特集 連携で学生を創る

学部・産業界との相互連携による
ものづくり教育の実践 〜九州産業大学〜

青木 幹太(九州産業大学芸術学部デザイン学科教授)


1.背景と目的

 今日の大学教育には、グローバルな知識基盤社会、学習社会を迎える中、「学生が本気で学び、社会で通用する力を身に付けるきめ細かな教育指導」が求められています。実際、修学後の学生を受け入れる多くの企業は、学生の採用にあたり高度な専門知識や技術はもちろん、コミュニケーションスキルや問題解決力、情報リテラシーなど汎用性のある基礎的能力も重視しており、それに応えていくためには地域や産業界との連携、外部人材の参画、実践的な体験活動など新しい教育手法の導入が不可欠な状況にあります。
 本学は「産学一如」を建学の理想に掲げて、「学」(大学)と「産」(産業界)との連携(=理論と実践の融合)、「学」を「産」に活かす教育を目標に、実践的な学風の確立を目指して産学連携を積極的に推進しています。また総合大学の中に芸術学部をもつユニークな大学でもあり、七つの学部には企業活動の入口であるマーケティングに関係する商学部から研究、開発および製造に関係する工学部、情報科学部、芸術学部、販売や企業経営、国際戦略等に関係する経済学部、経営学部、国際文化学部で構成され、大学の中で模擬的な企業活動を実践できる環境にあります。
 以上のような背景から2006年より、ものづくり教育に産学連携や学部連携などのコラボレーション(協働)手法を導入し、カリキュラムと並行して模擬的な企業活動を想定した産学連携や学部連携によるプロジェクトワークの場を学部および大学院生に提供しています。本報告は2006年から2009年にかけて実施しているものづくり教育の内容と成果を具体的な事例を通して紹介するものです。


2.コラボレーション手法によるものづくり教育

 図1は本学におけるコラボレーション手法の考え方を示しています。コラボレーション手法によるものづくり教育には、地域の産業と連携する産学連携、学内の二つ以上の学部が連携する学部連携、大学と公的な研究機関が連携する官学連携、学部内の複数の学科が連携する学科連携、異なる大学が教育面で連携する大学連携があり、図2は2006年から2009年に実施している連携プロジェクトを示しています。

図1 コラボレーションの考え方
図1 コラボレーションの考え方
図2 相互連携によるモノづくり教育の実施例
図2 相互連携によるモノづくり教育の実施例

(1)産学連携プロジェクト
 ここで取り上げる産学連携は、学生の実践的なものづくり教育を目的に、地域の企業より人、モノ、技術、情報などの提供を受けて大学と企業が対等な関係の中で実施しているものです。

1)シューズデザインプロジェクト
 2006年より芸術学部(デザイン学科)、商学部(商学科)と福岡県久留米市に本社がある株式会社ムーンスターでシューズデザインをテーマに実践的なものづくり教育を実施しています。2006年は「団塊の世代」の男性を対象に、2007年は50歳以上のシニア女性を対象にカジュアルシューズのデザイン開発を、2008年は自然をテーマにしたコンセプトシューズ、2009年は幼児、児童を対象としたチャイルドシューズのデザイン開発を行っています。
 本プロジェクトを通して企業側には靴や人間の歩行などに関する勉強会の開催、[調査―企画―デザイン―製作]の各段階で企業側の視点に立った助言や技術的な支援、デザイン決定後の靴の製作を担当していただきました(写真1)。参加した学生は企業の製品開発の過程を体験、学習するとともに、組織的な活動を通してリーダーシップやチームワークの重要性を理解する効果がありました。

写真1 企業スタッフと学生の打合せ風景
写真1 企業スタッフと学生の打合せ風景

2)ユーザビリティ研究プロジェクト
 2008年より芸術学部(デザイン学科)と福岡県田川郡にある九州日立マクセル株式会社の連携で、家電製品のユーザビリティ研究を実施しています。2008年は家庭用マッサージチェア、2009年はドライヤーなどのヘアケア製品全般を対象にしました。
 本プロジェクトでは企業から提示された課題について、学生達が市場調査、ユーザーニーズ調査を行い、対象製品を取り巻く現状を調べるとともに、貸与された製品を実際に使用して製品本体や操作に関連するインターフェイスの問題点を発見し、その改善案を企業側に提示しました。研究の過程で、学生と企業担当者が製品の問題点の捉え方や改善案に対する技術的な可能性や市場性を協議し、現実的な改善案を導くようにしています。研究結果は学生が実際に企業に出向き、企業関係者の前で報告し、直接、評価を受けています(写真2)。

