特集 連携で学生を創る

大学間連携とeラーニングによる教養教育の推進

本郷 優紀子(桜美林大学総合研究機構事務局長[2009年3月現在]、教員免許更新講習センター事務局長)


1.はじめに

 平成11年4月、首都圏の西部に位置する有志大学・短期大学の学長により、学生への教養教育の充実のための単位互換の実現を目的として、首都圏西部大学単位互換協定会(以下「協定会」と略記)の単位互換がスタートしました。
 単位互換には、単科大学や小規模大学が自大学のみでは実現しにくい多彩な科目を学生に提供できるという利点があります。それは、個々の大学が多彩な教養科目を網羅しなくとも、学生への豊富な学びの支援が可能になり、自大学の特徴ある科目の充実に専念できるということにも繋がります。
 桜美林大学の佐藤東洋士理事長・学長が協定会の会長であった平成14年から平成17年までの4年間、筆者は事務局として協定会運営の手伝いをさせていただきました。
 以下、協定会が学生の学びを支援するにあたりどのような問題があり、それをどう克服してきたか、またその経験をもとに桜美林大学が独自にどのような取組みを始めることになったかを紹介させていただきます。


2.単位互換事業の不振

 協定会は単位互換が目的で設立されましたが、当初単位互換の利用率は1パーセントにも満たない状況でした。そのため、学生への意識調査を行ったところ、多忙が原因であることが明らかになりました。学生たちには、わざわざ出かけて他大学の授業を受講する時間的余裕がないということなのですが、協定会では学生の学ぶ意欲の欠如も関係しているのではないかと考えました。


3.受講しやすい土曜開講の「共同授業」

 そのため、発足3年目の平成13年4月より、平日の単位互換授業に加え、土曜午後に加盟大学の交通至便なキャンパスを使って開講される「共同授業」を立ち上げました。
 これは、学生が興味を持ちそうな今日的テーマを、加盟大学の教員がさまざまな角度からアプローチして開講するオムニバス形式の授業です。表および下記のWebから詳細をご確認ください。
 http://www.shutokenseibu.ac.jp/08kyoudoujyugyou_bosyuuyoukou.pdf

表 「共同授業」テーマ例(平成21年度)
開講期 統一テーマ 講義テーマ(各6回)
前 期
異文化の理解II 「音楽が得意なアフリカ人」というのは真実か、それとも偏見か/共に働くための異文化理解 ― 東南アジア、国際協力の現場から/日本と韓国の美容整形:社会と<からだ>について考える/ネイチャー・ライティング:アメリカ、日本、そしてオーストラリア
健康を科学するIII
日本人の死因と生活習慣/暑熱と寒冷による健康障害 ― 熱中症と凍死/環境・食の安全安心と健康ライフ/人の健康と日常における身体活動量について/心理的ストレスと心身の健康/セルフコーチング ― 健康を維持増進させるために
後 期 食の安全II 食中毒からあなたを守る/最近におけるサルモネラ、カンピロバクター食中毒の動向/食品添加物と農薬等の安全性評価と食品表示について/遺伝子組換え作物:その特徴および現状について/狂牛病、クローン家畜、そして遺伝子組換え家畜と食の安全/食の安全 ― 消費者の視点から考える
地球環境 地球「青い惑星」における水環境の現状/トキの放鳥を支える、水田の生物多様性と私達の暮らし/陸地の植生と日本の森林特色/変化する気候と天気〜地球温暖化/身近な海・知らない海/オゾン層破壊と人間活動について

 学生の興味関心のあるテーマであること、時間的ゆとりのある土曜開講ということ、交通の便が良いことなどであったため、「共同授業」の受講状況は好調でした。


4.高校生への大学前教養導入教育

 さらに、この「共同授業」には、学ぶ意欲の低さに悩む地元公立高校の進路指導協議会より、高校生の学びの意欲向上に期待できるとして、受講受け入れの依頼がありました。それを受け、「共同授業」に高校生の受講を認めることにした協定会では、高校教員との交流により、学ぶ意欲を高めるためには、大学同士の連携で学生の意欲を喚起するだけでなく、教育段階間の連携による学びの意欲の喚起も重要であるとの認識を新たにしました。
 この、大学とその前の教育段階(高等学校)の連携が必要であるという考えに立脚し、本学が協定会の事務局として新たに加盟大学に呼びかけ進めた取組みは、高校生を対象とする大学前教養導入教育としての夏休みの合宿形式の「高校生のために大学セミナー」でした。このセミナーは、加盟大学の宣伝を一切行わず、高校生に人生のこの時期に大学へ行くことについて考えさせ、大学へ行くことの意味に気付かせるためのものです。プログラムは、講演、体験学習、ワークショップ、討論などで、参加高校生からは、「受験勉強はいやだと思っていたけど、初めて勉強することの意味が分かった。」「ものごとをしっかり考えながら生きなければならないことが理解できた。」「こんな話はこれまで聞いたことがなかった。人生が変わった。」「実際に体を動かし、知恵を絞った体験授業はすばらしかった。」などの感想が多数寄せられました。

