特集

連携で学生を創る

今泉 忠(私立大学情報教育協会事業普及委員会委員長)

 大学については、知的イノベーションの創出機関であるという点から論じられる場合が多い。この場合、そこでは研究機関としての大学という側面について評価される場面が多い。しかし、近年、グローバルに変容した世界からの要請もあるが、大学が本来教育機関であることから「社会人基礎力」や「学士力」に代表されるような視点から、大学の教育のあり方について議論され、将来の教育方法が検討されてきている。
 グローバル化した高度研究・高度教育では、「学生に社会でのある問題に対して、多様な解決法があることを理解させるとともに、その解決法を評価できるスキルを修得させること」が重要となる。この実現のためには、大学における教育の場を学内のみに止めるのではなく、学外へと拡大し、かつ、単独に実施するのでなく外部機関と連携した教育を行いつつ、各大学で特徴ある学生を育成することが必要である。このような実践を通じて、学生は社会での自分の役立ちについて考えたり、外部からの知的刺激を与えられて問題解決と問題発見について実践できるようになるであろう。このような学生を創りあげることは、社会からも要請されている大学での大きな教育目的ではなかろうか。
 このような外部連携について、大学での現在進行形の連携を見直してみると、研究室と企業事業部、先端的研究機関としての大学と科学技術の創出のような従来型の産学連携に加えて、教育機関としての大学全組織と外部機関が連携した教育が発生している。このような学内のみではなく、地域との連携、企業との連携、他大学などの教育機関との連携は、単独の大学の教育リソースでは達成しにくい「何故?、何故?」を考える教育効果を学生へ与えるのみならず、大学の独自性を表現することも可能であり、また、地域への効果などが期待される。
 このような外部と協力した連携教育を持続的にそして組織的に行うことは、従来の学部単位での活動を行うことが多い大学の仕組みの中では難しい点もある。例えば、大学間連携を考える場合に、学部単位の連携であると必然的に類似した学部間交流となってしまう可能性がある。その大学でしか学べない、または、この大学に来てよかったと比較対照ができるような大学間連携でなければ持続することは困難であろう。しかし、学生の教育を受けたいという欲求に対応できるような総合教育センターなどの設置や教育提供の仕組み構築など、そこからの提案としての連携教育もある。このように、大学自体でも連携教育の重要性と有効性に気づいてきていると考えることができる。
 地域連携に関しても同様な流れがある。例えば、従来の地域連携に各地域の文化と結びついた地域活動への参画があるが、それのみでは、文化を因果関係の原因や結果として考えることが難しく、表層的な理解になったり、学生の卒業などで途絶える可能性があり、大学の持続的な活動とするには困難な面がある。しかし、その地域文化を育成してきた原因として、その地域の産業などの存在があることに気づくと、地域の問題について新しい連携教育が可能となる。つまり、産業と文化が融合した複合的な視点からの問題解決力の育成へと結びつくことが可能となり、また、因果関係について考えることも可能となる。このような連携教育は、大学のみならず地域へも従来と異なる複合的な視座を提供する。
 外部との連携教育を行うことで、各大学での教育理念の実現や外部への教育についての説明責任などがより一層明確になると考えられる。多くの大学での取り組みとして必要なことであり、各大学での高度な高等教育の「見える化」と同時に「見せる化」とも結びついてこよう。
 今号では、学生を創ることの例として、このような新しい大学間連携や地域連携に組織的に大学の理念の実現として取り組んでいる3大学での実践から紹介する。



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