写真2 プレゼンテーションの風景
写真2 プレゼンテーションの風景

3)博多織プロジェクト
 2006年より芸術学部(美術、デザイン、写真映像学科)、博多織工業組合加盟企業、博多織の人材育成を目的に2005年に開設されたNPO法人博多織デベロップメントカレッジの連携で、博多織の普及、発展と地場産業に貢献する人材の育成を目的に、博多織プロジェクトを実施しています。2006年は博多織の帯を利用した和装、洋装にも合うカジュアルバッグの開発(写真3)、2007年には既存の帯柄にはない学生の感性による帯柄デザインとそのブランド提案を行い実際に商品化されました。2008年より博多織の重要無形文化財保持者である芸術学部客員教授の小川規三郎氏を顧問として、芸術学部の3学科が連携して博多織プロモーション計画に取り組み、2008年は博多織を用いた生活雑貨の制作、博多織によるインスタレーションや写真・映像作品を制作し、学内、学外で展示会を開催しました。

写真3 博多織の帯を利用したカジュアルバッグ
写真3 博多織の帯を利用したカジュアルバッグ

(2)学部連携プロジェクト
 学内の二つ以上の学部が連携し、専門分野の異なる学生が共同して製品の企画、開発に取り組むプロジェクトで、総合大学に芸術学部があるという特徴を活かしたものづくり教育です。

1)ロボット開発プロジェクト
 2006年より毎年継続して、(社)日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス部門の主催で九州地区の大学等を対象に実施されている「ロボメカ・デザインコンペ」に、芸術学部(デザイン学科)と工学部(バイオロボティクス学科)の学生チームが参加しています。このプロジェクトでは、はじめに工学部側から先端技術によるロボット企画が提案され、デザイン学科側は使用する人間の視点から具体的な生活イメージに可視化していきます。
 この間、デザイン学科と工学部の学生はお互いの考え方を協議、調整し、技術的な裏付けのある製品にまとめ上げます。ロボメカ・デザインコンペでは1次審査(A1パネル2枚のプレゼンボードと企画書)を通過すると2次審査があり、デザインや工学の専門審査員の前で機構モデルやデザインモデル、スライドを使ったプレゼンテーションを行い、その内容が総合評価されます。2007年、2008年は本学デザイン学科の学生が参加したチームが最優秀賞を受賞し(写真4)、2009年からは経営学部が新たに参画し、3学部の連携プロジェクトに発展しています。

写真4 最優秀賞の学生達
写真4 最優秀賞の学生達

2)フォーミュラプロジェクト
 芸術学部(デザイン学科)と工学部(機械工学科)は2007年より全日本学生フォーミュラ大会への出場を目標にフォーミュラカーの共同開発に取り組んでいます。全日本学生フォーミュラ大会は(社)自動車技術会の主催で2002年より開催され、「ものづくり・デザインコンペティション」として学生自らが構想・設計・製作した車両による競技会であり、競技種目には走行性能等を競う動的審査とデザインやプレゼンテーションなどの静的審査が実施されます。このプロジェクトでは車両設計・製作を工学部が、カウル(車両本体を覆うカバー)やシート設計・製作をデザイン学科が担当し、[企画・構想―デザイン―設計―製作および大会出場による社会的評価]までの過程を双方の学生が体験、学習し、専門知識の応用力や問題解決力、行動力やマネジメント能力等の育成を図っています。2008年度の第6回全日本学生フォーミュラ大会では、開発した車両がベストスタイリング賞の2位に選ばれました(写真5)。

写真5 開発に参加した学生と教職員
写真5 開発に参加した学生と教職員


3.まとめ

 報告した学部・産業界との相互連携によるものづくり教育の特徴は、次の通りです。

1) 総合大学に芸術学部があるという特徴を活かした取り組みである
2) 地域性のある企業が積極的に大学教育に参画している
3) 授業と並行し、学部1年から院生までの学年を超えた学生主体の活動の場である

 これらの成果はここ数年、プロジェクトに参加した学生のポートフォリオが企業側から評価されて、企業が主催するインターンシップや企業実習に希望する学生が喚ばれる機会が増えたことや就職率の向上に現れています。その要因として授業の進度に応じた適切な時期にプロジェクトワークを体験することは、学生の学習意欲の向上や主体性の確立に繋がり、分野の異なる学生や企業人との交流を通してコミュニケーションスキルや問題解決力などの汎用的な能力の習得に繋がっていると考えています。


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