写真 高校生のための大学セミナーの様子


5.eラーニング化の必要性と現代GP

 「共同授業」の受講は好調であったものの、やはり平日開講の1,000科目を超える単位互換提供科目の受講状況には変化が見られなかったため、筆者は、「共同授業」でさまざまな分野の学びの面白さを味わった学生がさらに単位互換科目に目を向け、興味を持った分野の学びを深めていくといった学びの広がりを促進させるためには、自大学や自宅で自由に受講可能なオンデマンド方式のeラーニングを開講することが有効ではないかと考えました。
 折りしも、平成16年、文部科学省による「現代GP(現代的教育ニーズ取組支援プログラム)」がスタートしたため、協定会では「大学連携による教養教育への総合的取組」をテーマとして単位互換、「共同授業」、高校生への大学前教養導入教育などの取組みをeラーニングによって充実させるための申請をした結果、幸いにも採択されることになりました。
 取組み初年度は、協定会加盟大学全体が利用するためのオンデマンド方式のeラーニングシステムの構築を行いました(図1、図2参照)。

図1 コンテンツの画面例
図2 コース選択の画面例

 サーバは桜美林大学内に設置し、協定会加盟28大学がコンテンツを共有することができ、かつ個々の大学が学内だけでもeラーニングが利用できるタイプのLMSを導入しました。
 eラーニングは、対面式授業と同じく学生の受講料の負担はないものとし、受講が認められた学生はID、パスワードにより受講が可能となります。受講履歴により受講の確認は行えますが、それだけでは単位認定に不安を感じる加盟大学の意見があったため、コンテンツをいくつかのフォルダに分割し、フォルダ終了ごとに内容確認テストを行い(テスト問題はランダムに出題されます)、それに合格すれば次のフォルダに進むことができ、不合格であれば前に戻って受講し直さなければならないという工夫も施しました。
 また、授業内容についての質問は、コンテンツ内に「掲示板」機能を設け、各コンテンツの受講学生と教員との質疑応答ができるものとしました(図3参照)。

図3 掲示板の画面例


6.取組み実施結果

 GP2年目の平成17年度からは具体的にコンテンツ作成を行い、対面式授業と並行して「共同授業」のeラーニングコンテンツ化を行いました。さらに、18年度からは通常の単位互換提供科目の一部の「中国語I」、「中国語II」、「アメリカ研究特論――リアルタイムで見るUSA」、「人格特性論」、「心理学概論」、「日本の社会と文化」などもeラーニング化していきました。
 年度毎の受講者数の推移は図4のグラフのとおりです。
 取組み2年目の平成17年度は単位互換科目受講者447名、「共同授業」受講者435名のうち9名(2%)がeラーニング受講者でした。取組み最終年の平成18年度は単位互換科目受講者803名のうち539名(67%)がeラーニング受講者で、「共同授業」633名のうち53名(8%)がeラーニング受講者となりました。単位互換・「共同授業」ともeラーニングの存在が加盟大学の学生に周知され、受講が徐々に促進されてきました。19年度の受講状況の停滞は、新入生への広報活動が滞ったことが原因ではないかと思っています。

図4 単位互換科目と共同授業の受講者数の推移

 また、協定会では、eラーニングの特性を活かし、FD活動にも役立てています。
 具体的には、eラーニングによる「共同授業」を授業改善のための公開授業的位置付けとし、他者(加盟大学の教職員)による授業評価を行い、その結果を各講師にフィードバックし、翌年の授業改善に役立てています。「グラフ2」では年度を追って授業改善の効果が見られた様子を表しています。  それぞれの授業についての教職員からのアンケートの中の感想の一部を以下に紹介します。

ただ与えるだけの授業ではなく、学生が聞くことから参加するという構図がきちんとなされている授業でした。
「たとえ」が非常に分かりやすく、学生自身が今後生きていく上で実になるような授業でした。
スライドが分かりやすいので異論はないが、スライドがないと単調な感じで、学生が授業に意欲的に取り組めるような雰囲気ではなかった。
図5 eラーニング授業に対する教職員の評価
 

 さらに、受講学生に対してもアンケート調査を行っており、その結果を公表しています。以下に学生の授業アンケートの感想の一部を紹介します。

自分の大学では学ぶことができない分野の知識を身につけることができて良かった。
今回、新聞やテレビで話題になっていることだったので、とても興味がわいた。


7.協定会、今後の課題

 前述のようにeラーニングの導入によって伸びはじめた受講状況が、平成19年度以降、停滞しています。加盟大学全体で、毎年入学してくる学生に単位互換制度やeラーニング授業の存在をアピールする努力を絶えず行い、受講を促進する必要があると反省しているところです。
 また、GPの取組み終了後も、学生への学びの支援を充実させていくために、資金面の裏付けが必要です。GP採択時から、取組み終了後のeラーニング運転資金不足を予測して、予め年会費の値上げを行ったのですが、運営にはさまざまな予期せぬ支出が出てきています。今後更なる年会費の値上げを避けるためには、加盟大学を増やすことはもちろん、eラーニングに取り組む他グループとの協力関係を構築するなど、省力化や経費節減を図る必要があると思われます。


8.これまでの経験を活かした桜美林大学独自の取組み

 平成19年度より桜美林大学は、地元町田市の教育委員会と協力関係を結び、学生による不登校小・中学生へのeラーニングによる学習支援を実施しています。学生がWeb上で不登校小・中学生への学習支援を行い、さらにその学生を教員がWeb上で指導するという、二重構造のeラーニングを授業化するなど、協定会での経験を活かし学生の学びを深める工夫を行っています。不登校支援Webのポータルサイトについては、図6をご覧ください。

図6 不登校学習支援ポータルサイト


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