る必要がなくなり、ワンストップサービスが実現しました。自動証明書発行機の導入と併せ、職員の窓口業務が軽減され、学生の必要に応じた懇切丁寧な窓口対応が可能になったことも大きな成果です。
  学生はさらに授業や就職・進路支援に関する情報、学生生活支援関連のサービス、図書館の『Myポータル』機能によるオンラインサービスなど学内の各種サービスをこのポータルから利用できます。本学のICTキャンパス利用者にとってFUポータルはまさにすべての基点となるものです。
  次にFUポータルを介して利用するいくつかのシステムについて紹介しましょう。

(1)Web履修登録システム
  既に私立大学では目新しいものではなくなった感がありますが、本学でも2007年度の履修登録から導入しました。前年度に一部の学部で試行し、その上で全学への導入を予定していましたが、実際には構築の遅れから、一気に本番稼動となりました。前年の大規模大学での障害発生のニュースもあり、慎重の上にも慎重な準備をしましたが、初日に先着順で受講者を制限する科目登録が設定されていたためアクセスが集中し、一時ポータルへログインできなくなる事態が発生しました。幸いシステム側の対応で一時的なものに抑えることができ、その後は問題なく登録作業を完了することができました。2年目の今年はきわめて順調でした。
 学生は卒業見込やこれまでの修得単位数の確認、Webシラバスや教員プロフィールなどを画面上で確認しながら、短時間に登録作業を終えました。画面上には本人が受講できる科目のみが表示され、その中からクリックして選択するので登録ミスも激減し、未登録者も直ちに判明するので、従来は5月までかかっていた登録修正作業も1週間以内に終え、前期の開講日を迎えることができました。

図3 Web履修登録画面
図3 Web履修登録画面
(2)授業支援システム
  授業と連動した学生と教員間でのコミュニケーションの強化と、学生の自己学習を支援するシステムです。
  学生は自分が履修している科目の講義資料の参照や、小テスト(アンケート)の受験(回答)、課題提出などが可能です。それぞれ過去の小テストの結果や課題提出の確認もできます。さらに授業担当者が設置したBBSを利用して受講生同士や担当教員とのコミュニケーションをとることができます。特に新入生を対象とした基礎ゼミナールなどでは、BBSを利用した学生同士や教員を交えたコミュニケーションが入学間もない時期の友人作りに一役かうなど、まさにネット時代の新入生の新たな環境への適応の助けになっています。現代の若者の授業に対する積極性や、学ぶことへの動機付けは、案外このような仕掛けの中でも育まれるのではないかと思います。
  教員は授業支援システムを活用して、小テスト(アンケート)や課題の提示・集計さらに採点も容易に実施できる機能があります。毎回の講義内容の詳細を講義資料とともに掲載でき、「授業管理」機能を使えば、受講生全員または必要な受講生に限定して「お知らせ」を表示したりメールを送信したりすることもできます。このように、授業時間外でも相互にコミュニケーションをとることができるので、よりきめ細かな学習指導が可能になりました。

(3)授業出席管理システム
  大学生に出席調査が必要か。これは多くの教員から出された疑問でもありました。自分の成績評価には出席状況は関係ないから無駄なシステムだ、との意見もありました。
 教壇に立つ側の視点からはそのような発言も出てくるでしょうが、本学が目指す全人教育の視点、学生一人ひとりを本当の意味で育むには、彼ら自身が修学を管理し、主体的に学ぶ姿勢を身につけてもらう必要があります。各授業への出席状況を客観的に記録できる仕組みを提供することによって、学生の自己管理を促すことがねらいです。もちろん、教員にとっては出席調査の負担と時間の軽減、さらには教育や生活指導にも活用できるシステムとして導入しています。父母懇談会等でも個別の学生の詳細な出席状況を提供することが可能です。これは学費負担者に対する大学としての務めでもあると考えています。
  このシステムはIC学生証を教室内に設置した非接触型カードリーダにかざすことで、出席および遅刻時間が記録されるものです。
  昨年4月の導入後からキャンパス内の様相は明らかに変化しています。朝9時の始業前には小走りに教室に急ぐ学生の姿が多く見られるようになりました。開始時刻10分後には出席者の95%が入室していることが確認できました。また、5月のゴールデンウイークを過ぎると出席者が急激に減少していた以前の状況から明らかに変わってきています。

図4 出席調査用カードリーダ
図4 出席調査用カードリーダ


6.これからの課題−導入から理解・検証・評価の段階へ−

 「ICTキャンパス」の構築は、それ自体が目的ではありません。基本理念が謳っているように、この情報環境を活用して大学構成員の全てにとって、より快適で豊かなキャンパス生活が実感できなくてはなりません。
  せっかく構築した情報環境も十分に活用されなければ、これまでの多くの努力と莫大な投資がまったく無駄になります。学生教育・生活支援分野にとって「ICTキャンパス」は学生諸君のキャンパスライフが真に豊かで実り多いものになるよう支援するものでなければなりません。構築したシステムそのものは、それを実現しようとする私たち大学構成員の意識的な活動によって機能する仕組みに過ぎません。すでにシステム構築前から学生教育・生活支援において同様の活動に取り組んでいた教職員にとっては、今回のシステム構築はまさに朗報でした。一方このシステムから目を逸らし、利用を拒む人がいるのも事実です。今叫ばれている組織的な学士課程教育の必要性について全教員の理解と協力が不可欠です。
  同時に稼動からまだ1年余りですが、構築したシステムが本当に私たちが望んだ成果を実現しているのかどうか、これから検証し、評価することが必要になります。


参考文献
[1] 山口住夫:(資料)福岡大学学修支援システムの構築を終えて―構築の意図と、学び得たこと―.
『福岡大学工学集報』第80号, 福岡大学研究推進部, pp.61-76, 2008.
[2] 一瀬信介:2万人を超える学生のキャンパスライフに変革をもたらしたICTキャンパス.大学行政管理学会 第11回研究集会研究発表, pp. 33-37.
[3] 山口住夫:ActiveCampusをベースにした福岡大学のICTキャンパス構築. 大学NUA研究会第29回研究会, 2007.
[4] 鶴田直之・他:継続的・主体的学習を目的とした全学規模のICT活用型学習支援システムの構築. 『平成19 年度大学教育・情報戦略大会予稿集』私立大学情報教育協会, pp.190-191, 2007.
[5] 奥村勝・他:継続的な修学指導を目的としたICカードによる全学的な出席管理システムの構築. 同上, pp.192-193.
[6] 山口住夫:ICT活用型学修支援システム−FUポータル−. 『平成19年度情報教育研究集会予稿集』, 2007 .

文責: 今野 孝
(福岡大学教務部長)


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