巻頭言

多様化を踏まえた普遍化へ
〜大学戦略とICTの次のステップ〜


増田 壽男
(法政大学総長)

 現在、大学は改めて転換期を迎えています。大学の個性化・多様化を促進させるべく進められてきた規制緩和の流れが転換し、個性化・多様化した大学が提供する教育の内容と育成する人材のあり方について、客観的に検証し、社会に対する説明責任が求められる段階に入っています。
 個性化・多様化の流れの中で、本学は、1999年から新学部を次々と建ちあげ、当時の6学部体制から、現在では15学部体制になるとともに、既存学部の学科も新増設してまいりました。改革理念は、国際化、情報化への対応、サスティナビリティ(持続可能性)、ウェルビーイング(健康で幸福な暮らし)の実現など、現代社会の課題に正面から取り組むということでした。各学部学科では、それぞれの課題に取り組む活動が展開されていますが、これらの課題は個別領域にとどまるものではなく、現代社会の全体的な課題に他なりません。改めて総合大学として全学的なミッションやビジョンと結びつけて向かい合うべき課題です。
 10年間の改革を踏まえ、改めて全学的な観点から今後の法政大学のあり方を検討し、課題と進むべき方向性の認識を共有化するため、昨年夏に「明日の法政を創る」審議会を発足させました。現在、この審議会の下に各種部会を立ち上げ、諸問題について真摯に検討を進めています。「IT戦略構想」の作業部会もその一つです。
 さて、「個人の自由を社会の進歩に結びつけていくことが学問であり教育である」、という本学の建学の精神「自由と進歩」を、現在の学生諸君に向けて実現していくことが大きな課題であると私は考えております。そのために大学は、幅広く多様な教育メニューを用意し、個々の学生がその中から関心に応じて自由に学びを組み立てることができるようにすることと並行して、きめ細かな学びの支援を整えていくことが求められます。この支援手段の一つとして、情報通信技術(ICT)の活用が近年ますます重要となってきております。
 本学では、私立大学の中でも有数の高度情報ネットワークを1997年に構築しました。以降ほぼ3年ごとに、情報通信基盤を高度化するとともに、その上で様々な応用システムが稼働する情報システムの整備を、総合情報センターを中心に推進してきました。現在では、履修登録から日常の授業支援、教員とのコミュニケーション手段の提供や、学生同士の共同作業の道具の提供、そして学内の諸手続に至るまで学生生活の全般を対象として、ICTによるサポートが行われるようになっております。
 市ヶ谷・多摩・小金井の三つのキャンパスに分かれ15学部を擁する大学として、同じ大学で学ぶ、専門領域が異なり多様な関心をもつ学生たちが、キャンパスや専門領域の壁を超えて交流を持ち、相互に刺激し、サポートし合う横のつながりを密にしていくことが大きな課題です。そのためのICTの活用が喫緊の課題となっています。また、現在の学生、付属校生、教職員のみならず、卒業生や学生の父母など、大学と関わりをもつ様々な人々との間に豊富なコミュニケーションの場を構築していくことも、大学にとって重要であると考えます。
 これら多様なニーズに応えるICTシステムは、これまで利用者のニーズのそれぞれに対応して、個別に設計され、漸次整備されてきました。そのため、概ね必要な領域をカバーしつつあるものの、全体としての一貫性や使用感の統一、調達や運用の効率性の点では様々な課題が残されています。このような課題に対応するため、利用者ニーズへの的確な対応を損なうことなく、しかし同時に規模の拡大してきたICT投資を全学的に最適化するという二正面の課題に応えられるICTガバナンスを構築していくこと求められています。この課題に応えていくことが、ひいては冒頭に述べた今後の大学に問われているミッションをよりよく実現していくことにつながるものと確信しています。



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